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博物士

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Wednesday, 2008/07/30

上月雨音 『SHI-NO 空色の未来図』

[] 上月雨音 『SHI-NO 空色の未来図』  上月雨音 『SHI-NO 空色の未来図』を含むブックマーク

 上月雨音(こうづき・あまね)の最新刊『SHI-NO ―シノ― 空色の未来図』(ISBN:9784829164105)を読みました。シリーズ第8作。

 実家に帰省した〈僕〉宛てに届いていたのは,自殺した女の子からの年賀状。《死者からの手紙》の発信者は誰であったのか? 

という展開になりそうな出だしなのに,話はのっけから奇妙な方向へとシフトしていきます。それというのも年賀状の差出人たる彼女,大薙詩葉(おおなぎ・うたは)は《予知能力者》であったから。現在を生きる主要登場人物は,詩葉の妹であることり,詩葉の幼馴染みにして〈僕〉の親友である雄一郎,それに詩葉の母。関わってくる人物は限られているのに,《死者からの手紙》に加えて放火事件まで起こって問題は重畳的になっていきます。

 そこへ尋ねてくるのが,志乃ちゃん,キララ先輩,真白たんの3人組。〈僕〉とは別行動を取っているけれども,彼女たちのために用意されていた《死者からの手紙》が伴奏を奏でます。

「つまりこれは,大薙詩葉が作り上げたゲーム。過去に死に,未来に生きる彼女からの挑戦状です。」

169頁より引用

 〈僕〉と志乃ちゃん,過去に書かれた手紙と現在に起こる事件と未来の予知。こうした多重構成によって一連の事件が立体的に組み上げられていきます。

 ボクっ娘にして巨乳な姉に,ちょっぴり病んでる妊娠3か月の妹(高校2年生)。大薙姉妹というキャラクターも魅力的に描かれておりました。

 『空色の未来図』が伝えるメッセージですが,『ひぐらしのなく頃に』の第7話〜第8話を想起させます。時空を超えた事件への介入であるとか,旧家の因習であるとか,村落共同体へ外部から参画する主人公であるとか,そういった配置もそうなのですが,何よりも動機に関わる部分が。例えば,こんな台詞。

「誰か一人では無理だった。そんな事をする力も意味もなかった。けれど,もし全ての人がそれを望むのなら,どうだろう?」

247頁より引用

 とはいえ『ひぐらし』のような超展開は無いので,詩葉の死が覆ることはありません。作中では頻繁に《手紙》を介して快活に語りかけてくるので詩葉の不在は糊塗されるのですが,読了後に事件のあらましを確かめていると確かに詩葉は此処にはおらず寂寥の感を覚えます。せっかくの(胸部脂肪組織が抜群に充実した)キャラなのにカラーイラストも無しだなんて……

 漢と漢は拳で解決,という箇所はどうにも難がありましたけれども,この巻のメッセージ性の強さは際だちます。名言が豊富。

 いま富士見ミステリー文庫で展開している作品の中で最も勢いのある『SHI-NO』。その中でも,この第8巻の出来は良かった。志乃ちゃんをサイドヒロインに下げても『SHI-NO』という作品が成り立つ,ということを示せたのは大切なこと。


▼ おとなりレビュー

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Friday, 2008/07/25

パソコンパラダイス総集編 1

[] 20世紀のパソコンゲームを史料として残すために  20世紀のパソコンゲームを史料として残すためにを含むブックマーク

 保全活動を早急に開始すべきであるという提言がきつねさまより出されまして,NPO設立を含め,方策を検討しようという話をしております。詳細については g:rosebud にて。

skerenmiskerenmi 2008/07/28 20:37  うわ、懐かしい。パソパラ総集編、小中学生の時にお世話になりました。ちゃんと保存されているとうれしいですねー。

genesisgenesis 2008/07/29 15:58 ん? 「小中学生の時」??(^^;

