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博物士

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Friday, 2006/07/28

吾妻ひでお 『うつうつひでお日記』

[] 吾妻ひでおうつうつひでお日記 吾妻ひでお 『うつうつひでお日記』を含むブックマーク

 吾妻(あづま)ひでお『うつうつひでお日記』(ISBN:4048539779)。

 見どころは,あじまによる模写の数々。頭身が縮んで足首が太くなった「ヘンリエッタ」や「両儀式」や「ちぃ」や「ちせ」や「柚姫」や「葉月」や「木之本桜」や「早坂のぞみ」や「かおなし」や「真紅」が可愛いくて良い。

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Wednesday, 2006/07/26

ツガノガク『時をかける少女』

[] ツガノガク時をかける少女 ツガノガク 『時をかける少女』を含むブックマーク

 古書店にて,ツガノガク時をかける少女』の第1巻(ISBN:4047136204)を見かけたので購入。『エース特濃』Vol.2(2003年5月)から連載されていたもの。原作者に筒井康隆の名が挙げられているが,アリスン・アトリー『時の旅人 a traveller in time』(ISBN:4566012077)も参考文献としている。

 主人公は,高校3年生の芳山和子細田守監督版では「魔女おばさん」として登場)。タイムリープ(時間跳躍)を引き起こすものは“ラベンダーの香り”。最初のタイムリープでは,妹と“ヨーグルト”の争奪。続いてタイムリープした和子は,1989年4月15日における「過去の自分」の姿を見る。つまり,1つの空間に〈本来の時間軸状の私〉と〈時間旅行をしてきた私〉が同時に存在することを許すドラえもん的タイムスリップ)。

 その後,和子は大事故を避けるために時間跳躍力を使い,さらには大人から「“時”の怖さ」を「知る責任」を知らされる。ストーリーは次々に起こる危機を回避していく筋立てで,ドラマツルギーとしては順当だけれど平凡な印象を受ける。

 絵柄は現代的な〈萌え絵〉。デビュー間もないということもあって描線は不安定。コマの取り方も頼り無く,出来映えは良好とは言い難い。

 う〜ん…… これが《2003年の時かけ》だったのか。

 こう数々のバリエーションがあると,「筒井康隆原作の『時かけ』」としては捉えきれなくなりそう。主人公たる少女が時間跳躍することを物語の骨格にした「『時をかける少女』というジャンル」がどのように変遷を遂げてきたのかを追う評論作業が必要だろうなぁ。

 浅野真弓?原田知世南野陽子内田有紀、中本奈奈?安倍なつみ…すべて芳山和子である。中学三年生の芳山和子は放課後の理科室でラベンダーの香りをかいで“タイムリープ”(時間を遡る)の力を得て、同級生の男子二人と不思議な事件に巻き込まれてゆく。そのうちの一人・深町一夫とのプラトニックな恋…。この芳山さんが主役を務める物語が『時をかける少女』である。(中略)

 「時代背景はなくてもいいんですよね。通時的な骨格がはっきりしてるわけだから、繰り返し映像化できるんです。」

http://r25.jp/index.php/m/WB/a/WB000410/tpl/interview01_11/bkn/20060713/id/200607130201 (筒井康隆インタビュー :: 骨格がシンプルな物語は何度でも繰り返すことができる)

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Monday, 2006/07/24

細田守 『時をかける少女』

[][] 細田守時をかける少女』と近藤喜文耳をすませば』の相同  細田守『時をかける少女』と近藤喜文『耳をすませば』の相同を含むブックマーク

 細田守監督の映画『時をかける少女』を観てきました。

 良かった。

 特筆すべきは声の演技。例えば随所に組み込まれているキャッチボールをするシーン。「気怠い日常」を表現する場面だが,ここで過剰な演出をされたり,逆に素人芝居をされたら台無しになるところ。そこを無理のない,のびのびとした,表情豊かな声で魅せてくれた。主役の紺野真琴を演じる仲里依紗の声は,聞いているだけでも楽しい。もっとも,不自然なところもありましたけれどね。後ろの方に真琴が駆けていくのをカメラが追いかける場面があるのですが,なんか「息を切らして走っている」のではなく「えっちなことをして喘(あえ)いでいる」ような気が……(それも一興でしたが)。

http://www.kadokawa.co.jp/tokikake/index.php?cnts=info#20060404 (予告編)

 映像は,とても滑らか(いかにも東映アニメーション仕込み)。輪郭線を太くし,のっぺりとした色塗りにして陰影を抑え,あえて「セル絵らしさ」を強調していたように感じましたが,貞本義行がキャラクターデザインした絵を動かすための最適化でしょう。

 全体的にホワイトを混ぜたような色指定でしたが,子供でも大人でもなく,梅雨の6月でも夏休みの8月でもない,「17歳の7月」というあいまいな季節を映し出せていたように思います。

 脚本も上手い。タイム・リープ(時間跳躍)という道具立てを物語の中に組み込むのに失敗すると,「どうしてあたしが,こんな能力を?」という逡巡に陥ってしまいかねないところ。そこへ本作では「魔女おばさん」こと芳山和子というキャストを再配置することで,あっさり解決。

 和子「タイムリープって,そんなに珍しいものじゃないから」

 音楽は他の構成要素と比べれば控えめ。ある瞬間を除いて低く低く曲が流れ続けていたものの,主旋律が湧き上がってこない。それだけに,タイム・リープのシーンで強く緩やかに奏でられる『ゴルトベルク変奏曲』(Goldberg Variations, BWV988)が一際引き立っていました。最もSF的な場面を彩るのは,クラシックなピアノの調べ。しかも『ゴルトベルク変奏曲』は,最初に主題(Aria)が提示され,それが30回に渡って変奏がなされた後,やがては最初の主題に戻ってくる(Aria da Capo)という構造を持つ楽曲。反復を繰り返した後の回帰という『時をかける少女』のテーマを『ゴルトベルク変奏曲』の旋律で暗示しようとしているのだ――というのは深読みのしすぎでしょうか。


 とにかく,作品としてみると,とても良い出来です。ケチをつけるのが難しいくらい。原作を読んでいなくとも,原田知世主演の映画を観ていなくとも,もちろんコミック版を知らなくともストーリーを楽しめる。

