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博物士

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Sunday, 2006/12/31

星のような物語――星野道夫展

[] 星のような物語――星野道夫 星のような物語――星野道夫展を含むブックマーク

 依頼原稿を書き上げて発送。査読待ちの時間を利用して,星野道夫の写真展を見に行く。没後10年を記念した催しで,2007年1月8日まで大丸札幌店にて。ずっと白黒の判例集を眺めていたこともあって,アラスカの色彩が強烈に映る。

 大きなパネルに仕立てられていたので,写真集などで見るのとは違った趣。生き物たちが被写体の中心になっているものは本で見た時と印象が異なるところはないが,風景の中に小さく動物たちが写り込んでいるものは見方が変わる。遠景になっている山の稜線や,氷河に刻まれたうねり等,引き延ばされたおかげで見えるようになった箇所に視線をはわせて楽しむ。

 出口付近には,遺品を展示。エピソードの中で幾度となく語られていた手紙――アラスカに恋い焦がれた道夫が,「Major; Shishmaref, ALASKA(アラスカ州シシュマレフ村の村長へ)」とだけ宛名に書いて手紙を出したところ,帰ってきた「いらっしゃい」という返事――の実物は感無量。青いボールペンで書かれた文面からは,これを書いた者と受け取った者がそれぞれどのような思いを込めたのか伝わってくるかのよう。

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Monday, 2006/12/25

納都花丸 『蒼海訣戰』

[] 納都花丸 『蒼海訣戰』 #1〜#2  納都花丸 『蒼海訣戰』 #1〜#2を含むブックマーク

 納都花丸(なんと・はなまる)『蒼海訣戰(そうかいけっせん)』の第2巻(ISBN:4758060371)あとがきでは,

  • 仮想戦記: 内容がアレ
  • 架空戦記: 内容がまとも

という区分法が紹介されている。さて,この作品はどっちだろうねぇ。

 物語の舞台は,津州皇国(つしまこうこく)の水軍士官学校。騎兵大尉を兄とする三笠真清(みかさ・さねきよ)が,十五期主席生徒として入学するところから始まる。

――って,まるっきり司馬遼太郎坂の上の雲』です。秋山好古秋山真之の兄弟をモチーフにとっていることが分かりやすすぎるくらい現れている。取り巻く「列強」にしても,帝政が続くヴェラヤノーチ,軍事国家レヒトブルグ,産業大国クラカレンス。

蒼海訣戰 1 (1) IDコミックス REXコミックス

 で,このままでは日露戦争の再現になってしまいそうなところを,アレンジとして加えられた要素が2つ。

 まず第一に,津州皇国には「世界で唯一とがった耳と尻尾を持つ少数民族」追那(オイナ)人がいることにして…… そのため主人公はネコ耳です。追那人にはアイヌのイメージを被せているのですが,割烹着でお手伝いさんなネコ耳の幼女も出てきます。そして第二に,皇女は巫女さんで14歳のドジっ娘! 御前会議で転んで袴がめくれて(以下略)

 ちなみに,納都花丸の初期作品『大天使の剣』(ISBN:4896134117)は,ショタというかBLというか耽美というか,とにかくそんな系統な作品なので,本作も801的読みに耐えられる作りになってます。

 とまぁ,いろいろ盛り上げ要素で装飾されているのですが,ストーリーはすこぶる正当な成長物語。展開はこなれているし,絵柄も丁寧だし,とにかく卒がない。第1巻は登場人物の顔見せで終わってしまった感がありましたけれど,第2巻でテーマを一つ消化して作品にメッセージも込められてきました。

 問題は――何をどこまで描けるかで,しょうね。

 戦記物ですから,列強に小国・津州皇国が挑み,その指揮を主人公たちが執るところまで話を進めて終わるのが望まれる姿なのでしょうが,この執筆速度だと完結はいつになることやら。士官学校を卒業するところで終わってしまうと,伏線の回収が間に合わないだろうし。今後に期待できる内容なのですけれども,とりまく環境が執筆の継続をいつまで許してくれるかどうか,そちらの方が気がかりです。