skerenmiskerenmi 2008/07/29 22:16 多分、書店に並んでいる表紙を見て妄想たくましくしていたのです。うっかり。

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Thursday, 2008/07/24

葵せきな 『生徒会の三振』

[] 葵せきな 『生徒会の三振』  葵せきな 『生徒会の三振』を含むブックマーク

 葵せきな(あおい・‐)『碧陽学園生徒会議事録 3 生徒会の三振』(ISBN:9784829133132)を読みました。

 夕涼みにだら〜っとしながら読むには最適。

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Tuesday, 2008/07/22

[] 礼文島(その3)  礼文島(その3)を含むブックマーク

 滞在中は伯母の家にやっかいになったのですが,伯父も漁師をしております。で,ちょうど今時分はウニ漁の最盛期。朝05:30から07:00までの90分間だけ漁が許可されます。浜で待っていると,船にウニを積み上げて戻ってきました。一族総出で手伝いです。まずシャベルでウニを掬い上げてリヤカーに乗せ,作業小屋へ運び込みます。小屋には大きなバケツが並べてあり,海水を充たしてあります。この水も,沖の綺麗な水を漁協が汲んできてタンクローリーで配りに来るのだとか。伯母が殻を割って中身をボウルに移していきます。

 ウニはコンブを食べて育つので,殻から取りだした段階では海藻まみれ。それを伯父が,金ダライを使って洗い,身だけを取りだしてザルに詰めていきます。この日,漁協に出荷したのは5kgほど。夕方,各戸に設置されている防災無線を通じてセリの速報が流されましたが,市場にはkgあたり1万2000円前後で卸されたようです。

 役に立たない私は,ムラサキウニ(白っぽい)とバフンウニ(赤っぽい)の食べ比べなどしておりました。名前に難はありますが,バフンウニの方が濃密な味わい。

 通販もしておりますので,ぜひ機会があれば船泊(ふなどまり)産のものを召し上がってみてください。他にも,コンブ,タコ,ホッケ等を取りそろえております。

 ちなみに夕食のおかずは,ウニ丼と蒸しウニ,ホッケのすり身汁。それとトド汁もいただきました(白身魚のようにまったりとした脂身が染みだしているところに,コショウを振り掛けて味を引き締めると格別)。うまうま。

f:id:genesis:20080722173207j:image

hissahissa 2008/07/28 22:58 礼文ですかー。自分は実家が利尻にあったことがありまして。この時期の雲丹は最高ですねい。

genesisgenesis 2008/07/29 15:57 おや,そうだったのですか。利尻礼文は海あり山ありなところにきて絶好の海産物に恵まれており,本当によい所です。

ma_yoma_yo 2008/09/08 03:02 今年のお盆は懇意にしている?旧静内町の某牧場にご挨拶と今年が最後の開催の旭川競馬に行ったついでに襟裳岬と宗谷岬に行ったのですが、豪雨に見舞われ宗谷岬では樺太が見えず、ノシャップ岬では利尻・礼文が見れず仕舞いでした。こうなった以上もう1回宗谷岬に行かなくてはいけないので、その際は利尻礼文まで行きたいですね。
(by 原稿が進まず現実逃避中の学会事務局員)

genesisgenesis 2008/09/08 22:20 襟裳岬からついでで宗谷岬? 北海道を縦断しているじゃないですか(笑) 稚内の側から利礼の島影を見ただけでは「ただの島」なので,一度訪ねてみてくださいませ。

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Monday, 2008/07/21

[] 礼文島(その2)  礼文島(その2)を含むブックマーク

 親戚に自動車を借りて,島内を一巡り。

 最初に北端のスコトン岬へ。沖合に見える海驢(トド)島には祖父の漁師小屋が残っているはず。

 鉄府(てっぷ)からゴロタ岬を見て,

 澄海(スカイ)岬に立ち寄り,

 地蔵岩,桃岩,猫岩と,礼文島の西海岸にある奇岩を眺める。

 帰路,高山植物園に足を運び,人工培養に成功したというレブンアツモリソウ(礼文敦盛草)の花を見せてもらう。

 船泊本町まで戻ってきたところで遅い昼食。双葉食堂で塩ラーメンをいただく。魚介のダシが効いていて実に美味い。

 食堂の背後は小さな段丘になっているのですが,その上に菩提寺があり,その更に上に墓地があります。法事の準備で向かってみると,草が多い茂ってとんでもないことになっておりました。しかし,じっちゃん,随分と眺めの良い場所に墓をこしらえたものです。

