新・総キャラリスト

変身・形態変化は除外
また、旧版リストからデザインが曖昧か、設定や展開が薄いキャラを除外
パラレルや、変身等で大きく形の変わるものはリストに入る。
把握出来てないキャラとか抜け落ちとかも普通にある。

違反の思念イハン=メモラー(BAD Ruler・完全体)
対在する違反の思念ルコ=モノトーン(THE OVER・完全体)
夢の思念九十九街道宮橋
???の思念アズゥ=ブラックヘイズ
???の思念オグ=ホワイトパレット
嫉妬の思念エンヴィー=クインブリッジ
期待の思念ルーツ=イクスペクト
浪漫の思念グリフ=インテントルーイン
反転の思念インヴリジス
次元の思念サンド=シンド
接断の思念リリルラ=アルリリ
神秘の思念ミスト=テリオス
規約の思念プリズム=パーミット
ハンドア
メモリア
ロールシャッハ
界外生命体:ペルゼルナーザ
界外生命体:Д/V0И][{V}(L§L|
界外生命体:オルドヘルズ
界外生命体:アハト・アハト
界外生命体:フゥエルハウア
界外生命体:クラウンパルス
界外生命体:セントテンピー
界外生命体:ストレンジア
界外生命体:アンディファインド
界外生命体:ハルラベイル
界外生命体:ゼアオルデ
界外生命体:ガングリオン
界外生命体:ハイランダー
界外生命体:ゴッツミトル
イハン
オグ
ルコ
アズゥ
エンヴィー
宮橋
ルーツ
グリモワール
クロニクル
バイブル
スクロル
ネクロノミコン
マニュアル
魔導賢人アークトゥルス
知識賢人デネボラ
神智賢人スピカ
とっしんさん
ぐんそうさん
界外生命体:アンノウンさん
かんつうさん
高原
きょだいせんぱい
アイアンメイデンさん
マミーさん
しょーぐんさん
げんすいさん
角砂糖先生(かくざとうせんせい)
野丸先生(のまるせんせい)
笹井先生(ささいせんせい)
日間先生(ひませんせい)
Not
DiS
冷蔵庫(Dr.サヴィー)
氷宮冷子
ケルビン
サラム
マイナスケルビン
葉柳紅葉
百花繚乱
ユグド
ディーネ
カノッサ
筍御飯(スンユーファン)
筍雨後(スンユーホウ)
筍孟宗(スンモンゾン)
筍千島(スンチェンダオ)
筍峰山(スンフォンシャン)
栗御飯(リーユーファン)
栗金団(リージントゥン)
焼茸(シャオロン)(黒焼茸(カオスシャオロン))
刀嵐(ダオラン)(禍津刀嵐(カオスダオラン))
天蕎麦(テンチャオマイ)
焼飯(シャオファン)
刀狩(ダオショウ)
廻龍(フェイロン)<天叢雲(アマノムラクモ)>
セルラ=グランギニョル
Dr.グランギニョル
Dr.ヤーヴェ
Dr.ダガ
Dr.フカノ
Dr.サヴィー(冷蔵庫の中の人)
クロカード
サイフォン
ミリタリー
ドガ
ファイザー
バベル
セル=アイアンメイデン
エンフェル=サイス
ギルザード
ハルバード
Dr.アリエ
レッドギルザード
トロック
ディンゼム
アーツ
シャトレイゼ
ケアリル・リアクル
ビィ
りゃりゃ
デビックス・リアクル
どりゃごん
エターナル・リアクル
フェルク・リアクル
スズカ・アルフォード
プリンビィ
ロッコビィ
でかいビィ

太よーくん
暗こくん
冷とーくん
台ふーくん
も雲くん
ちくたくん
だんでぃー太よーさま
ユウキ
アツキ
リョウヘイ
アキト
ポン太
オウル
リボルト
不死身くん
漆黒の不死身くん
マンゲーグー
ウーマンゲーグー
マンゲーグーMAX
マンゲーグーMAXディメンジョン
サバディ
大天使サバディ
イレイザードラゴン
クロウラー・アルタイル
マイ・アルタイル
ラウロン・エリダヌ
アーバン・スクエア
リグロン・ドラゴンフライ
レクシル
ゴルギア
ファミクル
小石
山田
田中
伊藤
やたいましと
プライム・サンガ
プーマン
プーミン
二宮さん
バーレン
ホーリアー
ダリアー
グレイロード
グランブレイバ
ピーマン
パプリゴン
キャロルゴン
ラディアゴ
エルハイア赤
エルハイア白
マチャップ
ダークドッペル
にぃにぃ
カルス
エラメス
つっちー
ベルギルグ
陽光
ダーゼスト・サラマンダー
ルクス・サラマンダー
ラスティー・スランカル
ディングリス・スランカル
リンクラー・サラマンダー
メビウス
インフィニティ
ジェミニ
あの方
その方
この方
メガサファイア
にんじんさん
だいこんさん
プロテインさん
スピリットルビー
大災伝説神龍レジェンディア
必殺矢汁死君
ダークマターメテオ
最強破壊神クリスタラー
ぎゃー
刃竜ジャギロス
グングニル
ゲイボルグ
ジャベリン
バルムンク
べりべりー
ベリアント
ジェノア
緑ヶ丘森治
ラプラス
ラプラス
新月夢魔
トラベル
クエイク
ヘキサドラゴン
ペンタドラゴン
ドラゴンレイル
パンドラドラゴン
ヤマト
ソウルイーター
グランガイア
グリーズ
アンノーン
コーガ
バイヤー
イージア
ハードラ
バックログ
ソエリオール
ニンジン
ジェール
ニュー
ゲイザー
ランダー
ファンクス
ノア
ハデス
イビル
フーラン
ライノス・フロストフィールド
アノン・フレイムフィールド
カラーズ
カラーナ
モノトーン
バイダリアス
ゾルゼムス
ラルス
マミーナ
リーン
リミルナルク
リー
ポプラ
ウッドくん
強雷(ごうらい)
クルセイド
アルフェッカ
アセレス・ボレアリス
アセレス・アウストラリス
スズキさん
マスター
それ
プランテット・アース
ラスト・ディランス
ミラン
クラウド
メカボルン
カイサー
ファイン・イフリート
コールディー=リーザラ
レクシル
リクス
ゼクス
アフター・ゼロ
黒神ゾラ
ルーペ
マップ
マスト
アンカー
デッキ
キャノン
トレジャー
アストロ
マッドラン
ウイ
ジャック
トルーノ
ルダンバオ
アトラード
プロキオン
ノドゥス・セクンヅゥス
ノドゥス・プリムス
デネブ・オカブ
ナシラくん
アルタイル
レグルス
ミカヅキ
マンゲツ
ルビー
ナクア
リュードー
スー
ポーラ
ジークフリード
デヴィー
エイリョンツァイ
陽極神ソル
月極神ルナ
天極神ジギルロア
ポー
エクタン
スー
トォー
セヴラル
パルドーニャ
リバリーガル
アダガット
ベンジャミン
イーヴィルトレント
創造神クリエリア
破壊神デストリア
イビ
ビル
ウロロ
アパラーヌ
妖精王アルフェリア
オルファス
キャンディーラ
森林大精霊ワカバ
ルーゲン
アルビレオ
サファイア
トパーズ
ジュエリー
クリスタル
輝星神アークトゥルス
精霊神リッカオ
イゼリオナーガ
アルファード
ハルト
ディスハルト・アゼルベイガ
アノア
エオリア
音音音音(おとなりねおん)
一基満足(ひともとまんぞく)
二次元華(にのつぎもとか)
三暗刻単(さんあんこうひとえ)
四濡通雀(しぬがよいすずめ)
五林中日蓮(ごりんじゅうにちれん)
六道廻(ろくどうめぐる)
神龍七星(だいじゅんりゅうななほし)
八童蝦煎(やわらべかいり)
武九旅ヨミ(むくろよみ)
十慕木子(じゅうぼここ)
壱拾壱御門(とおひとみかど)
サンタ・ディーサムベル
天使リエ(あまつかりえ)
御前神ルエ(みまえがみるえ)
忌数反理(いみかずはんり)
回回回(えかいまわる)
駆井尊(かるいみこと)
超珍剛数弥(ちょうちんごうかずや)
狩暮千代子(がるぼちよこ)
赤光波虎(あかみつぱとら)
日鳥膳(ひとりぜん)
伊藤差寺(いとうさてら)
出降宇宙(でふりそら)
敦出池叶多(とんでいけかなた)
針翠霊羽(はりすいれいは)
秋桜慧星(あきざくらえぼし)
田畑案山子(たはたあやこ)
百目百子(どうめももこ)
京樹佐多吉街(きょうきのさたよまち)
斑若蘭香(まだらわからんか)
幕揚千草(まくあげちぐさ)
神宮雨依(かみやうより)
敦出池床下(とんでいけどこか)
勝割繰身(かちわりくるみ)
七竈利好(ななかまどりよし)
知弩盾子(ちどたてこ)
藁蘂古麦(わらしべこむぎ)
型繰瑠璃子(かたくりるりこ)
黒衣遣陰(くろごやかげ)
ティンクルリーヴァ
ラオユン
ジョーカー
ノート
ゼクセルハイド
神(しん)
神(かみ)
物理神モノグラム
変格神アナグラム
アイゼン
撃敵大壊造ストレングス
撃敵大怪造トランベリオン
撃敵大怪造ジークグライア
撃敵大怪造ヤデスムリデス
撃敵大怪造ジルギルガルグ
撃敵大怪造エルダリゲニオ
撃敵大怪造スパイルレギオン
撃敵大怪造エンゲルハイム
撃敵大怪造ゴバックリタニエ
撃敵大怪造ビフォウアフター
アーケル=シン=ノット
グラサージュ
カスタード
グルコース
ムラング
グラサージュ
ネージュ
しいたけ
バカだろう
あれ
なんかすごいまっちょ
霊芝龍ガノデオロン
やかん
ユギリ
ユゲ
ユザメ
ユバ
ユアミ
ユセン
ハンガー
タクシー
レイン
レリィ
清葬員アリシア
ミューク
ラーク
堕落天使サヴォル
空腹天使ハラヘル
天召天使シンドル
解錠天使アイテル
怠惰天使クーネル
鈍重天使ダル
味素天使デジル
炸裂天使ハゼル
破折天使ヘシオル
絶叫天使アラゲル
氷結天使コール
略奪天使ブンドル
黙殺天使ダマル
愚痴天使ダベル
訪問天使タズネル
週末天使カタストル
遠路天使ハルバル
呼応天使ヨンデル
要塞天使サエギル
装飾天使デコル
老逐天使カレル
アーザス
オーザス
ラプ=ルプシ
ペイントレイド
ジン
セアフ=ナーガ

454体。

【旧世界】未知共探の食文明

「いらっしゃい、って何だアンタか」
「何だとは何だ。私は客だぞ、丁重に扱え、そして敬え」

此処、食文明に一人の浮いた存在が転がり込んでくる。
名をプロト。プロト=フィロソフィアだ。

私は人の名を覚えない、そして人の顔も覚えない。
食堂を経営する以上、人の顔は沢山見るし人の名も把握しきれない。
なにより興味が無いのだ。覚える必要が無いなら頭に留めておく道理も無い。
必要さえ無くなれば既に記憶から掻き消えている。人と関わる機会が多いと関心も分散するから忘却自体は随分と容易いものだ。

そんな中で彼女は私の数少ない友人。名を覚えており顔も覚えている者の一人だ。
その場合店に入ってこようが『客に対する必要最低限の対応』さえも必要無い、存分に砕ける事が出来る。相手を『客』としては扱わないのだから。

「んで?用件は何?」
「貴様が頼んでいたモノが出来上がったのでな、さっさと貴様に押し付けに来た」
「お?もう出来たの?まだ3日だよ?随分早いじゃん?」
「私を誰だと思っている、この程度のポンコツならば本気を出せば1日さえかからずとも作れる、敬え」

彼女は言葉では言い表せない程のすごい かがくの ちからを行使する。分野としては科学に留まらない辺りさらに万能だ。
確かに敬うに値する程の実力はあるが如何せん性格がクソだ。この通りクソだ。

私が彼女に作らせたもの、それは「私」である。
何を言っているのかわからないだろうがつまりは私の代わりとなる存在、要するにロボットだ。
私はよく店を開ける、それも不定期に。故に私の代わりの店番を用意したのだ。

「しかし、確かに貴様の要望通りには作ったが、良かったのか」
「何がよ」
「あまりにもAI面が簡素すぎる、単純な呼びかけに対してプログラムが用意した返答を述べ、遂行するだけ。これではランダマイザーだのbotだのと変わらないぞ」
「最悪店番さえ出来ればいいんだよ、それで客が不快になろうが所詮その程度の客だ」
「お前クソだな」
「お前に言われる筋合いも無い」

そんな感じで罵倒を浴びせながら、プロトは精巧に作られた私そっくりの何かを乱雑に店内に運び出す。
嫌に長いまつげから霊体まで完全な再現っぷりだ、思念体の研究にも一目置いているようで、霊体に関してはおそらくそれの応用が色濃く出ているのだろう。

「それとだ」
「ん?」
「コイツの返答パターンに私を賞賛する趣旨のものを勝手に、そして当然のように加えておいたから感謝しろ」
「やめろよ!」
「何故だ!」
「やめろよ!!!!」

バシバシと『グリフさん』を叩き、鐘でも打ち鳴らしたかのような金属の音を響かせるプロト。
それを尻目に、食堂の引き戸がガラガラとやかましい音を立てながら開き、暖簾を潜りながらのそっと食堂に入る人影があった。
その人影も、『客』ではない。

「うーっす店主さん、メシ食いに来たっすよーいや何で店主二人おるん!!?」

共感の思念、レゾン。
レゾン=シェアエモート。私が名を、顔を覚えた人物その二だ。あとそのツッコミは最もだ。

「丁度良かったぞレゾン。ちなみに私が本物だ、プロトに店番ロボを依頼してな」
「ああそっちが店主っすか、しかしウリ二つっすね、思わず驚きましたよ」
「そうだろう、私の貴重な3日間をわざわざ費やして生み出されたマシーン・グリフ=サンだからな、出来が良いのは当然だ」
「問題は、正常に機能するかだな、まさか爆発はしないよな?」
「させても良かったんだがな、ド派手に炸裂させるには積める火薬が足りんかった、ビジュアル面と機能性の両立はまだまだ課題点だな」
「デフォルトで搭載予定とは…科学者の鑑っすね…」
「そうだろう、もっと褒めていい」
「褒めてないぞ」
「ともかく作動させてみせてくれ、精巧すぎてぱぅあボタンに該当するものさえ見当たらないんだが」
「髪に隠れた右目の眼球がとても力強く奥深くヒネるように押せるようになっている」
「エグい!!」

眼球を押し込み、ちょっと嫌な音を立てながら『グリフさん』は起動する、クソAIと言えど、動きとしてはとても滑らかで人工物にはとても見えない。
それでも思念体としての性質を感じないあたり、あくまでプロトによる「思念体メカニズムの応用」に留まった存在である事が伺えた。
そもそも性質まで精巧に作られていたら、私、あるいはこのグリフさんのどちらかは『性質が持つ法則性』によって消し飛んでいる。幾度と死んでいる私だが、そればかりは考えたくない。

しかし起動、並びに稼動はまだ序の口、問題は私の了承範囲において店番が可能かどうかだ。
このグリフさんは『>グリフさん』という呼びかけに対してのみ反応を示し、行動を起こす。その内容はランダム。先程プロトが言った通り、簡単な呼び掛けに対して定められた事しか出来ないランダマイザー。

まあ結果としては、私の定めた「店番」の範囲には適っているため問題は一応は無い事になるのだが、事としては散々である。
冷蔵庫を連続で開閉し、特に何かしてるわけでも無しに手が離せなかったり。
なんか謎の接続媒体を呟いたり、プロトを褒め称えたり、そしてディストーションフィニッシュだ、足は無いのに。

「中々に強烈な蹴りだった…」
(蹴りとは)
「で、どうなのだ、一応忠告した通りこんなザマだが、大丈夫なのか?」
「ああ問題無いぞ」
「無いの!?」
「一応料理の提供は出来たじゃん?運命要素強すぎるけど、店番自体はクリア出来てる」
「出来ているのだな、コレで」
「出来ているんすね、コレで」
「別にまかせっきりというワケでもない、店の方を私が疎かにしてしまっては私のロマンが一つ減ってしまう。それはヤダ。あくまでグリフさんの導入は不定期経営への対策じゃん、これで問題ねえって」
「まあ貴様が満足だと言うのであれば、これからそのポンコツは貴様のものだ、好きにしろ。それよりもだ」
「何ね」
「貴様のガラクタ作りに付き合わされてかれこれ3日という月日、まともな物を口にしていないのだ」
「『3日の』『月日』ねぇ?」
「私の3日とはそれに相応しいまでの貴重な時間なのだ、ならば?何かそれに見合う代価を支払う義務が貴様にはあるのではないのか?」
「そうっすよ、食べに私ももうお腹が減ってしまって…お金は無いっすけど…」

