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Wednesday, 2009/01/28

本田由紀 《現代の若者の労働問題》

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 夕方,札幌弁護士会の主催による本田由紀id:yukihonda)先生の講演を聞きに,札幌市教育文化会館へ。360人収用の小ホールが窮屈なくらいに大盛況でした。

 結論として述べられたのは,

 ある時点で不利な状態に陥った人が いつまでも不利でい続ける必要がなく,

 人々が できるだけ不利にならないための準備や支援が 幅広く提供されており,

 人々が 自分の尊厳と他者への敬意をもって生きていくことができる,

 そういう社会を 少しでも作っていくための地鳴りを生みだしてくれるよう お願いします。

というもの。「憲法市民講座」という場であったことを差し引いても,ヒューマニズムに溢れた締めくくりの仕方でした。

 ただ,その結論に至るまでが(分量的に)凄まじかった

 最初に〈雇用形態の変化〉を各種のグラフを用いて示して若年労働が非正規雇用に偏っていることを示し,非正規労働者の収入・労働時間をデータで確認してから仕事の満足度・自己能力評価についてのアンケート調査を分析し,仕事へ取り組む姿勢として「お客様に喜んでもらえるように」という意識があることは就労形態に関わりなく共通して存在していることを摘示しつつ,若者の雇用形態は家庭環境と学校教育と関連性を有していることを指摘し,雇用/家庭/教育/政府によって構成されていた戦後日本社会のモデルが破綻したと喝破し,学校教育への公的投資が過度に低いことを統計から明らかにしたうえで,社会構造に問題点が見出されるべき若者の労働が「パラサイト・シングル」「フリーター」「ニート」に対する偏見を帯びた捉えられ方によって「人間力」「生きる力」という精神論に歪められてしまったことを嘆き,結論として社会システムの再構築を提唱する――という流れ。

 立論の中心は,参考資料として配られた『思想地図 vol.2』(ISBN:4140093412)所収の「毀れた循環」でありましたが,これまでの単著で扱っていた話題は結論だけではなく立論部分からすべて網羅していたし……  

若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて 多元化する「能力」と日本社会 ―ハイパー・メリトクラシー化のなかで 日本の〈現代〉13 「ニート」って言うな! (光文社新書) 「家庭教育」の隘路―子育てに強迫される母親たち 軋む社会 教育・仕事・若者の現在 

 正社員と非正社員のダブルトラック(この場合は,両者の間には移動障壁があり処遇格差もある,の意)の説明では 

  • 正社員: membership without job 
  • 非正社員: job without membership 

という話をしていて,聞き覚えがあるなぁと思ったら「これは濱口桂一郎さんの言っていることでして」とか,引用・参照も盛りだくさん。由紀先生,頑張りすぎです。PowerPoint換算で96枚。テーマの1つに〈苦境の自己責任化〉というのがありましたが,べつにご自身で身を以て示されなくても……。1時間の予定を30分超過したので,何とか無理に終わらせたという感じでした。

 端折られたのが本田先生の本領である〈教育〉に関わる部分であったために,参加者からの質問がズレた方向に行ってしまったのが残念なところでした*1

*1:質問1「ケインズ主義に戻るべきでしょうか?」,質問2「ワークシェアリングってどうですか?」,3と4は身の上相談。最後に弁護士会から挨拶という名の長噺がありましたが,これも酷かった。

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Saturday, 2009/01/24

[] 大学院はてな :: うつ病発症から3年の休職を経てなされた解雇の可否  大学院はてな :: うつ病発症から3年の休職を経てなされた解雇の可否を含むブックマーク

 研究会にて東芝〔うつ病・解雇〕事件(東京地裁判決平成20年4月22日労働判例965号5頁)を検討。

 液晶工場で働いていた技術者Xがライン立ち上げの責任者となり,約5か月間にわたり法定時間外労働が月70時間に及ぶ長時間労働に従事した。会社Yはこのことを関知しうる状況にあり,産業医によって実施される「時間外超過者健康診断」をXは複数回受診していた。

