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2008.03.17.

[][][][][]OGC2008と「コミュニティピラミッド」─CGM的視点から見たTRPG市場考

前説

 この文章は、OGC2008イベント参加を基にした高橋自身の説であり、講演者自身の意見と直接の関連を持つものとは限りません。ご注意ください。後日、資料の補正を必要とする意見が多数含まれています。(2008年03月18日現在)

本文

 先日金曜日(2008年03月14日)、ベルサール神田3Fにて「オンライン・ゲーム&コミュニケーション・サービス・カンファレンス2008(OGC2008)」が開催されました。

■OGC2008
 http://www.bba.or.jp/ogc/2008/

 日本ゲーム研究やITサービス研究者のトップクラスの人々が講演する大会。とても勉強になりました。特にWIRED VISIONで連載を持っている情報社会学者・濱野智史氏による「ニコニコ動画≒ゲーム論」は、新清士氏のMOD戦略講演*1山口浩鈴木健両名による「スノウクラッシュから電脳コイルへ(Augmented Realityに関する講演)」*2に引けを取らない、大変刺激的な内容でした。ニコニコ動画が「キャラクター(文字)を介入手段とした強制横スクロール型RTS*3である」とか「ニコニコ動画内は〈擬似同期〉〈瞬間同期〉〈真性同期〉の3種類による〈多元時間型アーキテクチャ〉が実装されており、それらはすべてネタ攻撃のために使われている」といった話をしていたのですね。

 手法としては、真面目な数量解析というよりは「批評」的な手法。通信サービスの一種として捉えられてきたニコニコ動画の特徴を、〈ゲーム〉にまつわる概念群で説明し“尽くす”ことによって、逆説的にニコニコ動画のサービスの特性を洗い出すというアクロバティックな思考を、一時間まるごと開陳していました。その講演を見に来ていた白田秀彰氏にも好評だったようです*4。最後のフリートークセッションでは生ひろゆきを思いがけず見られて、なんだかキャッチーな意味でもたくさんの収穫があった一日でした。

 さて、ここからは資料提示。

 今回のOGCでは、新清士氏と濱野智史氏の両名が、Will Write*5の「コミュニティピラミッド」を参照しているのが印象的でした。

 詳しくはWillの資料アーカイヴからGDC2001のぶんをダウンロードしていただきたいのですが、このプレゼン資料の72番目から、『The Sims』のMOD戦略についての説明が始まっています。これをゲームデザイナーのRaph KosterがWebサービスにまで拡張して論じたページを踏まえて、新・濱野両氏の「CGMマーケティング戦略論」が出発しているわけですね。

f:id:gginc:20080317111624j:image

 上の図は、ユーザー自らがクリエイティヴな活動を行う人々の分布と段階を示しています。

  1. カジュアル・プレーヤー(気楽な、その他大勢の参加者)
  2. コレクターブラウザー(収集家、ウンチク好き)
  3. ストーリーテラー(自分で物語を作り始める人)
  4. コンテンツ・アーティスト(芸術的な作品を作り上げる人)
  5. ウェブマスター(プレイ環境の維持・発展に貢献する人)
  6. ツールメーカー(CGMの基礎となる道具を提供する人)

 こんな風にウィルは定義したわけですね。もちろんウィルは栄誉ある「ツールメーカー」、ゲームデザイナーの一人です。

 たとえばこれを濱野氏は、ニコニコ動画における「コメント文化」を分析する時にこんな順序で整理しました。

  1. レベル0:コメントをOFFにして見る(ようつべとかわんねー、画質わるー)
  2. レベル1:ネタに脊髄反射的反応を返す(ちょwwwまwww)
  3. レベル2:“敵情視察”(動画の外部から内部へのネタ誘導,市場・タグ・うp主コメントなど)
  4. レベル3:支援/保守(あ、あの神コメ消えてる。しょうがない、俺が入れなおそう)
  5. レベル4:ネ申 (コメ職人。あるいは動画そのものを投下する人々)
  6. クラスチェンジ:外部ネタからレベル4へ("nice boat.")

