大学院はてな :: 三セクには整理解雇法理を適用しない

 研究会にて新宿区勤労者福祉サービスセンター事件東京地裁・平成18年8月25日判決・労働判例923号13頁)の検討。
 被告Yは,新宿区が100%出資する財団法人。原告Xは,新宿区を定年退職した元公務員。どうやら前の事務局長の時期に揉め事があったらしいことが窺える。2005年2月1日,Yに新事務局長が就任したが,その月の末にXが解雇された。
 裁判所(裁判官:福島政幸)は請求を一部認容。しかし,その理由として以下のように述べる。

 そもそも整理解雇という概念は,法律上のものではなく,主として民間の営利法人が経営上やむなく人員整理をするほかないといった経営事情下における集団的な解雇を規律する法理として判例・学説上形成されてきた講学上の概念であり,後記の四つの要件なり要素とされて議論されるところも,独立した法人でありリスク負担による経営責任を負った企業経営者が経営合理化等に関する使用者としてのある程度の自由な裁量がある中で,労働者との利益考量のための検討基準として収斂されてきたものであり,経営危機下にある企業の再建のため人員整理による他に方法がないのかどうかを解雇の合理性の中身として検討しているものである。
 本件では,被告が営利法人ではなく多額の財源を新宿区ひいては国の補助金に負っている公益法人であり,その人員規模も10人以下の小規模であり,結局のところ,法人格上は新宿区とは別個であるものの,事実上は新宿区の監督・指導のもとに運営されている団体であることからすると,本件解雇を整理解雇とりわけ解雇の合理性,解雇回避努力,適正な手続,人選の合理性といった事柄に定型的に当てはめて考えることの妥当性には疑問がある。

――いや,それ,変です。
 この裁判官は随分と思考不経済なことをしています。
 第3セクターであっても法形式上は私法上の関係にある。いわゆる整理解雇の4要件(人員削減の必要性,解雇回避努力義務,人選の妥当性,手続の相当性)の適用が排除されるいわれはない。法人の性格は,第1要件である《必要性》の判断において斟酌すれば足りる。

  • 日欧産業協力センター事件 (東京高判・平成17年1月26日・労判890号18頁)
  • 知多南部卸売市場事件 (名古屋地判・平成12年7月26日・労判794号58頁)
  • 長門市社会福祉協議会事件 (山口地決・平成11年4月7日・労働経済判例速報1718号3頁)
  • 社団法人大阪市産業経営協会事件 (大阪地判・平成10年11月16日・労判757号74頁)

 また,会社の規模が小さいということも法理の適用を妨げる事情とはならない。これは,第2要件《解雇回避》の審査(配転先はあるかどうか)で考慮したり,第3要件である《人選》の箇所でチェックを緩やかにみる事情として勘案すればよい。

  • 塚本庄太郎(本訴)事件 (大阪地判・平成14年3月20日・労判829号79頁)
  • コーブル・ファーイースト事件 (大阪地決・平成13年9月18日・労働経済判例速報1791号13頁)

 本件の場合,小規模な第三セクターの事案だからと大上段に構えて議論を始めていますが,そのせいで上記説示の後の文章はすっきりしない論旨になっています。整理解雇法理というフレームの枠内で処理した方がエレガントな解法が得られた事案でしょう。