 平成13年の夏になってXは頭痛を訴えるようになり,「抑うつ状態」と診断されて療養に入った。Y社には業務外の疾病について長期欠勤の制度があり,Xの場合は15か月の「欠勤」+20か月の「休職」を利用した。

 Y社では「メンタル不調者の職場復帰プログラム」が策定されている。Xの場合,おおむね3か月に1度の割合で上長と面談をし,約3年間の間に20回以上に渡って臨床心理士のカウンセリングを受診させる機会を設けていた。 平成16年6月,Yの産業医は「復帰プログラム」に基づき,職場復帰に当たって主治医の見解を聞きたいとXに説明し,Xから情報開示に関する同意を得た。この時点でもXは「職場復帰はできない」旨を主張しており,主治医の見解も「今後も長期的な治療が必要」というものであった。Yの勤労担当者はXと面談して職場復帰に向けたYの考え方を説明し,職場変更が可能であることや,疲れたらすぐ休めるよう健康管理室にX独自の個室を設置することなどを提案し,休職期間満了前に復職するよう説得を試みたが,やはりXは職場復帰は不可能である旨告げた。そこでY社は「復帰プログラム」による取り組みを断念し,平成16年9月9日,休職期間満了を理由としてXを解雇したものである。

労基法§19-1 使用者は,労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は,解雇してはならない。ただし,使用者が,第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては,この限りでない。

労基法§81 第75条の規定によつて補償を受ける労働者が,療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては,使用者は,平均賃金の1200日分の打切補償を行い,その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。

労基法§75 労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかつた場合においては,使用者は,その費用で必要な療養を行い,又は必要な療養の費用を負担しなければならない。

 東京地裁は,Xが休職に入ったそもそもの原因は過重労働にある→Xのうつ病発症には業務起因性が認められる→療養のための休業期間中における解雇は労基法19条1項本文に違反して無効である,と判断しました。

 この事件がとてつもなく面倒なのは,労災民訴の事案で労働基準法19条1項が用いられており,労災認定にかかる行政判断が援用できないところ。本件でXが労災申請をしたのは,解雇される前日(平成16年9月8日)のことでした。そして労働基準監督署は「業務上のものとは認められない」と判断し,再審査においても判断は維持されています。つまり,通常の労基法19条事案であれば存在するはずの行政機関による症状の認定が存在しません。たしかに,平成13年の時点で争いになっていれば裁判所の言うとおりであり,業務上災害と認定しなかった労基署の判断も不適切でしょう。本件の労働者に対しては,何らかの救済策が講じられるべきです。それが何だか釈然としないのは,約3年間の休職期間中,Xが《私傷病》として取り扱われることに異議を留めていなかったのに,解雇が具体化したところで《業務上疾病》との主張を展開しているため。すなわち,〈補償給付不支給処分〉の取消しを求める行政事件訴訟ではなく〈解雇無効〉を求める民事訴訟なので,本来的な筋道とは異なる立論をしなくてはなりません。

 なお,本件では会社側が興味深い主張を展開しておりました。「業務による心理的負荷による精神障害は,医学上一般的には6か月から1年程度の治療で治癒するところが多いとされる」にも関わらず,6年以上も会社業務に携わっていない原告労働者が未だ治癒していないことからすれば,うつ病発症と業務との間の相当因果関係は否定されるべきではないか――というものです。これは第一審判決では判断されていない点ですが,控訴審での判断が気になります。