 そこで敢えて議論提起するとすれば,テクストの問題としてではなく,コンテクストとして『時かけ』をどう位置づけるかでしょう。

 かつて,前島賢id:cherry-3d)は斯く叫びました。

 「スレイヤーズが好きだった十代の僕を,今の僕はどうやって肯定したらいいんですか!」

私の場合には

「『ガルフォース・エターナルストーリー』(のキャティ)が好きだった高校生の僕を,今の僕はどうやって肯定したらいいのですか!」

になりますが。

ガルフォース エターナル・ストーリー [DVD]

いみじくも上記の発言が指摘する現象が本作で起こりえます。本作,細田守監督の『時をかける少女』は,あまりにも良くできたジュブナイルで,恋愛物語で,青春小説。目的を見失ってしまった昨今の宮崎駿スタジオジブリより,もっとシンプルかつストレートに「ジブリ的なテーマ」を体現した作品として細田守は『時をかける少女』を送り出したように思うのです。

 本作と比較参照されるべきものは,近藤喜文監督の『耳をすませば』(1995年)ではないでしょうか。バイオリン職人にあこがれて中学を途中で放り出してイタリアに渡ってしまう天沢聖司。そんな少年のひたむきな姿に触発されて小説を書き始める少女,月島雫。こうしたテクストを,「甘酸っぱい青春のひとコマ」と肯定的にみるか,それとも「若気の至り」「ワナビ」「いちゃつきやがって」「世間の厳しさを思い知れ」と否定的に捉えるのか。『耳すま』と『時かけ』はコンセプトが似通っているので,評価軸も共通するのではないかという感があります。

耳をすませば [DVD]

 本作のテクストの内側には瑕疵が見当たらない。「何のためにアニメ映画を観るのか?」「なぜ実写ではなくアニメ映画という表現手法を選んだのか?」「この映画に《原作:筒井康隆》をクレジットすることの意義」といった外部的コンテクストしか評価を落とすものはないように思う。

 そのうえで。僕は(こじれてしまった34歳なのに)このアニメを気に入ってもいいんだろうか――。

▼ 関連資料

 細田 「時をかける少女」って、今まで映像化されたものは全部実写だったわけじゃないですか。今回アニメーションでやったのは、今だと『時をかける少女』を実写でやっても、つまらないだろうなと思ったんですよ。大林(宣彦)監督版を頂点にして、何作か作られてるけどさ、あの物語を実写で語る事の限界みたいなものを感じてきたんです。

http://www.style.fm/as/13_special/houdan_060724.shtml 「放談 細田守×小黒祐一郎

▼ 補遺

*1谷川流の小説は評価していなかったのに,アニメを観て楽しんでしまった私……。この〈ねじれ〉は,テクストに対するコンテクストの過剰な関与をアニメ化の際に上手く咀嚼してくれたからではないかと思っている。両者の関係を考えるうえで参考になる対談だと思われるので,当該文書の参考資料として掲げておく。

Saturday, 2006/07/22

[] 大学院はてな :: 無効な普通解雇+無効な懲戒解雇=有効な普通解雇?  大学院はてな :: 無効な普通解雇+無効な懲戒解雇=有効な普通解雇?を含むブックマーク

 研究会にて,第一工業事件(東京地判・平成18年3月10日・労働経済判例速報1933号19頁)の検討。

 原告Xは被告Y社の経理担当者であった者で,小口現金を手提げ金庫で管理していた。

 2004年10月14日,XはYから《普通解雇》された。その理由は,(1)残業代申請手続の無視,(2)資料のフォーマット変更に係る虚偽報告,(3)指導に従わない休日取得であった。

 解雇告知後,引き継ぎのために経理部主任Fが小口現金の確認をしたところ,出納帳では209万円あるべきはずが実際には94万円しか無かった。そこで改めて小口現金の管理状況を確認したところ,過去4年2か月間における不明金は1617万円にのぼることが判明した。

 そこでYは同年10月27日,現金横領を理由としてXを《懲戒解雇》した。

 本件は,横領の事実はなく当該解雇は無効であるとして,慰謝料および未払い賃金の支払いを求めた事案である。裁判所は一部認容。

 「Yが懲戒事由とする会社の金銭を原告が横領した事実は本件証拠上からは認めることができず,YがXを解雇した時点において,証拠上不十分な根拠に基づいて当該処分をしたものということになり,当該解雇は解雇権の濫用に当たるものであるから無効というべきである。」 

 Yが普通解雇の理由とした(1)(2)(3)については「これら事由をもっていきなり原告を解雇するのは極端であり許されないものというべきである。」

 以上のように述べ,10月14日付けの《普通解雇》ならびに10月27日付けの《懲戒解雇》いずれも無効であるとした。しかし,裁判所は次のように続ける。

「Yがした上記通常解雇の有効性については,Yの上記解雇事由のみに限られると考えるのは妥当ではなく...平成16年10月14日の解雇告知時点において存した事情を斟酌できるものというべきである。(中略)

 Yが懲戒解雇の理由としている横領の主張には,通常解雇におけるXの小口現金管理者としての業務責任を問う主張も包含しているものと善解できる

 したがって,YによるXに対する本件通常解雇はXにおいてそれが解雇権の濫用に当たるとする他に有力な事情の主張・立証がない限り有効である。

 この判断はいただけない。本件においては意思表示が次のように別個2つあると考えるのが筋だろう。

解雇理由 α(10月14日)β(10月27日)γ(口頭弁論終結時)
指示違反 普通解雇(無効) ◇ ―――→  ――→ 
横領  懲戒解雇(無効) ――→ 

たしかにαの時点では「不明朗な金銭管理」という事象は存在していたのかもしれないが,少なくとも使用者は認識しておらず,この時点における意思表示(普通解雇)の動機とはなっていない。ところが裁判所は「善解」することにより,βの時点における意思表示を「斟酌」し,αの時点に遡らせてこれを有効としている。

 これは裁判所が勘違いを起こしているとしか思えない。意思は表示されてから有効である。本件において,Yはγの時点までにXの金銭管理能力に欠けることを理由とする普通解雇の意思表示を行っていない。表示されていない以上,そのような法律行為は無効と解すべきだろう。おそらく裁判官は,上記のように「意思表示が2つある」ことに気づかず,併せて1つの「一連の解雇行為」にしてしまったために混乱を起こしたものと思われる。

 もし仮に「善解」するにしても,αではなくβの時点で「主位的には懲戒解雇を,予備的に普通解雇したものである」とする(上図における ◇ が主張されたものと裁判官の職権で認める)のが適切であろう。

