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博物士

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Wednesday, 2008/10/29

西川真音 『零と羊飼い』

[] 西川真音零と羊飼い 西川真音 『零と羊飼い』を含むブックマーク

 西川真音(にしかわ・まおと)+しろ『零(ゼロ)と羊飼い』(ISBN:475804001X)を読む。工画堂スタジオが2005年8月に発表したゲーム『羊の方舟(はこぶね)』を改題・改作した小説。

 地球に向かって巨大な隕石が迫っていた。衝突すれば人類は滅亡する。そこで異能者が呼び寄せられた。《受けた力を跳ね返す》能力を有する異能者をシャトルに乗せて打ち上げ,隕石を斥けようという計画のために。シャトルに乗った者ば必ず死ぬという計画のために。集まったのは3人の異能者である男性。

 1人の男には,視覚を持たない少女が寄り添う。

 1人の男には,世話のために雇われたメイドさんがあてがわれる。

 1人の男は,シャトルに乗せるために造られた《心を持たない》少女サイファの手をとる。

 3組の番(つがい)に与えられた期間は3日。誰がシャトルに乗るのかを,彼ら自身が話し合いで決めるための時間として――

以下,ネタバレを含んでいるかもしれません。いないかもしれません。

 設定はすごく面白いです。主題選択も。

 中盤において3人の異能者は「誰が生きるべきか死ぬべきか」を論じます。順番に,ゲームとして。

 彼は自分が死ぬべき理由をいくつも語ることができた。それとは逆に,生きるべき理由はほとんど見つからなかった。

ここに現れる静かな境地が本書の見どころであろう。結果,シャトルに乗ることを1人の男は自ら申し出る。

工画堂スタジオ シンフォニック=レイン 普及版

 と,ここまでは良い。それが第3章に入ると物語はメタ化します。小説家も絵師も『シンフォニック=レイン』の作り手ですからね。それも楽しみのうち。

 でも,反転構造を持つ作品は表から裏へ移るタイミングを間違えると悲惨です。かの『symphonic rain』にしたって,ファルシータ,トルティニタ,リセルシア,音の妖精フォーニという個別シナリオが並列していて,それらの開陳の後にストーリーの統合作業が行われる。それが同時に展開してしまったら,ど〜でもよくなります。読み手にしたって,移入した感情も真相への興味も前の位相から持ち出せずに置いてきてしまうわけですから。

 本作はメタ構造に落とすタイミングを誤ってしまったがために,そこから後のすべての叙述が信用できなくなります。それにしてもメタのメタで収拾できれば良かったのでしょうが,オチが……。

 「死」の計画を前に、生に執着したり、誰かのために命を賭けることを決意したりする極限状態の感情と生存競争を描く……と思っていたら素直な方向には進まずフラフラしたあげく、最後で一転。というか物語がバグる。

http://d.hatena.ne.jp/snowillusion/20080925/p1

 ものすごく残念な仕上がり,と申し上げざるをえない作品でした。

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Monday, 2008/10/27

今野緒雪 『卒業前小景』

[] 今野緒雪卒業前小景 今野緒雪 『卒業前小景』を含むブックマーク

 今野緒雪(こんの・おゆき)『卒業前小景』(ISBN:9784086012140)を読む。〈マリア様がみてる〉シリーズの……第31巻。途中を何冊か飛ばしていたのは覚えていたが,どこまで既読かまでは覚えていなかったので最新刊だけ購入。照合してみると間に2冊あったようだが,差し支えはなかった。

 卒業式前日における様々な登場人物のエピソードを綴る。伸びに伸ばされたストーリーも節目。物語を締めくくるための身辺整理といったところ。何せ,実質的に最初の話は脇役代表の桂さんだし。

