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博物士

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Saturday, 2007/02/10

労働判例923号

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 研究会にて千代田ビル管財事件(東京地裁判決・平成18年7月26日・労働判例923号25頁)を報告。

 被告Yは不動産管理会社で,原告XはYの従業員であった者。X‐Y間には2本の労働契約が締結されていた。

  契約A 契約B
種別 清掃夜勤(パート)  清掃日勤(正社員) 
締結日 平成13年7月3日 平成13年8月1日
勤務時間  18:00〜20:30 22:00〜翌06:00
休憩 なし 1時間
賃金 時給1200円 日給7500円

なお,いずれの契約とも就労場所は同じホテルである。また,契約Aでは交通費や皆勤手当(月額2000円)を支払うことが約定されていたが,契約Bが締結されて以降,契約Bに基づく皆勤手当・交通費の支払いはあるものの,契約Aに基づく支払いは行われていない。

 Xは,【1】契約A(2.5時間)と契約B(7時間)を通算すると1日の労働時間が8時間を超えることから時間外割増賃金が支払われるべきでる,【2】契約Bについては深夜割増賃金が支払われるべきである――と主張した。裁判所(裁判官:難波孝一)は,【1】につきXの主張を認容したが,【2】については請求を棄却した。

【1】

 両契約は,当事者が同一,就労場所が同一(略)であること,両契約は勤務時間が違うだけであるという側面があること,清掃夜勤に続いて清掃日勤(深夜)の業務に従事することは事実上時間外労働をしているのと変わりがないこと,本件契約Bが正社員契約であり,本件契約Aがパートタイマー契約であることなどが認められ,これらの諸事実に照らすと,Xは,Yの正社員として22:00から6:00までの間就労義務を負っており,これに加えて,清掃夜勤として18:00から20:30までの間働くのは,本件契約Bの時間外労働,換言すれば早出残業をしていると位置づけるのが相当である。以上のように解するのが,労基法38条第1項の法の趣旨にも合致すると考える。」

【2】

 証拠によれば,Xは22:00から6:00までの間の就労の対価として7500円が支払われることを理解したうえで契約Bを締結したことが認められる。そうだとすると,特段の事情がない限り,前記7500円の中に深夜割増賃金は含まれていると解するのが相当である。なぜなら,契約の当事者の認識として,使用者側としては,7500円に加え深夜割増賃金を支払う意思はないであろうし,労働者側にしても,7500円に加え深夜割増賃金がもらえるものと思って契約することは通常はないからである。」「本件全証拠を検討するも,前記7500円の中に深夜割増賃金は含まれていないことを窺わせる特段の事情は認められない。」

 「以上によれば,契約Bの1日の賃金である7500円の中に22:00から5:00までの間の労働についての深夜割増賃金が入っていると解するのが相当である。

 以下,私見を展開する。

時間外割増賃金について――論点〔1〕

 労働基準法38条第1項は,「労働時間は,事業場を異にする場合においても,労働時間に関する規定の適用については通算する。」と定めている。この規程の解釈であるが,通説や行政解釈(昭和23年5月14日基発769号)では事業主を異にする場合も含まれると解されている。

 労働基準法32条が1日8時間労働の原則を掲げているのは,労働者の健康保護のための最低基準を確立するためのものであると理解される。その趣旨に鑑みれば,8時間を超える労働をさせた使用者が,その日の就労を開始してから8時間を超えた部分につき時間外割増賃金を支払う義務を負っているものと解するのが原則であろう(昭和23年10月14日基收2117号)。そのため,一般には《後続する労働契約》の使用者が,当該契約に基づいた額の時間外割増賃金を支払うことになる。2暦日にまたがる就労の場合,労働の開始する日の労働として考えるべきであり,24時の時点で分割されるわけではない(昭和63年1月1日基発1号)。

 しかしながら,本件事案のように同一当事者が2本の労働契約を締結しているような場合,労働安全衛生の面について配慮義務を負う使用者を特定する作業は必要ない。「労働基準法上の時間」と「労働契約上の時間」を峻別することも可能な場合があろう。賃金支払いの観点だけを問題にすれば良いような状況下にあっては,必ずしも《後続する労働契約》をもとに時間単価を算出する必要はないと考える。もっとも,この場合には債務不履行(民法415条)の問題として訴えが提起されることを必要とするだろう。