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Friday, 2006/07/21

渡辺誠 『もしも宮中晩餐会に招かれた

[] 渡辺誠 『もしも宮中晩餐会に招かれたら』  渡辺誠 『もしも宮中晩餐会に招かれたら』を含むブックマーク

 渡辺誠(わたなべ・まこと)『もしも宮中晩餐会に招かれたら――至高のマナー学』(ISBN:4047040193)を読んで,ちょっと気乗りしない時間帯をやり過ごす。

 著者は宮内庁の大膳課(言わば厨房)に勤めていた人物。文章が軽妙で面白い。功名心をくすぐる書名だが,実際に招かれるのは社会的に功を上げた人達ですよ――と,やんわり希望を打ち砕く。デートの会食で使えるような「実践的マナー」を説いているわけでもない。では,やんごとなき方々の知られざる食生活を暴露しているのかというと,そんなノゾキ趣味は(ほとんど)無い。唯一の打ち明け話は,今上天皇陛下は皮つきのリンゴをナイフとフォークで剥くのがお得意だ,ということくらい。

 本書を通して語られるのは,マナーの根源にある〈心持ち〉。

 マナーというのは,結局,かたちではなくて,理由のあることに対して,その理にかなったやり方をすることなのではないだろうか。

113頁

随所に「さりげない気遣い」が込められていて,本そのものが優雅でした*1

 題材に使われているのは,1975年5月7日に実際に供されたものなのだそうだが,文章で説明されてもさっぱり想像が付かない。しかし,バゲットだけはご相伴に与ってみたいものだ。

 大膳でつくっているパンは本当においしい。ロールパンもいいが,とくにバゲットは,明治のころにイギリスで習ってきた製法そのままで,いまもつくっている。普通のバゲットと違って,ビスケットを柔らかくしたような感触で,パリパリッとした皮は厚さが三ミリくらいはあろうか。中はしっとりしていて,あれは一度食べてみる価値はあると思う。

115-116頁

*1:この本において最も「エレガントではない」のは,マゼンタに塗りたくられた表紙だろう。

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Thursday, 2006/07/20

ninki-nanka

[] ガンビアのニンキナンカ  ガンビアのニンキナンカを含むブックマーク

 今日はスペイン語の自主勉強会。BBCが配信しているスペイン語版ニュースを毎週3本選び,最新の時事ネタを輪読している。海外の通信社が配信するニュースを定期的に読んでいると,日本で報道されていることは一面記事ですら些末なことに思えてくる*1

http://news.bbc.co.uk/hi/spanish/news/

 今週は私が当番だったので,日本では報じられていないようなものを選択。読んでみたら,すっごく変だった。

ガンビア共和国に伝説の幻獣ニンキナンカを追う

http://news.bbc.co.uk/hi/spanish/science/newsid_5182000/5182084.stm (西語版)

http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/5180404.stm (英語版)

 英国の Centre for Fortean Zoology に所属する未解明動物学(Crypto-zoology)研究チーム*2がアフリカ西部に赴いたところ,幻獣伝説を聞きつけて調査に乗り出したとのこと。その名はニンキナンカ(Ninki-Nanka)。

  • 頭部はウマのようで,てっぺんに鶏冠(とさか)がある
  • 胴体には左右対称な鱗(うろこ)が生えている
  • ニンキナンカを見たものは数週間で死ぬ。そのため1人称で目撃談を語ることができる人物は居ないと思われたが,このほど調査隊はニンキナンカ目撃から3年を経過してもなお生き延びている目撃者の存在を突き止めた。イスラムの僧侶が処方した薬草を飲んだおかげだという。
  • 存命する目撃者の話では,全長50m,幅1m*3。まるで中国の龍のようだったと言う*4

 BBCは一つ一つの記事について解説が長く,取材力の高さが分かる(これに慣れてしまうと,日本の報道がつまらなくなる)。そんなBBCでも,こんなトンデモ記事を混ぜたうえ,あまつさえ各国語に翻訳して届けてしまう。お茶目だ。

*1:余談だが,私が専門学校で受け持っている英語の講義では,日本の出来事を英語で読んでいる。自分が教える時に採用している授業スタイルの元になっているのが,このスペイン語勉強会だったりする。細かい文法の話はせず,外国語ニュースの大意を掴むにとどめている。結局のところ,学校教育を離れたところで〈普通の人〉に必要な語学力は,そこそこ量のある外国語テキストを読んで“自分に関係がある文書なのかどうか”が判断できること,だと思っている。

*2http://www.cfz.org.uk/

*3:ずいぶんスリムである。っていうか,それじゃ立てないだろう。

*4:ドラゴンを見たことあるんかい!

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Wednesday, 2006/07/19

あさりよしとお 『少女探偵 金田はじめ

[] あさりよしとお 『少女探偵 金田はじめの事件簿』  あさりよしとお 『少女探偵 金田はじめの事件簿』を含むブックマーク

 あさりよしとお『少女探偵 金田はじめの事件簿』(ISBN:4592142535)。4月に出版されていたのに見逃していた……。1999年から翌2000年にかけて『ウルトラジャンプ』誌に連載されていたものの未完となっていた作品が,最終話を描き下ろしての単行本化。

 当代きってのギャグ&パロディ漫画家が送る学園推理もの。本作は特にナンセンスっぷりが際だっています。「かの名探偵の孫」金田一(かねだ・はじめ)ちゃん&ボケ役の助手「お兄様ちょっとお願いが」アサミちゃん,「少年探偵ひとすじ30年のベテラン」小林正太郎,「×××椅子探偵」エロキュール・ポルノと,登場キャラクターのプロフィールからして冴え渡っている。

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Monday, 2006/07/17

川原泉 『レナード現象には理由がある

[] 川原泉レナード現象には理由がある 川原泉 『レナード現象には理由がある』を含むブックマーク

 川原泉(かわはら・いずみ)の新刊『レナード現象には理由(わけ)がある』(ISBN:4592142659)は,少女まんが好きならずとも楽しめる短編集。あ,一人称の主体が少年になっているものもあるから,少女まんがでは無いかも……。それ以前に,カーラ教授を〈少女まんが〉という枠の中に押し込めて良いのかという疑念もあるけれど,それはさておき。

