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博物士

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Wednesday, 2006/11/15

『ファウスト Vol.1』

[][] ライトノベルへの禅譲 〜美少女ゲームと第3のポジション〜  ライトノベルへの禅譲 〜美少女ゲームと第3のポジション〜を含むブックマーク

問題状況

美少女ゲーム年代記 - ライトノベルの揺籃g:rosebud

 さて,問題の文章に最も納得していないのは,書いた当の本人だったりします。着想(id:genesis:20061109:p1)で示した《第2仮説》を書き下してみたところで気がついた難点は,

  • (1) 美少女ゲームとライトノベルの関係は,因果関係(αがあったためにβが起こった)ではなく,牽連関係(αとβの間にはリンクが張られている)で把握すべきものらしいこと
  • (2) 時期的に近接しているからといって,異なる領域で起こった事象の間に関係性があるかのような結論を導くのは当然ながら無理があること
  • (3) 両者の間に影響関係があったと仮定するにしても,具体的な例を挙げてみようとすると適切な事例を選ぶのに苦慮すること(例えばキャラクター造形の移動にしたところで抽象的な話しかできそうにない)

――です。

 どう手直ししたものか考えあぐねていたところで,東浩紀「メタリアルフィクションの誕生 動物化するポストモダン・2」ISBN:4061795538ファウスト Vol.1』(2003年10月講談社)を読んだのです。それで,なんだかあずまんの掌の上にいるような気分になって意気消沈し,書きなぐった状態のままになっております。

 当初,2004年の春に「ライトノベル(論)ブーム」が発生したものとして仮説を組み立てていました。それがですね,東の理解では,その起源を笠井潔の「ジャンルX」論*1大塚英志『キャラクター小説の作り方』(ISBN:4061496468,2003年2月)にまで遡っています。東=大塚=笠井の組み合わせを前にして議論を組み立てるのは……心境を察していただけると嬉しい。

 あと,《第1仮説》の方でも,自分で提示しておきながら不明だった点がありました。「狭義のライトノベル」(=電撃文庫富士見ファンタジア文庫)と「メフィスト賞作家」の関連性をどう説明づけるのかについて。森博嗣すべてがFになる』(ISBN:4061819011)の登場は1996年4月ですから,キャラクター(的)小説に対して葉鍵史観は沈黙しなければなりません。うぐぅ。こちらについては,ミステリー史を追いかけなくてはいけないだろうと思って留保していたところなのでした。

1

 そんな状況で夏葉薫さんのご意見を拝聴したわけですが,

 前史として『星界の紋章』でSFがライトノベルに接近したところで上遠野浩平が登場、まずはSFとライトノベルの間で書き手の往来が起こり、その後90年代ライトノベルの影響下にある世代の舞城、佐藤、西尾の脱格系の登場でミステリがライトノベルに接近し、ジャンルフィクションの世界がまずライトノベルを発見して――とかなんとかまあ、言えなくはないけれど、要はおっさん小説の場であるべき講談社ノベルス戯言シリーズが売れたから、じゃないのかと。

http://d.hatena.ne.jp/K_NATSUBA/20061113

素直に,綺麗な見取り図だなぁと思います。《戯言シリーズ》を結節点にすると,系統間の動きについては腑に落ちるところが多い。西尾維新については私なりに系譜を組み立てていたのですが(id:genesis:20061019:p1),披露してみたところ難色を示されたので再検討が必要だと思っていたところでした。

 言い訳しておくと,2002〜04年という時期についてはスペインに留学していた関係で,肌感覚としては感知していないことが多いん。もっと調べないといけないですね。

2

  • ライトノベルは「おたくカルチャーの先導役」ではない
    • ライトノベルは「おたくカルチャー」の一角を担うレベルに達した
  • 今日見られる「ライトノベル」は美少女ゲームが育てたものではない
    • 今日見られる「ライトノベル」には美少女ゲームが育てた側面が存在する

http://d.hatena.ne.jp/kim-peace/20061115/p2

 後者については,平和さんの仰るような言い方に抑えておくのが妥当でしょうね。とすると,うん,あの部分は全て破棄かな。微弱な牽連関係を摘示したくて書いたわけではないから。

 ただ,前者については譲れません。というか,第3のポジションをラノベに禅譲するので受け取ってください。「あたしはもうダメ」に対しては「そんなことないよ」以外の言葉は無効です。