 若干対応してないところもありますが、浜野氏はこの「レベル0〜1」のあたりの敷居の低さがアーキテクチャの実装によって保証されていることがニコニコ動画の強みであること、そしてその敷居の低さが、「レベル4」でがんばっている人たちの凄さを知らしめるきっかけとなっていることを強調していました。

 ニコ動はその意味で、大変MOD的な要素を多く備えており、もしかすると「2007年最高にバカ売れしたゲームかもしれない」、という話が濱野氏の主張の一部としてありました。

 さて、私は、1974年から登場したTRPG(会話型〈ロールプレイング・ゲーム〉)や、その要素がコンピュータで展開されたMUD(マルチ・ユーザーダンジョン)が、ニコ動での「初音ミク」や「友人マリオ」などと同じCGMに属するコンテンツであることを何度か指摘してきました。よく「ミドルウェア」という呼び方をしてきましたね。

「GOD AND GOLEM, Inc. Annex A」MOD関連の記事検索結果一覧

 そして私は、「ツールメーカー」つまり〈システムデザイナー〉に優秀な人はたくさんいるけれど、その下の生態系ピラミッドがガタガタになっているのが今のTRPG市場なんじゃないかという考えを持っています。

 名GMが評価されるような基準はそれほど育っていないし、カジュアルプレーヤーが色んなTRPGを始めるには人材・経費・場所などコストがかかりすぎる。もちろん色んな努力をしている人はいますが、課題がまだまだ山積みなのは、がんばっている皆さんご自身がご存知の通りでしょう。

 ツール製作者50人を支えるような300万人以上のライトユーザー。これが『Sims』の築き上げたMOD市場でした。しかし、TRPG市場はどうなのでしょう。今のシステムデザイナーを支える競技人口は、今いったい何人くらいだとプロの方は見積もっているのでしょうか。

 私が〈ゲームコンセプト〉〈マスターリング〉について、ともすればシステム評価よりも優先してあれこれ論じているのは、TRPGシステムというCGMコンテンツを「うまく扱う」人々(と、そんな練達の人々を適切に評価する基準)をたくさん作った方がよいだろう、と考えているからなんですね。

 さて、もし上のピラミッドを以下の3者関係──

  1. 環境開発ツールの開発者
  2. 環境開発ツールの運用者
  3. 運用者の作品を楽しむ者

 に要約できるとするならば、CGMマーケティングで想定されるこの3者間関係の「中間層」を育てることこそが、CGMマーケティングにおける重要なポイントとなってきます。

 動画投稿者やコメ職人がいなければニコ動運営側と会員の両方が泣きを見るように。

 名演奏家がいなければ楽器業者とアマチュア音楽リスナーの両方が成り立たないように。

 優れた〈ゲームマスター〉を支える市場・批評がなければ、〈システムデザイナー〉〈プレーヤー〉の両方がずっとTRPGを楽しむ環境はうまく提供できないと私は考えます。

 何度も繰り返し主張していることではあるのですが、今回ようやくデジタルゲーム研究の最新知見を含めて説明できた感じですね。

 ゲームデザイン・ツール」を売る市場は、単にデザイン論だけでなく、コミュニティ論についても語らなければならないフェイズに移行しているのです。少なくとも今のデジタルゲーム研究の最先端はそういう傾向がどんどん強まっていますし、この点については、むしろアナログゲームTRPGの方が先行して進めるべきことだったとすら思うのですが──、ま、TRPG“論壇”はあっても、TRPG学会”はないのですから、しょうがないですね。しばらくは粛々と“デジタル”ゲーム研究者たちの知見に学ぶこととしましょう。

*1:ちなみに新氏は国内ゲーム市場研究の第一人者的存在でもある。連載コラム「新清士のゲームスクランブル」は、ゲームの国際市場動向を探る人にとっては見逃せない連載ばかりだ。

*2:なお、この路線で彼らはこの春、国際大学GLOCOMで3ヶ月連続のシンポジウムを行う。第三回の5月には『電脳コイル』の監督、磯光雄氏を招いたAR対談を行う予定。

*3:リアルタイム・ストラテジーの略。「WarCraft」などが有名。

*4:私は以前から顔をメディアで知っていたので、立っているのを見て驚いてしまった。

*5:いわずと知れた『シムシティ』のデザイナー。彼のプレゼン資料を見てると、さすがに「頭が良すぎて、かなわない」という気分になる。

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