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博物士

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Thursday, 2006/06/29

乙一 『平面いぬ。』

[] 乙一 『平面いぬ。』  乙一 『平面いぬ。』を含むブックマーク

 乙一(おついち)『平面いぬ。』(ISBN:4087475905)読了。

 目を見てしまった者を石に変えてしまうという伝承の残る「石ノ目」。思念体として生み出されたはずの少女が,いつしか実体を持つ幻覚になる「はじめ」。動き出すおかしなぬいぐるみ「BLUE」。腕に犬を飼う「平面いぬ。」。四編を毎晩1つずつ読んだ。陽の光の下で読むには向かない短編集。

 いずれもホラーなんだかファンタジーなんだか良く分からない(もちろん,良い意味で)。所詮は作り話――そんな前提を軽やかに乗り越えて,現出するエキセントリックな情景。リリカルさまでも味わわせてくれる作品群でありました。

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Monday, 2006/06/26

高橋友子 『路地裏のルネサンス』

[] 高橋友子 『路地裏のルネサンス 高橋友子 『路地裏のルネサンス』を含むブックマーク

 高橋友子?(たかはし・ともこ)『路地裏のルネサンス――花の都のしたたかな庶民たち』(ISBN:4121017307)読了。

 ルネサンスが開花する直前の時代を生きたフランコ・サッケッティ(Franco Sacchetti, 1330頃-1400頃)なる人物が書き残した『三百話』(Trecent novelle)を素材として,当時の市井の人々の暮らしぶりを紹介するのが本書。サッケッティが友人達を楽しませるべく書き残したワイ談,失敗談,教訓話などを織り交ぜつつ話を進める。

 著者は社会史が専門で,フィレンツェに留学して捨子養育院の歴史研究をしている。いわば「庶民史」の研究者。そうした事情からか,「子作りと子育て」と「売春とホモセクシャリティ」に各一章をあて,「犯罪と刑罰」という章においても強姦・姦通・堕胎・嬰児殺しなど女性の関わる話題について詳しく述べているのが特徴。

 知的な気晴らしに好適。

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Sunday, 2006/06/25

白衣高血圧

[] 白衣×メガネ男子×白きづき  白衣×メガネ男子×白きづきを含むブックマーク

 季刊から隔月刊行へと移行して最初の『ガンガンパワード』(ASIN:B000G5S13M)を買ってくる。いや,かなり前から買い続けているわけなのですが*1,あまり読むところが無いんですよね……

ガンガンパワード 2006年 08月号 [雑誌]

 で,今号も『ラブリー百科事典』が載っているのを確認してから*2,パラパラとめくっていたところ,きづきあきら+サトウナンキの新連載『メガネ×パルフェ!?』が載っているのに気づく。

 雨宮みさお。15歳。富田学園の新入生。部活に入りたいがために入学。

――メガネ部に。

 うぐ,と思ったら甘かった。

 彼女らの聞き取り調査の結果,非公式ながら存在しているその部の,より正しき名がもたらされる。

――白衣メガネ部 

 ぐぁ,と思ったら未だ先があった。

 彼女は,ずっと注射男を探していた。車にはねられた猫を抱えてうずくまってきたところに,声をかけてきたメガネ男子を。そして再会。しかし,そこで彼女は症候群に罹患していることを宣告される。

――白衣高血圧。 

 おバカですぅ(><)

まだ何も決まっていない頃。

なんの漫画にしようかと、ネタ出ししている時 きづき が言いました。

「白衣メガネ部」

http://blog.livedoor.jp/t_rkd/archives/50931758.html

 これは面白い。これからに期待を抱かせてくれる幕開けでした。ストーリーからしてコミカルなのですが,絵柄も楽しい。時折“たれぱんだ風つぶれアンパン”になるヒロインの愛くるしいことったら!

