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博物士

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Saturday, 2009/07/25

[edu][Libro] 濱口桂一郎 『新しい労働社会』  [edu][Libro] 濱口桂一郎 『新しい労働社会』を含むブックマーク

 濱口桂一郎(はまぐち・けいいちろう)先生から,岩波新書の新刊『新しい労働社会――雇用システムの再構築へ』ISBN:4004311942)をご恵贈いただきました。有り難いことです。

新しい労働社会

 私が初めてお会いしたのは濱口さんが衆議院調査局にいらっしゃった時期のこと(ですが,立ち食いソバ屋で居合わせて名刺交換しただけなので,たぶん先方はご記憶にないでしょう)。実はその前に,スペインを勉強したいと言い出した私のため,EU日本政府代表部から労働省宛に送られていた「濱口レポート」を保原喜志夫教授が取り寄せてくださっていたというご縁があります。

 昨今 hamachan といえばネットの世界で咆哮する論客として名が知られておりますが,ヨーロッパの労働政策に関しては第一人者のお一人です。お得意は「労働法学」と「社会政策学」とにまたがる領域でありますが,そもそもこの分野を論じられる人物が少なく,貴重な存在。労働法では労使関係が下火になっていることや〈実務〉と言っても裁判に関わることが多いこと,他方で社会政策を専攻に掲げておられる方は法学部の構成員ではないことが多いこととが相まって,あまり連携がとられていません。メンバーからして重なっていませんしね。

 さて,本書ですが,濱口さんがこれまでに書きためられてきた記事・論文の集大成です。従って,個々のトピックを取り出してみれば既に目にしたことのある論調が多いのですが,簡約化されつつも体系的に編まれた新書となったことで,労働問題の全体状況をたやすく鳥瞰できる良書に仕上がっております。

 ただ,読みやすいし分かりやすいからといって,どのように対処すれば良いかは難問揃いなわけで,簡単に答が出るわけではありませんけれど。その点,本書では問題の所在(とその成因)を解き明かすところまでは明快に行いますが,解決案の提示については慎重な態度を示します。ヨーロッパ諸国の労働事情についてはお詳しいのに,安易に「××国では〜」というありがちな論法(通称:ではの守)を採りません。本書の中でも示されているのですが,ある施策は全体の政策選択のなかで有機的に結びついているので,部品だけを取り出してみても上手くいかない。諸外国の事情にお詳しいが故に現れてくる態度で,信頼を寄せられるところでしょう。諸外国を参照する際には,政策の「基本理念」「原理原則」を見ているところのが本書の一つの特質です。

 個々のトピックということになると,濱口論の特徴は以下のようにまとめられるでしょうか。

  • 日本型雇用システムの特徴は,正社員は《メンバーシップ雇用》の関係にある一方で,非正規社員は《ジョブ契約》である。〔→cf.
  • ホワイトカラーエグゼンプションの混迷は,報酬管理(カネ)の話と健康確保措置(いのち)の問題の錯綜にある。〔→cf.
  • ワークライフバランスでは,女性正社員をデフォルトルールに設定すべき。〔→cf.
  • 「日雇い派遣」問題の本質は「偽装有期雇用」にある。〔→cf.
  • 年齢に基づく雇用システムが変容してきたのであれば,それと親和的に形成されてきた教育・福祉についても調和を講じなければならない。〔→cf.
  • 日本型雇用システムにおいて正社員に対し生活給を支給していたのは会社による《再分配》であったのであり,そのシステムが崩れたのであれば,育児・教育・住宅といった分野を含めた《再分配》を誰が担うのかも再構築する必要がある。教育費や住宅費をまかなうのは賃金か? 社会保障か?〔→cf.

 このように,序章から始まって第3章までは制度の抜本的な改革に繋がる議論を提起しています。

 それに対して第4章「職場からの産業民主主義の再構築」ですが…… ホットな(炎上しやすい)話題が目白押しな本書の中に置かれると,実に地味なんですよね。ここで述べられているのは,日本型雇用システム(いわゆる三種の神器)の一つである企業別労働組合について。メンバーシップによって成り立つ(=正社員による)労働組合を基盤にしていた労使関係についても再構築が必要であるというのは,本書の出発点からすれば当然に湧き起こってくる検討課題です。そして濱口論では,労働組合とは異なる従業員代表組織を設立して公正さを担保するべきではないか,と唱えます。これはどのようにして集団的な合意形成を図っていくかという問題。言うなれば第3章までは舞台のプログラム(とはいえ国家レベルでの大規模なアプリケーション選択ですが)についてであったのに対し,第4章は劇場の設計・運営というハードウェア&プロトコルの問題。本書を読んだ人達のうち,どれだけの人が第4章の重要性に気づいてくれるのでしょうか。初版にかけられた帯の言葉を借りるならば《民主主義の本分》を問うているところです。加えて,政労使三者構成原則の維持(補修)を訴えていますから,表層をなぞって読んだ人からはレッテル張りに使われそうな箇所。たとえそうであっても,労使関係&集団的手続について興味関心を持って話題に取り上げてくれれば嬉しいところだと思います。


追記) 書評を逆批評されました(^^;

追記.2) 金子有事氏と若干の意見交換を致しました。

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