 超進学校を舞台にした連作。高校生によるボーイ・ミーツ・ガールもの,と言っても大枠では間違いではないと思う。

レナード現象には理由がある

 成績はよろしくないが〈癒しの手〉を持ち級友に慕われる蕨よもぎ。一方,〈天が四物を与えた〉天才飛島穂高は,医学部への進学を親に反対される。「私が患者になった時 おまえのよーなタイプの医者に診てもらいたくないから」と言われて――

「ドングリにもほどがある」

 中間テストにおいて,クラス順位38人中19位にして文系順位152人中76位という〈完璧なド真ん中〉で並んだ亘理美咲友成新一郎。〈団栗の背競べ〉だと思っていたら,新一郎には〈普通〉じゃない才能があって――

「あの子の背中に羽がある」

 お隣に引っ越してきた小学6年生の女児。彼女の背中にはランドセルのあたりから羽が生えているのに,他の人には見えていないらしく…… うぐぅ

「真面目な人には裏がある」

 お互いの兄がボーイ・ミーツ・ボーイしてしまった日夏晶と塔宮拓斗。思いもかけずBL小説の世界が現前化してしまい――

 いずれも軽やかな筆致で描く。ここ7〜8年ほど低調でエッセイ風の作品が多かったカーラ教授ですが,返り咲きとしては見事。はじめて手にする川原泉作品としても卒がない仕上がり。

 ただ,久しぶりに読むと絵柄の変化が気にはなります。かつての過剰なまでに豊富なネームと比べると画面構成がスッキリしていますが,これは老練の故と思えば味わい深い。では,何が引っかかっているのだろう? と旧作と見比べて考えてみたのですが,「大きく見開かれた瞳」の描き方が変わったせいでしょう。本作では,球体関節人形が持つガラスのような瞳になっていて,ちょっと怖いような感じを受けなくもない。

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Saturday, 2006/07/15

判例時報1864号

[] 大学院はてな :: 近親婚と遺族厚生年金(改)  大学院はてな :: 近親婚と遺族厚生年金(改)を含むブックマーク

 研究会にて,遺族厚生年金不支給処分取消請求事件の検討。ちょうど1年前,第一審*1について討論したことがあるが(id:genesis:20050716:p1),今回は控訴審判決*2が検討対象。

 前回は請求を認めなかった高裁判決の原文が出まわっておらず,新聞報道を頼りに議論を組み立てていた。それが,改めて精緻に読み込んでみると…… これはひどいかも。

 公的年金制度は,現役世代の強制加入により安定的な保険集団を確保し,年金の実質的価値を維持するための財源を後の世代の負担に求めるという世代間扶養の仕組みに支えられており,このように保険料を負担する現役の世代から年金を受給する世代への所得の再分配的機能を有することから,拠出と給付について,私的年金のような厳格な対価関係にはなく,特に,遺族厚生年金の場合は,受給権者自身が保険料を拠出していないから,給付と保険料との対価的牽連性は間接的であるといわざるを得ず,したがって,遺族厚生年金は,社会保障的な性格が強い給付であると解されている。 

(中略)

 遺族厚生年金制度が社会保障的性格の強いものであり,被保険者等及び事業主から強制的に徴収される保険料並びに国庫負担という公的財源によって賄われていることを考慮するとき,その受給権者としての「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」の判断に当たっては,民法上の婚姻の届出をした配偶者に準じて,公的保護の対象にふさわしい内縁関係にある者であるかどうかという観点からの判断が求められ,その判断において,その意味での公益的要請を無視することはできないというべきである。

以上の説示が登場するのはナンセンス(年金財源に税金が投入されているかどうかは本件の判断に影響を与えないファクターである)。この裁判官は,社会保障制度の基本原理を理解していない(少なくとも,依拠すべき先例の選択を誤っている)。

 どうして遺族厚生年金という制度が用意されているのかを考えてみると,それは家計を支える稼ぎ手が死亡した場合,後に残された家族が抱える経済的リスクを取り除くためのシステムとして用意されているわけです。それ故,法律婚ではない内縁(事実上の婚姻関係)にあった配偶者であっても年金は支給される。この点を指摘する農林年金事件(最一小判・昭和58年4月14日・民集37巻3巻270号)が本件でもリーディング・ケースとされるべき。

 厚生年金という社会保険制度が護ろうとしているのは〈生活保障ニーズ〉であって,〈婚姻秩序〉ではない。従って,民法734条1項が近親婚として認めていない本件内縁関係(叔父‐姪で3親等の傍系血族)であっても,厚生年金法51条1項における「配偶者」には該当するものと考えられるから,本件にあっては遺族厚生年金が支給されてしかるべきである。支持されるべきは第一審判決であろう。

 そうなると,同じく近親婚に関して争われた事案で,請求を棄却した最高裁判決*3との関係が問題となるが,これについても本件地裁判決が説示する通りに考えて良いだろう。

 被告が引用している最高裁昭和60年判決は,被保険者と直系姻族の関係にある者は,法3条2項所定の者には当たらないとの判断を示したものであるところ,姻族関係であるとはいえ,一度は親子の関係にあった者が内縁関係に入った場合と,叔父,姪の関係にあった者が内縁関係に入った場合とでは,社会的評価,抵抗感を異にするものと考えられる上,同判決の事案と,本件事案とでは,内縁関係に入った経緯や,態様,地域社会等における受け止め方等の点においても,事情を異にしているのであるから,上記の判断は,上記最高裁判決の判断に抵触するものではない。

同じ近親婚に関する事例であっても,次のような事情の違いが判断を分けたものであろう。

判決 夫 妻 親等 関係 諸事情 受給
昭和60年最判 亡夫Nの連れ子 亡夫Nと内縁関係  1直系姻族 重婚  ×
本件・第一審 叔父 姪  3傍系血族 地域特性  ○

*1:東京地裁判決・平成16年6月22日・判例時報1864号92頁

*2:東京高裁判決・平成17年5月31日・判例時報1912号3頁

*3:最一小判・昭和60年2月14日・訟務月報31巻9号2204頁

Wednesday, 2006/07/12

仲正昌樹 『松本清張の現実と虚構』

[] 仲正昌樹松本清張の現実と虚構』  仲正昌樹 『松本清張の現実と虚構』を含むブックマーク

 文学研での読書会。今回の課題図書は,仲正昌樹(なかまさ・まさき)『松本清張の現実(リアル)と虚構(フィクション)――あなたは清張の意図にどこまで気づいているか』(ISBN:4828412549)。

