大真面目に休む国ドイツ

 労働契約法制についての研究書を共著で出さないか,という話がありまして。私のところには,労働時間規制についての議論状況を整理するという役割が回ってきました。それで,まずは学説・判例を離れ,周辺状況をさらっているところ。
 で,手当たり次第に集めてきた資料の中に,福田直子『大真面目に休む国ドイツ』(2001年5月,平凡社新書ISBN:4582850901)がありまして。どうでもいいような本は無視することにしているのですが,これはあまりに酷かった。
 明治維新の時代には,英米独仏の「欧米列強」がやっていることなら取り入れましょう,というのがありました。さすがに最近では薄れてきましたけれど。それでも,私みたいに中進国を研究対象にしていると「どうしてスペインを?」と聞かれるので,コンプレックスが無くなったわけではないでしょうね。
 で,本書は題名からしてドイツについての本だということは一目瞭然です。著者略歴を見ると,ジャーナリストだということもわかる。先進国ドイツの礼賛でも賞賛でも構わないので,どういった視線で〈休暇〉を捉えているのかを観察したくて買ってきたのですが……
 「格安ツアーで散々な目にあった」といったゴシップ記事の翻訳ばかりで,もともと低かった期待を更に下回る内容でした。章末に,それらしいデータを載せて“もっともらしさ”を演出していますが,それにしても恣意的だし。実在するかどうかも疑わしい個人の体験談で全体を語られたら,たまったものではありません。

 本書は読みやすくおもしろく書かれてあるが、まじめな社会構造分析の観点からはやや物足りなさを感じる。本書の目的が単にドイツ人の表層を伝えるのであればそれでもいいのだが。(澤田哲生)
Amazon.co.jp の書評より

 こんな不真面目な本でも褒めなきゃいけないなんて,大変ですねぇ。