 共同制作者として「サトウナンキ」の名前が表に出てきていますが,従前よりきづきあきらとパートナーを組んでいたので,制作体制のレヴェルで変更があったわけではない。しかし,この打って変わった“黒くない”作風は魅力的です。これまでの作品を形容していた「透明なナイフ」「痛いです。」などはどこへやら(今後の展開は余談を許しませんが)。

 白きづき,今後が楽しみです。“桃きづき”になったりして……。

*1:元々,岡野史佳先生は少女まんが誌『ステンシル』に描いていたのに,2003年秋に同誌が休刊。『パワード』に移籍した――という次第。

*2:長らく体調を崩しているということがあって,連載なのに紙幅8頁という状態が長く続いている。痛々しくて,中を見られない。

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Saturday, 2006/06/24

[] 大学院はてな :: 親会社の使用者性  大学院はてな :: 親会社の使用者性を含むブックマーク

 研究会にて,ブライト証券事件(東京地判・平成17年12月7日・労働経済判例速報1929号3頁)の検討。

 東証の立会売買終了に伴い才取業務から撤退することにしたZ2社は,100%出資の子会社Z1社を設立。従業員らは,Z2からZ1へと転籍した。初年度についてはZ1において生じた賃金原資不足分をZ2が補填することとし,Z1と労働組合の間で保障協定が締結されていた。次年度の賃金交渉において,Z1は賃金の大幅な減額を提案。そこで従業員らで組織するX労働組合は,親会社であるZ2との団体交渉を求めた。この要求をZ2が拒絶したため,労働委員会に対し不当労働行為であるとの訴えが提起されたもの。東京都労働委員会は申立を棄却。本件は,その取消訴訟である。

 裁判所は請求棄却。

 一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、労組法七条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、労働者を自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視し得る程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、当該事業主は同条の「使用者」に当たると解するのが相当である(最高裁朝日放送判決参照)。

このような判断枠組みを用いて,Z2の使用者性を否認した。

 しかし,この判断は不適切である。引用されている朝日放送事件*1は,番組制作現場において元請会社の社員と下請会社の従業員が混然となって職務に従事していた場合に,元請け会社が労働組合法上の使用者に当たるという判断をした事例であった。本件は「持ち株会社型」の紛争類型なのであり,判決の射程が異なる。

 加えて,朝日放送事件の枠組みに沿ったとしても,本件は親会社の使用者性が適用のレヴェルで肯定されて然るべき事案であった。親会社は子会社の生殺与奪を握っており,労働コストにどれだけの資金を振り向けるかを決定できる支配的な地位にあった。しかも決定的なことに,別会社という形態を取っていながら子会社の運営に関与することを明言した文書を残している。

 不甲斐ないのは,このような“助けられる事案”でも救済命令を出さない都労委。

*1:最三小判 平成7年2月28日 民集49巻2号594頁

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Wednesday, 2006/06/21

米澤穂信『愚者のエンドロール』

[] 米澤穂信 “Why didn't she ask EBA?”  米澤穂信 “Why didn't she ask EBA?”を含むブックマーク

 ミステリ研究会。本日のお題は,米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)『愚者のエンドロール』(ISBN:404427102X)。

※ 以下,ネタバレではないのですが,未読者に対しては〈読み〉に影響を与える内容を含みますので,ご注意ください。

 本作に対しては,研究会の主宰者が

2002年 国内ミステリ ベスト10 第7位

「後期クイーン的問題への解答として」「うまくまとまっています。」

http://www.aurora.dti.ne.jp/~takuma/book/best2002.html

という短評を寄せていたことを引いて報告者は構造論をやろうと図ったものの,主宰者の抵抗を受けて破棄(笑)

 それでは,ということで,本作がオマージュを捧げている我孫子武丸『探偵映画』(ISBN:406185707X)との関連でミステリと映像の関係について話が展開をはじめたものの,「学園祭で映画を出品」というモチーフの共通性から『朝比奈ミクルの冒険』に誘導があったりして,おかしな方向での深読みが始まる。

 「折木奉太郎×福部里志とか?」

 「それは逆。里志×奉太郎だよ」

 「いやいや,ホータロ総受けでしょ」

という腐女子ちっく発言も飛び出したり……(注:文学研究科の某助教授室が会場でした)。

 閑話休題。レジュメの題名を「エバに尋ねよ,あるいは女神(イリス)に」としてきた報告者からは,副題と人物名から作品の読み解きが提案される。補足しておくと,『愚者のエンドロール』には旧版(角川スニーカー・ミステリ文庫版;高野音彦のイラストが表紙)と新版(角川文庫版)がある。