 本件事案をみるに,裁判所は契約Bが正社員としての労働契約である点を重視し,「Xは,Yの正社員として22:00から6:00までの間就労義務を負って」いると説示する。そのうえで,契約Aにおけるパートタイマーとしての契約による部分を「早出残業」と評価しているところである。この他,交通費や皆勤手当は契約Bに対して支払われていること,さらには就労時間は契約Bの方が長いという事情が認められる。これらの状況に照らせば,本件事案の下では契約Bに基づく就労が《主》であって,時間的には先行する契約Aに基づく就労を《従》とすると解釈することも,契約当事者の認識に立てばあながち不当ではない。

 とはいえ,本件裁判所が採用したような解釈を採るためには,後続する契約の起点(本件の場合には22:00)が始業時刻であることが明確になっていなければ,先行する就労を「早出残業」であると捉えることは困難である。加えて,本件では労働基準法に基づく未払い賃金請求の事案であるから,強行法規としての労基法38条第1項の適用を当事者の合意によって排除する解釈は採用し難い

 よって,時間外割増賃金を支払うべき時間帯は,その日の就労を開始してから8時間が経過して以降(具体的には04:30〜06:00についての部分)であるとすべきである。これと異なる立場を採る判旨には反対する。

深夜割増について――論点〔2〕

 労働基準法37条第3項は,午後10時から午前5時までの深夜に労働させた場合には,2割5分以上の割増賃金を支払わなければならない旨を定めている。かかる規定の趣旨は,深夜労働は昼間労働よりも労働の強度・疲労が大きいことに対する労働者への補償を意図するものであるが,割増賃金の支払いを強制することによって深夜業の間接的な抑制効果も期待したものであるとされる。

 時間外労働や休日労働にかかる割増賃金に関しては,これを一律ないし定額で支払うことや基本給に含めて支払うことが許容されるかにつき,数多くの紛争が生じてきた。この点につき,小里機材事件最判(最一小判・昭和63年7月14日・労判523号6頁)は,基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区別され,かつ労基法所定の計算方法による割増賃金額がそれを上回る場合には差額を支払う旨の合意がなされているときに限って,かかる支払い方法を許容するとした下級審の判断を維持する判決をしている。

 近時の裁判例としては,2000万円を超える高額の年俸を得ていた労働者が始業時間前に出勤していた部分につき割増賃金を請求し,これを棄却したモルガン・スタンレー・ジャパン(超過勤務手当)事件(東京地判・平成17年10月19日・労判905号5頁)がある。もっとも,超高額所得者については割増賃金も含めた年俸を支払うことが許されないのか疑義のあるところである。

 ただ,本件の場合,所定の就業時間が当初から深夜時間帯に設定されていたことに留意しておく必要があろう。小里機材事件が説示するところの趣旨は,時間外労働ないし休日労働については割増賃金の支払いがきちんとなされているかどうかを容易に確認することができるように,という意図から発したものであると推察される。そもそも深夜労働をすることを目的として労働契約が締結された場合と,昼間労働が継続したために深夜の時間帯にまで就労が続いた場合とでは問題状況が異なる。

 この点につき本件裁判所は,午前8時から翌日午前2時まで勤務するタクシー運転手にかかる事案である高知県観光事件(最二小判・平成6年6月13日・労判653号12頁)は本件とは事案を異にするものであると判示しているが,この判断は是認すべきものであろう。

 より直接に関連する裁判例としては,T製作所事件(甲府地裁都留支部判決・平成16年8月18日・労働経済判例速報1879号27頁)が挙げられる。この事件では,給与明細において割増賃金の区別がなされない状態でありながら「時給1100円」が支払われていたものである。被告会社では昼間勤務の正社員には時給800〜900円が,パートタイマーには700〜750円が支払われており,契約締結の際に原告労働者はこのような給与実態にあることを同僚労働者に対して確認していた。そのため裁判所は,「被告においては,夜勤務の時給を深夜勤務手当及び時間外勤務手当を含むものとして定めていたことが認められ,原告においてもそのことを十分に理解したうえで被告との間で労働契約を締結したことが認められる」と判断している。

 行政解釈では,労働協約や就業規則その他によって深夜業の割増賃金を含めて所定賃金が定められていることが明らかな場合には,別に深夜業の割増賃金を支払う必要はないとしている(昭和63年3月14日基発150号)。本件事案は,まさしくこの通達が想定しているような就労形態であろう。本件契約Bは報酬の日額(7500円)を示すのみであるけれども,契約にあたって提示された条件(始業時刻と終業時刻)からすれば深夜労働に就くことは明らかであった。このような場合には,報酬日額の中に深夜労働に対する割増分も含めて賃金支払いがなされていると解することも不当ではないと考える。

 よって,この点につき判旨賛成。

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