「ふむう、そうだな。元より汝等が『金』を払った事は無いが、グリフさんの完成を祝して、今回の御代はサービスしよう」
「そう来なくてはな」
「実に有難いっすッ!!!」




「此処のメニューはゴハンとトン汁、それ以外ならば可能な範囲で振舞う事が出来る。さあ、注文を聞こうか」

今宵の食文明にも、少し奇妙で、何も変わらぬ時が過ぎる。
その店に迷い込むのは、ただ飯を食うためか、それとも、一時のロマンを求めるからか。

そんなものは誰も知らないし、誰も知ろうとしない。

動手帳繰形劇〜Tragic Grand Guignol

あれとかそれとかこれとか

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■0.あらすじ
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日陰の地――
物が無くなったり新たな名所が出来たりと、祭りのように賑やかだったのは既に過去の話。
季節の移ろいと共にその余韻は失われ、この地には静かに冷たい風が舞い込んでくる。

かつての騒動が残した爪あとは瞬く間に舞い込む風と共に流され、
代わりに冷え込む気候だけを残していった。

本格的な冬の到来と共に、神明神社の巫女、伊沙弥 神巫は知った顔を数人集め、年明けに向けての準備で
大忙しのようである。初詣にも知った顔しか来ないのに、健気と言えば健気である。

  守「此処においといたらいいのかな?」
 黒奈「ん、まあいいんじゃないか?後で神巫がどうにかするだろう」
  廻「しかしだな、普段より人の来ないこの神社に、初詣だからと参拝客が来るのかい?」
 黒奈「来るワケ無いだろ」
 虹子「見かけるのも何処かで見知った顔ばかりのような気がしますが」
  空「そんな無駄な事をさせられているのか?私達は」
 黒奈「無駄では・・・ないと思うぞ?結局大宴会にしかならんのだが」
  守「お客が誰であれ、賽銭がマトモに入るのがその時だけだからね・・・まあ目を瞑ってもいいんじゃないかな・・・」
  廻「おおナムアミダブツ!!」
  空「お前が言うとわりとシャレにならない」

神巫が留守である事をいい事に随分と言いたい放題の面々、座敷わらしの衣流芽守と詐欺師の鳴神黒奈を始め、
かつての異変で関わった者達が集結している。

死神、六道廻。河神の如き力を持つ白蛇、白雲郷虹子。そして付喪神である風鈴空。
その光景は統一性がなさすぎてなんだか異様である。

  廻「ここで奉ってる神なんかはどうやって生きてるんだい?信仰あるの?」
 黒奈「存命手段は不明だな・・・」

各々が愚痴を溢しながらも準備を進めている傍ら、くしゃみを連発しながら境内へと足を運ぶ姿があった。
そのくしゃみを量産している人物こそ、伊沙弥神巫である。隣には人里で花屋を営む半妖の少女、浅間桜もいた。
おそらく神巫に捕獲されたのだろう。見事に荷物を持たされている。

 神巫「へっくしッ!まったく何なのかしらこのくしゃみ・・・」
  桜「風邪でも引きましたか?」
  空「誰かに噂でもされているのだろう、お前も人気になったものだな。ある意味では」
 黒奈(私達に他ならないではないか)
 虹子「しかしまあ、随分と時間がかかりましたね。桜さんにも手伝って頂いているのに」

神巫が買出しのために神社を後にしたのは、既に2時間も前になる。
特に買い物の量が多かったわけでもなく、ものの30分もあればカタのつく程度のものだ。
まさか神巫が何を買うかで迷うなんて事もないだろう。そうに決まっておる。

 神巫「ちょっとばかし邪魔が入ってね・・・というか、アンタ達だってもう経験済みじゃないのよ」
  桜「ちょっと異常とも言えるレベルですよね、あの数は」

最近、この日陰の地全域で自立する人形を見かけるようになった。
かつての異変の最中に、数体の自立する人形と遭遇した事はあった。死期を知らせる物や警告を促す物。
しかしその程度と言えばその程度、頻度だってそこまで多いワケではない。

ところが、最近遭遇する人形の数は、桜が言うように異常とも取れる程なのだ。
行く先々で人形人形・・・、里に至っては人集りが出来ているくらいで、その半数以上が自立人形だ。
そのあまりの異常性に、里や森、山、教会などの面々から神巫に調査の依頼が何度も出ている。
例外として人形が沸いて来ないのは、この神明神社だろうか。どうしてマカロン

しかし神巫は心の中で「普段賽銭くれないクセにこんな時だけ」と僻みながら、結局調査に乗り出すには至っていない。

  廻「さしずめ、人形の軍勢にもみくちゃにされてなかなか帰るに帰れなかったといった所だろうか」
 黒奈「飛べよ」
  守「人ごみの中ってどうしても動きづらいもんね・・・」
 黒奈「いや飛べよ」
 神巫「まあそんな所ね、桜に手伝ってもらってなかったら荷物さえ無事かわからないわ」
  桜「お役に立てたなら何よりです」
 黒奈「ねえ・・・飛ぼう・・・飛んで下さい・・・」
  空「しかしだな、里の者達からも依頼が来ているのだろう?
    そこまで迷惑するならば素直に調査にでも乗り出せば良いじゃないか」
 神巫「嫌よ、ご覧の通り初詣の準備で忙しいのにそんな異変でも無いものに首を突っ込む余裕は無いの」
 虹子「カタブツですねえ、婚期逃しますよ」
 神巫「うるさいよ」
  廻「だが考えても見て欲しい」
 神巫「何をよ・・・」
  廻「里の民が、普段まるで全然ッ!神明神社を訪れるのには程遠いんだよねぇ!!といった状況。
    だのに、その依頼をするために此処まで赴いたという事だろう?それも何人も」
 黒奈「そうか、それを解決して見ろよ。忽ち評判は上がり、初詣に来る奴も増えるだろうぜ?
    普段とはワケが違う、なんたって里の奴ら直々の依頼なんだぞ?」
 神巫「俄然やるきになりました」
  空(ちょろい)

相も変わらずこの巫女、信仰というワードが絡む何かには弱い。

 神巫「そうとなればパパっと片してしまいましょうか!!」

そう言いながら神巫は猛スピードで天空めがけて突っ込んで行く。
その姿た忽ち点のように細かくなり、仕舞いには1分も経たぬ内に見えなくなってしまった。

 黒奈「おい待てよ!一人でブッ飛ばすヤツがあるか!!抜け駆けしたからには手柄取っても文句言わせねえからな!!」

既に見えない神巫に対してグチグチ言いながら黒奈も続き・・・

  桜「皆して調査ですか!!これは私も負けてられませんね!!!」

妖怪としての血が騒ぐのか、燃え上がる桜も一人飛び立って行った。


 虹子「あらぁ、行ってしまいましたね・・・」
  空「ふむ・・・」
  廻「どうかしたのかい」
  空「この人形の大量増殖、本当にただ増えただけだろうか、どうにも何か裏がある気がしてならない」
  廻「なんだ、君もそう思ったのか。どうにも臭うのは違いないね、古く錆びれた死の臭いだ」
 虹子「ただ増えただけ、にしては確かに人形達の挙動はどうにもおかしい気がします。何かを必死に探しているような・・・」
  空「私達も向かった方が良いだろう、ただ突っ走っている人間達では、少々不安が残る」
  廻「だったら、人間達に合流した方が良いのではないかな、如何せん、彼女等は単独行動だ」
 虹子「それでしたら私は半妖の彼女の元へと向かいます、廻さんは黒奈さんへ、風鈴さんは巫女の所に向かって下さい」

そうして、不穏な空気を感じ取った三人は、散り散りとなった人間達を追うように出発する。

その最中で着実に、黒い衝動は覚醒の時をゆっくりと縮めて行く。







  守「天照ーーー!!起きてーーーー!!初詣の準備手伝ってーーーー!!」


彼女は彼女に出来る事を成す事にした。


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■1.キャラ設定
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                                                                                                                                      • -

◇プレイヤーキャラサイド

                                                                                                                                      • -

 ○伊沙弥の巫女
  
  伊沙弥 神巫(いざなみ いちこ)
  Izanami Itiko

  種族:人間
  能力:霊力を操る程度の能力

  神明神社の巫女さん。
  年明けに向けて頑張る姿勢を見せるだけ見せて見せまくる巫女さん。

  真面目な常識人。ほぼ唯一と言っても過言ではないだろう。
  だが信仰が絡んだだけで人としてのレベルが極端に下がる。
  だが大丈夫だ色々と。

  普段神社に赴きもしない人々が、人形の大量増殖による依頼を寄せるも、
  神巫は一切耳を貸さない。初詣の準備に向けて忙しいというが、
  こういう時にだけ頼ってくる人々に対して少々スネている。なお賽銭は入れてもらってない。

  しかし、直々の依頼故、解決すれば認知度上がるよって言ったらなんということでしょう。
  彼女は色々と放り出して飛んでいってしまったのだ。


 ○因果を断つ付喪神

  風鈴 空(かぜすず そら)
  Kazesuzu Sora

  種族:付喪神
  能力:死の運命を捻じ曲げる程度の能力

  付喪神。紛れも無く付喪神である。
  何の付喪神かは判らず、何かしらの耳が生えている。

  神巫に捕獲されて初詣の準備を手伝わされていたが、
  その当人はというと見事に飛び出して行った。

  他の二人と同様に、人形が増えた事に何か深いワケがあると睨んでいる。
  その直感は彼女が持つ能力が齎したものなのか、別にそうでもないのか。

 
 ○雷電の詐欺師

  鳴神 黒奈(なるかみ くろな
  Narukami Kurona

  種族:人間
  能力:電気を操る程度の能力

  気分屋で頭の冴える詐欺師の少女。
  最近では小屋の周囲にも人形が徘徊を始めたため、神明神社に避難している。

  面白い事にはとことん首を突っ込む。それが彼女の生き様であり、これからもそうだろう。
  しかし今回はどうにも興味が沸かない様子。異変になってからでないとつまらないようだ。

  一応、神巫が信仰を糧に飛び出して行ったため、その希望をへし折ろうと奮闘してみる事にした。
  あくどいなさすがくろなあくどい。


 ○死の音色を奏でる死神

  六道 廻(ろくどう めぐる)
  Rokudou Meguru

  種族:死神
  能力:六道へ導く程度の能力

  どちらかと言えば仕事熱心な方の死神。
  本来の生の枠から外れた人間を無理矢理地獄に突き出す仕事をしている。

  別に仕事というわけではなく、人形の事が気掛かりだったために調査に乗り出していた所を
  神巫に発見されて捕縛される。ナムサン!

  人形達の増殖の魂胆に何か不吉な臭いを感じており、
  それを彼女は「古く錆びれた死の臭い」と表現している。
  その言葉に意味があるのか別に無いのか。


 ○儚き花の半人半妖
  
  浅間 桜(あさま さくら)
  Asama Sakura

  種族:半人半妖
  能力:儚くする程度の能力

  半分妖怪の血が混ざる人間の少女。
  両親が彼女を捨ててしまい、今は里で一人、花屋を営む。

  各地で物が無くなる異変以降、神巫を通して数々の交流を持ち、
  特に退屈するような生活は願っても来なくなった。残念だったな。

  里で人形行列に悪戦苦闘する神巫を発見し、自分の店も現状故商売にはならないため、
  彼女の手伝いをする事にして神明神社を訪れた。

  しかし手伝いのつもりで来たのに赤いのと黒いのは調査のために飛び出す始末。
  彼女に至ってはそれを勝負か何かと勘違いしたのか勝手に燃え上がる始末。

  もう止められる人物などいないツッコミ不在の始末!


 ○河神の如き白蛇妖怪

  白雲郷 虹子(はくうんきょう こうし)
  Hakuunkyou kousi

  種族:白蛇
  能力:主に河を操る程度の能力

  かつて河を司る存在として祀られていた白蛇。

  神巫にカイシャクされたワケではないが、
  以前屋根の上から現れるのが結構カッコよかったので屋根から現れた。
  神巫に捕まった。自爆。自縛。

  他の二人同様、人形の大量発生がただ発生しただけではないと睨んでおり、
  彼女は発生した人形達が何かを探しているように見えたようだ。
  本当にそうなのか、別にそうでもなくキョロキョロしているだけなのか。


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◇敵キャラサイド

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 ○1面ボス 噛み砕く発条人形
  
  勝割 繰身(かちわり くるみ)
  Kachiwari Kurumi

  種族:人形
  能力;胡桃を割る程度の能力

  自立して動くくるみ割り人形。くるみを割る人形。顎がスゴい。
  背中に発条がついているが、巻いていなくても動く事は出来る。
  巻けばわりとはやくなる気がする。

  とある使命をもとにうごめく人形達の一人。
  しかしその人形の群れから逸れた草食動物のような彼女は、
  まさに肉食獣のような形相の人間と、わりと冷静な妖怪に出くわす。

  (アカン)  


 ○2面ボス 七色の子入り人形
  
  七竈 利好(ななかまど りよし)
  Nanakamado Riyosi

  種族:人形
  能力:増える程度の能力

  自立して動くマトリョーシカ人形
  人々子宝を抱く願いを成就させる使命を持つ自立人形の一人。

  彼女も、他の人形と同様にある命を受けて周囲を徘徊していた。
  物陰から何かが動くのが見えた彼女、彼女には合計で14個の目があり耳があり・・・
  とにかく全てが7倍ある。探し物が見つかったと飛び込むが
  そこにいたのは人間と妖怪。

  (アカン)


 ○3面ボス 白銀のメイン盾
  
  知弩 盾子(ちど たてこ)
  Chido Tateko

  種族:妖怪(ぬりかべ)
  能力:障壁を作る程度の能力

  『浄瑠璃劇館』を守るデキる門番。
  色黒で銀髪の重装甲騎士。謙虚。
  鎧や体の一部がブリキに挿し変わっている黄金の鉄の塊で出来たブリキ騎士。

  人形達が出てきては帰る場所である館の情報を手がかりに辿り着く人間と妖怪。
  しかし彼女によって門前払いを食らってしまう。第一何を言っているのか絶妙にわからない。
  門とは破るものだと誰かが言っていた気がする人間は当然のように強行突破を目論む。


 ○4面ボス 振り出しに戻った呪い人形
  藁蘂 古麦(わらしべ こむぎ)
  Warasibe Komugi

  種族:人形
  能力:さいしょからはじめる程度の能力

  かつて裕福な暮らしを手に入れた長者の子孫。
  が、人形になったのが彼女である。藁ならいくらでも掴める。
  俗に言う藁人形。

  裕福な暮らしに身を任せていたら気がつくと身を滅ぼしていた。
  その後、彼女は死後にある人物と出会い、新たな体を授かった。
  それが藁人形の体である。まさかご先祖が最初に掴んだものに自分がなるとは思わない。
  
  裕福な生活に慣れていたために怠惰な生活を送っていたが、人形になってからは
  考え方を改め、その人物の元で暮らしている。自分の体で納豆を保存するのはどうなのか。
  人形として与えられた使命は、誰かを報われなくする事。

  盾子の力で生み出された守護障壁の力で立体迷路のようになった浄瑠璃劇館を突き進む人間と妖怪。
  しかし、ふと何度も同じ場所を回っている事に気がつく。
  彼女の能力によって振り出しに戻っているのだが、それは彼女も同様。
  迷路の中に取り残されたお互いが鉢合わせするのも、そう時間のかからない話だった。


 ○5面ボス 帰ってきてる警告人形
  赤光 羽虎(あかみつ ぱとら)
  Akamitu Patora

  種族:人形
  能力:警告する程度の能力

  以前宇宙空間まで追いかけて来た警備の出来る傀儡人形。
  警告するならどこにだって現れるが、今回は屋敷の警備に当たっている。

  館の迷路化が及ばない区域まで到達した人間とお供の妖怪。
  辿り着いたのは大きな舞台。ステージ上には彼女が佇む。
  案の定これ以上の進入に対し警告する彼女と、それを聞かない人間の戦いが開演する!