▼ おとなりレビュー

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Thursday, 2006/12/21

西尾維新 『零崎軋識の人間ノック』

[] 西尾維新 『零崎軋識の人間ノック』  西尾維新 『零崎軋識の人間ノック』を含むブックマーク

 朝日新聞の書評(2006年12月10日付け)でを目にして気にかかっていたところに,海燕メソッドで畳みかけられた(id:kaien:20061212:p1)ので,西尾維新(にしお・いしん)の『零崎軋識(ぜろざき・きししき)の人間ノック』(ISBN:4061825097)を読んでみる。登場するのは〈戯言シリーズ〉のキャラが殆どであるから前作を読んでいなくても大丈夫,との弁があったので,あえて『零崎双識の人間試験』は飛ばして。

 うん,なるほど,確かに理解できる。

 でも――つまんないです。

 「キャラの戯れ」が主成分だと,媒体の種類に関わらず苦手なん。そんな私の性向に真正面からぶつかってしまい,面白いと思えない。たぶんファンとしてはキャラの再登場を言祝ぐのが筋であろう箇所などでは,あざとさを感じるのが先立ってしまい生理的な嫌悪の情を抱いてしまう。

 図らずも kaien さんが「キャラクター小説」の類例として『涼宮ハルヒ』シリーズを挙げていましたけれど,やっぱり途中で嫌になったし*1。『苺ましまろ』も,やっぱり×。

 つくづくストーリー主義者だなぁ,と省みる。

 とはいえ,『ぱにぽに』の第1巻(ISBN:4757505221)を読んでみたところ,以前はダメだったのに楽しく感じられるようになっていたので,少しずつ体質改善(?)は進んでいるみたいなのですが……。

*1:『ハルヒ』について補足。小説版の場合,第1巻(ISBN:4044292019)はさておき,続編では第7巻『涼宮ハルヒの陰謀』(ISBN:4044292078)だけが唯一,面白いと思えるストーリーでした。アニメだと声や動きの魅力といった要素があるので楽しめるのですが……。

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Monday, 2006/12/18

ルシール・アザリロヴィック(Lucile H

[] 映画『エコール』 ―― 19世紀末という文脈の消失  映画『エコール』 ―― 19世紀末という文脈の消失を含むブックマーク

 ルシール・アザリロヴィック(Lucile Hadzihalilovic)監督作品『エコール(Ecole)』を観る。シアターキノでは,今週で上映終了。

 悪くはないのですけれど,褒めるのも難しいです,これ。

以下,内容に関するネタバレを含みます。

 物語の筋は,年端のいかない少女を社会から隔離して寄宿舎生活を営ませつつ数年を過ごし,初潮を迎えて〈女性〉としての商品価値が出てきたところで出荷されていく――というもの。もっとも,直截な性的搾取の描写はないし,隠喩に留められているところも多いので,少女の肉体美(特に脚)を映し出す映像作品として鑑賞していたのではそれと気づかないかもしれない。

 ストーリーは「塀に囲まれた森」に着いたばかりの最年少者イリスの視点を中心にして始まる。物語内部に視野を留めおく限りにおいては決して悪くはないのですが…… いかんせんプロットが古い。建物や調度品,それに衣装などは1800年代中葉のもので揃えられており,それだけならば懐古趣味で作り上げられた空間であると捉えて眺めることもできる。しかしながら,プロットそのものが19世紀そのままなのはいただけない。すなわち,少女達を商品化するために付与されるものがダンスなのです。時代考証をしたくなるところ。

ミネハハ

 確認のため原作にあたると,フランク・ヴェデキント(Frank Wedbkind)が『ミネハハ(Mine-Haha, or The Corporal Education of Young Girls)』 を著したのは1888年。それならば話は分かります。パリのモンマルトルにキャバレー「ムーラン・ルージュ」が開店したのは1889年のこと。女性が脚をさらけ出すだけでもエロティシズムを存分に感じられたという時代に本作を置いてみるならば違和感はありません。*1

 しかし,2004年になって映画化するのはどうして?