 もっとも難しいのは,精神性疾患の場合において,労基法81条にいう「負傷又は疾病がなおらない場合」をどう認定するのか……。本件の場合,Xが就労不能な状態にあることは原告が自認しているところでもあります。身体的損傷の場合,障害が残ることになったときには「症状固定」と判断して労基法19条1項本文の解雇規制を解除する代わり,社会保障給付を支給して対処を図ります。でも,精神性疾患について「あなたの鬱病は症状固定になりました」と判定するのは難しいところがあります。業務上疾病であったとしても一定期間を経過した時についての処理を法81条が用意しているのに,メンタルヘルスの場合についてのみ雇用関係の維持を使用者に求めるとすれば使用者に対して無理を強いる状況になってしまい整合性を欠きます。判断基準については事例の蓄積を待つほかないような。

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Thursday, 2009/01/22

二階堂黎人 『カーの復讐』

[] 二階堂黎人 『カーの復讐』  二階堂黎人 『カーの復讐』を含むブックマーク

 ここしばらく日程が合わずにご無沙汰していたミステリー読書会ですが,評論家のO森さんが進行役を務められるというので,都合を付けて参加してきました。お題は,二階堂黎人(にかいどう・れいと)『カーの復讐』(ISBN:406270577X)。講談社ミステリーランドから2005年に刊行されたもので,モーリス・ルブランのルパン・シリーズ“La Vengance de Ka”を子ども向けに二階堂が翻訳した――ということになっている贋作(パスティーシュ)。

 論説の主題は,二階堂とルブランの親近性ならびに異同について。細かいところは伏せますが,簡単に言えば,《真相が解明された後のリアクション》に着目すると,それが豪華で派手であることが起因して冒険活劇的な性格が強く窺わせていることの指摘。

 参加者の意見を聞いててみると,同時代において二階堂とは対極に位置するのが森博嗣の素っ気なさかもね――という声も出てきました。私自身が二階堂の文章が冗長に感じられるので苦手としていることもあって納得。

 そういえば,元ネタのルパン・シリーズなんて四半世紀読んでいないよなぁ,と思って堀口大學訳の『813』を予習で読んでいったのですが…… ルパンI世って,こんなに嫌みな奴だったのかと新鮮でした。あと,ゲストキャラが「皇帝」って壮大すぎるよ。翻って,二階堂のパスティーシュは,かなり上出来だと思った次第。

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Tuesday, 2009/01/20

大槻ケンヂ 『ボクはこんなことを考え

[] 大槻ケンヂ 『ボクはこんなことを考えている』  大槻ケンヂ 『ボクはこんなことを考えている』を含むブックマーク

 大槻ケンヂ(おおつき・‐)のエッセイ集『ボクはこんなことを考えている』(ISBN:4041847036)を読んだ。先週,『さよなら絶望先生』のDVDを借りてきて楽しんだから,という分かりやすい因果関係。

 初出は1993年で15年以上前のものだが,内容は古びてはいない。さすがに例えとして「小森のおばちゃま」が出てきたりするところは時代相応であるけれども,今でも十分に愉しめる。話題はUFO,プロレス,映画,アイドル追っかけと多彩だが,大槻の鋭い観察眼が冴えている。

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Wednesday, 2009/01/14

秋★枝 『純真ミラクル100%』

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 惹かれるものがあって購入してみたところ,なかなか良かったのが秋★枝(あきえだ)『純真ミラクル100%』(ISBN:4832277200)。

 シンガーソングライターを目指して上京したものの3年,ようやく音楽事務所から声をかけてもらった女の子。事務所の所長がちょっとした意地悪で変な格好をさせてテレビに出演させてみたら大反響を得てしまって―― という芸能界もの。男の向けの少女まんが誌コミックエール!』の創刊号から連載中の作品。

 元々読み切り作品の予定だったとかで,連載に移行したばかりの第2話から第3話にかけては少々ぎくしゃくした感じがします。所長が思わず女の子をいじめたくなって,やっちゃったらそれが裏目に出て……というのは,単発ならばさておき,ストーリー展開を引っ張る駆動力とするにはそぐわない。そういうイジメは,いかにも悪役っぽい勝ち気な女の子がやらないと様にならないのに,所長のキャラと齟齬が出てしまっていて。

