大学院はてな :: パソコンのログを用いた残業時間の把握

 研究会にてPE&HR事件東京地裁 平成18年11月10日 判決,労働判例931号65頁)を検討。10人未満の従業員を雇い入れている小規模事業場においてタイムカード等を用いた労働時間管理が行われていなかった場合につき,残業代が不払いであるとして時間外労働にかかる賃金の請求が行われた事案。原告からは自分の手帳にメモしてあった始業終業が証拠として提出されたところ,被告会社の側からパソコンのログデータが提出されたという事案。

 「乙第15号証の1は,原告のパソコンのログデータであり,これによる各月の日々のデータを観察するに,土日祝日を除いては所定始業時間の前後にパソコンが立ち上げられており,これは原告が出勤したであろう時間にほぼ対応していると思われ,デスクワークをする人間が,通常,パソコンの立ち上げと立ち下げをするのは出勤と退勤の直前と直後であることを経験的に推認できる」
 「証拠により,第1次的には原告が日々使用していたパソコンのデータである乙第15号証の1について,システムの立ち上げ(ソース;eventlog,イベント;6009),立ち下げ(ソース;eventlog,イベント;6006)のログデータの日付と時刻を参照し,当該データがないか不十分な場合には同書証のアプリケーションであるマカフィーというセキュリティーソフトが通常はパソコンの起動,シャットダウン時に立ち上げ(ソース:mclogevent,イベント;5000)と立ち下げ(ソース;userenv,イベント;1517)がなされるのが当該証拠及び経験則から合理的に推認できるので,これにより原告が所定の時間に出勤しているかどうか,いつまで勤務していたのかを適正かつ確実に推認できる範囲で取り上げることにした。」

 上記のように述べて,裁判所はパソコンのログに従った時間で始業終業時刻の認定を行った。
 使用者が労働時間の管理を厳格に行っていなかった場合,抽象的には残業をしていたことが認められるにしても,具体的に何時間の残業をしていたのか確定する際に適切な資料を欠くために困難が生ずる例が多い。
 本件は,(1)原告が経理業務を担当したことから,「パソコンを起動していた時間」と「実際に労働していた」とが一致する職種であることが推認できた,(2)使用者の側から証拠として提出された――という状況の下でのことであるが,パソコンのログデータを用いて労働時間の算定を行った事例としての先例性を有するだろう。