哀しみを足場に
車内が一番読書がはかどる私は、電車に乗るのが楽しみなのだ。だが厚いものや、大型のものは不向きである。そこで、プリントアウトなどをして持ち歩くのだが、8枚ほどになった文章を乗換駅で落してしまったようだ。乗り換えなので、ちゃんとバックに入れずはさむ程度にしておいたのがいけなかった。
文章は季刊『文芸春秋』から藤原新也×帯津良一対談。タイトルはメメント・モリそのままの「死を想う」。帯津氏は医者でありながら、常に「死を想う」ことが養生の一つと言われている人で、ホリスティックな視点での医学を提唱している。考えてみれば、医療者、医療現場者が「死」を遠ざけ、忌み嫌っていることのほうがおかしな話だと想うのだが・・・。
死を横に置いた医療も、藤原氏の著作がきっかけと言われるDr.帯津が感銘したフレーズをいくつか挙げて紹介いる。「生きているあいだに、あなたが死ぬときのための決断力をやしなっておきなさい」、「どちらに行けば極楽でしょう。どちらさま天国、どちらさまも地獄。世界はあんたの思った通りになる」。それらの言葉からエピソードが語られていく。そして藤原氏は「死とは、死を賭して周りの者を導く、人生最期の授業」という言葉を改訂版に新たに入れたという。どんな教育も適わないほどの何かを、死は教えている。
そして『コスモスの影にはいつも誰かが隠れている』からのあとがきにはやられたと帯津氏は言う。「悲しみや苦しみの彩りよってさえ人間は救われ癒される」「悲しみもまた豊かさなのである」。私もあとがきを読みジンときたくちである。人間の本性は「哀しみ」だという帯津氏は藤原氏の「明るい奴には気をつけろ」という言葉も痛感しているようだ。哀しみを足場に希望の種をまけばいい、最初から明るく前向きなどはできないものなのだと。
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