 父が通ったという神崎小学校の横に「礼文森林(もり)の丘」という看板が立っています。地元住民の案内では数年前に出来たもので,丘の上から礼文島を見渡すことができるのだとか。同乗していた親戚連中の強い要望により車を進めました。水源地に通じる町道は砂利道なうえに両側から枝が張り出してきて視界が悪く運転手泣かせ。そこに忽然と,アスファルトで上質に舗装された山道が現れます。「森林の丘」は植林事業を行っている宗谷森林管理所が整備したものらしい。2基備えられた展望台からは,苗木を強風から保護するために方眼のように組まれた木柵が良く見える。たしかに眺望も素晴らしく,これを多くの人に見てもらおうと思いたったのであろう林野行政担当官の心意気も理解はできる。だが,麓は荒れ道なのに山上だけ舗装道路という落差を見るに,税金の使い方としてはどうだろうかと些かの苦言を呈さずにはいられない。

 徒歩の場合には久種(くしゅ)湖畔キャンプ場に設けられている階段を使えば展望台まで行けるようだ。


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Sunday, 2008/07/20

[] 礼文島(その1)  礼文島(その1)を含むブックマーク

 祖父母の墓参りに行ってきました。父方の実家は礼文(れぶん)で漁師を営んでおりまして。何せ遠いので義理を欠いていたのですが,たまたま休みの都合が付けられたので30年振りに礼文島へ。

 まず,札幌を07:40に出る都市間高速バスに乗り,6時間かけて稚内へ。札幌‐稚内には鉄道も走ってはいますが,所要時間は大して変わらないのに料金は2倍(鉄道10,970円,バス5,500円)と存在意義が疑われる存在。

 稚内フェリーターミナルは2008年5月に出来たばかりだとか。建物内にあるシックな造り和食料理店で昼食をとって乗船。稚内港15:10発,香深(かふか)港17:05着。約2時間の船旅ですが,甲板に出て「カモメさんカモメさんカモメさん」と『劇場版カードキャプターさくら』ごっこをしているうちに到着。

 利尻島も山の稜線が綺麗に見えます。

 目的地は島の北部にある船泊(ふなどまり)という集落。港からは自動車で約30分。11時間かかって到着です。


大きな地図で見る

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Saturday, 2008/07/19

[] 大学院はてな :: 不規則労働と過労死の因果関係  大学院はてな :: 不規則労働と過労死の因果関係を含むブックマーク

 今日は研究会で,国・国立循環器病センター(看護師・くも膜下出血死)事件(大阪地裁判決平成20年1月16日労働判例958号21頁)を討論。報告者は私。

 この事件は,25歳の看護士Aさんが勤務を終えて帰宅した後に自宅でくも膜下出血を発症して死亡したことについて公務(業務)起因性――いわゆる過労死に該当するか否かが争われたもの。

 過労による脳・心臓疾患の発症をどのように扱うかの判断指針として厚生労働省が提示しているのは『心・血管疾患及び脳血管疾患等業務関連疾患の公務上災害の認定について』(平成13年12月12日基発第1063号)でありますが,この中の「長期間の過重業務について」では,

  1. 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる
  2. 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる

という基準を示しています。本件の場合,被災者であるAさんの時間外労働時間数は,発症前6か月間につき平均して「50時間34分」でありまして,認定基準の時間数ではボーダーラインに位置します。事実,労働災害の認定を所轄する審査機関では,公務起因性を否定する判断を示していました。

 この判断の適否を争った司法審査において裁判所(裁判長:山田陽三)は,Aさんの発症に公務起因性を認めたものです。まず前置きとして,本件の事情の下では裁判所であっても時間外労働の長さだけからは過労死であったと評価は出来ないとします。

「発症前6か月間の時間外労働の平均は,約52時間22分であり,単に時間的(量的)な過重性を平均化してみる限り,通常,この程度の時間外労働により発生する疲労をその都度回復することは可能であり,本件指針に照らすと,時間的(量的)過重性のみをもって,本件発症の公務起因性を認めることは困難というべきである。」

 そのうえで裁判所が着目したのは勤務シフト表。Aさんの勤めていた病院では「深夜勤」「日勤」「準夜勤」「早出」「遅出」という5種類の勤務形態があり,これらを組み合わせて勤務が組まれていました。そして,勤務の組み合わせによっては勤務と勤務の間が5時間程度になってしまう場合があり,しかも,その頻度は月に5回程度発生していたことから,このような不規則勤務では十分な休息がとれないことを指摘します。そして,『脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書』(厚生労働省,平成13年11月15日)が,変則的労働は変則的労働は心血管疾患発症のリスクを高めると報告されていることを併せ考慮するときには,