 ○6面ボス 人形浄瑠璃の主
  型繰 瑠璃子(かたくり るりこ)
  Katakuri Ruriko

  種族:亡霊
  能力:自立人形を作る程度の能力

  自立人形を生み出す事の出来る人形師。
  といっても、その自立人形の正体とは、人形を入れ物とした死後の魂である。
  蘇生術と言っても差し支え無いが、入れ物となった人形に課せられた使命を全うしなくてはならない。

  今回の人形の大量発生とは、謎の失踪を果たした四濡通雀の捜索のためである。

  お互いに人間だった頃からの付き合いらしい。
  人間だった頃にも一度雀は失踪し、そして謎の死を遂げた。

  彼女は人形師としての腕を磨きに磨き、雀の魂の器となる人形を作り上げた。
  それによって誕生したのが今の「四濡通 雀」である。
  しかし、没頭のあまり気がつかぬ内に人をやめていたのだが。


  また雀がいなくなるのではないか?
  過去に囚われ、そう思ってしまった彼女は、彼女を復活させる過程において誕生した
  人形達を総動員させ、自らも捜索に出向いた。

  しかし、一通り探しても見つからないため、彼女は一度館へと帰還した。
  侵入者の一報と共に。


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■2.エキストラストーリー
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  日陰の地――
  まだ人形は各地をうろついている。
  まあそれでもかなり数は減った方だ。減らすようにお願いした。
  それから数日後の事である。

  神巫「ま、一応はカタがついたって事で」
  黒奈「初詣の準備も既に粗方終わってて助かったな」
   桜「うーん、しかし・・・お友達さん、見つかるといいですね・・・」

  縁側でゆっくりくつろぎながら話す3人の人間。
  初詣の準備は、彼女達が飛び出した後に殆ど守が片付けてしまったようだ。
  できる子。なお今回のコレで神巫の信用が集まったのかは不明である。

   桜「しかし、心なしか、なんだか里の賑やかさが以前と変わらないような」
  黒奈「そうか?」

  人形の数はたちどころに減った。ならば少しばかり静かになってもおかし
  くないのだが、どうにもその傾向は見受けられない。
  それどころか、賑やかというよりやかましいくらいだ。
  
  瑠璃子「お嬢さんの読みは中々鋭い。非常にマズい事になった」
   神巫「いつの間に!?」

  人形達の長、型繰 瑠璃子が屋根の上から逆さにの状態でひょっこりと顔を出す。
  これには人間達もビックリだ。屋根の上から亡霊なんて心臓に悪い。

  黒奈「マズい事ってどういう事だ?」
  瑠璃子「それがだな・・・」

  よく見ると、彼女は既にボロボロで、幾度と交戦したような跡が
  複数見られる。結構シャレにならない事でもあったのだろうか。
  瑠璃子が説明しようとしたその時、神社の石段を叩く音が響いてきた。
  それも複数、急ぎ足のようだ。その音の主は空、廻、虹子だった。

   空「マズいぞ神巫!」
   廻「人形達が本格的に暴れだしてる!!」
  虹子「とてつもない凶暴性を発現させています!!!」
  神巫「なんですって!?」
  瑠璃子「彼女らに言ったままだな、私の管理外で人形が暴走を始めた
      心当たりは・・・一応無い事は無い。知り合いに出来そうなのがいる」
  黒奈「そいつの所に行けばいいんだな?」
   桜「その方はどこに?」
  瑠璃子「湖を越えた先に私が元々使っていた人形屋敷がある、奴はおそらくそこにいるハズだ」
  神巫「よし・・・それじゃあ行くわよ!!」


  人間と妖怪は、再度出発する。
  人形達に宿った黒き衝動を抑えるために。

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◇敵キャラサイド

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 ○エキストラ中ボス 七色の子入り人形
  
  七竈 利好(ななかまど りよし)
  Nanakamado Riyosi

  種族:人形
  能力:増える程度の能力

  ドス黒い魔力にやられ、暴走を果たした利好。
  何故か体のあちこちに蜂を模したような外装が生えている。
  彼女は唐繰人形と言うワケでもないため、おそらく魔力に当てられた影響だろう。
  見境なく破壊を繰り返し、人を襲う危険な状態。

  問題はもっと凶暴でもっと見境の無いヤツらがやってきた事だが。


 ○エキストラボス 居るのに居ない文楽役者

  黒衣 遣陰(くろご やかげ)
  Kurogo Yakage
  
  種族:亡霊(ポルターガイスト
  能力:影から操る程度の能力

  全身が真っ黒で闇に紛れる亡霊。
  一部では騒霊とも言われる、俗に言うポルターガイストである。
  しかしその名のわりに、彼女は動きこそ活発だがあまり口数は多くない。

  人形達を暴走させている魔力を垂れ流している根源。
  人形を操っているのが自分のようなものとだけ言い、
  あとは多くを語ろうとはせず、目的も言ってくれない。

  非常に困るタイプの相手だが、彼女が原因である事はハッキリしている。
  原因さえわかっていればやる事はひとつしかない!!


  出来の良い人形には魂が宿ると瑠璃子に吹き込んだのは彼女である。
  あくまでも霊魂を人形に宿らせる秘術を教え込んだまでだが、
  人形師としての力を想像を超える域まで増大させた事には驚いたらしい。
  その目的とは、人形や道具などの動かぬものたちによる支配。
  当時はまだ妖怪などを恐れる風潮があったものの、
  その恐怖は着実、そしてゆっくりと薄れていっていた。
  
  このままでは本来幻想であるはずの自身が消えてしまう。
  そう思った彼女だが、どうしようも無い。
  漠然と物を動かした所で人間がそこまで怖がらないからだ。

  しかし彼女の元に、一人に人間が迷い込んだ。
  それこそが失踪扱いとなった生前の雀である。

  彼女は一見してもわかるくらいに体に異常をきたしていた。
  妖怪と成らんとしている彼女は、誰にも見つかる事の無い
  死に場所を求めていたのだ。妖怪となる事で、親友の存在を
  忘れたくなかったのだ。

  雀に興味を持った彼女は、まだ理性のある雀からあらゆる事を聞いた。
  親友の事。人形屋敷の事。自身が取り替え子である事も話し、
  可能ならば殺して欲しいとも頼まれた。

  一通り話を聞き終わった彼女は、ここで支配計画と、人形師による
  蘇生の可能性を見出した。雀は彼女を全く怖がらない、それは彼女に
  とっては最も屈辱的な事であった。
  しかし、彼女はそれを気にしなかった。話を聞く内に、雀との居心地の良さを感じたのだ。

  殺す事は惜しい、しかし、考えを尊重したいと願ったが故の蘇生案である。

  再度異常を垣間見せる雀、残された時間が限りなくゼロに近い事を悟った彼女は
  雀を徹底的に、完膚無きまでに叩きのめした。復活の余地があるが故の、圧倒的に無慈悲な殺戮。
  そうまでしなければ、妖怪というものはしぶといものだ。特にこの本能で生きる者は。

  

  雀の死を確認した後に、彼女は瑠璃子の元を訪れた。
  雀の原型の無い遺体を見せ、それを絶対な絶望とし。
  彼女を復活させる術を教え、それを唯一の希望とする。
  まるで人形のように心理を突かれた瑠璃子は、それだけに長い年月を費やした。

  彼女の復活と、支配計画の実現のために。  


  そして更なる年月が経過し、瑠璃子が人間をやめた頃。
  「彼女」は完成を向かえた。

  四濡通 雀は、彼女達の前に再度姿を現した。
  表面化した妖怪が失せた事で、その魂はまた雀のものとなっていた。

  感動の再開を果たし、それを傍から眺めていた遣陰はふと思った


  支配とはなんだったのか。この光景を見て、まだ私は支配だの言っているのか。


  急に自身の野望がバカらしくなった彼女は、考えるのをやめ、
  表の支配者にならずに裏方に徹する事にしたのであった。

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Ps-4 Cp-☆ 混濁し、染まらぬその性質

宮橋との戦闘、一瞬だけでも勝利を確信したものの、あまりにタフな宮橋は招来する幻想のリミットを外し、規格外で理不尽な攻撃を繰り出し私達は死の淵に直面しそうになる。だがガルテスの助けによってその武器を無力化、宮橋は後から現れた破壊衝動の思念、ヴァーサクによって回収され、一難を逃れた。
私と、同行していた七(ズィーベン)のダメージが尋常では無かったために、帰る手段が見つからず、一時的にガルテスの能力で紙になる事で、移動手段を得た。紙になった地点で私の意識は途絶えている。

それから何があったのか、平和の思念、ヴィヤズがアズゥの一味により奪われ、イハンの怒りが炸裂し、違反の性質が暴走。ルーツが言ったとおり、イハンは脅威としての存在、『The OVER』へと昇華したのだ。
驚異的な力を示し、暴れまわるイハンであったが、ガルテスとヴィクレイマの到着により応戦。二人の連携の末、見事ガルテスの能力で、イハン=メモラーThe OVERを紙にする事に成功する。

此処はイハン=メモラーの図書館。
この場に集まった一同が、本が山積みにされた机を囲みながら考える素振りを見せる。無論、私もだ。
一体何に悩んでいるのかと言うと、それはこの机の上に置かれた一枚の紙切れのせいである。

その紙には、禍々しい思念体の絵がプリントされていた。そう、能力によって紙になったイハンである。
ガルテスの能力により、紙の状態で封印されたイハンだったが、そこからどうしようも無い状況だ、ガルテスがこのまま能力を解除しようものなら、この状態のイハンが再度大暴れしてしまう。
しかし、紙にされた者に対して干渉のしようがないため、こうして策を講じているワケだ。

「ガルテス、以前貴様が襲われた際はどうやってイハンを元に戻したのじゃ?」

ヴィクレイマがガルテスに問う。ガルテスは一度、この状態のイハンに襲われている。この世から一時的に星の概念が消失した時、その時にイハンは初めてThe OVERの姿となったのだ。
あれ以降、イハンは激昂したり、星の力が薄れるたびにあの凶暴性が発現している。仕舞には、自分の意思であの姿になれる技を持ってしまった程だ。
同じ違反の思念である私には一切影響は無かったが、詳しい事はわかっていない。

「それはアレだ、サーバーを復旧させて、この世の星を再装填しただけだぜェ?あの時イハンがああなった根本的な原因は星の消失。星という概念が元に戻ったと同時に、あいつは正気に戻った」
「星・・・ねえ、私達、長い事イハンの傍にいるつもりだけど、何もわかってないかも。イハンと星に何の結びつきがあるのかしら・・・」
「ほしつくったりはできるよねイハン」

クロニクルとグリモワールも、悩ましい表情でガルテスに続く。彼女達はこの図書館の本棚で封印されていたと聞いた、イハンと過ごすにあたって、特に過去に触れる必要は無かったのだろう。おそらくイハンも、彼女達の過去は知りえないハズだ、そもそも奴は興味が無さそうだ。

「という事は、膨大な星の力を与えたらどうにかなるって事ッスかね!」
「バカかよルーツ、世界の状況を見てみろ、黒絶星しか生み出せねえだろこれじゃあ」

初めてルーツの意見に正当性が垣間見えたが、アーティアの言う事ももっともだ、おそらく、黒絶星を与えたら奴は尚その凶暴性を増すだろう。

「しかし・・・、仮に黄希星が存在するにしてもどうしましょうか・・・?」
「キャハハハ!決まってますよ!!紙になってるこいつの封印を解いて大量の星を直撃――」
「お前らしい考えなしの意見だな・・・出た地点で手の付けようが無い相手に、どうやって星を流し込むんだ・・・・」

現場に居合わせた教会の面々、ミトラ、ビリーヴ、ダウトも意見を交換し合う・・・が、やはり決め手と成り得るような意見は出ない。
こんな感じに、案こそ出なくも無いが、ダウトが的確に相殺して却下を食らってしまうのだ。食い下がろうにも、ダウトが述べる客観的な推定はどれも的を射ており、無理は無理と引き下がるしか無い。

「イハンをこの紙から出さずに、黄希星の性質を与えて沈静化する方法、として考えても・・・どうにも難しいなあ」
「むんむん」

勿論私も、真剣に考えているつもりだ、今はイハンを追うだとか、そのような事を考えているヒマは無い。七も、腕を組んで難しい顔をしている。本当に何か考えているのかはともかくだ。
ちなみに、私の足は勿論治ってなどいない。私の足も、七の腕も、一応の処置は行われたが、私は歩けないし七は千切れた部分を動かせない。しばらく戦線からは離脱せざるを得ないだろう。
しかしギプスはアーティア製であり、私には『治療部位の治癒促進』、七には『再生力の付与』が備わっている。ただし絶対安静でないと、逆に治療箇所が悪化するらしいので、どのみちヘタには動けない。

この集合は、タワーから帰還してすぐに行われたものである、空は相変わらずまっかっかで明るいが、時間も時間なため、パーティー自体は一応解散した、ここにいる者は全て自身の意思によってここにいる。
アーティアに至ってはホンの数時間の睡眠でピンピンしている。職人の朝はここまで早いのか。正直すげえと思いました。



「もう意見は出尽くしてしまったようじゃな、星を与えたらイハンは元に戻る。じゃが、星は無い、紙からも出せん、このまま干渉ができんようではどうしようもなかろうて。出す案は悉くそこの若造に抑えられるしのう」
「俺はあらゆる可能性に基づいた意見を提唱しているだけにすぎない、『有る』可能性とは『実現』できる可能性だ。俺自身もいくつか策は講じているが、結局自己で無理だと判断し終わっている。このまま案が通らなければ、イハンを封印したままというのも一つの策だ」
「イハンをこのままにするってのかァ?」
「其れも視野に入れないと仕方無いじゃないの、ただでさえこの姿は手がつけられないのよ?」
「ヴィヤズさんを失ったばかりなのに、ここでイハンさんを失うのは・・・」
「きゃははははは!やっべえ話進まない!!」


いや進んではいる、しかしそれは<イハンを復活させない>という方向での進行だ。
ガルテスはその案には良い反応を示していない。タバコを噛み千切りそうなくらい顎に力が入っていて、そもそも表情自体が嫌悪全快の顔だ。
ついでに図書館は魔導書グリモワールの展開した敵意を弾く結界が張り巡らされているため、タバコの煙を吸わずに黄ばんだりしない。便利すぎないかこの子。

私は、イハンはなるべく復活させるべきだと思う。
彼はこの『違反の世界』である現状も相まって、戦力としては一つ飛びぬけている。
それに平和の思念ヴィヤズが相手に渡っている上、それ以外の頭数も増やしている始末。

ガルテスやヴィクレイマのような心強い味方もいるが、彼らを踏まえても思念体数十体との相手は厳しいものとなるだろう。

「やっぱり、イハンは必要だよ」

思わず口にする、誰かに合わせるワケではなく、あくまで自分の意見として。

「俺もそう思うぜェ?」

それに賛同する形げガルテスも言葉を続けた。
彼は最初から助けるつもりで躊躇せず紙にしたのだろうか、助けるつもりがあろうがなかろうが『戦闘』となれば最悪殺す事もあったのだろうか。
それでも出来るだけ助ける道を選択するのはやはり根本的には相棒という位置に彼がいるからなのだろう。

・・・・・彼らが少し羨ましい。


「しかしガルテス、そして小娘よ。何度も言うが、助けられる手立ては見事に撃沈じゃぞ、まだ案があるならば別だがのう」
「結局ソレなんだよなァ・・・・・」
「・・・・・ねえ、グリモワール
「ん?」

私は彼女を頼る事にした。究極の魔導書、グリモワールの力を。
この図書館全域に結界を張り巡らせるほどの。あとついでに本棚をカステラにするくらい万能である彼女ならば、何か方法もあるのではないか。
そう思ったのだ、問題は頭の弱さだが。

「えいしょうなしのしょうまほうできょうかをうちけすようなものはあるけど、イハンのこのじょうたいはきょうかとはちがうよね」
「こりゃあ暴走ってヤツか?」
「第二形態とかそのあたりとも言えるッスね」
「第一形態に戻るRPGとか見た事無いよねぇ・・・デス・・・」
「むむむ」
「むしろ魔法をぶつけるには出さないといかんのだが」
「やっぱり出せばいいんじゃないの!?出さずにどうにかしようってのが難しいんだって!!きゃっはっはははゲホゲホ」
「だから何度も言わせるんじゃない、出して大惨事になったら手のつけようが無いだろう。アズゥを一網打尽にするほどの力だ、アズゥが食いやぶれる結界が役に立つとは思えん」
「他には無いのかな?」
「うーん・・・・」

悩むグリモワール、この子も考える素振りは見せているが、実際頭の中に思考があるのやらわからん。

「わかんなーい☆」

最高に腹の立つ顔だ、私の身長がもう少しあれば頭をシバいている。手が届かない。悲しい。

「打つ手ねェんだよなァ・・・助けるとは言ったがよォ・・・」

山積みにされた本の山にもたれながらため息をつくガルテス。
しかしガルテスよ、うっかり自分より高いものにもたれようとするのはよろしくない。
当然ながら、ガルテスの体重を支えられなかった本の柱は無残に崩れ落ち、足元に散らばった。足・・・もういいや。
なおガルテスはそのまま机にダイブし頭を強打して悶えながら打突っ伏す形となった。滑稽。