愚者のエンドロール (角川文庫)〔新版〕

どちらであっても作者からのメッセージは同じように仕込まれているのだが,新旧どちらの装丁を読んできたかによって読み手の認識には差が生じていたように感じられた。それは「ライトノベルと米澤穂信」であるとか*1,「ミステリーとしての『愚者〜』の位置づけ」などの点に於いても。

 本書の副題は,

Why didn't she ask EBA ?

である。堅いミステリ読みの人たちは,これをアガサ・クリスティー『なぜ,エヴァンズに頼まなかったのか?(Why didn't they ask Evans ?)』(ISBN:4151300783)の単なるパロディと捉えていたようだ。事実,作者たる米澤の発言を遡ってみると,刊行直前に次のような告知をしている。

 題名は仮に「なぜ、江波に頼まなかったのか?」と付けています。不遜な。

汎夢殿 2002年2月17日

 ミステリ倶楽部から出る本には創元張りに英題がつきます。前作は諸般の事情から英題をつけるわけにいかず「HYOUKA」とそのまんまでしたが*2、今回は「Why didn't they ask Eba?」としました。未練ですね。

汎夢殿 2002年5月19日

――私見ですが,副題に留めておいたのは適切な判断だったと思います。ちょっと直裁的に過ぎますもの。

 こうした題名レヴェルでの印象操作が功を奏してか,表紙にしろ副題にしろ,「日常の謎」にしろ青春ミステリの捉え方にしろ,銘々の読み手が同じ作品を多様に解釈しているというのが面白い状況でした。私の気になっていた〈動機〉についても(id:genesis:20060601:p1),肯定的な人もいれば否定的な人もいて。

 そこへもって報告者は,登場人物名に込められた含意を汲み取ろうとして,こんなことを言い出したわけです。

  • 江波倉子(えば・くらこ)。古典部と入須冬美の連絡役。
    • EBA → Eva(エヴァ)= イヴ。旧約聖書における最初の人間。
  • 入須冬美(いりす・ふゆみ)。「女帝」の異名を取る。
    • IRISU → Iris(イリス)。ギリシア神話における「虹の女神」にして「神々の伝令」*3

 古典部シリーズには奇妙(というか無理のある)名前の人物が多数登場するので,仕組まれていたとしてもおかしくはないのですが。でも,そうだとしても入須の名前と役割に齟齬があるような……

▼ 関連

[] 我孫子武丸 『探偵映画』  我孫子武丸 『探偵映画』を含むブックマーク

探偵映画 (講談社文庫)

 比較参照のための資料として,我孫子武丸(あびこ・たけまる)『探偵小説 探偵映画』(ISBN:406185707X)を読む。

 ラストシーンの撮影を残して監督が姿を消した。残されたスタッフ達は,撮影済みのフィルムから犯人を推理しなければならない。条件は,観客の満足するようなシナリオであること。誰が犯人なら,まともな映画になるのか?

 映画に弱く,文章を映像に置換する能力に欠けていると,読んでも楽しめませんでした。

*1えるたんはキャラ? それともキャラクター?

*2:引用者注:新版では“You can't escape”という副題に変更されている。

*3http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%82%B9

trivialtrivial 2006/06/22 19:31 我孫子武丸の小説のタイトルが間違っています。『探偵小説』だと横溝正史になってしまいます。

genesisgenesis 2006/06/22 21:13 ご指摘ありがとうございます。うわ〜 やっちゃいました(^^;) 紛らわしいのが悪いん(責任転嫁) でも,米澤穂信が初版のあとがきで「“安”孫子武丸氏の『探偵映画』」と大々的に間違えていたのに比べれば,些細な間違いですよね(と,基準点をずらしてみる)。