 清張作品では〈人間〉がリアリティをもっているとされているのは何故か? ということを述べていく。〈清張以前〉のスタンダードであった江戸川乱歩横溝正史の探偵小説との比較をし,舞台が庶民から距離のある特権階級というリアリティの無い「お伽話」の空間が明智小五郎金田一耕助の活躍する世界であったと位置づける。それが,社会構造の変化により旧特権階層と庶民の身分の差が意識の上で希薄化したうえ,「都市住民の匿名性」が高まったこと等により,普通の人の間でも複雑怪奇な事件が起こっても不思議の無さそうな状況が生まれた。そこで登場したジャンルが《社会派推理小説》であったとする〔第1章〕。

 と,なかなか期待させてくれそうな導入。清張作品を読んでいなくとも,楽々と読み進めていける内容だ。

 しかし,第2章以降で展開される個別作品論となると,参加者たちから厳しい評価が相次ぐ。展開されている論旨は,既存の文学批評の手法を清張に当てはめてみたというものが多く,この本ならではの独自性というものが殆ど無い。また,冒頭で掲げた〈リアリティ〉の問題に対して,作品論の箇所では処理されておらず,全体を通しての仮説設定&検証という作業が無い*1

 うまく調理されているので消費的に読むには十分な質を備えているが,斬新な読み方の提示はしていないため物足りなさを覚える*2。先行研究を踏まえていないため文学研究の成果としては弱く,本書は松本清張という信仰を強化する側面の方が強い。何気なく清張を消費していた読者に一歩進んだ読み方を教えるという楽しみ方はあるのだけれど,そのような清張愛読者が2006年現在の地球上に存在しているのかどうか疑わしい。

 そこで議論は,松本清張の業績をミステリー研究の一環として(批判的検討を含めて)評価するという作業をしてこなかった怠慢があったのではないか,ということに話が向かった。「清張の再評価」以前の問題として,きちんと清張を位置づけていなかったように思われる。そもそも社会派推理小説と呼ばれるものが,どのような特質を有する作品群を指しているのかすら判然としない。参加者の意見を募っても,「Why done it?」「同時代への関心」「報われない結末」などが出てくるが決め手を欠く。

 「社会派推理小説」という名称の由来にしても,忘れられた過去になっていた。一世代前の出来事ほど見落としがち。

「探偵小説の新傾向として,社会派とでも名づけるべきものが目立ってきた。松本清張がその開拓者である。」

荒正人(あら・まさと)「文学と社会」『読売新聞』昭和35年6月7日 *3 

▼ 関連

*1:第2章から第7章までは,『松本清張研究』に掲載されたもの。清張好きのための同人誌に載せた文章ということを差し引いても,批判的視点というものが抜け落ちていることは評論書として問題だろう。

*2:もっとも,第9章「天皇制の謎をめぐって」は,かなりグダグダになっている印象を受けた。

*3:荒正人が命名者であることを指摘する文献として,中島河太郎「推理小説における清張以前と以後」『国文学 解釈と鑑賞』1978年6月号。

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Monday, 2006/07/10

古橋秀之 『ある日、爆弾がおちてきて

[] 古橋秀之ある日、爆弾がおちてきて 古橋秀之 『ある日、爆弾がおちてきて』を含むブックマーク

 古橋秀之(ふるはし・ひでゆき)『ある日、爆弾がおちてきて』(ISBN:4840231826)読了。

 いずれも《時間》を主題に取った7本の連作。得てして著者自身による作品解説というのは趣を削がれるものだが,こと本作にあっては〈男の子の時間〉と〈女の子の時間〉の図解が面白い。

 締めくくりを飾る「むかし、爆弾がおちてきて」は卑怯です〜 『トップをねらえ!』のエンドロールや『DESIRE‐背徳の螺旋‐』の第三シナリオで滂沱の涙を流したトラウマが思い起こされてしまう*1

 どれか1編を推すとしたら「三時間目のまどか」ですね。ひときわ清涼感に溢れたボーイ・ミーツ・ガールもの。

 人物像が掘り下げられていないのが物足りなさを感じさせるところだが,それが軽やかな読後感に繋がっているところなので必ずしもマイナスでもない。短編集としては完成度が高く,秀作。

*1:実話。下書きで「1万2000年後」とか「ティーナ」と書いていたら,それだけで涙腺が緩んできた。

hajichajic 2006/07/13 18:25 デザイア…超懐かしい。『猿でも作れるギャルゲー教室』執筆を決断された際にはぜひお声をおかけください。

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Saturday, 2006/07/08

労働判例909号

[] 大学院はてな :: 結婚相手が同業他社に勤めていることを理由とする解雇  大学院はてな :: 結婚相手が同業他社に勤めていることを理由とする解雇を含むブックマーク

 研究会にて,O法律事務所(事務員解雇)事件の検討。

 被告Yは名古屋市内で開業している弁護士事務所の経営者(ボス弁)。原告X(女性)はYの事務員であった者。

 2002年11月,Xは同じ名古屋市内の別な法律事務所に勤める弁護士と近く結婚することにし,Yに対し通知した。これに対しYは,秘密保持や依頼者との信頼関係を理由に年度末をもって雇用契約を終了させることを提案――したらしい。本件では,この際の会話のやり取りが問題となっている。実際にどのような会話があったのか,今となっては知り得べくもない。ただ「裁判所が認定した事実」があるのみである。

 この「裁判所が認定した事実」が食い違っているために判決の結論は分かれており,第一審*1ではXは「分かりました」と回答したものであるとしたのに対し,控訴審*2ではこの発言を否定している。それ故,第一審ではXが提案を承諾したので「合意解約」の問題であるとしているのに対し,控訴審ではXが提案を受諾していないので使用者の一方的な意思表示であるから「解雇」の問題であるとして処理している。さらに,第一審は合意解約が成立したものとしてXの請求を棄却したのに対し,控訴審は解雇は合理的な理由を欠くと結論づけた。

審級契約の解消 事案の類型 結論 
第一審 労働者が承諾 合意解約 請求棄却 
控訴審 労働者は拒否 解雇 請求認容

 しかし…… 出てきた法律論はいずれもおかしい。

 まず第一審であるが,合意解約を成立させるためには翌2003年1月28日ころに,Xが「私がなぜ辞めなければならないんですか?」とYを問いただしていることが引っかかりとなる。確かに2002年11月の段階では合意解約が一旦は成立したのだとしても,「合意解約の撤回」がなされたとみる余地が多分にあるからである。