「何やってるのガルテス」
「うっかりしていたァ!!!」


せっせと散らばった本をかき集める集団、足の無い者達はしゃがむ時苦しくないのだろうか、地面から離れている分落ちたものが取りにくかったりしないのか。
普通に歩ける思念である私とビリーヴには永久にわからない感覚だろう。
しかし、その回収作業の中で、ハッとした表情で固まる人物が一人いた、そしてその人物は、何かを思い出したかのように

「あああーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

盛大な叫び声をあげる。その声の主はグリモワールだった。

「いきなり大声を出すでない、何があったのじゃ」
「・・・・・かんしょうするほうほう、あったよ!!!!」

その後、その場にいる全員が同じような叫び声をあげた。









「コレが策かァ・・・?」

グリモワールが干渉の策として取り出したものは、粒子が板状に散りばめられて構成された七色のしおりだった。
触ればその粒子は輝きを一層増し、ほんのり拡散する。あと冷たい。グリモアが魔力を凝縮し、イハンにプレゼントしたものなのだそうだ。
コレが一体どう策と成り得るのか。

「このしおりはね、もともとほんのなかのせかいにはいりこむためにつくったものなの」
「本の中の世界だァ?」
「そう、このしおりがだすりゅうしをはいりたいほんにふりまいて、ほんにはさめばじゅんびかんりょう。あとはほんのひょうしからとびこむと、そのせかいかんにはいりこめる」
グリモア、貴女こんなもの作ってたの?」
「ずいぶんとシャレたもの作れンだねえ、私も負けてねえけどな」
「しかし世界観に入り込めるとはのう・・・本の内容が書き換わったりはせんのか?」
「シミュレーションみたいなものだよ、はいりこんでなにをしても、ないようにえいきょうはないよ。イハンはふつうにしおりとしてしかつかってなかったけどね」
「となれば、紙の中に干渉出来ても、果たしてそれが影響するのかはわからないな・・・」
「俺の作る紙に『世界』があるたァ思えねえしよォ、その場合どこに飛べるんだろうなァ・・・」

さまざまな憶測が飛び交う、だが。

「これしか方法が無い以上、試すしかないよ、でもどうやって挟もう・・・折ればいいのかな・・・というか折っていいのかな・・・」
「心配いらねえよォ、折ってどうも無けりゃあソレでいいし、どうにかなればいい気味だ」

相棒相手でも本質は悪役だなあと思わずにはいられない。

「紙の先で何があるのか、それがわからないのが恐ろしいわね・・・」
「りゅうしをふりまいてぶちおってはさむ・・・じゅんびはできたよ、だれがとびこむ?」
「勿論行かせてもらうぜェ?先にイハンがいりゃあブン殴って目を覚まさせる!!!」

ガルテスが真っ先に名乗りをあげる、さっきまで見せていた嫌悪感たっぷりの顔が消え失せ、薄ら笑いを浮かべながらどことなく楽しんでいるように見える。

「だったら私も行くよ」

負けじと私も名乗り出るが、この状態だ、他の者達がそれを良しとしない。当然だ、もし戦うような事になったら今度こそジェノサイドだ。

「だから言ってるだろ!安静にしとかねえと能力が逆作用するって!!!」
「大丈夫、なるべく負担はかけないから。それに、せっかくだからちゃんと向き合ってみないとね。上半身とか下半身とか関係無く」
「あぶなくなったらいつでももどれるからだいじょうぶだとはおもうけど・・・ほんいがいにはいることはまったくかんがえてなかったからわからないや」
「構わないよ」
「ヴィクレイマとかはどうすんだァ?」
「ワシらはコレから如何するかについて、イハンがおらん場合、とおる場合の両方をある程度話し合っておこうと思う。何、長い話の苦手な貴様がおらん間に進めた方が良いかと思うてな・・・」
「言ったなジジイよォ?」
「言ったぞオッサン」

ガルテスはおろか、この悪役達は何かと楽しそうである事が多い。表裏の無い関係を築けるのは結構スゴい事なのだが。

「飛び込んだらいいのよね・・・?」
「うん、それはもうびよーんと」

二つ折りにされた紙からは振りまいた粒子が、その色を変えながら周囲を旋回。紙に至っては若干発光している。
いつでも飛び込めるという事なのだろうが、いざ!ってなるとなんだか少し怖くて躊躇われる。バンジージャンプの感覚がこういう感じなのだろうか、踏み込むものの、飛び込む最後の一歩が中々踏み出せない。
後ろで待ち構えるガルテスだが、あまりにモタモタしすぎて痺れを切らしたのか、ずかずかと歩み寄り、そして、私を軽く片手でひょいっと持ち上げた後。

「精々先の事をじっくり決めておく事だなァ!!」

と言いながら何の躊躇も無く本の中に飛びこんちょっと待てお前ェェーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!















目が覚める、激しくシェイクされた挙句に体が捩れるような感覚の中で意識を落とした私が次に見た光景。
数個の本棚が私を囲うように浮遊する真っ白な空間。果てというものは見えない、どこまでが地平線なのかもわからないが、限りなく向こうの方まで本棚が浮遊している。しかしその本棚の中身は、図書館にようにギッチリ詰まっているワケではなく、本の数も疎らである。
どうやら一応、しおりによるダイブは成功しているようだが、此処は何なのだろうか、グリモワールの言った通りならば此処は『イハンの世界観』という事になるが、ダイブしているものに『内容』は無いし、そもそも本ではない。
ガルテスが言ったように、人を封じただけの紙切れに『世界』などはあるはずないのだ。

「気がついたみてェだな」

私の背後から声が聞こえる。さっきも充分聞いていた私の知っている声、振り向くとすぐ後ろにはガルテスが腕を組みながら立ち尽くしていた。
相も変わらず、タバコをすっぱすっぱふかしている。ヘビースモーカーどころの話ではないくらいには吸っている気がする。

「此処は何処なの?」
「ダイブした先なのは違いねえが、俺にもわからねェな・・・自分が紙にした後のソイツの事なんざ考えた事もねェ」
「ねえガルテス」
「あァん?」
「あれ、取れるかな」

そういって私は浮遊する一つの本棚を指差す、随分大柄な棚だが、そこには本が一冊しか置かれていない。
別にどの本棚でも良かったのだが、最も近場にある本棚を選択した。

「本が一冊だけ置いてあるなァ、ちょっと待ってr」

言い切る前にガルテスの姿が瞬く間に掻き消え、本棚のまん前に現れる。
ガルテスの持つ瞬間移動の能力である。
しかしガルテス、飛ぶ事は出来ないため、左手で本棚を掴みながら右手で本を掴み、私目掛けて軽く投げ渡してきた。

私はその本を受け取り、早速開いてみる。その傍らでガルテスは結構な高さにある本棚から手を離し、凄まじい音を立てながら着陸せしめる。
ファンタジックに生きる人達は例えおじさんであろうが着地如きでダメージを受けない。強い。

「何が書いてあンだァ?」
「『2月11日、無数の人間に囲まれながら目を覚ます。本能が自身が思念体である事と、イハンの名を持つ事を告げる』・・・日記?」
「2月11日つったら、俺とイハンが最初に会った時だなァ」

確かにこの本にはその後、ガルテスとの戦いの記録が綴られていた。
互いに奮闘した後、結局決着は付かなかったと、記載されている。イハンが引き分けを意地でも勝ちにしないのは、私から見ればとても考えられない。

「アイツは小細工しねェ方がつえェんだよ、元の器用さと力で押すアイツが一番つえェ」
「確かに、The OVERにはこういった形で勝ってるもんね。でも元のイハンでも紙にしちゃえばいいんじゃないの?」
「そりゃあ無理だなァ、奴は俺を知り尽くしている、紙にする為のスキは一切ねェ、俺の意思の届かねェ『ゼロ・ペーパー』だろうが奴はかからねえ」
「でも逆に、ガルテスはイハンを知り尽くしている。だからいらない小細工を施したイハンには勝てるし、本気でぶつかって来るイハンには勝つ事も負ける事も出来無い。互いに知り尽くしてないと無理な引き分けだよねそれ」
「そういうこったなァ・・・、仮に俺が力でぶつかろうとしなかった場合は、確実に俺がやられるだろうなァ。まあ本気でぶつかって最初に勝利を抑えるのは俺だろうがなァ」
「イハンも同じ事言いそうねそれ」
「ヴィクレイマあたりも入ってきそうだなァ・・・いよいよもってわからなくなって来るぜェ・・・?」

二人の昔話ですっかり盛り上がってしまったが、この本以外の本も確認してみると、この本はイハン=メモラーの記録。
イハンが持つ記憶の断片である事がわかった。つまり此処はイハンの精神。世界が無い代わりに、私達はイハンの持つ精神を具現した世界へと飛び込んだようだ。
はたしてこれが仮想空間なのか、イハンの精神そのものなのかは定かではないが、私達は出来るだけ片っ端から本棚から本を取り出しては読み漁っていく。

そのどれもがイハンが経験した事であり、私の知る事象や、星が消失した事、今起こっているこの異変の事までしっかりと記されている。
だが、The OVERに関する事と、2月11日より以前の書物は一切見つからなかったのだ。イハンが2月11日に誕生した思念だというのならば普通は合点が行くものだが。
私の記憶にあるものは確実に2月11日よりも前、イハンと同一の存在であるならば、イハンが2月11日で初めて生まれたという事はおかしいハズなのだ。

「あとは、この先みてェだなァ・・・」
「さっきまでこんなの無かったよね・・・?」

粗方、イハンの記録を読み終えた私達は、目の前に片方白、片方黒の両開きの扉が存在する事に気が付いた。といっても、さっきの段階ではなかったハズだが。
此処でする事の無くなった私達は、新たな手掛かりへの期待と、先に何があるのかという多少の緊張感を持ちながら扉を潜る事にした。




ゆっくり、大きな音をたてながら開く扉。その煩さはかつての図書館の扉と同様だ、とガルテスは言った。
生憎私はその当時の扉の煩さを知らないのだが、これが毎度のように響いていたと考えるとあまり良い気分とは言えない。

扉を抜けた先は真っ暗な空間。これまた先を見る事は出来ないが、相当な広さだと思われる。
一変して黒い世界となったのと、なんとなく感じ取れる空間の広さから、正直少々不気味だ。

しかしその真っ黒なその世界の中で、一際異彩を放つ、淡い輝きを発見するのはあまりにも容易だった。

「なんだろうあの光・・・」
「考えても仕方ねェだろ、善は急げだぜェ」
「貴方悪じゃないの」

冗談を踏まえながら、私達は光の元へと走りだす。が、中々その姿は近くに来ない。予想以上に遠かった。

「し、しんど・・・あと足、まだ治ってないって・・・」
「あきらめんなお前!!」

ガルテスの暑苦しいエールの中でどうにか走り続け、やがて私達は謎の光の元にたどり着き、その正体を目撃する。
その光景は、ある意味で衝撃だった。

「人・・・かァ・・・!?」

水色がかった白いコートを着た緑髪の男が、真っ白に、淡く光る柱に、手に杭を打ちつけられる形で貼り付けられているのだ。
男に意識があるのかどうかはわからない、だが少なくとも生きている。それは思念体である私だからこそ真っ先に知りえる事だった。

「『黄希星』・・・?」

良く見るとこの思念体もまた足が無い、ズボンを纏ってはいるが、本来足が出る位置には何も無い。足の形の霊体というワケでもなさそうだ。
そう、この男は黄希星の思念体なのだ。イハンの精神世界の中に、どうして人々の希望とも成り得る星の思念が縛られているのか、ますますわからない。

「とにかく降ろした方がいいんじゃないかな・・・?」
「あの杭を引っこ抜けばいいんだなァ?」

まともにうごけない私の代わりに、ガルテスが瞬間移動を駆使して杭を引っこ抜く。
掌に打ち付けられた最後の杭を抜き、地面に転がり落ちた瞬間に、周囲の闇はみるみる明るさを取り戻す。
先ほどの本棚の部屋と同じ真っ白な空間へと変貌した。

しかし男は一向に目を覚ます気配が無いため、私達は明るくなった事で視界良好になったその空間を散策する事にした。
といっても、さっきの部屋のように本棚があるワケでもない、本当に真っ白な空間。案の定果ては無さそうに見える。
地面を叩いてみるとコーンコーンとやたら響きの良い音が鳴り渡るだけだ。

結局、男が横たわる場所まで戻ってくるが、ここである変化に気が付く。
男が打ち付けられていた柱が形を変えている。黒く禍々しく、現実に見たモノで一番近いものに例えるならばネガティブウォールあたりだろうか。

「こりゃあどういうこったァ?」

そう言いたくなるのも仕方がないだろう。私だって同じ意見だ。
さっきから起こっている事の意味がわからない、精神の移り変わりがこんな感じに作用するという事で良いのか、憶測の域は出ない。

「それはイハン=メモラーの心そのものだ」

先ほどまでは聞こえなかった声が私達の背後から語りかける、しかしその声は、実に聞き覚えのある声だった。

イハン=メモラーの声。私も、そしてガルテスも、そう認知した上で振り返った。
しかし振り返った先にいたのはイハンではない。あの柱に縛られていた黄希星の男だった。どうやら目を覚ましていたらしい。

「声だけならイハンかと思った・・・」
「俺もそう思っちまったぜェ・・・?」
「まあ、そう思うのも無理ないよ、初めまして、ガルテス、そしてルコ=モノトーン」

とてつもない違和感を感じる。確かに私達は初対面である、初めましてとは言われたのは問題ではない。何故奴は名前を知っているのだろうか。
私も、そしてガルテスも。

「また疑問そうな顔をしているね、差し詰め名前を言い当てられて少し驚いてるといった所か」
「色々とドンピシャすぎるぜェ・・・?」
「貴方は・・・?」



「僕は黄希星の思念体、『オグ=ホワイトパレット』。現イハン=メモラーとしての存在だ。イハンとなる前の姿って言えばいいかな、イハンが見てきた事は、大体僕も知っている。本棚の部屋、イハンの記憶もあるからね」
「イハンの前の姿だァ!!?」
「じゃあ、イハンは性質変化を起こしたって事!?」
「生憎そこまで昔の事は覚えていないけど、覚えてる限りでは僕は何者かに性質変化を施された。違反によって世界に留まる事が出来なくなってしまった星達。それに侵食された僕は違反の思念となった」
「でもよォ・・・だとしたらおめェは何なんだ?思念体のその性質変化ってーのは、誰もが元の性質が精神の中で生き続けるようなモンなのかァ?」
「そうではないよ、確かに思念体は性質変化を起こした段階でその人格さえもが変わってしまう。でもそれは、あくまで上書きされただけで同一の存在。黄希星と黒絶星の思念っていうのは色々と複雑で。元々は性質変化が出来ないようになっている。それを無理にでも性質変化を起こそうものならば・・・」
「貴方で言うならば黄希星としての意識が中で抑えられ、別の存在が支配する・・・って事なのかな?」
「大体はそうだ、君達が<イハン=メモラー>として接して来た人格とは、純粋な違反としての性質を、僕の黄希星の性質がどうにか中和した事によって生み出された人格。その結果人が困る事を望み、人さえ困れば他の悪でも壊滅させる、善とも悪とも付かない。どちらかといえば悪だけど、そんな感じになったってワケだ。違反の思念であるにも関わらず彼が人を惹きつけるのも、その混合された性質による作用だと思うよ」
「純粋な黄希星が貴方なのよね」
「ンじゃあよォ、純粋な違反ってーのは・・・」
「この柱だ」

オグはそういいながら、さっきまで自身が拘束されていた柱をコンコンと軽く叩く。確かさっきはコレをイハンの心そのものといっていた。

「ここはイハンの精神と直結している。此処で起こった事は直接イハンに作用する。この柱に内包された違反の性質が暴れだせば、彼は純粋な違反の思念となる」
「それがThe OVERってワケね・・・」

つまり、彼がこの柱に括り付けられている場合は、彼が柱に内包されているようなもの、という事になるのか。星の性質が欠けると違反が暴走する。星の消失によるThe OVERの発現の正体がコレという事か。

「そもそも、他の思念だって『純粋』な性質の持ち主なんだろォ?なんでまたイハンだけそんな暴走起こすんだァ?」
「違反への性質変化を遂げた物質が要因だ。違反によって世界に留まれなくなった星々、つまり違反が持つ多面性はともかくとして、それほどまでに、世界に居座れない程の『凶暴性』の体現。それが無数に僕の中に侵食してきた。普通の思念体同様の性質変化を遂げていたら、イハンはその2月11日の地点で破壊神の如き力を振るう世界の脅威となっていただろう」

今明かされるイハンの数々の秘密、彼がこのような不安定な状況下にあるとは到底思わなかった。
オグはずっと、イハンの中で性質を中和し続けていたのだ、彼は外に出る事が出来ない。それは『オグとして』もそうだが、『イハンとして』もだ。彼はこの空間に閉ざされたままなのだ。

