岩根圀和 『物語 スペインの歴史』

 移動中の機内で,岩根圀和*1『物語 スペインの歴史――海洋帝国の黄金時代』(ISBN:4121016351)を読む。
 いかにも「スペイン文学」の好きでたまらない「文学者」の書いたもの。良く言えばテーマを絞っている,悪く言えば著者が関心を抱くことにしか触れていない。題名と中身の食い違いがひどい。さらに,異様なまでに振り仮名の添えられている箇所が多く,言い回しが古くさい。
 スペインを研究対象にしている身で言うのも何なのですが,スペイン文学で有名なものは唯1つ,セルバンテスドン・キホーテ』だけとしても過言ではないしょう。だからといって,セルバンテスからみた「太陽の沈まぬ帝国」の叙述に全300頁のうちの6割を当てるのはやりすぎ。無敵艦隊の敗走(1588年)の次は,いきなりガルシア・ロルカとスペイン内戦(1936年)に飛ぶだなんて…… 著者曰く,「興味深い大きな事件の幾つかを取り上げて物語」ったということだが,取捨選択で捨てる部分が多すぎます(笑) この歪(いびつ)な構成の本を読んで,スペイン文学の底の浅さを知ることは多分にありそうですが,興味を持つようになるとはとても思えないなぁ。
 イベリア半島イスラム支配下にあった時代を通史的に述べている第1章や,国土回復運動(レコンキスタ)が契機となって生じた異端審問のことなどを取り上げている第2章などは,教科書的な解説とは異なる切り口を見せていた。先に期待を持てる内容だっただけに,第3章以降で受けた落胆の度合いは大きい。
 すでにテーマを持っている読者が資料として読むには価値があるかもしれないが,1冊の本としては褒められた作りではない。

*1:いわね・くにかず。神奈川大学人文学部教授。専門はスペイン古典文学。