Tuesday, 2006/06/20

米澤穂信 『クドリャフカの順番』

[] 米澤穂信クドリャフカの順番 米澤穂信 『クドリャフカの順番』を含むブックマーク

 米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)『クドリャフカの順番――「十文字」事件』(ISBN:4048736183)読了。古典部シリーズ第3作。

 文化祭の日。古典部では問題が生じていた。発注数を間違えて,ちょっと文集を多く作りすぎたのだ。大したことはない。当初の予定より,ほんの7倍になっただけ――

 ストーリー(展開)に関しては無理があるように感じる。しかし,「ミステリー文学」としてではなく「ミステリアスな出来事」として読むのが筋なのだろう。何より,ナラティブ(説話的)な語りの魅力は抗いがたいものがある。読んでいて楽しい。本作には青春のホロ苦い芳醇な香りが凝縮されている。しかし,このキャラクター描写による“ライトノベル的”な「わくわく」を,どう書き記せばいいのか。言葉に詰まる。

 米澤作品に対して,どんな書評を書けばいいのか。わたし困ります。

▼ 関連

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Saturday, 2006/06/17

桜庭一樹 『少女には向かない職業』

[] 桜庭一樹少女には向かない職業 桜庭一樹 『少女には向かない職業』を含むブックマーク

 だいぶ前に id:kuroyagisantara から借りたままになっていた本。来週には返そうと思い,寝しなに桜庭一樹(さくらば・かずき)『少女には向かない職業』(ISBN:4488017193)を読み始める。これが初の観桜。

 早くも第1章の冒頭(11頁)で,作者の人間観察力と内心の描写に感心する。

 このお調子者のおじさん教師は,話にオチをつけるときに必ず,あたしをだしにするのだ。あたしは教室でよくしゃべるし,友達も多いと思われてるし,かといって教師にキレたりしないし,なんとなく,ネタにしやすい生徒なのだ。たぶん。

この箇所を大多数の読者は生徒側の視点で読むと思うが,教師側からすれば実に身につまされる話(私は教諭歴が既に16年に達していたりするのですが,駆け出しの頃にはネタにした生徒に泣かれそうになったこともあるん)。

 主人公は,中学2年生の少女。漁業によって成り立つ島で,高校へ通うためには橋の渡って本土へ行かなければならない。彼女らのいる場所の地理的隔絶感が,〈クラスメイトに対して見せる表象的人格=俯瞰される見せかけの私〉と〈ト書きで綴られる内面=本当の私だと思っているもの〉との乖離を描き出すうえで,巧妙に作用している。不安と不吉,悪意に殺意,承認と拒絶。

 ふわふわなどろどろを紡ぐ,奇妙なまでに透明な筆致。薄暗い心の暗部を覗いているというのに,抵抗感無く読み進められる。不思議なことに,彼女達の姿が読む私の中で像を結ばない。まさしく表紙のような心象風景。そこに少女の言葉は存在しているのに,人は形を持たない。

 要は,TacticsONE〜輝く季節へ〜』の画面に,07th Expansionひぐらしのなく頃に解』の「罪滅し編」シナリオを重ね合わせて読んでいたわけです。そこに,あの結末―― 良い意味で裏切られました。『わらの女』が『スパルタの狐』となる静謐な幕切れ。読了後,虚無感と安堵感が一緒くたに残る。


▼ おとなりレビュー

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Thursday, 2006/06/15

友桐夏『白い花の舞い散る時間』

[] 2005年ラノリン杯(試験用)  2005年ラノリン杯(試験用)を含むブックマーク

 詳細は id:kim-peace:20060617 を参照。こういう試み(というか,こういう企画を試みてみようという意気込み)は,かなり嫌いじゃない。でも5冊も挙げられるようなものは無かったので,1つだけ票を投じておきます。

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Tuesday, 2006/06/13

塩野七生 『レパントの海戦』

[] 塩野七生 『レパントの海戦』  塩野七生 『レパントの海戦』を含むブックマーク

 塩野七生(しおの・ななみ)『レパントの海戦』(ISBN:4101181055)を読む。

 海洋都市国家ヴェネツィアは,トルコの脅威に曝されながら単独で対抗するだけの力を失っていた。そこで教皇庁を介して領土型の覇権国家スペインを誘い込み,連合軍を結成する。

