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博物士

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Friday, 2007/12/28

湖西晶 『ソーダ屋のソーダさん。』

[] 湖西晶 『ソーダ屋のソーダさん。』  湖西晶 『ソーダ屋のソーダさん。』を含むブックマーク

 湖西晶(こにし・あき)の新刊『ソーダ屋のソーダさん。』(ISBN:4758080003)を読みました。

「私…… 死んでしもうたみたいなんよ……」

というプロローグから始まる。息もしていない,体温も冷たい,心臓も動いていない。なのに,しゃべって動くのは島唯一の店である早田商店(愛称ソーダ屋)の早田沙和(そうだ・さわ)。そんな彼女にドキドキする青年漁師,斎田光哉(さいだ・みつや)。ちなみに恋のさや当てに途中から加わるの看護師の名は,木林(きりん)れもん

 先月に出た『エデデン!』(ISBN:4832276689)は,率直に言って出来が悪かったので心配だったのです。打ち切りになったというのは差し引くにしても,非4コマであるが故に間延びしてしまった感じが強かったです。

 それに対して本作は良い出来でした。コミカルな4コマだと湖西の才能が光ります。あと,これは『お湯屋へようこそ』でも発揮されていましたところであるのですが,ホロリとするフレーバーの加減が上手い。手垢の付いた〈奇跡〉と〈御都合主義〉であっても,使ってみせてもらいたい時があります。上述のような奇怪な設定から始まる『ソーダさん』ですが,最後は綺麗に締めくくってみせてくれました。

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Saturday, 2007/12/22

上月雨音 『SHI-NO 黒き魂の少女』

[] 上月雨音 『SHI-NO 黒き魂の少女』  上月雨音 『SHI-NO 黒き魂の少女』を含むブックマーク

 上月雨音 『SHI-NO ―シノ― 黒き魂の少女』(ISBN:4829163429)を読みました。小学5年生の志乃ちゃんが,毎日,大学1年生の僕の家に来て,隅っこに餌を食べてコクコクする話。

 無口っ娘なのでほとんどしゃべらないのだが,ルナティックな存在であるが故に真っ先に犯人に肉薄していく。あ,富士見ミステリー文庫というレーベルにあるので《謎》を掲げてはいるものの,富士ミス仕様です。

 環境設定ないし人物配置は魅力的だし,この程度の猟奇的成分であれば大丈夫。でも「これで終わりなん?」という閉じ方で,読み足りない。この巻の全体がプロローグのような造りに思える。

 続刊も読んでみることにしよう。

▼ おとなりレビュー

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Wednesday, 2007/12/19

海堂尊 『螺鈿迷宮』

[] 海堂尊 『螺鈿迷宮』  海堂尊 『螺鈿迷宮』を含むブックマーク

 海堂尊(かいどう・たける)『チーム・バチスタの栄光』が面白かったので,もう1冊読んでみようという気になりました。原則として文庫落ちを待つことにしているので,ハードカバーを買うのは久しぶり。

 店頭には水色の赤色の黒いのと取りそろえてあったのですが,帯に

最強の部下“氷姫”ついに登場

と謳われていた『螺鈿(らでん)迷宮』(ISBN:4048737392)を買うことにしました。

 早速読んでみたのですが,既視感が溢れて止まらない。

  • 戦時中に建てられた病院 → 横溝ちっく
  • 遠く人里離れた奇怪な建物 → 館もの
  • 登場人物の謎めいた言動 → 綾辻ちっく

とか。予想を裏切らない展開が続々と起こる。先読みが出来てしまうことを利用したトリックか?と思ったら,最後には館ものの《お約束》までキッチリ決めてくれたりして。

 それでは語りの面白さはというと,ちょっと好意的には受け止めがたい。今回,「ロジカル・モンスター」こと白鳥は基本的に枠外の存在。病院内の人物はキャラにしても凡庸。満を持して登場したはずの“氷姫”にしても,主人公と積極的に関わることができない立ち位置にいたせいもあって魅力に欠けるように感じました。

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Thursday, 2007/12/13

海堂尊 『チーム・バチスタの栄光』

[] 海堂尊チーム・バチスタの栄光 海堂尊 『チーム・バチスタの栄光』を含むブックマーク

 文学研の読書会に参加。今回のお題は,海堂尊(かいどう・たける)『チーム・バチスタの栄光*1。近く映画化されるのに合わせ文庫化もされたということで。

 「このミステリーがすごい!」で大賞を取った作品。ですが,これってミステリーなん? 