 次いで控訴審であるが,本件ではXが2003年3月31日の退職前に有給休暇を消化し,5月6日に異義無く退職金を受領した後の6月11日になってから訴訟を提起していることが引っかかる。なるほど,裁判所が

 確かに,法律事務所の職員の配偶者が,当該事務所と相対立する立場に立つ法律事務所の勤務弁護士である場合,抽象的な可能性の問題として考えれば,情報の漏洩等の危険性を完全に否定することはできないであろう。しかし,法律事務所に勤務する事務員は,依頼者の情報等職務上知り得た事実について,弁護士と同等の法律上特別に定められた秘密保持義務ではないとしても,当然に一定の雇用契約上の秘密保持義務を負っているのであり,通常はこの義務が遵守されることを期待することができるというべきである。また,名古屋市内で業務を行っている弁護士は900名を超えるのであるから,実際にそのような利害対立が生じる場面は決して多くはないものと考えられ,Yの指摘する危険等は,いまだ抽象的なものと言わざるを得ない。また仮にそのような利害対立の場面が実際に生じたとしても,何らかの措置を講じることによって,弊害の生じる危険性を回避し,依頼者に不信感を与えることを防止することは十分に可能であると考えられる。夫婦共働きという在り方が既に一般的なものになっている今日,上記のような抽象的な危険をもって,解雇権行使の正当な理由になるとすることは,社会的に見ても相当性を欠くというべきである。

――と説示するのは妥当であろう。しかし,《抽象的な危険》を理由にして使用者が労働者を一方的に解雇することは認められないことであるが,使用者と労働者が双方合意の上で労働契約を解消することは妨げられない*3。控訴審ではYの行為が不法行為に該当するものとして賃金3か月分の支払いを命じているが,その説示では「不本意ではあるが渋々承諾する」という労働者の選択が存在することが欠落している。本件は,退職日の前と後とでは請求を認めるための筋道が変化しそうな事案だ。逸失利益ないし慰謝料を認める結論を導くためには,論理構成が甘いことを指摘せざるを得ない。

 結局のところ,本件に関わった弁護士双方とも労働法のことを良く分かっていないことが分かった。弁護士だって,マイナーな法領域である労働法については知らないことが多い,というのは知っておいてもいいだろう*4

[] 刑法には「人を殺してはいけない」とは書かれていない  刑法には「人を殺してはいけない」とは書かれていないを含むブックマーク

 かねてより気になっていたことを,つらつらと。取り留めもない話になるけれど。

 法律に不慣れな人は,下手に法律を持ち出して議論しない方がいい。べつに「シロウトは法律問題に口を出すな!」というわけではないです。法律は《技巧》の上に成り立っているので,議論の中で使いこなすのは難しいということ。共感を得たいなら,主観的な感情を率直に出してしまった方がいい場面がある*5

 例えば『人を殺してはいけない』とか『妊娠中絶をしてはいけない』といった話をする場合だが,それが「刑法に書いてある」などと言うと厳密には間違いになってしまいかねない。ウソだと思ったら条文の文言を確かめてみて欲しい。

第199条(殺人) 

 人を殺した者は,死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

第212条(堕胎)

 妊娠中の女子が薬物を用い,又はその他の方法により,堕胎したときは,一年以下の懲役に処する。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M40/M40HO045.html

 このように,「Aをした場合にはBという不利益を課す」という条件節になっている。換言すると,「Bという不利益と引き替えにするならばAをしても良い」というように読むことも可能。どうして法律がこのような言い回しをしているのかというと,個々人の行動を国家が直接に制御することは難しいから*6。そこで,間接的ながら不利益を用意しておくことで,ある行動に出ることを思いとどまらせようとしているのです。

 法律は,社会を構成する大多数の人が〈好ましい〉と思っているであろう価値判断を反映させているだけの代物。価値判断は法律の背後にあるのです(背景事情を探るときに「立法者意思」というものが見え隠れする)。例えば,銃を所持することが〈正しい〉のかどうかは分かりません。日本では認められていないけれど,米国には憲法修正第2条*7があって武器を保有することが人権とされていたりする。

 つまり,「そもそも論」のレヴェルで価値観が対立している場面において法律を持ち出してみても,あまり意味が無いのです。法律が拠り所になっている社会というのは健全な共同体だとは思いますけれどね。

 それでも憲法や刑法の場合,そこで示された価値判断に異議を唱える人は少数だから,「法律にはこう書いてある」で反対派を説得しやすい。ところが労働法は,労働者と使用者の微妙なバランスの上に成り立っている。法律の内容すら,早いテンポで変わってしまう……。

 目下,労働政策審議会(厚生労働省)で検討されている日本型ホワイトカラー・エグゼンプション*8が実際に導入されたならば,日本での働き方は劇的に変化するでしょうね。その趣旨は労働時間にかかる規制の適用を除外する*9というものですから,おそらく1987年の週40時間労働(週休2日制)導入から続いてきた「労働時間短縮」という流れを反転させる大変動になります。この新しい政策選択が本当に社会の多数の人々から支持されるものなのか,わたし,気になります。

職場はどうなる 労働契約法制の課題

*1:名古屋地判 平成16年6月15日 労働判例909号72頁

*2:名古屋高判 平成17年2月23日 労働判例909号67頁

*3:例えば,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(いわゆる男女雇用機会均等法)第8条3項は「事業主は,女性労働者が婚姻し,妊娠し,出産し...たことを理由として,解雇してはならない」としているが,合意解約(すなわち結婚退職の提案)をしてはならないとは定めていない。

*4:本件において原告Xの訴訟代理人は夫が務めている。この夫氏,主張の中で「職場環境調整義務」を唱えているが,これはセクシャル・ハラスメント事案で用いられる用語であって,あまりにも場違い。名古屋高裁は「主張するところは,必ずしもその位置づけ等が明確でない部分がある」とたしなめている。その言わんとしていることは「解雇回避努力義務」のことであろう。

*5:昨年,身体障害者が前の職場への復帰を求めた事件について判例評釈を書き,法律雑誌に載せてもらいました(id:genesis:20051215:p1)。私という個人の主観では,障害者も能力に応じて働ける社会を理想と考えています。もし立法に携わることができるならば,そうした社会の構築を提案するでしょう。しかし,現在の法制度の枠組みの中には救済の手がかりがない事案であったため,法律家としては,復職を認めなかった使用者の立場を支持しました。