 ぐるっとまわって始まりの場所へ。収められたエピソードの最後は,卒業式当日に相応しきシーン。それが前日に置かれることで,来るべき当日が清々しく思えてくる不思議。

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Friday, 2008/10/24

杉井光 『ばけらの!』

[] 杉井光 『ばけらの!』  杉井光 『ばけらの!』を含むブックマーク

 杉井光(すぎい・ひかる)+赤人『ばけらの!』(ISBN:9784797350616)を読む。

 ライトノベル作家達を主人公に据えたコメディ。どこまで実話なんだか……。

 作中人物が誰を指しているのかさっぱりなままに読みましたが,コンテクストが不明であってもイヅナの描写はかわいらしいので楽しめます。とんでも設定なのに(あるいは,だからこそ)ストーリーの締めくくりは技巧的にいって上手い。

 でも,後日再読するような本ではないかな。ボジョレー・ヌーボーよろしく“旬のもの”であり,味わいを噛み締めるようなものではなし。

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Sunday, 2008/10/19

野村美月 『“文学少女”と月花を孕く

[] 野村美月“文学少女”と月花を孕く水妖 野村美月 『“文学少女”と月花を孕く水妖』を含むブックマーク

 貧血と花粉症が合併したような症状で身体が重かったので,本を読んで過ごしました。野村美月(のむら・みづき)の『“文学少女”と月花(げっか)を孕(だ)く水妖(ウンディーネ)』(ISBN:9784757739185)を読了。先週の東京出張に持っていき帰りの機内で読んでいたのですが,そのまま読み終えてしまうのが勿体なくって,あえてエピローグの手前で閉じておいたもの。

 シリーズの第6作ですが,時系列では第2作のあとになる特別編。今回は泉鏡花『夜叉ヶ池』を参照しつつエピソードが展開します。ゲストヒロインの覚知になる一つの悲しい物語が“文学少女”によって読み解かれ,暖かく慈愛に満ちたストーリーへと反転する。お見事でございました。

Tuesday, 2008/10/14

[] Bunkamura 『ミレイ展』  Bunkamura 『ミレイ展』を含むブックマーク

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 ホテルをチェックアウトし,人形町から渋谷へ。Bunkamuraザ・ミュージアムにて開催中の『英国ヴィクトリア朝絵画の巨匠 ジョン・エヴァット・ミレイ(John Everett Millais)展』を見に行く。渋谷駅からの巡回送迎バスに乗ったため東急本店の中を突っ切ることになったのだが,高級ブティックの前を旅行用カートを引きずりつつ通り抜けるというのは野暮のような気がする。

 今回はテート・ブリテンから《オフィーリア》が来ているので混んでいるだろうと思い平日を狙って出かけたのですが,それでも会場内はかなりの人だかり。

 ミレイについては,きつい顔立ちの女性を描くという印象があります。そんなこともあって前半は緻密に描き込まれた背景を中心に眺めていきました。それが第V部「ファンシー・ピクチャー」では幼女が並んでいて印象が一変。連作《初めての説教》《二度目の説教》はテーマ自体が面白いし,《目ざめ》はきらめくようなレースに嘆息。続く第VI部では肖像画が集められていましたが,ミレイが描く年を経た男性の姿は威厳と風格があって良かったなぁ。締めくくりの第VII部「スコットランド風景」は風景画好きを喜ばせてくれます。大作《孤独な森の静寂》が特に気に入りました。

 ところが,記念にポストカードを買おうと思ったのに,気に入ったものはことごとく制作されていませんでした……

Saturday, 2008/10/11

[] 損保ジャパン東郷青児美術館 『ジョットとその遺産展』  損保ジャパン東郷青児美術館 『ジョットとその遺産展』を含むブックマーク

f:id:genesis:20081014221835j:image

 研究会と勉強会と学会とが重なったので4泊5日の東京滞在です。

 勉強会は15時からでしたので,その前に損保ジャパン東郷青児美術館にて『西洋絵画の父 ジョットとその遺産展――ジョットからルネサンス初めまでのフィレンツェ絵画』を観てきました。