――と聞いたら,皆に渋い顔されました。広義のミステリーの範疇には入るだろうけれども,これを〈本格〉〈推理小説〉の枠に入れるのは難しいだろう,と。何せ,「どこに謎があるのか」を探るのがミステリー部分であり,謎の所在が判明すると共に事件は解決に向かってしまう。その点,文庫版の帯では注意深く配慮されており,

現役医師が描くベストセラー

メディカル・エンターテインメント

と謳われている。以下,本作の特長をまとめてみる。

1. 医療を題材に採っていること

 著者の職業的専門性ないし知見が作品に活かされているというのは珍しい。ミステリーで活躍している人物というと,森博嗣(コンクリート工学)の他にはあまり適例が思い当たらなかった。

 なお,「医師に出自を持つ作家って他に誰がいましたっけ?」と問いかけたら「渡辺淳一」「手塚治虫」という返答があって,それはミステリーの人じゃないでしょと裏手ツッコミを入れたことを付言しておきます。

2. 柔剛構造の貼り合わせ

 文庫では上下巻構成になっているが,上巻と下巻とでまったくといって良いほどに作風が異なる。上巻は不安愁訴(しゅうそ)外来の田口医師による一人称ハードボイルド。村上春樹の初期作を想起したという人もいたくらいに《まったり》とした中で問題状況が伝えられる。

 それが下巻になると,厚生労働省の“ロジカル・モンスター”こと白鳥*2の登場によって振り回されるコメディに……

 この二面的構造は本書の魅力ではあるが,逆に欠点ともなりうる。白鳥を途中で投入することにより問題解決へ向かわせたことを否定的に捉えていた読者もいたことを添えておこう。また「清涼院流水あるいは西尾維新をリスペクトしたとは指摘されなければわからないようなジョジョ的おやじスタンド」なんていう見方もあったり。

3. 腐女子さん大喜びなキャラの宝庫

 ワトソンとホームズに当たる役柄としてある白鳥技官と田口医師もそれぞれに味があるが,その他の登場人物もなかなかに魅力的だ。アメリカで腕を磨いてきた外科のホープ桐生兄弟,狡猾に立ち回って権力闘争を采配する高階病院長,『白い巨塔』ばりのヒール(悪役)をこなす黒崎教授。

 これらの男どもの造形が良くできていて,作品を離れたところでキャラが動きやすい。「田口センセ誘われ受け」「と見せかけてヘタレ攻め」「桐生兄弟はガチ」といった腐った話で大いに盛り上がる(ちなみに,本日は女性の出席者なし)。京極堂シリーズをもっと脂っこくした楽しみ方が可能。

 ところが,映画版では配役を大きく入れ替えて颯爽とした雰囲気のものを狙うようです。もったいない……。

 社会派ちっくに医療問題を真正面から読み取るも良し*3。前半と後半で生じる文章の落差を考察するも良し。キャラで遊ぶことだってできる。ミステリーとしての意義については留保するけれども,娯楽小説(エンターテインメント)としてならば相当に秀逸だ。


▼おとなりレビュー

 読み終えた時には、少なくとも1人は好きなキャラができているはずだ。ミステリーとしても、医療モノとしても、キャラクター小説としても、まさにパーフェクト。

http://gamenokasabuta.blog86.fc2.com/blog-entry-446.html (かさぶた。)

*1:単行本 ISBN:4796650792,文庫版〔上〕asin:4796661611〔下〕asin:4796661638

*2:労働省きっての議論好きと名高い hamachan が脳内イメージになってしまっていけません。そう思い始めると,テンポ良く長回しのセリフをしゃべるところまで似ているような気がしてきて...