「その過重性は,本件指針で規定する〈通常の業務に比較して特に質的若しくは量的に過重な業務〉に匹敵する」

ものであるとし,結論として本件発症の公務起因性を認めたものです。

 認定窓口では,基準の明確さが求められますので,時間外労働の長さを第一の判断要素として見ざるを得ません。不規則労働の場合には総合判断が求められるので困難を伴いますが,ボーダーライン上に位置する本件の処理は参考になるものと思われます。

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Wednesday, 2008/07/16

西尾維新 『きみとぼくが壊した世界』

[] 西尾維新きみとぼくが壊した世界 西尾維新 『きみとぼくが壊した世界』を含むブックマーク

 レビュー記事においてネタバレを是とするか非とするか,通称「犯人はヤス」問題は古より尽きることなく争われてきた論題です(正確には,ネタバレを掴まされてしまった者からの罵詈であることが殆どですが)。かくいう私,ネタバレを聞かされようと一向に構わないという立場です。小説であれば文章の組み立て,ゲームであれば演出,といった《過程》も楽しめるものですし。

 それでも自分でレビューを書くときには留意します。何せ小鳥の心臓の持ち主なもので,ちょっとでも悪意が向けられると暫く落ち込みますから。

 で。

 西尾維新(にしお・いしん)の〈世界〉シリーズ第3作『きみとぼくが壊した世界』(2008年7月,ISBN:9784061826007)を読みました。あらすじは――書けません。これは《構造》を楽しむミステリーですから。後続読者のためには口をつぐんでおくべきかと。購入を検討している方に向けて添えておくと,読んでいる最中はわくわく楽しかったです。

 それでも何か述べようとするならば,本作は「くろね子さん」「様刻くん」「ロンドン」の三題噺でした,と前置きして,キャラクター達の魅力を語るか,あるいはロンドンの旅情を説くかしかない*1。そういうわけで,「シャーロック・ホームズ博物館」の売店で売り子をしていたメイドさんの写真を添えておきます。


▼ おとなりレビュー

*1: 余談。62頁下段に「日付変更線を越え」るという記述があるのですが……?? 

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Thursday, 2008/07/10

[] 国立西洋美術館 『コロー』  国立西洋美術館 『コロー』を含むブックマーク

 お昼過ぎまで研究会に参加。終わったのは13時で,搭乗予定の航空機が離陸するのは16時20分…… 大丈夫かな?

 九段下から東西線と日比谷線を乗り継いで上野駅へ。公園に向かおうと試みるも,細長い商店街(アトレ)に入り込んでしまう。ようやく山下口から屋外に出られました。

 お目当ては国立西洋美術館で開催中の『コロー(COROT) 光と追憶の変奏曲』。

 出発前に興味深い指摘をしている記事を読んだので,早いうちに観ておきたかったのです。

「コローの生真面目な自然主義絵画に囲まれてぽつんと一つだけふざけた作品が展示されているので、ギャグにしか思えなくなってくる。」

http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/51421659.html

 今回の展示の中心となるのは“コローのモナリザ”――なのですが,やはりコローといえば風景画。特に水と樹木を配置した自然描写は,観念的なフランスの田園風景そのもの。全体で6章構成の展示になっておりましたが,時代を下って第4室に向かうにつれ,コローに特徴的な《くすんだ灰色》が織り込まれていきます。でも,第1室(初期におけるイタリアでの習作)も,意外なことに(いわゆる)コローらしさが無くて面白かったなぁ。

 国立西洋は第5室からロビーに出て第1室に戻れます。風景画を最初から見返したい気分だったのですが,時計と相談した結果,そのまま順路を辿りました。

f:id:genesis:20080713234850j:image

[] 野村美月“文学少女”と繋がれた愚者 野村美月 『“文学少女”と繋がれた愚者』を含むブックマーク

 帰りの機内で読んだのは,野村美月(のむら・みづき)『“文学少女”と繋がれた愚者(フール)』(2007年1月,ISBN:4757730845)。シリーズ第3作。前2作はいずれも羽田空港を経由した時に読んでいるので,今回も読まなくてはいけないような気が……

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

 あれれ? 遠子先輩って,こんなに愛らしい存在でしたっけ? 竹岡美穂が描く口絵の出来が良いせいでしょうか。それとも,シリーズの進行に伴ってキャラクターが練り上げられてきたせいでしょうか。導入部において繰り広げられる《日常》の場面が愛おしい。