*6:行政が監督することを予定している場合には「〜してはならない」という書き方をする条文もあります。例えば労働基準法の第3条など。

*7http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8%A1%86%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95%E4%BF%AE%E6%AD%A3%E6%9D%A1%E9%A0%85#.E4.BF.AE.E6.AD.A3.E7.AC.AC.E4.BA.8C.E6.9D.A1.EF.BC.88Amendment_II.EF.BC.89

*8http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/06/s0613-5a.html

*9:賃金は〈労働時間〉の長短で計るものではなくなるために時間外労働という概念自体が消滅し,〈成果〉によって決められる年俸制が中心の制度に変わる。働く量をどれだけにするかを決めるのは労働者側のリスクとなり,過労で倒れたり自殺するのを防ぐために必要な最小限の休息だけがコントロールされることになる。

sirouto2sirouto2 2006/07/09 07:19 >価値判断は法律の背後にある
法律はよく分かんないですけど、なんかモダンな感じがしますね。でも今の世の中を見てると、「法律が道徳を兼ねてくれたらいいな、というか元々そういうものだ」という考えが圧倒的に多そうです。あと国民は国家という親から生まれてきたみたいな。私はそれは違うと思いますけど。

共同体がコンビニにとってかわったので、法律を聖典にしてすがろうとするというか。でもそれによってかえって特定の層の思惑が色濃く反映されてしまいます。公を強調しながら、けっきょくは公私の分割が曖昧化するみたいな。どっかでデジャヴを感じる流れです。抽象的な話になってしまってすみません。

benjabenja 2006/07/09 09:09 価値基準に異議があったとして、法律によりどころを求めて、
その法律のあり方に異議があるとしたら、
次は何を拠り所に求めるか。
話は簡単。どうにかするのは難しいけど。

reconstructionreconstruction 2006/09/26 00:50 あなたのいっていることは、司法を専門家の手で独占するための屁理屈に過ぎません。
http://d.hatena.ne.jp/hakuriku/20060716
を読めばわかりますが、法解釈では刑法で殺人は禁じられています。『禁止する』『禁ずる』という文言がないというだけで、刑法は殺人を禁止していないなどという詭弁を弄して法律を専門としない一般人の司法参加をはねのける発言は、法律の専門家としてふさわしくないです。

genesisgenesis 2006/09/29 18:57 reconstructionさんへ。あまりの誤読ですので,補記しておきます。私は,文言として書き記された「法律」と,主権の一種である「司法」とは注意して使い分けをしております。「司法」へ意見を述べるためには「法律」の技巧を知らなくともいい,という趣旨を述べたのが上記の文章です。むしろ,法律知識を持たない者がどのようにして司法と関わっていくのか,その道筋を書き記したものです。今一度,お読み直しください。

Wednesday, 2006/07/05

別冊太陽 『松本清張』

[] 別冊太陽 『松本清張――昭和と生きた,最後の文豪』  別冊太陽 『松本清張――昭和と生きた,最後の文豪』を含むブックマーク

 次の研究会では松本清張を題材にします,という連絡が来ました。それで,困ってしまったわけです。どんな作家なのか,まったくもって知らないので。

 思い起こせば,最初に読んだ現代ミステリーは綾辻行人でした。たぶん1988年の出来事。高校生だった頃は素直でして,『十角館』冒頭の“新本格”宣言を真に受けてしまったん。そんな経緯があって,動機に重きを置く“社会派”は忌むべきものというのがあったのです。あと,今も昔も変わらずマイナー・メジャー志向があって,大衆作家の物す小説には興味が持てなかったというのがあります。

 で,松本清張の著作活動を全体として把握しておく必要に迫られたのですが,ぴったりの資料があったので買い求めてきました。別冊太陽〈日本のこころ〉シリーズ『松本清張――昭和と生きた,最後の文豪』(ISBN:4582921418)。

 作品群を「時代小説」*1「推理小説」*2「評伝・モデル小説」*3「現代史」*4「古代史」*5の5つに分け,計30の作品について解説を加えています。各々に2〜4頁を割り振り,大きな図版を盛り込んだムック。旅にまつわる作品が多いことから,舞台となった場所の写真を大きく載せてイメージを掻き立て,さらに地図を添えるという工夫がなされている。解説を書いているのは学者や文芸評論家で,かなり信用できる造りになっています。

 あえて難点を挙げると,作品のあらすじが粗すぎることでしょうか。既読者に対しては「そんな話だったよな」と記憶を喚起するのに足りるでしょうが,これから読もうとする者に興味を湧かせるような書き方はしていない。要約のスタイルも不均一。ミステリーでなければネタばれに気を遣う必要は無いところなので,著作目録を充実させておいてくれたならば総覧的な使い方が出来て便利だったのに,と惜しまれるところ。

 ちょっと無理とも思える注文をつけましたが,ブックガイドとしては十分すぎるほど良く出来ているのではないでしょうか。

 この一冊を読んで,おぼろげながら松本清張が像を結んでくれたわけなのですが…… どうも相性が悪いような気がする*6

*1:『西郷札』,『ひとりの武将』,『甲府在番』,『無宿人別帳』,『かげろう絵図』,『西海道談綺』

*2:『張込み』,『眼の壁』,『点と線』,『ゼロの焦点』,『黒い画集』,『天城越え』,『砂の器』,『球形の荒野』,『Dの複合』,『神々の乱心』

*3:『或る「小倉日記」伝』,『断碑』,『岸田劉生晩景』,『文豪』,『形影』,『暗い血の旋舞』,『モーツァルトの伯楽』

*4:『日本の黒い霧』,『昭和史発掘』

*5:『陸行水行』,『古代史疑』,『清張通史』,『火の路』,『ペルセポリスから飛鳥へ』

*6:私,職業的に法律家をやっていますが,政治の話をするのが嫌いなん。いわゆる老荘思想。なりたいものは「竹林の七賢人」だったりする。

kuroyagisantarakuroyagisantara 2006/07/06 13:26 すいません。推薦を頼まれたまますっかり忘れてました。清張では「黒地の絵」という短編が面白いと思います。同名の短編集が新潮文庫から出ています(ISBN:4101109036)。全集では37巻『装飾評伝』(文藝春秋、1973年)に収められています。大江健三郎『死者の奢り』と読み合わせると面白いように思います。また、書誌や索引としては『松本清張事典』(ISBN:4585060073)『松本清張事典 決定版』(ISBN:4046519665)、『松本清張書誌 作品目録編』(ISBN:4823108175)があります。価格でも分厚さでもムックほど気軽に見るというわけにはいかないかもしれませんが、ご参照下さい。

genesisgenesis 2006/07/06 14:08 頼んでいたのを忘れていたので,問題ありません(笑)

