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2012-10-31 Jコレクション読破への道3 深堀骨『アマチャ・ズルチャ』

ハヤカワJコレクション読破への道 第3回 深堀骨『アマチャ・ズルチャ』

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アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)



ミステリマガジン』『SFマガジン』掲載の短編七つに書下ろしを加えた著者初の単行本。本書は、SFにもミステリにもおさまらず、もはや形容不可能な作品群を形成している。この作品はJコレクションがなければ出版されていなかった可能性が高い。だからといって面白くないわけではない。いやむしろ、面白い。


例えば「バフ熱」。スルメを加工した「食べられる洗濯鋏」の発案者・棟方志郎は、風邪かと思い病院へいったら、「バフ熱」と診断される。原因は、浅蜊と全く違わないバフ貝を食べてしまったこと。やがてバフバフとしかいえなくなり死ぬこの病気に治療法はない。志郎は生きている間に発明を完成させようと、研究に没頭する。他には「愛の陥穽」というラブストーリーすらある。語り手・牛於は父親と一緒に、母親の急変に悩む。突然、路上のマンホールのふたを「うすいさん」と呼び、こっそり自宅に持ち帰って大切にし始めたのだ。彼女は、まるで恋人に話しかけるかのように「うすいさん」との(一方的)会話を楽しんでいる様子。父親と牛於は、彼女がボケてしまったのではないかと、気が気でない。


これら荒唐無稽な物語を成立させるのは、深堀骨の独特の語り方。「闇鍋奉行」という江戸時代ものを読むと分かるが、登場人物たちの会話は落語を連想させるテンポで進む。気がつけば「じゅげむじゅげむ」という異様な名前を唱えてしまうリアリティが落語に宿るように、本作にも「バフ、バフ」を読者に意外と容易に受け入れさせる力がある。