 それが,第4話から俄然面白くなります。主人公の女の子は,所長が気まぐれに「モクソン」なんていう,ちょいダサな芸名を付けられても前向きになっちゃう,とてつもなく“いいひと”。モクソンの“いいひと”度は,古河渚CLANNAD)のひたむきさ水無灯里(AQUA&ARIA)の前向きさ,ゆの(ひだまりスケッチ)の純朴さを持ち合わせているぐらい。そんなモクソンのキャラクターが際だってくるのは,藤林杏藍華/沙英に相当する突っ込み役が登場してこそ。本作の場合,モクソンの人気に便乗してグラビアクイーンをねらう「オクソン」が絡むことにより,厚みが出てきています。続きが楽しみ。

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Thursday, 2009/01/08

杉井光 『さよならピアノソナタ 2』

[] 杉井光さよならピアノソナタ 2』  杉井光 『さよならピアノソナタ 2』を含むブックマーク

 杉井光(すぎい・ひかる)『さよならピアノソナタ 2』(2008年3月,ISBN:4840241953)を読了。

 既に全4巻を手元に買い揃えてあるわけですが…… もし,未入手であったならば続刊の購入には慎重になっていたことと思う。第1巻で一度は完結した物語を,続刊まで引っ張るための〈のりしろ〉とするための第2巻。シリーズ全体としての評価はさておき,第2巻を単独でみると〈仕込み〉をしている様が見えてしまうので興ざめ。

 と,真冬はアホ毛装備なのか。第1巻はカバーをかけて(機内で)読んでいたので気がつかなかったよ。

trivialtrivial 2009/01/09 22:15 >第1巻で一度は完結した物語を,続刊まで引っ張るための〈のりしろ〉とするための第2巻
3巻も4巻もそんな感じです。4巻のラストシーンなんか、「これ1巻でやっておいたらよかったのに……」と思いました。
『さよならピアノソナタ』はわりと好きな作品ですが、4巻で完結したときにあちこちで見かけた絶讃にはちょっと釈然としないものを感じました。
……と水を差してしまいましたが、どうかあと2冊続けて読んでみてください。

genesisgenesis 2009/01/10 10:48 え〜と,否定的な中から好意的な部分を汲み取ると,ラストシーンは楽しみにしていい,ということですね(^^;

genesisgenesis 2009/02/01 14:16 エントリーを書き起こすほどでもないので,ここに追記。昨晩,第3巻から第4巻まで読了しました。ん〜 こういう結末への持って行き方は苦手。ユーリの“語り”で無理に繋いでいるから,もろい。始まりの場所へとダ・カーポするという構造は綺麗なのですが,その手前で興醒めしてしまっていると,奇蹟の発動を言祝げないのです。

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Saturday, 2009/01/03

連城三紀彦 『戻り川心中』

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 昨年5月,新潟でかんでたくまさんとお会いしたときに褒めていたので買っておいた連城三紀彦(れんじょう・みきひこ)『戻り川心中』を読みました。1980年の刊行ですが,入手したのは光文社文庫版(2006年,ISBN:4334740006)。

 大正の頃を舞台に設定した5つの短編。いずれにおいても〈花〉が要となっており,藤,桔梗,桐,白蓮,菖蒲が物語に色を添える。否,添えるどころではなく,〈花〉によって解決の糸口が示唆される。そこで語られるのは殺人事件であり,暴かれるのは〈華〉すなわち女性達を巻き込んだ出来事の真相。

 推理小説であり,恋愛小説であり,時代小説でもある。

 文章そのものが秀麗であるうえ,組み立ても美しい。良いものを読みました。

追記。『桔梗の宿』に挿話として出てくる《八百屋お七》。既視感があって引っかかっていたのですが…… 思い出した。これ,桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』に出てくる《クイズ》ですね。

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