 シェークスピアのように時代劇としての鑑賞を期待されている作りではないし,当時の時代状況をありのままに写し取ったわけでもない。原作に忠実といえば聞こえはいいかもしれませんが,現代化作業を欠いての映画化であるために,時代考証(より正確には,現在において映像作品化することの意義説明)に失敗しているとの印象を拭えません。モチーフそのものが古すぎて,フェミニズムを通過した後の時代の作品としては映画化すること自体が疑問です。それでも,本作は原作が描かれた当時そのままの時代設定における架空の空間というならば納得できたのでしょうが,半端にリアリティがありますし,何より《外の世界》を描いている結末で齟齬を来してしまう。

 この学校(エコール)の維持にかかる経済的負担にまでなると,ファンタジーとして理解しなければならなくなります。毎年,少女1名を(高級商品として)身請けに出し,恒常的には少女4〜5人を舞台に上げることで興業収入を得る――としても,それで50ないし60人の生活にかかる費用を賄えるのだろうか? このあたりは原作から改変があったようですが,それが為にに不自然さが出てきたような感があります。

 原作の解釈によっては不吉な背景を匂わせる,ネガティブな要素は直ぐに排除しました。私はその神秘的な部分を、むしろネガティブな全ての要素から開放する教育を与える様なユートピアとしてとらえました。この学校は天国であり,同時に刑務所でもあるのです。ただ、たくさんの謎が残ります。ヒロインの一人が旅立つ際でさえ,一切の謎が解かれる事はありません。そして依然として地下の世界があり,学校の下を列車が通り,小さな奇妙な劇場が存在するわけです。

監督インタビューより引用

 本作を「少女の脚を愛でる映像叙事詩」として観る限りにおいては悪くない。強烈な印象を残す場面が無い代わりに,評価を損なうような画面も見あたらない。しかし,見終わった後に連れと会話しようにも「綺麗な絵だったね」で終わってしまいそう。さらに,少しでもセクシャリティの歴史的文脈に乗せてストーリーを把握しようとすると,途端に考え込んでしまう作品です。

▼ おとなり批評

*1:産業革命の開始時期が50年ほど離れているだとか貴族階級の有無といったことを捨象してしまえば,1890年代は『殻の中の小鳥』や『雛鳥の囀り』が舞台設定にしている英国ヴィクトリア時代後期に相当します。

Friday, 2006/12/15

森博嗣 『森博嗣のミステリィ工作室』

[] 森博嗣森博嗣ミステリィ工作室』  森博嗣 『森博嗣のミステリィ工作室』を含むブックマーク

 生後3週間の甥をあやしつつ,森博嗣(もり・ひろし)『森博嗣ミステリィ工作室』(ISBN:4889918027ISBN:4062733226)を読む。片手でハードカバーを読むのは腕に負担がかかる。今度から子守の最中は文庫を読むことにしよう。

 本書は,S&M(犀川創平&西之園萌絵)シリーズが完結した時点で書かれたもの。「作家萌え」にはなりたくなかったので遠ざけていたのだけれど,そろそろ読んでも大丈夫だろう。

第1部では,ルーツにあたるミステリィ100冊を紹介する。クセはあるけれど,ブックガイドとして有用。第2部は,本編には付されていない《あとがき》を「いまさら」語る。作品の意図や位置づけを作者がどう見ているか,作家論を自ら展開している。第3部はエッセイ集。

 本書のキモは20年前に「漫画人」として活動していた頃の話題だろう。小説家としては遅咲きだけれど,クリエイターとしての才能がいつ頃から開花していたのかを見せつけられたよう。

はてな年間100冊読書クラブ II 〔#061〕
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Wednesday, 2006/12/13

米澤穂信 『春期限定いちごタルト事件

[] 米澤穂信春期限定いちごタルト事件 米澤穂信 『春期限定いちごタルト事件』を含むブックマーク

 うるおいをもたらしてくれるような小説を読もうと思い,本棚から米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)『春期限定いちごタルト事件』(ISBN:4488451012)を取り出してくる。

――結論からいうと,目論見は失敗しました。題名と表紙から甘酸っぱさ&ほがらかさを想起し,期待した私が浅はかだったよ。

 語り手は,高校に入学したばかりの小鳩くん。相方は,小動物ちっくな小山内さん。系統としては〈日常の謎〉。5つの短編を重ね合わせることで,1つの大きなストーリーへと繋がっていく趣向。

 何はともあれ,背丈が小さくって制服の袖がぶかぶかであるうえ寡黙少女な小山内さんへのキャラ萌えを楽しむべき一冊

――なのかなと思って構えていたら,第3話「おいしいココアの作り方」で,ぞわぞわっとした感触に包まれる*1。この辺りで,どうもシリーズの企図を読み誤っていたらしいことに遅まきながら気がつく。そういえば,小鳩くんと小山内さんは〈小市民〉たらんと欲していることは端から宣言されていたけれど,その理由は何だったっけ?

