大学院はてな :: 出向元と出向先の両方から受けた休職命令

 研究会で日本瓦斯日本瓦斯運輸整備)事件*1が取り上げられたのですが,検討の中で興味深い指摘がありました。
 Y1社において雇用されていた労働者Xに睡眠覚醒リズム障害の疑いありとの診断があったことから,残業の少ないY2社に出向して勤務していた。問題となった時点でXが就いていたのは,Y2社の中でも比較的軽易な業務である充填部での業務であった。平成13年4月頃,Xは体調不良により有給休暇を取得することが多くなったためY2社が診断書の提出を求めたところ,医師から「自律神経失調で休養を要する」との診断が示された。そこでY2社はXに休職命令を発し,約3か月の休職期間を3回に渡って延長してきたが,平成17年9月に休職期間満了によりXを退職させることにした――というもの。
 議論で問題となったのは,終業規則上の根拠条項。この事件では出向先のY2社も出向元のY1社も,両方とも休職命令を発しています。

 Y1社の就業規則45条 「従業員が次の各号のいづれかに該当する場合は休職を命ずる。(1)〜(3)略 (4)前各号の外,特別の事情があって休職させることを適当と認めたとき。」
 Y2社の就業規則49条 「従業員が次の各号のいずれかに該当する場合は休職を命ずる。(1)心身または精神の衰弱故障により業務に堪えないと認めたとき。」

 使用者にしてみれば,念のためというつもりでY1社からもY2社からも休職命令を発したのでしょう。しかしながら論理的な問題としては,出向元と出向先のいずれから休職を命令できるのかは慎重な判断を要するところ。加えて,Y1社が根拠に挙げているのは抽象的な「特別の事情」であり,吟味する必要があります。
 他にも,休職期間の満了により自動的に退職の扱いになるものとしている判示には疑問があります。この事件は本人訴訟ということで労働者側に弁護士がついていないため,論点が上手く整理されないまま審理が進行したのかもしれません。

*1:東京地裁判決,平成19年3月30日,労働判例942号52頁