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博物士

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Saturday, 2005/10/08

労判861号

[] 大学院はてな :: 配転の必要性  大学院はてな :: 配転の必要性を含むブックマーク

 研究会にて,ネスレジャパンホールディング(配転本訴)事件(神戸地裁姫路支部決定・平成17年5月9日・労働判例895号9頁)の検討。

 食品メーカーY社には3つの国内工場があったが,姫路工場の「ギフトボックス係」を廃止することにした。そこで当該部署にいた60名に対し,霞ヶ浦工場へ移動するか,退職金優遇制度を利用して退職することを提案した。この配転命令に先立って,Yは事前に従業員の家庭状況および生活状況を考慮することはしていなかった。

 この対象となった労働者のうち,X1は非定型精神病に罹患している妻(障害年金を受給している)の介護ができなくなること,X2は高齢である母の介護(要介護認定2〜3)ができなくなることを理由に,いずれも配転を拒否した。本件は,配転命令の無効確認請求である。

 なお,対象となった従業員のうち9名は霞ヶ浦工場へ転勤し,49名は退職している。

 裁判所は,請求認容。本件配転は無効であるとした。

 配転命令に関するリーディング・ケースは東亜ペイント事件(最高裁第二小法廷判決・昭和61年7月14日・判例時報1198号149頁)である。ここでは,配転命令が無効となる場合として

(1)業務上の必要性がない場合,又は,

(2)業務上の必要性がある場合であっても,その配転命令が他の不当な動機・目的によってなされたものであるとき,若しくは

(3)労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等の特段の事情のある場合

という枠組みを示している。(1)に該当する場合は(事実上)無いと言っていい。(3)については「著しく」という文言を用いて極めて高いハードルを設定しているため,労働者側の主張が認められた事例は限られたものとなる。この判断枠組みが有効に機能するのは(2)に当てはまる場合に限られていた,というのがこれまでの傾向と言えよう*1

 本件でも16頁に於いて同じ枠組みが示されており,これを踏襲しているかのように見える。しかしながら,あてはめ部分の22頁では,また次のように述べているのである。

 労働者が配転によって受ける不利益が通常甘受すべき程度を超えるか否かについては,その配転の必要性の程度,配転を避ける可能性の程度,労働者が受ける不利益の程度,使用者がなした配慮及びその程度等の諸事情を総合的に検討して判断することになる。

 このように「比較考量」を行うというのは,従来の判断手法からすれば逸脱したものである(昭和61年最判以前への回帰であるかのように見える)。最高裁のあまりに酷なフレームは,学説の多くが強く批判してきたところ。本件では,配転に当たって家庭生活への配慮が示されており*2,労働者にとっては好ましい変化の兆しかもしれない。

*1:配転命令が無効とされた事例としては,明治図書出版事件(東京地決・平成14年2月27日・労判861号69頁:アトピー性皮膚炎の子の看護),日本レストランシステム事件(大阪高判・平成17年1月25日・労判890号27頁:心臓病に罹患した子の養育),北海道コカ・コーラボトリング事件(札幌地決・平成9年7月23日・労判723号62頁:躁鬱病の長女と障害のある次女)などが挙げられる。

*2:裁判所は,原告の主張に沿って,育児介護休業法26条への配慮を使用者に求めている。

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