 ここから,小山内さんは《キャラ》から《キャラクター》へと装いを変え始める。この変貌っぷりが面白い。そして幕を開ける第4話「狐狼の心」…… 《キャラ》としての小山内さんも十分に愛玩するに値するけれども,《キャラクター》としての小山内さんの方が魅惑的*2

 シリーズとして展開されており,続作で物語の掘り下げが行われるのだろう。どのようにキャラクターを造形していくのか,次なる展開が楽しみ。

追記

 id:REV:20061214:p5 でネタにされたけれど…… 

こうですか?

 「許せないもの日記」にお心当たりの方,どうぞご一報ください。

*1:ネタバレになっちゃったらゴメンなさい。『シンフォニック=レイン』に例えると,リセだと思っていたらファルシータさんだったのか! みたいな。

*2伊藤剛のいう[キャラ/キャラクター]概念の話,とご理解ください。

kim-peacekim-peace 2006/12/15 17:49 許せないもの日記: 間桐桜(Fate)
・・・じゃないかと思います。

REVREV 2006/12/15 19:41 http://www.akibablog.net/archives/2006/01/1_19.html
こんな感じで…

genesisgenesis 2006/12/16 13:17 うぁ,黒桜のことでしたか。う〜ん,まずいぞ,シナリオの細部について,かなり記憶から零れ落ちてる……。

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Sunday, 2006/12/10

櫻井稔 『雇用リストラ』

[] 櫻井稔 『雇用リストラ』  櫻井稔 『雇用リストラ』を含むブックマーク

 札幌は豪雪。櫻井稔(さくらい・みのる)『雇用リストラ――新たなルールづくりのために』(ISBN:4121015819)を読みつつ,雪が降り止むのを待つ。

 著者は労働基準監督官を退職した後,人事コンサルティングをしている人物。政・労・使・学のいずれにも与さない中立的な立ち位置から叙述されており,妙なバイアスがかかっていないので労働問題の入門書としては好適。

 本書が上梓されたのは2001年4月。不景気が10年近くに渡って続いたことで〈リストラ〉が発現可能性の高いリスクとして意識されるようになった状況を踏まえて書かれている。解雇を絶対悪と決めつけるのでもなく,かといってクビ切りを賞揚するのでもない。「会社の突然死」を防ぐためには解雇も必要な手段であると把握したうえで,あるべき解雇ルールについて論じている。

 本書のポイントを挙げていこう。まず第一に,「日本の終身雇用慣行」それに「米国では解雇が自由である」という《通説的な言説》を正すところから始めており,歴史上ならびに国際比較についても考慮が払われている点。人種差別と女性差別については米国の方が厳しいことは(おぼろげながら)知られていることかもしれないが,その事情を解雇規制全体の中で手短に説明しており,概要をつかむには手頃。

 第二に,リストラにおける〈希望退職募集〉の意義について1つの章をさいて詳述している点。整理解雇法理について触れている類書は多いけれども,希望退職を重視しているところは実際の相談業務に従事している実務家らしさだと思う。

 第三に,プロセスにおける意志決定への関与という視点から,労働組合の役割(コントロール機能)について語っている点。企業別組合に対して善悪二元論で決めつけを行っていないことは好意に値する。

 具体的なノウハウが書かれているわけではないので,紛争が生じてからでは役に立たないだろう。だが,労使関係の構築に際しての「心構え」とでも言うべきものが程よい分量の中で適切に記されている。些末な事柄に拘泥せず労使関係におけるルールの基盤を論じているから,5年を経た今読んでも本書の提言は有効だ。人事部門に配属されたばかりの人や組合役員に初めて選任された人が読むと,自身に課せられた役割を明確に意識できるようになりそうな一冊。

