中田秀夫監督 『インシテミル』

 映画『インシテミル』を観に行ってきました。残念な出来でした,としか言いようがない。
 まず立ち位置を明らかにしておくと,米澤穂信の小説(ISBN:4163246908)は単行本で持っています。少なくとも3度は再読しており,メタミステリーの傑作だと思っている。いうなれば原作信者なわけですが,映画はあまりにも酷くて泣きそう。
 ミステリーを映像化するにあたり,犯人を入れ替えるなどの改変は致し方ないと思っています。しかし,読み物としての面白さを演出するために用意されていた仕掛けが,ことごとく排除されてしまっている。いろいろ言いたいことはありますが…… これだけは声を大にして言いたい。
 数が減らないインディアン人形って何だよ〜。謝れ!! クリスティに謝れ!
 部屋に立てこもれないように,とか,特定人だけが強力な凶器を持たないように,といった原作では配慮されていた点が消えてしまったら,つまらないサスペンスドラマになってしまいました。切迫感も皆無だからサスペンスにしてもC級だし。
 原作を知らないことにして眺めるにしても,致命的な構成の失敗がある。《時給1120百円》や《報酬倍率》といった物語の構成要素が実質的に意味を無くしています。実験が途中で終了した場合には――というルールがなくなった映画版は,それは最早『インシテミル』の名を冠するに相応しくない。
 ドラマとして観察しても,ねぇ。足をケガしている人を手助けしようとするならば腰をさするのではなく肩を貸すのが自然じゃないの? とか,女性にばかり調理後片付けをさせるなよ,とか,帰りもちゃんと送迎しろよ,とか,ツッコミを入れながら観るには良いかもしれない。