「今もその暴走が起こってる最中なんだけど・・・」
「今か・・・どうやってこの空間に入れたのかはわからないけど、お二人が僕の拘束を解いてくれたのかな?まあ僕が自由に動けるって事は暴走は収まるハズだよ」
「そうか、んじゃァ一応イハンは復活出来るってワケだな・・・」
「あと、もう一つ聞きたい事がある」
「なんだい?」

それは、イハンとオグが同一の存在であるが故に、どうしても気になる事。

「思念体の性質は絶対に重ならない。その中で同じ違反の思念である私は何なの?もしイハン、オグ、ルコとしての存在が再度一つになったらそれは『誰』なの?」

少し悩んだあと、彼はゆっくりと私に語りかけてきた。

「・・・・・おそらく、いや、あくまでもおそらくだ、憶測の域は出ないが・・・君は『違反の性質によって再構成を施された偽りの違反の思念だ』」
「・・・・・」
「僕の足も無いだろう、元々僕に足があったのは覚えている。何故か分断寸前だったが、違反に塗りつぶされる際に断たれたのも覚えている、その断たれた下半身が、残りかすのように残った性質の力を受けて『思念体としての形に再構成した』んだと思う・・・君が持つ違反の力は『丸コピー』だけだったね、その分、違反に溶け込んでいる凶暴性も薄いから君は星の力が無くても暴走しない。その代わり星には弱いみたいだけど」
「貴方は何も覚えてないんですよね」
「ああ、違反の思念になるまでの寸前。それ以外の記憶が曖昧だ」
「それ、私が持ってます、私では無い誰かが、無数の思念体と戦うおぞましい記憶。しかし、その自分である誰かと、戦うべき誰か、その二人の存在が私から抜け落ちているんです。貴方が自分を認知出来る、自分がどうなったかを知るって、つまりそういう事ですよね」
「・・・・・」
「おそらくイハン、オグ、ルコ、という元々一つの存在であるべきこの三人・・・、これが元に戻るってなった場合に小娘はよォ・・・その・・・・・」
「・・・・・あまり口にはしたくないが、消えるだろうね、君は本来存在しなかったハズの思念体なんだ」

ガルテスを探す際にふと思った際に感じた恐怖心。元に戻った際に、私という存在はどうなるのか。


やはりそうなった際、私という存在は消える。私はあくまで、イハンとオグから抜け落ちた搾りかすから生まれたパーツの一部にすぎなかった。


私は、規格外の存在だったのだ。


「まあ、性質が重なってる地点でおかしな話だとは思ったけどね」
「小娘・・・?」
「ルコ、散々イハンを追いかけてきた君には今更な事かもしれない、だが、『元に戻らない』という事も選択肢の一つだ。僕はこのままで構わない、記憶が戻る必要も無い。君がどうしたいかを優先するんだ」
「・・・・・はい、でも大丈夫です!どうせ今、外はこの惨状です、どちらにしてもイハンを追いかけている暇なんてありませんから・・・・・」

どうにか明るく振舞おうと試みるも、限界はあっという間だった、気が付けばもう声が出ない、元に戻らなければ確かに私は生きながらえる。他の思念体と同様に、死んでも性質の尽きぬ限りによみがえる。
しかし、私という存在は・・・元はあってはならぬ存在なのだ・・・、他の誰かが許そうとも、自身の在り方が自身に重くのしかかるのだ。

「・・・・・オグっつったなァ、もう一度聞くが、イハンはもう元に戻るんだなァ?」
「ああ、この空間で僕が自由に身になったという事は、彼が普段通りの彼になるという事で相違ない」
「了解、それがわかっただけでも安心だぜェ・・・・・小娘!」
「・・・・・何?」
「行くぞ、イハンは復活可能だ、俺らが此処で成すべき事は完了した、イハンの今後は再度奴に任せておけばいい」

脱力に襲われた私の手を、ガルテスが強引に引っ張る。一人柱の前に鎮座しながら手を振るオグを残し、私達はその世界を後にした。









「戻ったぜェ!!」

気分が悪い、いや、衝撃の真実を知った事とは関係なしに、このダイブ中の感覚が気色悪い。なんでガルテス平気なん?おかしいんじゃないの?

「ほう・・・戻ったか」
「お帰りなさい!どうでした!?お怪我とかは無いですか!!?」
「それで・・・どうだったのだ」
「あァ・・・それがな・・・」

ガルテスは随分と大雑把に事を説明した。擬音まみれで何がなんだかわからない説明だったが。それでも一応の要点は抑えられた。
イハンの事から、オグの事まで、ガルテスはどうにか身振り手振りで説明する。私の事は、何も言わなかった。

「つまり、この状態でイハンは復活出来ると・・・?」

紙になったイハンを見ると、相変わらずそのプリントされた中身はThe OVERの姿のままだ。
流石に目視できる範囲で反映されるワケは無いか。

「別に世界観にもぐりこんだワケじゃないし、内容を改変ってマネも出来ないハズだから・・・たぶん中で起こった事は反映されてる・・・と思うよ・・・?」
「そこで疑問系だとどうにも信憑性が薄いわね・・・」
「かわいいからゆるせる」
「うるさいよ」
「一応、万が一に備えて臨戦体勢をとっとけよォ・・・解除するぜェ・・・!!!」

ガルテスが能力による紙化を解く、PON!という音と共にあたりに煙が立ち込め、あっという間に視界が遮られて何もわからない、煙出すぎじゃないのか、もう少し発煙量抑えようよ。












――












体が動く、さっきまで見事に乗っ取られていた感覚だったが、しっかりその腕は己の意思によって動いた。
それよりも何なのだコレは、確か俺ははてなタワーでやんややんやしていたハズだぞ。なんだこの煙は前が見えないじゃないか、霧が濃くなってきたな・・・

しかしその煙もゆっくりと薄れて行き、俺の視界は良好になっていく、薄くなった煙からはうっすらと人影が見える、が誰なのかはわからない。
もしかすると敵かもしれないが、アズゥ軍団にしては数が多い。





「おwwwwwかwwwwwえwwwwwwりwwwwwwなwwwwwwさwwwwwwいwwwwwww」
「おいガルテス叩きのめすぞコラ」

完全に取り払われた煙の向こうから見えてきたのは、ガルテスとヴィクレイマ、思念体が数体と、グリモア、そしてクロニクル。
どうやら図書館にいるらしい、何があったのか、先ほどまではよくわからなかったが、うっすらと自分の脳裏に紙にされる寸前の記憶がバックオーライ。

「げぇ」
「・・・・・」

複数存在する思念体の中には同じ性質を持つあの小娘もいる。出来る事ならば今すぐ逃げ出したいが、どうにも様子が変なので観察する。

「・・・・・あの、さ」
「何だ」
「今はこんな事態だし、私は貴方を追いかけるのはやめる、だから、その・・・アンタも私から逃げないで欲しい、ん、だけど、も・・・・」

何だろうかこの感覚、あえて口に出すならば

「気色悪っ」
「逃げるなよ唐辛子」
「すみまえんでした;;」

この豹変だ、やはり迫力は無いのだが、見ない間に若干の威圧感を放つようになってきている。あとメッシュを唐辛子っていうな。
お前、髪の毛に唐辛子ついてるぞ。

「イハンよ」

若干気の抜けた空気の中で、ヴィクレイマが俺に問いかけた。

「まずは無事復活を成した事に関しては実wwwにwwwww喜wwwびwwwwをwww隠wwwwwwせwwなwwwwwいwwwwwwwwwwwwww」
「ねえなんでそこ堪えた笑い混じってんの何なのイジメなの殺すぞ」
「まあそれは良いとしてだ」
「よろしくございません」
「今後のこちらの行動について、貴様も交えて一度話し合うべきだと判断した、一応、貴様が居らぬ状況下でもある程度話は進んでおったが、その内容や貴様の不在時に起こった事などに関してはその中で言っていこう」
「作戦会議か何かか?ならば丁度いい、現状の整理が追いつかない所だ、詳しく聞かせてもらうぞ」

「では、始めるぞ」


つづけ

Ps-3 Cp-3 ルコ=モノトーンの戦慄

『最強の破壊衝動が機能停止・・・加えてこっちが劣勢・・・だと!?ふざけるんじゃねえ!!!人数も!力の差だって歴然のハズだ!!俺っちが負ける事なんざ・・・!!』
『調子はどうだい、黒絶星』
『大将様がのこのこと敵陣に現れるとは、いい度胸してやがるな!!オグ=ホワイトパレット!!』
『敵陣も何も、君の軍勢は一人残らず始末したよ、消滅はしていないけどね』
『なんだと・・・・・』
『既に思念体は君が糸を引く人形などでは無い、各々に個性が芽生え、今の彼らはれっきとした生命だ。君の都合の許す通りに動くハズがない、力無き者は屈服し、力ある者は私達が片付けた、味方同士で戦ってるのもいたね』
『ぐぐ・・・・』
『それでどうする?』
『決まってんだろ・・・此処で引き下がるワケにはいかねえんだよ・・・』
『君ならそういうと思ったよ』
『ならば始めようじゃあねえか・・・・・と、言いたいがそうだった、テメェに質問するのもシャクだが、一つ聞きてえ事があンだよ』
『なんだい』
『この戦いが始まる前、テメェは底辺で思念体と何かしていたらしいが?』
『・・・・・君には関係ない、ついでに言わせて貰うと、彼に手を出せば容赦しない』
『コエエなあ黄希星の思念よぉ!!楽と希望の具現の名が廃るぜェ!!?』
『廃ったって構わないよ』
『・・・何?』
『僕は皆が喜んでくれるのが一番の喜びなんだ、人々が幸せになるためなら、僕は幾らでもその闇を受け入れる。彼だってその一人だ、彼に希望を与える、彼の闇は僕が貰い受ける』
『・・・なんだよその闇は・・・・・なんなんだよそのドス黒い衝動は!!!黄希星だろ!?性質とは思念体の有り方を示すものだと!!言ったのはテメエのハズだ!!!そのお前が!!!こんな真っ黒なものを!!!俺っちでもそんな強大なもの持ってないんだぞ!!!』
『見てごらんよ、人気作者というのは、人々に希望を与える一方で、闇をも生み出している。闇を一方的に生み出す事は容易だと言うのに、人々に希望を与えようをすれば何故か陰りも同時に生まれる。だから人気者というのは、人々の生み出す闇をも内包しなくてはならない。そしてそれはなんらかの形で放出しなければ、最悪、内包した闇に支配だってされる。自惚れであったり、支配欲、軽蔑。放出する闇、内包した者を支配に追い込む闇はその形を変えて様々な面で現れる』
『テメエの中にある闇はかなり膨大だ・・・故にテメエはそれを放出していない、だが支配もされていない。何がテメエをそうさせる?何がテメエを闇に抗わせる?俺にはわからねえ』
『・・・内包する闇を星に乗せたら、それはもう黒絶星だ。人々が幸せになるためには、人々を幸せにするには、その内包する闇を放出してはならない。支配もされてはならない。僕は言ったハズだよ―――』





『人々が幸せになるためなら、僕は幾らでもその闇を受け入れると』

『それ程の闇、蓄えるのに相当な時間を要したハズだ。だが生憎、思念体は真新しすぎるんだよ、それは俺っちも、何故かテメエも良く知ってる事だろう。もう一度質問させて貰うがよ・・・・<テメエは何モンだ?>』

『そのうち嫌でもわかるよ、それじゃあ始めようか、大丈夫、消滅まで追い込んだりはしない』








「まだッスかアーティアさん!!」
「急かすんじゃねえよルーツ!!私が機械苦手なの知ってて作らせたクセによ!!」
「でもっ!!時間が無いんスよ!!!急がないと・・・」


以前私達は、努力の思念、アーティアの製造したレーダーを頼りに、イハン同様柱の破壊へと乗り出した。
だがそれは不運にも殺意の思念の性質。殺意に駆られ、私達を殺す暗殺者となった村人達に襲われる。
私は<空を飛ぶ用途のためだけにコピーした>重複の思念体、ピオネロの持つ能力を駆使し、ピオネロを協力して村人と対峙する。
その間に、はてなの思念、ナーバ。期待の思念、ルーツ。欲の思念、七。
この三体はは柱を捜索する事に専念し、私達の時間稼ぎの戦いは始まった。
個々が非力なために苦戦を強いられるものの、互いの能力をうまく行使し見事に村人達を倒す。
ナーバ達は見事に柱を破壊出来たものの、私達が向かったそこには姿を眩ませていた夢の思念【九十九街道宮橋】の姿が。
宮橋よりも上の存在がある事を、宮橋の発言から知るも、宮橋は殺意の思念を奪い去り、満身創痍の私達はそれを追う事も出来なかった。


さらに時は流れ、依然柱の破壊は順調である。問題は、順調なのは破壊のみである事。
憂鬱の思念。柱の影響で気分が完全に沈みきった人々と遭遇。無害であったために柱までは難なく辿りつくものの、破壊衝動の思念、ヴァーサクによる妨害に手も足も出せずにそれを奪われる。

次に狂気の思念、陶酔の思念、影響の思念の柱の複数設置エリア、イハン側でも前例が無いらしく、当時、どうなるかは不明だった。答えとしては、人々が文字通り狂ったように暴れ阿鼻叫喚となったエリア。無論有害。発する言葉の一つ一つに脈が無く、会話は一切成立しない上で襲い掛かってくる。さらに場酔いでもするのか影響下に無い者に対しても伝染する。と、性質が完全に融合していた。
ナーバの技、《スキルシンクロー》を使い、陶酔に化けて周囲の空気と同調する事で最低限まで凌ぐものの、嫉妬の思念、エンヴィーとの戦闘、手負いのようだったが、太刀打ち出来ずに狂気の思念を奪取される。陶酔は目を離すと何処かへ行き、影響の思念は自然と掻き消えるようにいなくなった。
さらに怠惰の思念。人々が仰向けで何もしない状態の中を突っ切り、無事に柱を発見する。今度は宮橋の妨害があったものの、これは撃退する事が出来た。助け出した怠惰の思念は、そのまま何処かへと行った。のっそりと。
どうにか私たちでも柱に封印された思念体を引っこ抜く事が出来るものの、宮橋を始めとする、破壊衝動の思念。嫉妬の思念といった、何者かの命令によって動く思念体達に助け出す思念体を奪われてしまう。宮橋の上の存在というのは相変わらず不明だが、いきなり出てき始めた事を考えると奴等も本格的に動き出したという事なのだろうか。

そんな最中、殺意の思念体の出来事の際、ルーツがアーティアに頼んだ品。
それがまだ完成しておらず、ルーツがあからさまな焦りを見出し始めた。それも『ただ焦っている』のとは違い、『尋常でないまでに焦っていた』。
時刻としては日が落ちてからそれなりに経っているくらい、真夜中といえば良いか。如何せん空の明るさが一切変わらないので時間感覚が狂い始めている。

レーダーの残骸によってすでにすごい事になっている工房の中。試作機であろう小型の物体が無数に散乱している。
形状から察するにこれは電話だろうか、しかし、同じものが二つでワンセット存在するあたり、用途としては無線のそれに近い。試作機のひとつひとつに試行錯誤のあとが見られるが、だんだん数を重ねる毎に電話という形を留めなくなってきている。一応付け加えるならば無線機とも言い難い。
現状も、アーティアはどうにかこうにかと作っているが、その取り巻きの思念体がやかましい、期待して待ってろよお前。

「大体、電話なんか作らせてどうするって言うのよ、焦る意味もわからないんだけど」
「確かにな、私も理由を聞いてないぞ、ただ作れって言われただけだしな、よほどの事に使わない限り、私にはあまり関係ない話だが」
「それは・・・違反の思念が・・・!!!」
「・・・私?それともイハン?」
「イハンの方ッス、はてなタワー最上階・・・そこで彼が脅威に変貌するッス」
「脅威って何?そもそも、何でそんな事わかるのよ?」
「それは・・・私の・・・っく!!ああがッ!!」
「期待さん!大丈夫ですか!!」


またこれだ、期待の思念、ルーツイクスペクト。彼女に何かを聞こうとすると忽ち頭を抱え込んで蹲る。これが幾度と無く発生する。
理由を語りたくないがための誤魔化しのように取れなくもないが、その痛がり方は異常に域を行く。何よりコイツはここまで迫真の演技が出来る程のヤツではない。
頭痛自体はガチなのだろう。
何が彼女をそうさせるのか分からない、つまるところ頭痛の原因は私達が知る由も無い。とりあえず頭痛持ちの体質なのだと捉える事にした。声がちょっとエロい。

