塩野七生 『コンスタンティノープルの陥落』

 塩野七生(しおの・ななみ)『コンスタンティノープルの陥落』(ISBN:4101181039)を読む。近年,公務員試験ではイスラム世界に関する設問が増加傾向にある。先日,世界史の講義で過去問を取り上げて解説していたところ,説明が流暢に組み立てられなかったので弱点補強。
 1453年5月29日,オスマン・トルコの攻撃を受けてビザンチン帝国が滅ぶ。本書は,およそ7週間におよぶ攻防戦を,間近に見聞きした人物達の回想録をもとに叙述するもの。「現場証人」として登場するのは,ヴェネツィアの船医ニコロ,黒海貿易に携わっていたフィレンツェ証人テダルディ,ジェノヴァ居留区の代官ロメリーノ,トルコの支配下にあったセルビアの騎兵として戦役に参加したミハイロヴィッチ,東西教会の合同に取り組んだイシドロス枢機卿,そしてギリシア正教の独自性を強く訴える修道士ゲオルギウスに師事する留学生ウベルティーノ,さらにトルコのスルタンに使える小姓トルサン。
 後の歴史へ間接的に影響を与えたものとして,黒海での通商に全力を投じてきたジェノヴァ制海権を失ったことで大西洋へ目を転じるきっかけとなったことや,大砲が実戦で使用されるようになったことで騎士階級の没落が始まったことを仕込む。
 本書は1983年に刊行された初期作品なので〈塩野節〉は抑えられており,素直に読める。攻城戦に関する箇所を読んでいる最中,城門の位置関係が図示されていればいいのに――と思っていたところ,巻末に図が織り込んであったのを読了後に見つけた(泣)