組織疲労
誘われて山崎豊子原作の「沈まぬ太陽」を観た。連れ合いは本に挫折していて、映画で済まそうというわけである。3時間22分という大長編。なんと途中休憩が入る。昔はよくフィルムの交換で休憩が入ったものだが・・・。
観終わって、こころは穏やかならずである。何がというと一言「今もまったく変わってない」ということ。最優先であるはずの「安全」は今、確保されているのだろうか?
話は1985年の日航ジャンボ事故を中心に話が前後しながら進む。主人公の恩地は日航労組の委員長でストなどの労働運動したことからパキスタン、イラン、ケニアと海外の僻地をたらい回しにされる。20年以上も前の当地は過酷な状況だったことだろう。
その間会社側は組み合いつぶしを画策し、御用組合を擁立する。そこに御巣鷹山事故が起こるのだ。会社は事故処理の責任者として海外から恩地を都合よく呼び寄せるのだ。彼は誠心誠意その役目をこなす。しかし・・・いろいろな力学や利権が働き、結局彼は遺族に対するお世話をし続けたいという希望を残したまま、またケニア赴任を言い渡されアフリカに渡る。彼は何度も「安全を最優先すべき」と会社側に訴える。しかし、出世や権力、利権のため、政界財界との癒着、画策、不正が渦巻き醜い人間関係は生き延びる。核心部分までメスを入れられないまま改革の芽はしぼみ、物語は終結する。
原作を読んでいないのでなんとも言えないが、誠実な作りになっていると感じた。監督も原作の思いを尊重していたのではないだろうか。映画の最後には「フィクションである」と断わりのテロップが流れたが、観終わってのもうひとつの感想は「よく上映できたな」というものだった。作品は日航ではなく国民航空となってはいるが、誰もが日航と容易に知れる。日航としてはかなり立場が悪い。2000年の週刊新潮連載当時から圧力があり、映画化もなかなか実現まで行かなかったと聞くが、さもあらん。今回も圧力がかかったという噂がある。
時代は1960年代からはじまるが、その地続きに現在の日航はある。そして経営の危機にたたされている。いったい安全は確保されているのだろうか?そしてさらに背筋が寒くなったのは、その体質というもの、仕組みというものが、日航だけに限らないと思えること。各省庁や族議員との関わりにおいて、どの世界でも大差はないであろう。郵政民営化の問題ではどうだったか。安全を最優先させるべく原子力発電ではどうなんだ?山崎氏が書いているように、命をあずかる医学界ではどうなんだ?
主人公の恩地にはモデルがいた。もうなくなってしまったが、アフリカの地で定年後も活躍したらしい。そこで山崎氏と出会う。彼が東大の学生に話した講演を見つけた。筋が通った生き方をした人のようだ。
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