*3:専門に関わる部分なので若干のコメントを。本書を通して著者が訴えかけている死亡時医学検索の必要性については理解します。日本労働法学会誌109号に「基礎疾患の存在と業務(公務)上外認定」という文章を書きましたが,そこで取り上げた内之浦町教委事件などは死亡時に解剖がなされて基礎疾患の状態が確認されていれば,労働災害に該当するか否かを明確にできたような事案でしょう。でも,著者の訴えを医療コストの負担についてという点からみると,厳しいですね。

trivialtrivial 2007/12/17 21:19 >医師に出自を持つ作家
最も有名なのはコナン・ドイルでしょう。日本人だと木々高太郎と由良三郎がすぐに思い浮かびます。
>著者の職業的専門性ないし知見が作品に活かされている
法曹関係だと結構多いですよ。佐賀潜、和久俊三、中嶋博行など。ほかには、元ホテルマンの森村誠一が『超高層ホテル殺人事件』を書いたり、国鉄技師だった芝山倉平が『電気機関車殺人事件』を書いたりしています。
(元)教師が書いた学園ミステリとか(元)書店員が書いた書店ミステリなどまで挙げ始めるときりがないのでやめておきますが、ミステリ作家が前歴を生かしたミステリを書くのはよくあることです。

genesisgenesis 2007/12/17 21:38 〈法曹関係者〉と〈書店関係者〉については当日の参加者からも指摘があがっておりました。前者については刑事ものだと当事者に近い立ち位置,後者についてはワナビーの産地(^^)だよね,と...

genesisgenesis 2007/12/17 21:51 ――そんな話があったのですが,メモを見ても固有名詞を復元できなかったのでした。

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Tuesday, 2007/12/11

清涼院流水 『カーニバル・イヴ』

[] 清涼院流水 『カーニバル・イヴ』  清涼院流水 『カーニバル・イヴ』を含むブックマーク

 清涼院流水(せいりょういん・りゅうすい)『カーニバル・イヴ――人類最大の事件』(1998年,asin:4061819976)を読んだ。

 『コズミック』を読んだとき,続作は読まない方がいいだろうと思った。その後,舞城王太郎らに接して清涼院に対する認識を(好意的に)改めたので,もう一冊読んでみることに。

 ……したのですが,駄目でした。

 文章そのものに対しては嫌悪感を持たないのですが,読後の徒労感にさいなまれました。

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Wednesday, 2007/12/05

越沢明 『東京の都市計画』

[] 越沢明 『東京の都市計画』  越沢明 『東京の都市計画』を含むブックマーク

 越沢明(こしざわ・あきら)『東京の都市計画』(岩波新書ISBN:4004302005)の初版は1991年。執筆当時は長岡造形大学の助教授。その後どうされたのか調べてみたら,北大の教授であらせられました(^^;

 先日の出張で移動中に読んだ本で,ボストンバッグの中にしまいこんであった。古地図趣味者にとっては,たまらなく面白い。

 東京にも都市計画はあった。立案はされたが,実現しなかったのだ――というのが骨子。

 前半は,後藤新平(1857-1929)が都市計画に情熱を注いでいたことをつまびらかにする。第一次世界大戦後に都市インフラを整備しようという気運が高まった中で後藤らが研究会を組織し,1918年には内務省に大臣官房都市計画課が設置される。東京市長になった後藤は,1921年には「八億円プラン」を提示したが,政府予算が約15億円だった時代であったから財政問題により頓挫。しかしながら,このシミュレーションがあったために,関東大震災後における帝都復興のビジョンを迅速に提示できたことが記されている。この時に手がけられたのは道路だけではない。小学校と公園を隣接させることで地域コミュニティを形成しようとしたことなどには興味深く接した。

 しかしながら,震災復興の手法は,戦災復興には活かされなかった。復興計画のマスタープランは存在した。押上には緑地を造成,蔵前橋通りを拡幅し,市ヶ谷にはグリーンベルトを備えた環状4号線を通す―― しかし,実現はしなかった。本書では,計画を挫折させた障害として,1947年から59年まで都知事の地位にあった安井誠一郎の名を挙げ「戦災復興事業に対する熱意が欠けていた」と批難する。232頁から安井の回想録が引用されているのですが,そこで安井は〈復興〉を押しとどめ〈復旧〉に精を出したことを自賛している。

 でもねぇ…… 3期に渡って長期政権を敷くほどに民衆からの支持があった政治家の個人の資質の問題に帰着させている結論はどうなのだろう(筆者は名古屋との比較をしているのだが)。関東大震災後に都市計画を一部とはいえ成功させておきながら,その効果を伝えられなかった技術者たちの失態という側面が気にかかります。

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