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Monday, 2006/07/03

佐藤達夫=木俣元一 『大聖堂物語』

[][] 佐藤達夫=木俣元一 『図説 大聖堂物語』  佐藤達夫=木俣元一 『図説 大聖堂物語』を含むブックマーク

 ここしばらくは,就寝前の時間を『図説 大聖堂物語――ゴシックの建築と美術』(ISBN:4309726429)を眺めて過ごしていた。佐藤達夫*1木俣元一*2の共著。

 1140年頃にパリを中心とする〈イール・ド・フランス〉地域で起こった芸術様式――後のルネサンス期の人々からは軽蔑の意味を込めて「野蛮人の様式」と呼ばれることになるゴシック(Gothic)建築を,豊富な図版とともに詳述する。

 線条要素(支柱に沿った垂直線)による壁面分割によって石の平らな面を排除することに心血を注ぎ,石の重みを感じさせない造り。石造建築の高さの限界(48m)への挑戦。壁ではない場所,すなわち「窓」という新しい表現手段の獲得。本質まで見通す著者らによる解説も実に読み応えがある。

*1:さとう・たつき。1952年生まれ。専門は西洋建築史(12世紀イール・ド・フランス地方の教会堂の内部空間)。現在,大同工業大学教授。

*2:きまた・もとかず。1957年生まれ。専門は西洋中世美術史(ゴシック聖堂の彫刻とステンドグラス)。現在,名古屋大学教授。

hajichajic 2006/07/09 13:40 でもこれちょっとフランスびいきの引き倒しのような気がします。

genesisgenesis 2006/07/09 14:33 だってフランスが専門の2人が書いているのだし……。

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Saturday, 2006/07/01

労働判例901号

[] 大学院はてな :: 組合間対立の中での配転命令  大学院はてな :: 組合間対立の中での配転命令を含むブックマーク

 研究会にて,JR北海道(配転命令)事件の検討。

 鉄道旅客事業を営むY社では,労働組合が併存する状況下にある。旧鉄産労と国労の一部が合同して2003年10月に結成された「北労組」(以下,A組合),JR総連加盟の「北鉄労」(以下,B組合)などが存在している。札幌車掌所における勢力分布は,A組合123名,B組合118名,国労3名であった。

 Xら3名はいずれも札幌車掌所に所属する車掌であったが,2004年2月,釧路車掌所への異動が命じられた。A組合所属の車掌のみが配転を命じられた結果,札幌車掌所における過半数組合はB組合となるに至った。また,配転先の釧路車掌所に所属する車掌は,異動発令時に32名が所属していたが,これはすべてB組合に加盟していた。

 原告XらとA組合は,この事件を裁判所(転勤命令無効確認請求)と労働委員会(不当労働行為救済申立)に持ち込んだ。

 札幌地裁(平成17年11月30日・労働判例909号14頁)は請求を棄却。裁判所は,東亜ペイント事件最判(最二小判・昭和61年7月14日・判例時報1198号149頁)を参照して,次のような判断枠組みを示した。

 使用者は,業務上の必要に応じ,その裁量によって労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが,転勤,特に転居を伴う転勤は,一般に,労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えるものであるから,使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく,これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ,当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても,当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等,特段の事情の存する場合でない限りは,当該転勤命令は権利の濫用になるものではなく,また,その業務上の必要性については,労働力の適正配置,業務の能率増進,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきであると解するのが相当である。

この3要件は頻繁に用いられるものであるが,このファクターによって配転命令が濫用と判断されることは珍しい。本件においても,釧路車掌所では欠員補充の必要性があり,Xらを配転対象者とした人選の合理性もあって,Xらが被る不利益も重大なものではないと認定して,請求を棄却したものである。

 これに対し,道労委命令(平成18年5月29日・公刊物未登載)は,本件を不当労働行為であると認定し「Yは,転勤を命じる際にA組合員であることを理由として,ことさら差別的な取扱いをしてはならない」という救済命令を発した*1。ポイントは,(1)本件は,使用者の中立保持義務に関する事件であると論点を設定し,(2)法律行為ではなく事実行為の問題であるとしたうえで,(3)転勤の対象者が特定組合に偏っているうえに,従前の異動発令とは異なる人選手続を採っており,Y社の行為は不当労働行為に該当すると結論づけた点にある。

 「労働組合が併存している場合において,使用者は,相当な事由なしに特定の労働組合に所属していることを理由として不利益取扱いをしないという中立保持義務を有している。とりわけ,併存組合の組合員数が拮抗し,相互に激しく反発している場合には,使用者は組合員の処遇につき中立的立場を保持するよう慎重な態度が要請される。」

 「本件配転命令について,裁判上その濫用性が問題となる場合には 業務上の必要性の有無・程度及び人選の相当性が主要な争点となる。しかし,労働委員会において不当労働行為の正否が争われる場合には,不利益取扱いとされる事実行為たる配転措置が 組合活動や組合所属を理由とするものか が主要な論点となる」

 「以上併せ考えると... 転勤命令の発出の過程において北労組の要求にもかかわらず具体的な人選基準を明らかにしなかったこと,北労組結成直後であり会社は北労組に対し強い不信感を有していたことから,本件配転命令は,北労組の結成に不信感をもった会社が,北労組に所属するXらに対してことさら差別的に扱った行為といえる。」

 まったく同一の事案でありながら,司法と行政委員会とで異なる結論を出している。それというのも,裁判所は「会社が濫用をしてはいないか」を判断しているのに対し,労委命令では「アンフェア(不公正)な処遇が行われていないか」を審査しているからである。両者の相違は意識されることが稀であるのが実状だが,本件は行政救済の独自性を知るうえで大変重要な事案であろう。

*1:Y社内には,異動に際して「簡易苦情処理手続」が設けられていた。Xらは当初,当該内部手続に於いて強く配転に反対していなかったことから,救済命令の主文は抽象的なものに留まっている。

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