 もともとは聖堂を飾っていたものを剥がして持ってきたわけですから,聖書や聖人にモティーフをとった作品がほとんどを占める展示内容。ビルの入口についてもホールの受付を守る人が1人いるだけでひっそりとしており,会場内も人影は疎ら。まぁ,中世の宗教画が中心ですから人が押し寄せるとは思えませんが……。

 しかし,展示物は素晴らしいのに,展示方法がチャチなので不満が募ります。

 フレスコ画は通常“石”で囲われた空間に置かれるものですから,教会堂の中を満たす冷やりとした空気と朧に差し込む陽光とがつきもの。その再現は無理だとしても,せめて見せ方に工夫はしてくれないものだろうか。特に《スクロヴェーニ礼拝堂》の紹介はいただけませんでした。礼拝堂の前後左右を写した写真が横一列に並んでいるだなんて! 写真パネルを置くなら立体的に配置して,見上げた位置にラピスラズリの群青が見えるようにしようよ……。

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Thursday, 2008/10/09

[] 塩野七生 『迷走する帝国』  塩野七生 『迷走する帝国』を含むブックマーク

 ここしばらく,就寝前の読書に文庫化された塩野七生(しおの・ななみ)の『ローマ人の物語XII』を読んでおりました。

ローマ人の物語〈32〉迷走する帝国〈上〉 (新潮文庫 し 12-82) ローマ人の物語〈33〉迷走する帝国〈中〉 (新潮文庫 (し-12-83)) ローマ人の物語〈34〉迷走する帝国〈下〉 (新潮文庫 し 12-84)

 この巻で扱うのはカラカラ帝(在位211-217)に始まる時期。東方ではササン朝ペルシアが成立(226年)し,西方ではゲルマン人による防衛戦(リメス)突破が相次ぐという状勢にあっては,73年間に皇帝22人が現れては消えても,当事者には打つ手が無いと思ってしまう。

 ゲルマン人に関していえば,ローマ帝国とは友好的関係にあった近蛮族が,遠蛮族によって制圧・併合されて変質を遂げたことが理由として挙げられている〔上巻199頁以下〕。取りあえずはこの説明で足りるにしても,その遠蛮族(バルバリ・インフェリオール)が何故動き始めたのかについての叙述を欠いているところが腑に落ちなかったところ。もっとも,このあたりが歴史家ではなく小説家が書いていることの表れであろうから,批難するようなところではなかろう。

 この巻における言説は2つに集約される。まず第1に,ローマ帝国の“ローマらしさ”は当の本人が意識せずして行った施策の間接的影響であるとしている点(具体的には,属州民にもローマの市民権を付与したカラカラ帝の市民権法と,同じくカラカラ帝による機動部隊の編成)。そのて第2は,下巻の末尾において一章を割いて滔々と語られるキリスト教の勢力伸長。どちらの箇所でもナナミ節を堪能。

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Sunday, 2008/10/05

たかみち 『TAKAMICHI LOVE WORKS』

[] たかみち 『TAKAMICHI LOVE WORKS』  たかみち 『TAKAMICHI LOVE WORKS』を含むブックマーク

 画集は,あまり好きではありません。好き嫌いというよりも,映像から情報を読み取るのが不得手というか……。芸術家のみる夢はカラーの場合が多いという話を聞いたことがありますが,ビジュアルノベル風に文字テロップが流れていく私はよっぽど文字情報偏重なのでしょう。

 たかみちの画集『TAKAMICHI LOVE WORKS』(ISBN:4863490283)を購入してきたのですが,そんなイラスト痴でも大満足の出来でした。

 雑誌『LO』で使われた絵を中心に組み立てられているのですが,元イラストと表紙に仕上がった状態とを並べてみせています。大抵は上に書き加えたものがノイズになってしまうのですが,文字を組み込んだ方が素晴らしくなるというのは稀有ですね。キャッチコピーがあることによって,むしろ情景が広がる。ロゴが配置されることによって,いっそう画面が引き締まる。

 後半パートでは編集者とデザイナーを交えて製作過程が明かされているのですが,ここではラフデザインが並べられており,どのような推敲を経て完成に至ったかがうかがわれて興味深い。