 本書を貫く「ヴェネツィア優越史観」は,スペイン側の立場から読むと辛いものがあります。まぁ,スペインという国が野暮ったいのは事実なので致し方ないことなのですけれど……

kagamikagami 2006/06/15 09:18 エロゲの「奴隷市場」がちょうどこの辺の話を背景にしていて面白かったです。西欧中世を舞台に主人公がベネチアの国益を図る為にトルコとの戦争回避を目指してコンスタンティノープルに派遣されているベネチアの大使なので。ただ、大使といっても主人公は金持ち貴族のボンボンで本当の大使面々とは別に単なる物見遊山のお飾りとしてついてきてるだけで、何の政治的交渉も出来ずにただ奴隷と遊んでいるだけなのですが(爆)
http://www.ruf-soft.com/gr11/index.htm

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Saturday, 2006/06/10

[] 大学院はてな :: 事業廃止を理由とする全員解雇  大学院はてな :: 事業廃止を理由とする全員解雇を含むブックマーク

 研究会にて,三陸ハーネス事件(仙台地決・平成17年12月15日・労働経済判例速報1924号14頁)の検討。

 被告Y社は,自動車部品の製造業。原告Xら18名は,Yの従業員であった者。

 1999年10月に日産自動車は「リバイバルプラン」を発表した。Y社は,日産に部品を供給していたS電装の下請であるK社のさらに下請けであったことから,間接的ながらリバイバルプランの影響を受けることになる。元請けであるK社は,Yとの契約を解除することを決定。Y社にとってK社は唯一の取引先であり,株式を100%所有する親会社でもあった。K社の決定によりY社の工場は閉鎖されることになり,これを受けて従業員全員が解雇されたというのが本件事案。

 地位保全と賃金仮払いが請求されたが,裁判所は請求を棄却した。

 この事件では,非常に興味深い説示がなされている。事業廃止の場合には,いわゆる「整理解雇の四要件」はそのまま適用することができないとして,独自に「相関的二要件」とでも呼ぶべき枠組みを打ち出している。

 およそ使用者がその事業を廃止するか否かは,営業活動の自由(憲法22条1項)として,使用者がこれを自由に決定できる権利を有するものというべきである。しかしながら,事業の廃止によって労働者を解雇する場合に当該解雇が有効であるか否かという点はこれとは別問題であると考えられる。すなわち、事業の廃止が自由であるからといって労働者の解雇もまた自由であるということはできず,「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利を濫用したものとして無効であると判断すべきである(労働基準法18条の2)。

 事業廃止により全従業員を解雇する場合には,上記の四事項を基礎として解雇の有効性を判断するのではなく,〔1〕使用者がその事業を廃止することが合理的でやむを得ない措置とはいえず,又は〔2〕労働組合又は労働者に対して解雇の必要性・合理性について納得を得るための説明等を行う努力を果たしたか,解雇に当たって労働者に再就職等の準備を行うだけの時間的余裕を与えたか,予想される労働者の収入減に対し経済的な手当を行うなどその生活維持に対して配慮する措置をとったか,他社への就職を希望する労働者に対しその就職活動を援助する措置をとったか,等の諸点に照らして解雇の手続が妥当であったといえない場合には、当該解雇は解雇権の濫用として無効であると解するべきである。そして,全ての事業を廃止することにより全従業員を解雇する場合の解雇の有効性の判断に当たっては,上記〔1〕及び〔2〕の双方を総合的に考慮すべきであり,例えば、使用者が倒産しあるいは倒産の危機に瀕しているなど事業廃止の必要性が極めて高い場合には解雇手続の妥当性についてはほとんど問題とならないと考えられるが,単に将来予測される収益逓減に伴う損失の発生を防止するといった経営戦略上の必要から事業を廃止する場合など事業廃止の必要性が比較的低い場合にはその分解雇手続の妥当性が解雇の有効性を判断する上で大きな比重を占めるものと考えられる。

