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Saturday, 2005/07/16

[] 大学院はてな :: 近親婚と遺族厚生年金  大学院はてな :: 近親婚と遺族厚生年金を含むブックマーク

 社会保障法の研究会にて,遺族厚生年金不支給処分取消請求事件の検討。 

 原告Xは,茨城県の農村地帯に居住する女性。叔父Aとの内縁関係が42年間継続していた。Aの死後,Xが遺族厚生年金を受給しようとしたところ,民法734条の禁止する近親婚であることを理由に,社会保険庁(被告)によって不支給とされた(厚生年金保険法59条にいう遺族に該当しないため)。本件は,その取消訴訟。なお,Yの昭和55年通達「事実婚関係の認定について」*1では,民法734条に違反するような内縁関係にある者については,これを事実婚関係にある者と認定しないとしている。

 第一審*2は,不支給処分を取り消した。

 この種の事案のリーディング・ケースとしては,1985年最判(最高裁第一小法廷判決・昭和60年2月14日・訟務月報31巻9号2204頁)がある。こちらは,養親子関係(養子‐継母で,血縁関係はない直系姻族)にある者の内縁関係が,厚生年金保険法3条2項にいう事実婚にあたるかどうかが争われていた。反倫理的な内縁関係にある者を包含しないのが相当であるとして,これを認めていない。

 それが本件第一審では,どうして請求が認められたのか。まず裁判所は,厚生年金制度(生計の維持)と民法(婚姻秩序の維持)では目的を異にするものであって,民法734条をそのまま適用すべき論理的必然性な無いと一般論を説く。そして,諸般の事情を総合考慮して「年金的保護の対象となり得るものであるかどうかを判断する必要がある」とした(昭和60年最判は本件事案を規定するものではない,と斥けている)。具体的には,以下のような事情を考慮する。

  • 叔父‐姪の内縁関係は,近親婚関係の中では最も親等が離れた関係である*3
  • 両者の婚姻は,Xの祖父が決定し,親族の賛同に基づくものである*4
  • 42年間に渡って地域社会に受け入れられてきた

 それが控訴審*5では覆り,社会保険庁の不支給決定を支持している。共同通信が伝えたところによれば,「民法が禁止する3親等内の近親婚は法秩序を害する」とした上で、女性と叔父との関係について「遺族厚生年金制度が定めた公的保護にふさわしい内縁関係とはいえない」と判示したようである。

 議論したところでは,控訴審の判断が妥当であろうというところに落ち着いた。その理由は,第一審のように一般論において「婚姻秩序の維持」を除外するのは無理がある,というもの。それが地域社会では許容されるものであっても,法として容認するわけにはいかない*6。本件のような事案を救済しようとするならば,「特段の事情」にあたるものとして,国家賠償請求や不当利得返還請求によって解決を図るべきであろう,と。

 この議論の延長線上には,同性婚関係にある者の遺族厚生年金という問題も浮上してくる。いろいろと考えさせられる素材である。


▼ 追補

 控訴審判決の原文を入手して読んでみたところ,新聞記事を読んで考えた上記の意見とは反対の結論に至りました。

*1:昭和55年5月16日・庁保発第15号・社会保険庁年金保険部長から都道府県知事あて通知

*2:東京地裁判決・平成16年6月22日・判例時報1864号92頁。本件については,二宮周平教授による判例評釈がある(判例タイムズ1173号)。

*3:筆者補足。「アメリカ26州・フランス・ドイツ・ソヴィエト(現ロシア)・中国においては,直系姻族間の婚姻禁止規定は削除または改正」されている(前掲・訴月解説)。また,傍系3親等の血族間での婚姻もドイツ婚姻法(4条)やスイス民法(95条)では認められている(判時1882号)

*4:筆者補足。当該関係については,昭和35年当時の町長が「結婚証明書」という謎の文書を発行している。

*5:東京高裁判決・平成17年5月31日・判例集未登載

*6:農村では近親婚が認められるとすると,都市部在住者との間で法の下の平等に反する事態を招く。

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