「関係ないハズなんスけど・・・」
「何がよ?」
「こっちの話ッス」
「ますます分からないなぁ、何か隠してるのは丸分かりなんだけど、その核心を果たして突いたのか突いてないのか、それさえわからず中断する、その頭痛でね」
「・・・・・」
「まあいいじゃねえか、ウチを万能の製造機みたく思われるのは勘弁して欲しい所だが、これはこれで面白いしな」
「それでいいんですか貴女は・・・」
「いいって事よ、ギターの弦腐らせまくるよりよっぽどマシだ」

ルーツの背中に担がれたギターに、ほぼ無意識で視線を移す。
弦以外が新品同然なのが見て取れる。おそらく、アーティアの能力で弦以外はその状態を保っていられるのだろう。
というより、『壊れない』だけで、『劣化』はする。といった所か。
視線を元に戻すとアーティアと目が合う。そして二人同時にまたルーツの方を見て。その後再度顔を見合わせて大きなため息を一発。

「しかし、二つあるって事は、誰かとの連絡手段として使うって事になんだよな?此処にいるヤツらか?」
「いえ、違うッス、違反の思念が脅威へと成りうる、その違反に最も近く、そして対抗出来る術を持つ人物は、おそらくこの世に二人しか存在しないッス」
「二人・・・?」
「はいッス、その二人をはてなタワーに向かわせて、電話で指示を行うつもりッス」
「そのための電話ねえ、他に方法は無かったのか?」
「生憎、テレパシーのような能力を使う事の出来る人物は近くには存在しないッス・・・ルコとピオネロの意思疎通をするにしても、電話代わりに同行する必要があるし、そもそも距離がありすぎて無理ッス」
「というより、同行した所で足手まといでしかないよね・・・」

そう言いながら周囲を見渡し、一人一人、此処にいる思念体を確認する。

ルコ=モノトーン。紛れも無い私。違反の一つ、丸コピーを主体とした能力群による戦闘を行う、融通が効くが、相手に依存する戦い方しか不能な上、自分で言ってて悲しいくらいだが弱い。
ルーツ=イクスペクト。謎の多い期待の思念。時折予言じみた言動を行うが、有無を言わさず弱い。
ナーバ=ウゴリーヨ。はてなの思念。思念体の雰囲気纏う事が出来る。この中でまともに戦える思念体その一。たぶん戦闘力は並くらい。
ピオネロ。心を読める重複の思念。相手のイメージを奪取して使える。が、やっぱり依存性が高く弱い。
アーティア。努力の思念。腕っ節の強さ異常。まともに戦える思念体その二。おそらくこの中で最強。だが寝不足だぞ大丈夫か。
七。欲望に素直な小動物。何か食べてる。ほっこり。

壊滅的、圧倒的に壊滅的。イハンの行き先が彼女のおかげでわかっているとはいえ、そんな事が起こるのなれば上半身を取り戻すとか言ってられない。

「そもそも、根本的な話するけど、信じていいの?それ」

ルーツは起こる前提で話しているが、正直信憑性が無い。起こらない、とも言い切れないのでとりあえず確かめてみる。
そしてその問いに対して答えたのはルーツでは無くアーティアだった。

「それに関しては心配いらん、コイツの予知みたいなのは既に何度か発生しているからな、まああまり精度は良くないみたいだが」

アーティアの折り紙付きのようだ、それならば一応の心配は要らないだろう。『精度良くない』のが若干引っかかる所。
だが結局、電話を届けるためにはその二人の下に赴く必要がある。思念体でないならばレーダーではわからないし、最近活発になっているらしい宮橋やその仲間達に妨害される恐れもある。
相手は二人、ルーツの焦り方から見ても、一人ずつ探している程の悠長な時間は無いと見て良いだろう。そう考えると手分けする必要が発生するワケだが、これで後者が起こった際にどうしようもない。
他の思念が強力なのもそうだが、宮橋自身の戦闘能力も未知数だ、二戦共に自爆してくれたおかげで勝てたものの、あの幻想を呼び寄せる力のひとつひとつは何が起こるのか予測不能でしかも強力。
こちらの事故死だって考えられなくは無い。相手が思念体なのに限らず、実際問題、危ない目には何度かあっている。

「時間はとりたくない、しかし捜索しなければならない、捜索すべき相手がわからない。さて、ここまで厳しい状況だけど、どうするの?」
「生憎その二人の名前がわからないッスが、片方はどこかの森の中に、もう一人は屋敷の中にいるッス、いずれも開放エリアなんで・・・」

そう言いながら、ルーツはリモコンを手に取り、思念レーダーを作動させた。私達の拠点と、そしてイハンの図書館、それぞれを中心に、思念体の性質の反応が大きく消滅している事が伺える。
そのままルーツは言葉を続けた。

「この開放されたエリアの中、一人は我慢の思念が封印されていたらしいエリア、つまりうごメモ町のハズレの一角。もう一人は疲労の思念が封印されていた場所の近く、これが厄介で特殊な移動手段が必要になるッス」
「特殊な移動手段?」
「そこはこの世界とは違う場所にあるんス、ただ飛んだり歩いたりしただけじゃどうにも行けないッス」
「詰んでるじゃないの」
「だったら私に任せて!」
「代行天使飛んできそうなセリフですね」

割り込むようにアーティアが大声をあげる、無論作業の手は休めない。
ピオネロのツッコミが何を意味するのかは私にはわからないが。

「そういうのなら私の得意分野だ、電話作り終わったら即刻作ってやっから、あんまその辺は心配すんな」

アーティアさんマジ万能クリエイター。だけど便利屋感が増大しているぞお前それでいいのか。
ともかく、移動手段においては心配要らないと今言われたため、他の思念も召集して作戦会議とシャレこむ事となった。
話聞いてない陣に事の慣わしを説明し、どう動くかを決める。
これから何が起こりうるのか理解しているであろうルーツに、この作戦指揮権の全てを適任した。不安だが、状況が起こる前から把握出来ているであろう彼女に任せるしか無い。

「それじゃあ始まるッス、さっき言った通り、今回は二人の人物にはてなタワーへ向かってもらうように誘導、片方にはさらに、今アーティアさんが作ってる電話を渡して欲しいッス」
「いい加減その二人ってのを教えて欲しいんだが」

ナーバがすかさずツッコミを入れる。その疑問はもっともだ、何をもったいぶっているのかしらないが、さっさとその二人とやらを教えるべき。

「ああそうだった!忘れてたッス!!」

不安が増大する。

「その二人というのは一人が金髪のオジサンで、もう一人が従者を引き連れたオジイサンッス、さっき言った通り、名前はわからないッス・・・」
「金髪のオッサンと?」
「従者を引き連れたおじいさん・・・?」

名前はわからずとも、だ。そんなナリしていたり、部下を引き連れたオッサンなんぞ何度か合った事がある。
間違い無くガルテスとヴィクレイマの事だろう。最初はイハンと共に柱を粉砕するために行動していたと聞いたが、最近となってはイハン側の情勢がわからなかったためにそれ以降の情報はからっきしなのだ。
ルーツの言う事から察して、どうやらイハンの図書館を離れ、それぞれの寝床についた、という所か。この状況下でずいぶんと暢気な事だが、ただ単に興味が無いだけかもしれない、あの人達の事だし。

「それで、その二人に会いに行けばいいのね」
「そうッス、時間はあまり残されていないんで、手分けしてもらう事になるッスが・・・・」

案の定だった。戦力が分散するのはマズいような気もするが・・・四の五の言っていられない。

「どう分けるんですか?」
「ナーバさん、私、そしてピオネロさんはその従者のオジサンを捜しに行くッス」
「おう」 「分かりました!」
「と、なると、私と七はガルテスを捜せばいいのね」
「む」
「ガルテス?」
「ん、ああ、心当たりがあるかもしれないだけ」

チーム分けが決まった所で出発と言いたい所だが、ルーツがまだ何か言いたげだった。
というかそもそも、大事なアイテムの存在がまだある。

「アーティアさんはどうするッスかね?」
「ン出来たァァーーーーーーーーッ!!」

けたたましい叫び声をあげるアーティア。それはもはやさながら悲鳴のようにも聞こえた、耳が痛い。

工房の奥から、死に掛けた目でのっそりやってきたアーティアは、ルーツに対してある物体を手渡した。
これが彼女の言う、『電話』なのだろう、電話と呼ぶにはあまりに歪で色々とぐっちゃぐっちゃしていて其れを電話と言うにはちょっと勇気がいるレベルの品だった。
試しに通話してみると、しっかりと受話器の奥からルーツの声が聞こえる。一応、電話としての機能は果たしている。扱いにくいが。
だが肝心のアーティアだが、なんと既に数週間は寝ていない、威勢はいつも通りに良いのだが、その体は上下左右に常にフラフラと揺れている。
そしてとうとう仕舞には、近くにあったレーダーの残骸に突っ伏すように倒れこんでしまった、無理も無いだろう、あまりにも酷使しすぎた。アーティアは便利屋とかの類ではないのだ。落ち度は私たちにあるだろう。主にルーツ。

「同行は不能だろうな・・・」
「また一番の戦力がいないッスか・・・」
「誰のせいだよ誰の」

そして、アーティア離脱によって、ルーツ方面はある事態が発生する。そう、時空転移が出来ない。
アーティアが心配するなと言っていたため、これまた何か作る予定だったのだろうが、そのアーティアは再起不能だ、このパーティの中に時空転移が可能な者はいない。
皆でどうにか対策を講じようとするものの、案が出るワケでもない。結局、この状況にルーツが口を開く。

「考えても仕方ないッス、ルコさん達は先にその人の元に向かって欲しいッス」
「アンタ達はどうするのよ」
「それがどうにもならないから、先に行ってて欲しいんス。イハンを止める事の出来る可能性は、出来るだけあげておきたいッス」
「・・・わかった」

こうしてルーツ達を置いて、私と七はガルテスと思わしき人物の元へと向かう。
工房を出て、森を抜け、うごメモ町へと歩を進める。・・・案の定飛んでいるワケだが。




うごメモ町、空が真っ赤だが、住民に然程動揺する様子は無い、慣れてしまったのだろうか。どちらにしても異様である。
人が寄り付かないハズレの一角、そこにガルテスと思わしき人物はいるという、もしノーヒントで探すという事になっていたらどうなっていた事だろう。
彼は決まった拠点を持たず、各地を転々とする。故に彼を探そうとするのは一苦労だ、家が無いんだもの。
そんなガルテスだが、イハンは感覚だけで彼の現拠点が把握出来るらしい。相棒であるだけで、そうにも違うものなのだろうか。
そのイハンだが、生憎、というかやはり図書館にはいない、柱の破壊にでも向かったか何かだろう。少なくとも、ルーツの言った通りならば、いない方が合点が行くものだ。

この町は、とてもいい町だ、思念体に対しても、誰もが優しい。ちょっと変わった人とかだいぶ変わった人とかはいるものの、イハンを受け入れてしまう程だ、平和ボケというか、お人よしとでも言うべきか。
そんなこの町が私は好き。この世界が好き。
私は性質が違反で、でもイハンみたいに人を引き付けたりしない。だから私には友達がいなかったし、人ともすぐにいがみ合ってしまう。
それでも私は、この騒動で出会った仲間達も好き。だからこそ、私はこの異変を終わらせたい。
この騒動で私が得たものはもしかすると掛け替えのないものなのだろう、この騒動がなければ出会わない存在もあっただろう。
だからといってこの騒動は許されないのだ、次に笑うのは、世界が平和になってからの方がいいに決まっているのだ。違反の思念がこんな事考えるのも、おかしな話だが。

そこで私はまたイハンを追いかけ、元の・・・・・












元?
元の姿って何?
私の過去の記憶、それは思念の殆どが覚えていないおぞましき記憶。
そこで私は、誰かの隣で戦っている、そしてその中に出てくる『私』の姿は、ぼやけて何もわからない。
だから私は、私を取り戻すために、同じ性質であるイハンを追っていた。それに間違いなど無いのだ。

記憶の中でハッキリとしない私を探す、そのために私はイハンを追い、『私』としての存在を取り戻そうとしている。

だがそれは・・・『私』なのか?
イハンは空に舞う存在で、私は地に足をつける存在だ。
今は別物の意識を持っている、だが、元に戻れば、その意識は、はたしてどちらのものなのだ?

私の中で、またひとつ、疑問と恐怖が芽生えた気がした。

おそらく凄まじい顔をしていたのであろう私の顔を七は覗き込むように見つめてくる。その眼に生気は見えない。

「むっむ」

相変わらず何を言っているのかわからないが、私が深刻な顔で考えているのを尻目に七は遠方を指差す。
その指し示した先には、木々が薙ぎ倒され、所々にクレーターが出来上がっている光景が広がっていた。
ここが我慢の思念が封印されていたという場所だろう。このドハデな荒れ方は恐らく破壊衝動の思念の妨害があったのだと見て良いかもしれない。
私はさらに道を外れ、そこから人の手が入っていないエリアへと侵入する。それに七は黙々とついて来る。というかこの子らまともに言語喋ってくれないんだけど。

クレーターバイオームを少し越えた先には、木々が深々と生い茂る森が広がっている。なるほど、ガルテスが好んで拠点にしそうな所だ。推測は少しずつ確信へと変わって行く。

が、ここからが問題でもある、木々が生い茂るという事は、同じような景色が続くという事。
その中から探すのは困難だし、さらに私たちが









迷いましたー!

うん、いやだめだよこういうのはね、道無き道とか進むものじゃありませんよホントに、右も左もわからないですよ。ふざけんじゃねえよ。
あたりを見回すもののやっぱり木が連なってる光景しかその目には映らない。七はドーナツ食べ始めるしでいけませんわこの子。
さっきからとりあえず進んではいるものの、果たして前に進んでいるのかさえわからない。木が視界から外れたらまた違う木が飛び込んでくる。

ヘタに動いてもどうしようもないだろう、ひとまずはその場に座り込む事にした。もっとも座り込めるのは私だけだが。
というか何で人里ひとつ離れた場所の森林がこんな大迷宮なんだ。

「・・・・・」
「むっふしむっふし」
「・・・・・」
「ぐっちゃぐっちゃ」

・・・・・会話が出来ない!!
え?何なのこの状況、七がマトモに会話出来ないのは知ってるよ、さっき言ったよ。
でもそれなんだよ!根本的な部分で会話が出来ないんだよ!!私の言ってる事はわかるだろうけど七の言ってる事はわからないよ!!
試しに七の食ってるものを拝借しようとしたら凄まじい嫌な顔をされた、そんな目を私を見ないで。

動いても意味を成さないが、こう動かないのも苦痛だとどうしようも無いではないか・・・、どうするか作戦会議的なのも出来ない。
ルーツめ謀りおったな、ギターで殴るぞ貴様。

いやまて、ルーツ?そうだ、ルーツがいるではないか!!