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Wednesday, 2006/12/06

加納朋子 『ななつのこ』

[] 加納朋子ななつのこ 加納朋子 『ななつのこ』を含むブックマーク

 文学部での読書会に参加。今回のお題は,加納朋子(かのう・ともこ)のデビュー作『ななつのこ』(単行本ISBN:4488023347,文庫版ISBN:4488426018)を素材にミステリーとしての特質を論じる。

 議論の内容は,報告者のMさんが論文に使うということなので伏せておくことにし,此処では取り留めもない感想を……

 本作は,文学を専攻する短大生(19歳,女性)を主人公にした〈駒子シリーズ〉の第1作。彼女が『ななつのこ』と題する作中作の著者に手紙を送ったところ,返事が帰ってきた。そこには,彼女が目にして手紙の話題にした「スイカジュース事件」に対する謎解きがなされていた―― 7つの短編を通して〈日常の中の謎〉が展開される。

 特に事前情報も持たずに読み始めて「あ,登場人物の立ち位置と謎解きのプロセスが北村薫にそっくりだな」と思ったのですが,元々からして加納は北村に影響を受けて本作を執筆したのだという解説を聞いて納得。

 ただ,ミステリーにおける〈日常の謎〉という系の成立要件を考えてみると,読者に寛容力が求められるのかな,とも思う。本格ミステリーが読者に「人が密室で死ぬ」という前提条件への同意を求めるように,〈日常の謎〉系ではほのぼのイデオロギーへの賛同が必要だろう。

 で,議論では〈ほのぼのイデオロギー〉の源泉は男女の恋愛関係なのかも? という仮説が出てきて,話はいつの間にか米澤穂信の〈古典部シリーズ〉におけるカップリングに(笑) どうしてそんな話になったかというと,北村薫との比較で。〈円紫師匠と私〉の場合は「金持ちのホームズ役に食事をおごってもらうワトソン役の女子大生」という間柄で済みますが,本作の方は色々と邪推できますからねぇ〜(これって下心があって近づいたストーカー行為じゃないの?と呟いたら,肯いた人が複数)。

 そんなひねくれた読み方をせず本作の文面を文字通り読むと,暖かな眼差しをもって展開される物語は善意に満ちていて好ましいものでした。童話めいた作中作『ななつのこ』にしても,駒子とその周囲の人物の描写にしても。

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Monday, 2006/12/04

乙一 『失踪HOLIDAY』

[] 乙一 『失踪HOLIDAY』  乙一 『失踪HOLIDAY』を含むブックマーク

 乙一(おついち)『失踪HOLIDAY(しっそう×ホリディ)』(角川スニーカー文庫ISBN:4044253013)読了。

 先週末,ちょっと時間のあった時に取り出し,所用時間を考えて収録順序では後になっている表題作を先に開く。主人公ナオは,表紙を飾っているツインテール少女(14歳)。貧乏暮らしをしていた母が再婚してお金持ちの家のお嬢様になったのだけれど,母は他界してしまう。落ち込んだ父を元気づけようとして手芸教室に通わせてみたら,そこで再婚相手のキョウコを見つけてきた。ある日,キョウコと口喧嘩をしていたら父がキョウコの肩を持つものだから家を飛び出す。離れに暮らすお手伝いさんクニコの部屋に身を隠し―― 自作自演の狂言誘拐ものをコミカルに仕上げた作品。親子間のわだかまりについては順当なメロドラマが展開されていたので「ミステリーっぽさが無いなぁ」といぶかしみながら読み進めていたら,最後には見事に収めてくれました。

 そして昨晩,短編「しあわせは子猫のかたち 〜HAPPINESS IS A WARM KITTY〜」を読む。こちらは厭世的な少年が主人公。大学入学を期に一人暮らしをすることにし,伯父の持つ家に移り住んだ。ところがその家には,家具や調度品がすっかり整えられている。聞けば,つい最近まで前の住人が暮らしていたのだと言う。かつての居住者サキは,三週間前に,この家の玄関先で刺されて死んだのだという。家の中には,サキが趣味にしていたらしい写真の数々と,白い子猫までもが残されていて―― 奇妙な共同生活を通じて描かれるものは,セツナサに充ち満ちていながらも柔らかな暖かさを伴った物語。良い話でした。

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