 このように相関的に把握すべきであるかどうかはともかく,事業廃止の場合には,整理解雇法理とは別の法理で処理されるべきだという指摘は正鵠を射たものであろう。引き続き検討が必要なところ。

 また,会社法の院生からは,本件では事業廃止に係る取締役決議を欠いているため,株主総会決議によって会社解散が決定されるまでの間(2005年9月30日〜11月4日までの期間)については,そもそも解雇を無効だと解しうる余地があることの指摘を受ける。こうした手続的側面*1がおざなりになっている会社は多いので,意外と有効な武器になりそう。

*1:商法260条2項4号(改正前)では,「支店其ノ他ノ重要ナル組織ノ設置,変更及廃止」については取締役会での決議を必要としている。

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Thursday, 2006/06/08

芦奈野ひとし『ヨコハマ買い出し紀行』

[] アルファさんと振り返る日本経済の夕凪  アルファさんと振り返る日本経済の夕凪を含むブックマーク

 芦奈野ひとしヨコハマ買い出し紀行』が14巻をもって完結。素敵な作品でした。最後は加速度的に時間が進んでいって,コーヒーがちょっとしょっぱくなりましたけれど。

のちに夕凪の時代と呼ばれる てろてろの時間

つかの間のひととき

 作品が共感を得るには〈同時代性〉というものも重要な要素でしょう。時代を超えて読み継がれるかどうかとは,別な評価軸として。『ヨコハマ買い出し紀行』が12年間に渡る歩みを止めたことのは,1つの時代の終わりを感じます。

――と,印象論だけで語っても仕方ないので,試しに日経平均株価の足取りを書き出してみました*1

ISBN 発行日 日経平均 セリフ 
1ISBN:4063210502 1995/08/23 \17,731 「私は多分 この黄昏の世を ずっと見ていくんだと思う」 
2ISBN:4063210553 1996/02/23 \20,300 「しばらくは帰らないと思う」
3ISBN:4063210618 1996/07/23 \21,163 「こっ こんなに」
4ISBN:4063210669 1997/03/21 \18,633 「じわじわと影がうごいてく」
5ISBN:4063210812 1998/02/23 \16,609 「あ もう 見えなくなっちゃうわね」
6ISBN:4063210952 1999/02/22 \14,256 「あいかわらず っていうより悪くなってくみたいです」
7ISBN:406321110X 2000/02/23 \19,519 「少し濃いめにフラフラしようと思います」
8ISBN:4063211207 2001/02/22 \13,073 「なんか 前 見えないんだけど……」
9ISBN:4063211347 2002/03/22 \11,345 「日は もうだいぶ前に落ちている」
10ISBN:4063211479 2003/03/20 \ 8,195 「まあ ゆっくしやんだ」
11ISBN:4063211592 2004/03/23 \11,281 「待つことだけは得意ワザだから」
12ISBN:4063211657 2004/11/22 \10,849 「新しい地面ができていく」
13ISBN:4063211711 2005/07/22 \11,695 「やりたいことが出てきそうな気がしてる」
14ISBN:4063211762 2006/05/23 \15,599 「人の世が やすらかな時代でありますように」

 以上の調査により,期中最高値(bull)は「ココネの来訪」,期中最安値(bear)は「丸子さんの来店」の時期だと分かりました。

 作品のトレンドと経済動向を重ね合わせるという手法は,新城カズマが『ライトノベル「超」入門』(ISBN:4797333383)が巻末年表で先駆けてやっています。でも,アルファさんのふらふらぐるぐるな歩みと照らし合わせるのが適切な用法ではないだろうか――と思ったので実演してみました。