私は咄嗟に七の背中に腕を突っ込む。盛大にかじられた。ごっつ痛い。だが次からは無効化である、残念だったな。
七の背中は何処かに通じている『何か』がある、七が電話のような物質を欲しがったため、食べようものなら全力で叩く姿勢で電話らしき物体を渡したら、なんとこの子は背中へと収納した。
便利なので入れっぱなしにしていたが、今こそ開放の時である。数時間しか経っていないが。

「七、さっき渡した電話(的なアイテム)、渡してくれないかな?」
「むえー」

また嫌な顔をする。この子は電話かもしれないアレを、もらったものだと思って返したがらないのだろう、欲の思念としての本質故に仕方が無いのかもしれない。
しかしそれでは私が困ってしまうのだ。ドーナツあげた。返してくれた。ちょろい。

一応、他の電話に繋げるらしく、ちゃんと1から♯までのボタンが搭載されている。
一応覚えておいてソンは無いだろうが、今回の対象はもうひとつの電話、所謂内線である。

しかしあの電話はこちらが使う用の代物なので、ルーツが所持しているかというと微妙な感じだ、出てくれると良いのだが・・・




『もスもス!』
「死ね」
『ひどい』

どうやら繋がったらしい電話からは、電子的なノイズも混じったルーツのあまりにふざけた声が聞こえて来た。
あまりにふざけているので条件反射でうっかり何か口走ったがまあいいだろう。

『どうかしたッスか?』
「いやね・・・迷っちゃってね・・・、一応人物の目処は立ってるって話したと思うけど、その人物のいそうな場所に突っ込んだらまあ・・・」
『飛べばいいんじゃないッスか?』

どう思うよね、そうだよね、だが更に生憎な事に、この森林は枝が深い、飛んで脱出しようものならば、少々痛い思いをしなくてはならない。それくらいならば耐えても別に良いのだが・・・
ガルテスを探すためには結局下に下りなければならない、迷う事が回避出来ても、目的は遂行できないのでは意味がないのだ。
それで歩くけどまあ歩いてもラチがあかない、というワケだ。

『元も子も無いじゃないッスか』
「アンタらはどうなったのよ」
『自分達はアーティアさんがあの状況で起きてくれないので出発したんス』
「死にかけの状態のってわかってるのに起こそうとしたの?バカじゃないの?てかバカだお前」
『中々にひどい』
「でも出発した所で、どうしようも無いじゃないのアンタら・・・」
『そうでもないッスよ、今冥蒙界?って所にたどり着いた所ッス』
「はあ!?何をどうしたのよ!?」
『それが――』

ルーツが何かを言い放った直後、私は何かの気配を察知し、あたりに警戒網を張る。ルーツが言葉を続けるものの、既に私の耳にその言葉は入ってこない。
七は「むっむっ」と声を漏らしながら跳ねるように上下している。
この感じは一度味わった事がある。この異変が発生する以前に一度だけ。その時はあっけなく出てきたが、今回はそうも行かないらしい。中々に姿を現さない。
どこから来るか、この木々の中を慎重に見渡しながら臨戦態勢で構える。

そして次の瞬間、遥か上空より、深く茂る木々の葉を物ともせずにその眩い極光は私たちを照らし出す。それはこの地に到達するより前に物凄い熱量を帯び、それが危険なものである事は何も考えずとも把握出来た。

「七!!危ない!!!」

言わずとも分かっているであろう七が慌ててその場を離れる、勿論私も。




強烈な熱を帯びた『ソレ』は今まさに私達が立っていた場所を高速で貫き、空が見えなかったこの森林だが、その照射地点だけにぽっかり穴があいて綺麗な空が見える。
決して山火事のようなものが起きるとかそのような事も無く、瞬間的に焼き尽くし、灰さえ残さない。被害が少ないのは良い事だろうが、同時に今の光がソレほどの威力なのだと、説得力を持たせるには申し分の無い光景だった。

「ルーツ、あとでかけ直すね、場合によってはそっちの電話を渡しても構わないから」
『ちょ、ルコさん?何があっ』

無慈悲なるブチ切り。

「むむーっ!!むー!!」
「七もお怒りみたいね、そろそろ出てきたらどう?九十九街道宮橋!!」



「・・・けけけけ、いやあ参っちゃうよね、自分はこうして隠れてるつもりなのにさ、思念体は性質漏れてるからぜーんぜん意味を成さないの。まあそれを逆にエサにしようとしたんだけどね」

どこからともなく宮橋の声が響き渡る、またどこからくるのか分からない、決して気は緩めない。

「戯言はいいよ、わりと耳障りだから、いい加減姿を現して」
「つれないねえ君も」

そういうと、聳える木々の木の葉の中から笠だけがひらりと落下してくる。
そして枝にぶら下がるようににして遅れて姿を現したその影は、空中で笠を掴みながら地へと降り立った。足無いけど。

姿を現したのは紛れも無い九十九街道宮橋、なのだが、まさに「影」の名の通り真っ黒なのだ。何があった。

「見たかい?この破壊力!火となり焼き尽くす事さえ許されないこの超火力!!」
「この極光もあんたの仕業なの?」
「そうとも!『衛星兵器:サテライト・ブラスター』!!宇宙で伝道せず直接伝わる太陽コロナの凄まじき熱を凝縮し解き放つ殲滅兵器!!」

案の定その中身は簡単に教えてくれる、バカで何よりだ、だがバカ故に楽しそうに殺しにかかって来る、友好的であるハズの七さえ巻き添えにしてだ。
奴がススまみれで真っ黒なのは・・・おそらく巻き込まれたのだろう、幻想だからこそ、未知数だからこその危険も伴う、いやそんな事じゃなくて巻き込まれるのもバカだからだろうか。
それにしても説明がホントなら直線的に圧縮された太陽コロナ直撃だぞ、タフすぎないか。ギャグキャラはバトル漫画だとある種最強なんだぞ、勘弁しようよ。

「まあ今の極光の正体はお蔭様でわかったけど、今度は何?私達今回ばかりは柱をどうとかじゃないわよ?」
「柱のマイナス思念体の回収にアズゥ自身が乗り出したんだ」
「アズゥ・・・?それが親玉の名前?」
「ああ、言ってなかったか、まあいいけどさ」
「何が狙いなの?貴方達は何をしているの?」

わりと確信に迫る質問だ。普通ならわざわざ手の内を語る事は無いだろうが・・・

「単純明快だ、世界の支配。アズゥは自らの手でソレを成そうとしている」

ビンゴだ、奴は簡単に語ってくれる。

「黒絶星の思念体、アズゥ=ブラックフェザー。今のままでも十分強い彼だけど、どうにもまだ納得がいかないみたいでね。そのために世界を混乱へと陥れた、人の感情たるソレはいかにプラスに働こうがマイナスに働こうが、何かが欠けてしまえば不安定ものとなる。不安定な人間は果たしてこの世界において何を生み出すのかな?」
「むむん」
「黒絶星・・・か」
「ご名答、黒絶星の思念であるアズゥは、その黒絶星の性質を強化する事で彼自身も強くなる、ちょっとまわりくどいけど、違反の性質で心に作用させ、他の性質でスキに付け入る、孤立した感情しか持たなくなった人間は、嫌でも黒絶星を量産する、結果的に効率的なんだよね。全ては支配者たる存在としての、絶対的な力のためさ、簡単だろう?三行でもっかい言ってあげようか?」
「いらないから続けて」
「やっぱ君性格悪いよ、まあいいけどさ。そして、それを充分と判断したアズゥは、今度は柱に封じ込めた思念体を回収するよう指示した」
「おかしくない?私達みたいな柱を壊す邪魔な存在がいるにしても、わざわざ設置したモノ回収せずにギリギリまで粘ればいいのに、結果的に黒絶星の収集率が高いのはそっちのハズよ」
「どうだよね、普通そう考えるよね、ところがそうでもない、柱一本につき思念体一体だ、破壊者達にとっては骨が折れるだろうけど、こっちにしても困った話だ」
「何がよ」
「彼らの殆どは間違いなく、柱に封じ込めた張本人である僕たちに敵対する、いかにアズゥが力をつけるとか言っても、敵が多すぎるのはマズい、数で攻められたら、今度骨を折られるのは僕達だ。だから考えたんだよ、既に力としては充分だから、今度は柱の中身を駒として扱おうってね!!」

なんつー卑劣な事をさわやかに言うのだろうかコイツは、今にもハラワタが煮えくり返りそうだ。

「無論、柱に封じ込めた思念だけじゃない、危険異分子も、その手中に収められるなら収めてもいい。優先は無力化の容易い柱の思念だけどね!!」
「私の所に来たのは?」
「邪魔者のお掃除兼、あわよくばお持ち帰りです、七もそこの思念もね!!」
「殺すぞ」

少々心のどこかでなめていたかもしれない、ただのバカだと思って油断していたかもしれない。
コイツは放っておくとホントに危ない存在だ、今ここで叩き潰す。

「怖いねえルコ=モノトーン!!声は全然怖くないけどね!!ドスの聞いた声は出せない系!?けけけけけ!!!ゲホッ、ゲホッ」
「その前にさらに質問したいんだけど」
「なんだい」
「どうしてそこまで内側の事情を語るの?聞いてもいないのに結構重要そうな事もべらべら」
「そんなの、その方が楽しいからに決まってるからだよ、僕は楽しい事の味方!!アズゥの傍に居るのも、そっちの方が色々と楽しいから!!」
「わかった」

聞きたい事も聞いたので、私は宮橋にずけずけと迫りながら左手を高らかに天へと掲げる。
恐怖は無い、今なら痛いのも怖くない。目の前の対象を殲滅する。『違反』の性質よ、今だけは、その性質の名が指し示す通りの非道さを私に・・・・!!!

左手を振るうように地へと落とす、何処かで見た事のある極光が宮橋めがけて降り注ぐ。

「っぶない!?」
「やっぱり素早いね君」

その極光を宮橋は間一髪で回避した。膨大な熱を帯びた極光が二度も降り注いだ影響か、周囲の温度が妙に高まっている気がする。あと多少コゲくさい。

「今のはサテライト・ブラスターの・・・」
「勿論私は衛星がどんなのか知らないし、それを確認する事も出来ない。ラーニングは、見た技をそのままコピーする能力、あくまで効果以外は視覚情報だけ、見えない部分はデタラメになる。今の私は、『衛星を介さずとも天空からレーザーを飛来させられる』」
「めちゃくちゃだねえ」
「ええ、めちゃくちゃね、滅茶苦茶なアンタを始末するにはちょうどいいかもね!!」

一発、二発と極太の熱線を打ち出す。カスりはするものの、どれも直撃にまで至る事は無い。何より無駄撃ちすればするだけ周囲が熱くなる。

「確かにラーニング自体はめちゃくちゃだけど、君に回避出来るんだ、僕に回避出来ないワケないじゃないか」

確かに奴の言うとおりだ、足が無い分に機動力が高いのは確定的。私がようやく回避出来る程度のものは奴にかかれば容易なのだ。
ならば七に食べさせて、弾数を増やすか・・・?その七はというと熱線の着弾点から生み出される熱で肉を焼いている。さっきまでの怒りは何処へ。

「君の能力は実に厄介だ、見せてしまうだけで簡単に奪われてしまう。だからこそ自身の攻撃に対する対策は怠らない、射出から着弾までの時間とか色々は、自分が放ったレーザーで既に知っているつもりだ。回避するには申し分無いレベルの着弾時間だけど、君の体力は何処まで持つのかな?」

奴はどうやら∞-インフィニティ-とスティールを知らないらしい。勿論、奴と違って私はそれを教えるつもりは無い。
だが問題は、今回その能力は役に立ちそうにないという事だ、奴の能力は幻想を招来する能力、おおまかにも『幻想』と呼べる存在というのは数え切れない程存在するだろう。
この戦闘、負けるつもりはないが、仮にサテライトの一撃がぶつかった場合は一瞬で消し炭だ。∞-インフィニティ-が発動しても次の無効化が生きる事は無いだろう。厳密には技というカテゴリでは無いのもある。
逆に奴の能力をスティール出来れば心強いものであるのは間違いない、だが、奴に触れるのはそう簡単な事でもない。ヘタに突っ込めばこれまたサテライトの餌食だ。

宮橋を注意深く観察しながら、何か打つ手は無いものかと思考を張り巡らせて模索する。

だがその時、握り締めていた電話が奇妙な音を放っている事に気がつく。それに目をつけた宮橋が透かさず信号を送り、サテライトを起動させた。
音に気をとられてしまった私は当然それを回避する事はままならない。膨大な熱を持った光の塊が、私の視界を真っ白に染め上げる・・・



死ぬかと思った、というか死んだと思った。
しかしまた、あの時のように救われたのだ、なんだかんだでこの子には借りを作ってばかりな気がする。


七が技を食べた、『サテライト・ブラスター』を食べてしまったのだ。あんな極太光線どうやって食したのかは不明だが、熱線が着弾した痕跡は無い。七に収まってしまったのだろう。

「むっむむ!むー!!むむ!!」
「今回ばかりは七の言う事でも知った事ではないね!!こちとら最悪殺す気でいるんだから!!!居合わせたなら死ぬつもりでいてもらわないと!!」

だがこれで、七も同様の技が使えるようになった事になる、問題は、一口しか食べていない事だ、七は食べたら食べるだけ技の精度が増す。
逆に一口しか食べていないという事は、それだけ元の技より精度が曖昧だという事、スラッシュリハイドがバナナになった時のように、どうなるかわからない。
それよりこの鳴り止まない着信は何だ、ルーツ達であるのは間違い無いが、こんな時に何を考えているのだ。
応答したいが、宮橋を押さえ込まない事にはどうしようもない。大きなスキを作ってしまう。

「だったら、皆まとめて消し飛ばす!!」
「むっむーーーーッ!!!」

宮橋が再度照射の体制に入ろうとするが、そこにすかさず七が食べた技を放たんと構える!!
だが果たして七の放つサテライト・ブラスターが足止めに有効なものとして発現するのかが分からない。

「っが!!?」

目視は出来ない、だが何かが降り注いでいる事は見て取れる!!
周囲の樹木は宮橋もろともズタズタに細切れにされて行き、さらに宮橋は切り傷を増やしながらも必死に耳を抑えていた!!

『光よりも劣るもの』として発現した七のサテライトが放ったものはあろう事か『音』だった!!
その音は膨大な風圧を纏いながら、『超音速波(ソニックブーム)』として宮橋に直下する!!!!

「むむむ!!!」

おそらく電話に出るように指示しているのだろう、この土壇場で精度の悪い攻撃で音を引き当てるのは、運が良い!!
七がスキを作っている間に、私は電話に応答する。

「もしもし!!」
『あ!やっと繋がったッス!ルコさん!さっき切れたのは、もしかして交戦中ッスか!!?』
「わりとヤバめのね!!」
『だったら、今からある思念に救援に向かって貰うッス!!』
「ある思念?」
『そうッス!!私達は世界を飛んで!さっきヴィクレイマって人に会って!事を終わらせたッス!!』

異世界とはやはりそういうことだった、ガルテスと来て、異世界の覇者となったイハンに近い存在。ヴィクレイマ・ダークネスに他ならない。

『この世界に送ってくれたその思念がもうすぐにつくハズッス!!』
「しゃらくさい!!」

七の攻撃から復帰した宮橋が私達めがけて光線をぶち落とす!

「あ!ヤバい!」

唐突だったので結構マヌケな声を放ってしまったが、わりとガチでヤバい!!防御の術は御座いませんが!!七もバテてますが!!


高熱の光線が、再度眼前まで迫る!!







ところがどっこい、その眩い光は、突如空中に出現した円形の黒い物体によって遮られ、光線ごと、その黒い物体は消滅した。
何が起こったのかわからず、その場にいる全員が唖然とする、七は肉食ってる。

しかし次に声を上げたのは、私でも、宮橋でも、はたまた、七でも無かった。私の背後から、湧き上がる性質の出現と共に声が響く。

「返すぞ」

ただそれだけの声が聞こえ、私の頭上からは再度あの黒い歪が出現。
するとどうだ、奴が放ったレーザーが、その歪から宮橋めがけて一直線に伸びていくではないか。

突然の出来事に流石に驚きを隠せなかったのか、本当に焦った表情で、しどろもどろする宮橋の姿があった。
勿論、それに対しての対処法など用意しているワケも無く、反応も出来るワケ無い。その白熱の一閃は的確に宮橋を貫いた。

私はその着弾を確認した後、後ろを振り返る。性質の地点で気がついていたが、私の背後に音も無く現れた思念体とは、無の思念、ヤグレムだった。
会った事は無い、イハンがよくグチグチ言っているのを幾度と無く聞いているためにその存在は知っている。
何に対しても無関心であるはずの彼女が何故此処に来たのだろうか。加勢してくれるとなればかなり心強いが、その線はどうにも薄そうだ。
そういえば、この異変が生じる前、宮橋と交戦する前に見つけた柱から吹き出ていた性質も無だったハズ、無事救出されたという事か、むしろ何故入っていた。

「君が来るなんて誰も想像できないね!!」

二度目の光線を貰った宮橋が再度起き上がる、私が喰らえばたぶん一撃必殺コースだと思うのだがこのタフさはおかしいと思う。

「しかし、こうなってしまってはマズいな・・・此処は・・・」

何かを察した宮橋が体を捻り、そのまま流れるように森の奥へと一瞬で行方を晦ませてしまった。

「あ、待て!!」
「お前が待て」

ヤグレムに呼び止められる、何を考えているのだろうか、敵が逃げるというのに。

「お前がルコ=モノトーンか」
「あ・・・はい」

鋭く冷たい眼光で私を見つめるヤグレム。
その目からは今何を思っているのかを読み取る事は出来ない、澄んでいるのに濁っているような、そんな目をしていた。

ぶっちゃけちょっと怖い。


「ふあ」

突如表情ひとつ変えず、私の頭に手を置くヤグレム、わりとソフトに置いてくるので思わず変な声が出たが別に何でも無い。

「あ、あの」
「・・・・・私が此処で成すべき事は完了した」
「うん、うん?」
「む」

そう言うとヤグレムはあの黒い歪の中に姿を沈めて行き、歪も消滅してしまった。


マジで何したかったの!!?

いや来て頭叩いて帰っちゃったよ!!別の意味で何考えてるのかわっかんないよ!わっかんないよこれ!!
宮橋追わないといけないのに!とんだ時間の無駄だったよ!何なのよ一体!なんなんだー!!ヴォー!!

「むっむ」
「あ゛あ゛ん!!?」
「むぎっ」

ドスの効いた声出せるんだ私。って違うそうじゃない、ビビらせてしまったが、七が何かいいたげのようである。だが案の定「む」しか発する事の出来ないこの子の言いたい事は分からない。
それは七にも分かっているのか、必死にジェスチャーで私に事を伝えようとする。自身を指さし、その後私を指差して上下に浮遊する。

七で、私で、ふーわふわ。


七を、私が、ふわふわ


七を何かして、私が、飛ぶ


七をスティールして私が飛んだ。


そういう事だったか!!
触れた者の能力をコピー出来る能力!スティールの存在だ!!今回は役に立たないと割り切ってうっかり忘れていたのだった!!


