原田泰治美術館


 せっかく美術館が多くある諏訪湖岸に来たのだから少しは見ていきたいと思い,宿に常備されていたガイドブックで物色。ちょっと悩んだのですが,宿から近い2箇所へ行ってみることにしました。チェックアウトしてフロントに荷物を預け,開館と同時に原田泰治(はらだたいじ)美術館を訪問。ふるさとをテーマにした心象的な作風の絵を綿々と描き続けているということだったので,“あざとさ”が鼻についてしまうのではないかと危惧したのですが,なかなか楽しめました。
 ただ―― 茅葺き屋根の家や棚田を見ても,それが《日本の原風景》だとは思えないのは道産子の性でしょうか(^^;)
 その後,諏訪市美術館にも立ち寄ったのですが,こちらはまったく興味を持てない展示内容でした。まぁ,地方都市の美術館には郷土出身の作家の作品を収集するという宿命がありますから……
 宿に戻って荷物を受け取り,上諏訪1131発の特急あずにゃん14号に乗車。自由席にしましたが,平日の日中なので楽に席を確保できました。1305八王子着。暑い。涼しい信州から降りてきたせいかと思ったらそれだけでは無かったようで,この時季としては異常な猛暑が待ち受けておりました。京王八王子へと移動し,各駅停車,準特急,また各駅停車と乗り継いで東府中駅へ。

府中市美術館 『バルビゾンからの贈りもの』


 東府中駅の構内にあったコインロッカーに荷物を預け,府中市美術館を目指します。以前,府中駅から小金井街道に沿って歩いていったときは結構な距離があるように感じたものですが,東府中駅からであれば途中から府中の森公園の木立の中を突っ切っていく格好になるので清々しい(しかも道が分かりやすい)。次に来る時も此の経路を使うことにしよう。約18分で美術館に到着。もともとの旅行計画では諏訪湖岸の美術館を巡ろうかと考えていたのですが,府中で『バルビゾンからの贈りもの――至高なる風景の輝き』という魅力的な催しが行われていると知った以上,足を運ばずにはいられない。

 リーフレットだけでもわくわくするような内容でしたが,実際に会場で眺めてみると,ものすっごく良い展示でした。フランスのプチパレ美術館と県立バルビゾン派美術館も協力しているのですが,出品数は多くありません。今回の展示のうち府中市美術館が自ら所蔵する作品群が半分ほどを占めています。しかし,貸与を受けた作品を巧みに配置することで,バルビゾン派という風景画の潮流が同時代の日本にどのように伝えられ,受容されていったのかを流れとして組み立てており,大変に興味深いものに仕上がっていました。府中市美術館にやって来たのはこれで2度目ですが,ここの学芸員さんは本当に良い仕事をする。
 好みで3点を挙げておくと,ジュール・デュプレ《山村風景》,小山正太郎《秋景図》,中川八郎《雪林帰牧》かな。
 入場券を買い求めたところ「栞としてお使いください」と赤い紐を添えてくれました。ちょっとした工夫ですが,とても嬉しい心配りです。