 古典とのオーバーラップを特質とする当シリーズ,今回は武者小路実篤の『友情』をモティーフにします。三角関係が小説空間と作中世界とで重なり合う。2つの位相で三角関係が同時並列に動き回るので,追いかけるのが大変ですけれど。

 以前から気になって思っていることですが,引用文に使っているフォント,重すぎませんか。引き合いに出されている文章の文圧が高すぎます。お吸い物を含んで香りを味わっているところに煙草と香水をくらったような感じがします。

 閑話休題

 図書館の本が切り裂かれていた事件は,犯人と目される人物は挙がっているのに動機が不明なまま。文化祭で劇を上演している最中に“文学少女”の謎解きが行われます。ファミ通文庫なのにミステリーしてます。加えて,オーバーラップを上手く効かせて大団円に持ち込んでいるところは見事でした。

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Wednesday, 2008/07/09

河原温 『ブリュージュ』

[] 河原温 『ブリュージュ』  河原温 『ブリュージュ』を含むブックマーク

 留学していた時分に近隣諸国を旅してまわったので,これまでにEC加盟15か国のうち10か国を訪れたことがあります。その後EUは27か国に増えてしまったので,全踏破は難しそうですが……

 これまでに足を運んだ町の中で最も気に入ったところは,ベルギーの{ブルージュ(英語),ブリュージュ(フランス語),ブルッヘ(ドイツ語)}ですね。内陸にありながら運河を通じて北海と通じる港湾都市で,地中海方面とバルト海方面とを結びつけることに成功し,交易で富を蓄えました。ところが,〔1〕水路の入口に泥が溜まって大型船の出入りが困難になったこと,〔2〕後ろ盾となっていたブルゴーニュ家が没落したこと,〔3〕15世紀末にフランドル地方を承継したハプスブルク家は,アントウェルペン(アントワープ)を商業の中心と位置づけたこと――などがあって,町そのものが停滞。中世の面影を残したまま,今日に至っています。

 この町の素晴らしいところは,人の尺度で町が出来上がっているところでしょう。町は半径1kmほどの円形で,外周はぐるっと運河になっている。この歩いて回れる大きさの円の中に古い街並みが詰まっているのです。広場でビールを飲みながら夕暮れ時を過ごしたり,ふらっと立ち寄った教会でオルガンの練習を聴いたり。楽しかったなぁ。

 そんな愛すべき都市を紹介するのが,河原温(かわはら・あつし)『ブリュージュ――フランドルの輝ける宝石』(2006年5月,ISBN:4121018486)。東京へ向かう飛行機の中で読みました。

 でも,この本は勉強になりましたけれど,都市の持つ魅力を伝えていないように感じます。著者は歴史専攻の人であることが災いしているのか昔話に終始していることが本書の弱みではないでしょうか。町を構成している建築の見どころだとか美術館に行けば目にすることの出来る絵画といった(現在における)ガイドブック的な情報すらも(過去における)来歴を中心とした記述によって置き換えられてしまっているところが,わくわく感を削いでいるように思えます。取り上げられている人物にしても為政者のストーリーばかりで,人々の暮らしについてのエピソードを欠くために面白くありません。

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Monday, 2008/07/07

ニッカ余市蒸溜所

[] 朱門優 『ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。』  朱門優 『ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。』を含むブックマーク

 昨晩,旧知の人物(松本旅行で馬刺を奢ってもらった人)から連絡がありました。依頼内容は「ニッカ余市蒸溜所限定発売シングルモルト余市12年(カフェグレーン)ウイスキー」を買ってきて!というもの。いつでもいいと言われたのですが,都合のつけられる日が他に無かったので早速お出かけしてきました。

 函館本線は小樽駅より先1時間に1本の運行になるのですが,たまたま乗った快速を降りるとちょうど接続列車があった――けれど,あえて中央バスに乗り換える(JRは大っ嫌いなん)。余市の十字街で降りて柿崎商店でホッケ定食(500円)を昼食に。ニッカの試飲場で食後酒代わりにウヰスキーをいただいてから,売店でお買い物。

f:id:genesis:20080707141601j:image

 さて。

 小旅行のお供に連れて行ったのは,朱門優(しゅもん・ゆう)『ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。』(2008年6月,ISBN:9784758040037)。

