新たな半魚人を創造する際、ギルマンの意匠を一切使わずに成し遂げることは難しいと書いたことがある。成田亨は、ラゴンについて「ごく当たりまえに半魚人をデザインしたものです」と述べていたが、つまり1965年の段階で、すでにギルマンは半魚人のスタンダードであり、彼ほどの才を以てしてもイメージを刷新することはできなかったということだ。*1 しかし今回紹介する怪魚獣ギルモスの場合、それを逆手に取っていて、ギルマンそのものをデザインモチーフにしてしまっている。半魚人の怪獣ではなく、ギルマンの怪獣なのである。インディーズソフビならではの好アプローチといえるだろう。
で、半魚人といえば、ギレルモ・デル・トロの『シェイプ・オブ・ウォーター』だ。*2 第90回アカデミー賞における4部門最多受賞は、ファンとして大いに感じ入るものがあった。あのスティーヴン・スピルバーグでさえ、怪獣の出てくる映画ではアカデミー作品賞を獲ることができなかったのだから、これはもう本当にすごいことだ。ただ、今後も同様のことが起こりうるとは思えない。14年前、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』も受賞したが、怪獣を取り巻く状況は何も変わらなかった。でも、別にそれで構わないんじゃないかなあと思う。少なくとも自分は、別に怪獣映画を認めて欲しいわけではない。
怪獣映画というものは、なかなかウェルメイドな仕上がりにはなってくれないジャンルであり、しかしだからこそ世のボンクラどもの心に突き刺さるのだ。決して万人と共有できるものではない、正しくフェティシズムの世界なのである。だが、それはそれとしてデル・トロの受賞そのものはめでたい。彼の映画人生は、決して順風満帆なものではなかったからだ。もちろん、もっと不遇な作家は大勢いるが、これでようやく才に見合った扱いが受けられるんじゃあなかろうか。何年も温めていた渾身の企画が、理不尽な理由で流れてしまうことは、怪獣ファンにとっても痛恨の極みなのだ。頼む、こちとらショゴスに追いかけられるトム・クルーズの姿を待ち続けてるんだよ! テケリ・リ! テケリ・リ!
モンスターファイルシリーズ 怪魚獣ギルモス/ドリームロケット