 2004年前後に「かつて美少女ゲームが占めていた役割」はライトノベルへ委譲された――というグランドデザインは間違っていないのだと思う(意図を的確に表現できていないのは確かなので,そこを中心に書き改めましょう)。具体的に示すなら,2006年4月,世界は涼宮ハルヒの前に平伏しました(うち一部は長門有希に)。ライトノベルは第3のポジションを得たのだと,勝利宣言を出してもいいのではないでしょうか。

 文中で《マイナー・メジャー》という立ち位置を持ち出したことの意味ですが,アニメとマンガの影響力があまりに大きすぎるために「それ以外」の領域が霞んでしまうためです。前掲のハルヒにしてもアニメ化の関与が大ですが,多くのカネとモノと情報と同人誌市場を動かしたことに意味がある。

 「男女共に人気のある作品」についても美少女ゲームの影響を言えるのか,ですが,言えないとする理由はありません。そもそも私の理解では,葉鍵系ビジュアルノベルは〈ポスト乙女ちっく少女まんが〉の影響を受けている(id:genesis:20060217:p1)というのが持論です。ただ〈内面性〉に関していえば,そんな迂遠な道筋を辿らなくても,少女まんがから直接に(あるいはアニメを経由して間接的に)影響を受けたとすればいいような話なので,言い出すつもりはありません。とすると,美少女ゲームが獲得したものとは何のことなのか,というのがご質問の真意だと思うのですが,これについては未だ整理しきれていません。ごめんなさい。

3

美少女ゲームの行き詰まり。ビジュアルノベルを構成するシステム部分(骨格)については,リーフ三部作以降それほど大きな変化がないことは本稿で述べた通りである。

 東浩紀による〈美少女ゲーム〉史観に影響されすぎなんじゃないのかなあ? むー。

http://d.hatena.ne.jp/rulia046/20061115/p4

 ……もう開き直って割り切りましょうか。少なくとも「ビジュアルノベルを構成するシステム部分」に関して言えば,東浩紀の言説を否定する理由は無いと考えます。「本は,紙とインクで出来ています」と同旨のものと把握して。東浩紀と似通って見えるのは,共に剣乃ゆきひろ高橋龍也に対する敬意(リスペクト)が共通基盤としてあるからでしょう。

 なお,東が〈美少女ゲーム〉と言う場合,それは「1996年以降のビジュアルノベル形式」という狭い意味で用いていますが,私の場合には「1982年以降のすべて」を包含していることだけは注記しておきます。おそらく,陵辱ものや調教SLGなど,東浩紀が語り得ないものまで言及しないうちは違いが出てこないと思いますけれど。今はこれが精一杯。

4

 中高生のライトノベル読者のほとんどはオタクコミュニティとのつながりを持ちません。結果として、オタク界隈では美少女ゲームの影響力が強いように見えるわけです。

 このように、ライトノベルの歴史や変化を考える際には、私は作り手よりむしろ読者の側に目を向けるべきだと思っています。

http://d.hatena.ne.jp/USA3/20061115#p1

 私見ではライトノベル語りが浮上してきたのは、端的に言って「語る場所が増えた」ことによる人数の増加という点が重要だと思います。もっと言えば、ブログの隆盛です。

http://d.hatena.ne.jp/hanhans/20061115/p3

 議論が一周してきましたね。

 もともと,発端となった読書会の中で議題になっていたのは,2004年に起こったライトノベル(論)ブームを駆動したものは何だったのだろうか――でした。本来の読者層たる中高生はサイレント・マジョリティであって観察できない。そうなると,18歳以上のネットで繋がっているおたく層,評論家,雑誌社などから考えざるを得ない。でもそこに隣接分野の動向を重ね合わせてみたらどうだろうか,というのが提示した仮説だったのです。

 締めくくりに代えて,言及していただいた方々に御礼申し上げます。切り捨てなければいけないところと,まだ活かせそうなところとが峻別できてきました。


▼ 補記

*1:「ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?」第61回『ミステリマガジン』2003年5月号所収。この論考は,笠井の近著『探偵小説と記号的人物(キャラ/キャラクター)』(ISBN:4488015212,2006年7月)にて踏まえられている(らしい)。

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