 同級生で幼馴染みないちこは,学校へも巫女装束でやってくる。言葉巧みなだけならまだしも主人公のことを下僕(わんちゃん)扱いする始末。ところがある晩,主人公はいちこから《お見合い》を申し込まれた。ところがこの《お見合い》というのは,この町の神社に伝わる祭りのことで――

というもの。この祭りに係る8日間における出来事が各章を構成する。読んでみると,この初日のシーンがなかなか頭に入ってこない。学園ものギャルゲーよろしく登場人物紹介と状況説明とが行われる場面なのだが,デコード(decode)に手間取ってしまう。この時点での登場人物は実質2人しかいないのに。キャラと舞台の設定披露が冒頭部で濃密に行われている感じ。

ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。 (一迅社文庫)

 他方,祭りの期間に入ってしまうと突っ掛かることなく読み進められます。何せ登場人物が少ないので表紙の絵にも出ている幼女の正体が××だろうというのはバレバレ。それならどういう結末に持っていくのだろう?と訝しんでいたのですが…… 大団円に至る場面でかくも正面から人生訓をぶつけてくるのは意外でした。率直に言って,結末でデウス(Deus)が強引に場を纏め上げているところはあまり好きになれません。って,神様に文句を言うのは不遜でしょうか。

 いちこには自分語りをさせる安易なことをして恋愛問題に当たっているのに対して,もう一つの家族問題についての処理はバランスを欠くところだったのではないでしょうか。前者は《お見合い》を通じて当人が能動的に関わっていますが,後者については教え諭されて納得させられたというような印象が強い。〈水〉に関しても収束は上手く決めていますが,翻って発動の方を捉えてみるとちぐはぐな感じがします。

 会話の掛け合いは楽しいですし,全体の構図も良く考えられていると思います。が,『アネモイ』には惜しまれるところがあるために評価が下方に振れてしまいます。ストーリーに関わってこない部分を削ぎ落として,そのぶん心情を喚起する描写に振り向けてくれていれば,と思うところです。

Gaius_PetroniusGaius_Petronius 2008/07/17 22:21 ああ・・いいですねー。僕もそこに行ってみたいんですよ・・・。余市はおいしいですよねぇ。

genesisgenesis 2008/07/17 22:56 余市は,海のもの(おさかなさん)も山のもの(果物)もあって良いところです。問題は,私はもっぱら醸造酒を愛飲していて,蒸留酒についてはさっぱりだということ。ウイスキーの香りは好きなので飲むときにはストレートを選ぶのですが,飲み慣れていないために加減が分からなくなってしまってパタンきゅ〜(><) というのを繰り返してます。

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Tuesday, 2008/07/01

橋本紡 『半分の月がのぼる空 4』

[] 橋本紡半分の月がのぼる空 4』  橋本紡 『半分の月がのぼる空 4』を含むブックマーク

 ここしばらく観たり読んだりしたものは,あえて何か書き残すまでもないというようなものでした。橋本紡(はしもと・つむぐ)の『半分の月がのぼる空』も,第2巻は一旦ケリを付けた作品の続刊を書き始めるにあたっての整理,第3巻は幼なじみ登場という具合で特に印象にも残らず。

 それが第4巻『grabbing at the half-moon』(2005年2月,ISBN:4840229368)は良かった。第2巻から第3巻にかけては主題(モティーフ)にあたるものが朧(おぼろ)であったのがいけない。キャラクターに関しても,ほにゃっ娘小夜子さんは実に良い。

 ヒロイン里香の主治医を主人公に据えたエピソード「夏目吾郎の栄光と挫折」を中心とする第4巻は,心臓外科の手技で知られる若手医師が伊勢の病院に流れてくるまでの半生録。この巻ではインターリュードとして17歳のボーイ・ミーツ・ガールを阻む障害も描かれるのですが,生活難という〈大人の苦労〉の影に置かれると〈夜中に窓から少女の病室に潜入する苦労〉は滑稽でしかない。

 かかる構成を採った理由として,前巻から続く少年少女のエピソードを中断したままにしておけなかったという趣旨のことが巻末の〈あとがき〉で述べられています。裕一と里香の恋の進展を本筋と捉える読者のためには必要な判断だったとは思いますが,なまじっか吾郎と小夜子のエピソードが読めるであったものですから惜しいと思うところです。

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