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Saturday, 2008/10/04

労働判例960号

[] 大学院はてな :: 「歯医者に行くので出張できません」  大学院はてな :: 「歯医者に行くので出張できません」を含むブックマーク

 研究会にて熊坂ノ庄スッポン堂商事事件(東京地裁判決・平成20年2月29日・労働判例960号35頁)を題材に検討をしました。健康食品販売店Yに勤めていた原告X(63歳)は地下鉄構内の店舗にて勤務していたが,当該店舗が改装のために一時閉店することになったこともあり,月間販売成績が低迷していることを理由に研修命令が発せられました。ところがYには研修を行える者が1名しかおらず,しかもこの人物が愛知県での催事に従事していたことから,研修場所を豊川,期間は45日間(翌年2月14日まで)とする就業指示[1]が発せられました。しかし,豊川店は1階が店舗,2階が寮となっているものの「寮といっても一部屋に十数人が雑魚寝する状態である」ということを同僚から教えられたこともあって,Xは研修行きを渋ります。研修地では個室を与えて欲しい等の要望をファックスで送った後,Xは「現在歯の治療中であるので豊川店の勤務は他の人に変更して欲しい」と伝えます。これに対してYは,歯の治療が終わるまで治療に専念し,治療が終わって仕事が出来るようになったら本部に連絡するように」と指示しました。また,Yは欠勤届の提出も指示し,Xもこれに応じています。

 ところが翌年1月11日,Yからの前月分給与振り込みがなかったことからXが労基署に相談に行ったことから関係が悪化。Yは「君とは今後話をしない。労働基準局を窓口として話をする。」と伝えてきました。Xは労働局にあっせんを申し立てましたが,Yは出頭しませんでした。

 2月9日,Xは治療の日程が変更になったので「2月14日までの豊川店勤務が(2月14日終了後東京の店への勤務となりますならば)可能となりましたので至急連絡ください。」とのファックスを送信(これに対しYは返答しませんでした)。他方,Yは3月15日付けで以下の内容の就業指示[2]を発します。

  1.  3月19日に本部での打合せに出ること。
  2.  3月20日から25日まで本部で研修を受けること。
  3.  3月28日から45日間,名古屋・豊川催事営業の販売応援業務のため,中期出張すること。
  4.  この就業指示を履行できない場合は,就業指示の履行を不能とする旨を明らかにした医師等の診断書を5日以内に提出すること。
  5.  先の就業指示[1]を履行できない理由としてXが挙げた「集団生活・集団勤務ができない」「歯科治療」の理由に関し,医師の証明書及びその後完治したことを証明する診断書を5日以内に本部に提出すること。提出がなかった場合には懲戒に処すること。
  6.  Xが正当かつ合理的な理由なく,この就業指示に従わなかった場合には,何らの通知等することなく,通知書到達後30日経過した日をもって懲戒解雇する。

 そしてXは懲戒解雇になった――というもの。なんだかどっちもどっちで大人気ないという感じのする事案。

 Xについて云えば,歯医者に行くためにという理由で出張を断ったり,治療予定が繰り上がったので1週間だけなら研修に出られると言ってみたり。他方,Yにしてみても,かなり嫌がらせに近い態様で出張命令を発していますし,就業指示[2]も多分に挑発的。

 結論として,裁判所はXを勝たせています。確かにYの対応は慎重さを欠くところがありますので,当該懲戒解雇は濫用であったとするのが適切なように思われるところ。

 ただ,この判決,「豊川店でしか研修ができない事情も含めたその必要性についてXに十分説明したとはいい難く,豊川店での勤務が終了した後の勤務地がどこであるかについても説明がなかった」ことと「何ら弁明の機会を与える余地のない形式で懲戒解雇に至っていること」も併記して,「本件解雇を有効とするには相当の躊躇を覚えざるを得ない。」との結論に至っています。そこまで手続的保障をしなければならない事案であったのかというと,ちょっと疑問に思うところでもあります。

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