*1:発行日は奥付の記載に従い,各時点での日経225を http://www3.nikkei.co.jp/nkave/data/index.cfm から割り出した。

hajichajic 2006/06/08 07:15 いろいろ終わっちゃいますねえ。

kagamikagami 2006/06/10 17:49 好きな作品でした。終わりは寂しいですね…。なんか、永遠に続いても不思議はないような感じがしてました。

genesisgenesis 2006/06/13 22:34 寂しいですけれど,残念がっても仕方のないことです。未だ現れざるものを楽しみに待ちましょう。

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Monday, 2006/06/05

井口泰 『外国人労働者新時代』

[] 井口泰 『外国人労働者新時代』  井口泰 『外国人労働者新時代』を含むブックマーク

 機内で,井口泰(いぐち・やすし)『外国人労働者新時代』(ISBN:4480058885)を読む。

 著者は労働省に入省し,GATTウルグアイ・ラウンドでの交渉に参加,外国人雇用対策課長を務めた後,大学教授となった人物。

 勤めて冷静な視点から書かれた本で,ルポルタージュの類は登場しない。可能な限りデータを示しながら,外国人労働者の実数や滞在年数,移動が起こるパターン,社会的統合の段階的変化などを問題の所在を解き明かしていく。また本書の特徴としては,少子高齢化による構造変化が収束に向かう2025年までの期間における外国人労働(より具体的には介護の担い手として外国人を受け容れた際に起こるであろう諸問題)を論じている点や,アジア経済圏における人口移動にも目を配っていることも指摘できよう。2001年に出版された少し古い著作だが,5年を経た今日でも思考の整理は十分参考になる。

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Sunday, 2006/06/04

岩手大学

大学院はてな :: 学会  大学院はてな :: 学会を含むブックマーク

 日本労働法学会@岩手大学

http://wwwsoc.nii.ac.jp/jlla/


 懇親会の席上,とある人物から「論文を引用していただき,ありがとうございました」と話しかけられる。まったく身に覚えがなかったので固まっていたら,「うまとくらなどの件です」と補足が。

 馬と鞍など???

――「馬と『CLANNAD』」(id:milkyhorse:20060406:p1)執筆チームの人でした。地球は狭すぎるよ。

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Friday, 2006/06/02

ドーア 『働くということ』

[] ドーア 『働くということ』  ドーア 『働くということ』を含むブックマーク

 移動中の機内で,ロナルド・ドーア*1『働くということ――グローバル化と労働の新しい意味』(ISBN:4121017935)を読む。著者は,ロンドン大学LSEフェロー。英国生まれだが日本研究に携わっている知日家。以前,講演を聞いたことがあるが,それは流暢な日本語を操っていた。

 労働は如何にあるべきかを哲学として語る,優れて啓蒙的な本。グローバリゼーションの名の下に進む変革に対し,じっと疑いの眼差しを向ける。米国型の産業社会像を進むべきモデルとするのは,どこかおかしいのではないか? アングロ・サクソンに属するイギリスを介在させることで,日本の置かれている状況を客観視することができる。

*1:Ronald P. Dore, 1925-

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Thursday, 2006/06/01

米澤穂信 『愚者のエンドロール』

[] 米澤穂信愚者のエンドロール 米澤穂信 『愚者のエンドロール』を含むブックマーク

 米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)『愚者のエンドロール』(ISBN:404427102X)読了。古典部シリーズ第2作。

 文化祭出典作として撮られた自主映画は,殺人現場を写したところで終わっていた。解決編を書く前に倒れてしまった脚本家に代わり,続きを推理して欲しい――

 日常を探偵小説に変えてしまう部員4人が,結末を探し回る。

 「ミステリー」という存在の曖昧さを逆手にとったようなこの作風,大好きです。「別にいいじゃない,鍵ぐらい」は,けだし名言。212頁から始まる畳み掛けるような〈崩し〉も,面白さにゾクゾクする。

 ただ,読み終えてから振り返ってみると,今回の話で要になっている入須先輩の行動を規律する原理(ホワイダニット)に不自然さが感じられるのです。私が入須冬美の立場にあったならば◇◇◇役を買って出て××を○○○させると思うのだけれど。作中人物が,それとは違う行動を取った理由が引っかかる。入須が本当に護ろうとしたものは何だったのだろう?

 普段,小説の挿絵なんかどうでもいいと言っている私ですが,スニーカー文庫版の旧装丁は高野音彦のイラストだったことを知ると,ちょっと悔しい。

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