咄嗟にスティールを発動し、ヤグレムとしての力をその身に宿す。灰色のローブを身に纏い、私は全ての念を知りえる目を手に入れた。

ヤグレムの能力、<無常観>。思念体の性質と位置を正確に特定する能力だ。見える、見えるぞ!!奴の場所が!移動経路が!!
しかし問題は、場所が分かってもそれに追いつく術が無い事なのだが・・・・










「思わず逃げ出してしまったけど、どうするか、タワーに向かってるアズゥに合流するか?ラーニングがあるから怖いモンだけど、こう入り組んだ所に紛れたらルコに探し当てられるハズが無い。なんかフラグっぽいぞ!!」
「言ったハズよね『殺すぞ』って」
「フラグでしたね!!」

空間の歪を抜け出し、宮橋の眼前へと姿を現すのは私と七。ヤグレムの技の一つ、「エンプティホール」。
亜空穴を自由自在に生み出す技だ、どうやらヤグレムの作る歪とは別モノのようで、ヤグレムがいくつか収納してあるであろうものは引き出す事が出来ない。私の本質が『コピー』なだけに仕方が無いか。
普段の私なら、思念体の飛行速度には追いつけっこない。だが、この技を使えばどうだろう、あっという間である。色々と未知数だ。

「やっぱりヤグレムの力を会得していたか!だから嫌だったのに!!」
「すごいねこの技、ぶっちゃけ何でもできなさる」
「出来るならどうするんだい」
「穴に閉じ込めてそのまんまでもいいだろうね、日付の変化と共に覚えた技は忘れる。空間ごと抹殺なんて芸当も出来る」
「生憎だけど、僕にその技は通用しない、いやするっちゃするけど」
「まあ幻想を呼び出すんだもんね、ある種どうとでもなっちゃうか。でも大丈夫、元よりそんな事するつもりは無い」
「何だって?」
「アンタは私の手で殺す!!そう決めたもの!!」
「私の手ェ!?何言ってんだ!!アンタ『自分の手』も『自分の力』も持ってないじゃないか!!」
「誰かの作った幻想にしか頼れないアンタにだけは言われたくない!!!」
「ぐぅ・・・!」


これで勝負は仕切り直しとなった、奴に逃げ場など無い、戦う以外の選択肢は無くなったワケだ。
さらに奴に至っては今までのダメージが存在する、体中傷だらけな上、コゲ臭さがまだ残っていた。私達が優勢である事は間違い無いだろう。
七にもエンプティホールを食べさせても良かったのだが、どうにもさっきの肉がおなかに溜まっているらしい、今はいらないようだ。オマイゴッ。

「それにその姿・・・そうか、まだ君には能力が存在するのか、僕の居場所が分かったのもそれのおかげか」
「フツー手の内はあまり晒すものじゃないよ」

宮橋はヘタに動く事が出来ないでいる、先ほどみたいにレーザーを放てば、また吸収されて自分に帰ってくるからだ。
向こうが来ないならばこちらから行くしかないだろう。

私は木々の間を縫うように移動し、宮橋との距離をつめ、さらに上空からの光線を宮橋目掛けて見舞った。
宮橋は私の接近には気がついているだろうが、光線に重点を置いており私の方は見向きもしない。
それもそうだ、私自身が接近した所で、私には肝心な決め手と成り得る攻撃を持ち合わせていない。ホールで奴を吸い込まないのは自分の中で決めた事。自身で叩かないと気が済まないからだ。
故に私が奴に突撃するのはフェイク。だが、その光線もフェイクだ。

「・・・・・んなッ!?」

回避でもするのか、防御でもするつもりだったのか、光線の飛来に備える宮橋だったが、時空の歪が展開され、その攻撃はたちまち飲み込まれてしまう。
充分読めた展開ではあるだろうが、逃走不能、苦戦必至の戦いに奴は相当焦りを見せている。目先の情報しか入ってきていない。

奴の背後から再度展開されるホール、吸い込んだものを出す。流石にこうにも単純な事は宮橋にも読めたようで、奴は上に飛び上がり、光線の射線からは外れてしまう。


それが光線ならばスカだったが。
ホールから出てきたのは、残念ながら光線ではない。



七である!!!

「むっむーーー!!」
「ウソやぁぁぁぁん!!?」

七がまるで戦闘に参加していなかったために、宮橋の意識は完全に私にしか向いていなかった。ちゃっかり七を吸引していたとは思うまい!!!

「いっけー!!七ァァ!!!」
「むえーーー!!!!」

地面と平行に、仰向けの状態で出てきた七はしっかりとその目に宮橋の姿を捉えている。これまた予想外の事態に、宮橋は反応が遅れてしまった。
七の背中から漏れ出す霊体の断片の数々が、高速で宮橋に向かって突っ込んでいく。七が所持する技の一つ、『飛来する内密の青き薔薇(インモストブルーローズ)』である。
鋭利な破片にも見えるその飛翔する霊体が、一つ一つ的確に宮橋の体を捉え、貫く!!そしてトドメに!!

私は宮橋の真上にホールを展開する。

「エゲつねえ!!」

喋る余裕はある宮橋のようだが、もう回避など出来ないだろう。
フェイクとして吸い込んだ光線が宮橋を上空から焼き尽くす!!!さあどうだ!そろそろ死ね!!


煙を上げながら、脱力するように頭から落下する宮橋。ボトリと音をたてて、地に伏した。起き上がる様子は・・・・・無い。



「勝った・・・勝っちゃった・・・」
「むっむーーー!!」
「やったよ七!!!勝っちゃったよ!!なんか勝った!!」

言葉に出来ない、今までだって勝利と呼べるものは何度かしたのだが、こうも気持ちの良い勝利は初めてだった。
確かに自身の力で勝ったとは言い難いが、それでも嬉しいものは嬉しい。あと存分にぶっ飛ばせたのでとてもスカッとしました!!
七も、表情こそ変わらないが、手をバタバタさせている、きっと喜んでいると見ても良いだろう。
さて、宮橋がピクリとも動かない、最初に戦った時を彷彿とさせる、七と私で勝利を掴み、こんがりした宮橋が一切動かない光景。

・・・とにかくだ、私はまだ事を完了したワケではない。
そう、私達が外に出た理由とは、ガルテスを探す事にある、勿論忘れてなどいない。よくよく考えると、ガルテス捜索に関しては一切事が進んでいなかった。
無情観では思念体以外の位置を探る事は出来ない。また地道に探す他無いのか・・・






「けふっ」






嫌な音が背後から聞こえる。
喜びと勝利の余韻を一瞬で崩し去る無慈悲な咳払いが聞こえた。

捜索に踏み出そうとした私達は、その歩みを止め、恐る恐る、ゆっくりと振り返る。





宮橋が起き上がっていたのだ。徹底的に叩きのめしたはずである宮橋が、薄ら笑いを浮かべて立っているのだ、足無いけど。
既にあちこちボロボロの宮橋、しかし奴も流石に限界が近いのか、その浮遊はどことなくおぼつかない。

「まだ生きてるの・・・?どんだけタフなのよ!!」

宮橋は私の声には一切反応を寄こさず、懐から何かを取り出してしばらく見つめた。
そしてそのまま無言でその何かを仕舞う。今の奴は、さながらホラーそのものである、全身ズタボロでフラフラ。そして無言。怖い。



「ふぅ・・・・・」


一息ついた宮橋。その間も、私は警戒を怠らない。


しかしその刹那!!

宮橋の両手には、いつの間にか一本の長槍が握られていた!!!
そして、宮橋はけたたましい笑い声をあげながらそれを一直線に私目掛け投擲する!!!

何を考えているのだ、私にはエンプティホールが・・・・



あれ?


無い、無い!!!使い方がわからない!!その上私の姿が元に戻っている!!!




宮橋が先ほど取り出したもの、あれも幻想から呼び寄せた代物なのか!?いや、しかし何かされたような感じはしなかったし、アレを取り出した地点では私の姿はまだ無の思念のものだった!!
じゃあアレは何なのだ!!!




まさか・・・時計・・・・・?




日付が変わった?





とにかく私は避ける事を考え、咄嗟に槍の直線状から外れるように横方向にステップを踏んだ。

だが私は、それが『幻想』である事を忘れていた。
その槍はたちまちに、理不尽に軌道を変えて、高速で私に飛来する。一突きの槍が私の足を貫き、私は痛みと共に体制を崩す。
私を貫いた槍はそのまま樹木に深く突き刺さった。

「う、うわあああ・・・・」

全身を貫くような痛みもあった、しかし何よりも恐怖心が勝り、声を上げる事さえ適わない。

「むっむーー!!」

七が駆け寄るように私に近づくが、何やら嫌な予感がした。ふと宮橋の元に目を向けると、その手には先ほどまで樹木に刺さっていたハズの槍があった。

宮橋は無言でそれを投げつける。しかし宮橋にも疲労があるのか、その槍はあらぬ方向へと飛んでいく。

「むっむむ・・・!」
「ダメ・・・七・・・早く逃げ――」

そう言いかけた時である、あらぬ方向へ飛んでいったハズのその槍は、的確に七の腕を貫き、落とした。

「七ッ!!!」
「むっ・・・・むっ・・・・」

「今までの例に倣って教えてやるよ」

宮橋がようやく口を開くが、その口調は今までの宮橋とはまるで別物だった。もっとドス黒いものを内包してそうな、そんな威圧感を放ちながら、宮橋は言葉を続ける。

「『絶対必中槍グングニール』、投げたら命中、そして持ち主の元へと戻る神話の槍、生憎貴様らに逃げ場は無い」

こいつ、完全に私達を殺す気だ、今まで出さなかったのはあくまでも楽しむため、殺す事が目的となった今、その幻想に躊躇などいらなくなったのだ。
仲が良いように見えた七さえ容赦なく片腕を落としてしまった・・・。
ラーニングで同じものを投げようにもダメなのだ、足をやられて、痛みが私の行動の全てを拒むのだ。

宮橋が再度私に向けて槍を投げつける。神話上の代物だろうと、私に対して二度、同じ手段は通用しない。その槍は私に触れた後に弾かれ、地面へと突き刺さる。
当然、刺さったと思った頃には宮橋の手に戻っている。

「無力化・・・三つ目の能力を持っていたか、つくづく分からない奴だな貴様は」

返す言葉も出なかった。今の私は、ただ死を待つだけの存在と成り果てた。

「まあいいさ、先に七をやればいいだけだ・・・!!」

4度目の投擲、それは確実に七目掛けて突っ込んでいく。身を呈して私が庇えばどうにかなりそうだが、移動さえままならない。
もう無理だ・・・・・











「ったくよォ・・・やかましくて寝れねえから何だと思って来てみればよォ・・・随分おもしれえことやってんじゃねえかァ・・・?」

思わず目を瞑ってしまった私だが、違う声が聞こえた事で恐る恐る目を開ける。
金髪のオッサンが、対象を貫かんと奮闘している槍を片手の一握りで押さえ込み、私達の目の前に立ち尽くしていた。


「が、ガルテス・・・!!」
「むむむっ!!」
「ちぃぃッ!!!」

押さえ込むように握られていたグングニールは彼の手の中で瞬く間に姿を変え、一枚の紙切れへと変貌を遂げた。

「よォ小娘、テメエみてぇなチビがこんな時間に出歩くモンじゃあねえぜェ?」
「何をしにきたジジイ」
「何をだァ?こんなに大暴れされちゃあよォ・・・、血が騒いで黙ってらんねえんだよなァ!!!」
「ならば貴様もろとも幻想に変えて―――」

「っだオラァ!!!!!!!!!!」

新たなる来訪者、上空から飛来したそれは、拳一つで宮橋を捻じ伏せ、大きなクレーターを作りながら地面に押さえつけてしまった。

そのクレーターはどこかで見た事がある。その来訪者とは、破壊衝動の思念体であった。
此処に来て敵の増援・・・今の私と七はハッキリ言ってお荷物、私達を背負った上でガルテスが対峙出来るとは思えない。

「戦闘の最中だったか、本当ならば俺も加わる所だが・・・起きろクソカエル!!!」
「何をさらすんだいでこっぱち!!!」

宮橋の調子がいつもの感じに戻っている、なんたる荒療治。

「デコ言うな壊すぞテメェ。アズゥが貴様を回収しろと直々にだ、さっさと来い!!!!」
「かーッ!!アズゥも何を考えてるんだか!!こんなクソデコを寄こすなんてどうかしてるよ!!!」
「おいテメェらァ!!どこ行きやがンだァ!!!?」
「生憎だけど!上からのご命令なんでね!!此処は一旦引かせてもらうよ!!!命拾いした事をせいぜいかみ締める事だね!!!!」

そう言いながら、宮橋は破壊衝動の思念に引っ張られるように退散していった。
本当に命拾いして、内心、ホッとしているが、足の痛みが抜けないのでそれを表にだす事はままならなかった。

だが、ガルテスを探す必要が無くなったのは幸いだ。私達はどうにか痛みに耐えながらも、ガルテスに事の慣わしを説明し、形容し難き電話のようなものを渡す。
そのまま向かってもらえばよかったが、生憎私達には帰る手段が無かったのだ。それを悩んでいると、ガルテスは私達に手を置く。
紙にその存在を変える事で、運んでもらえるという。かくして、私達の任務は完了した。
はたしてガルテス達がどうなったのかを知るのは、私達が紙の状態から戻った時である。



ルコ=モノトーン篇 END

終わる前の終わりの話の終わる寸前にひとかけら

世界の終焉――

大災害が起こるワケでも無く、悪役達が破壊活動に勤しむワケでも無く。

忽然と『世界が無くなる』。

その知らせに人々はざわつき始めた。終焉を見届けようとする者もいれば、無くなる事が覆るハズなど無いのに世界の終末に猛反発する者もいた。
やがて世界の混沌とした現状は、悪化の一途を辿り。

ある者はこの世界を見て言う。『世紀末』と。


「おい見てみろよォ、スガスガしいまでの混乱ぶりだぜェ?」
「亡者が沸いて出た時を彷彿とさせる光景だな」
「ワシはその亡者とやらは知らんが、今更星など集めてどうするつもりかのう、全て消し飛ぶというのに」
「だが違反者ってのは大急増だぜェ?良かったじゃあねェか」
「此処まで嬉しくない強化は大戦以来だ」
「混乱に乗じて何かやらかすのも一興かのう・・・」

木漏れ日差し込む木々の中、混沌とした世界を傍観しながらそう言うのは「悪役」と呼ばれる三人。
ガルテス、イハン、ヴィクレイマの姿であった。

「まあいずれはこうなるものだろうとは分かっていたが、こうも早くこの結末とはな」
「世界が終わるなどと淡々と宣言されてこうならん方がどうかしておるわ」
「ンじゃあアレかァ?俺らはどうかしてる方だってのかァ?」
「色んな意味で異端であるのは間違いねえだろ」
「違いねェな」
「違いないのう」

三人は非常に落ち着いていた。この終焉迫る世界のやかましすぎる中で、極めて冷静に談笑しているのだ。
その光景は、傍から見れば異様としか言い様が無い。

「んで、だ」

イハンが思いついたように口を開く。

「お前らはこっからどうするんだ?流石にこの世界に留まってるってワケねえだろ?」
「ん、そんな話かァ・・・、まあ俺には元より居場所なんざねェからなァ、この世界が消えるってなりゃ、また別の場所でテキトーにブラブラするわなァ」
「ワシは新たな土地へ行く、世界の終焉でワシの世界も消えてしまうのが少々名残惜しくて適わんが・・・何、新地で新たな世界の王となれば良いだけの事だ・・・」
「どっちもいかにもって返答だなぁ・・・お前らの行き着いた世界が今から哀れに思えるぜ」
「ヘヘッ」
「と、なればこの三人は解散となるのかのう」
「別次元とかの話になると世界だだっ広いからな、またこの3人で巡り合えるやら」
「どうだかなァ・・・」
「案外簡単に出会えるかもしれぬぞ、ワシらはまあ見事に悪運だけは強いからのう」
「悪運ってどういう意味だったか」
「さあなァ」
「・・・・・」
「・・・・・問題は貴様に有るのだがのう」
「結局の所どうなんだァ?」

一瞬にして張りつめる空気。理由はイハン、思念体の境遇にあった。

「九十九街道・・・、あの笠被った夢の思念が言っていた。思念体は、この世界と、この世界に隣り合った世界にしか存在出来ない」
「・・・・・マジかよ」
「ならばその隣り合った世界に行けば良いのではないか?」
「確かにそれも考えたが、思念体としての存在の根源はこの世界にある、この世界が消えてしまえば、隣り合った世界に行こうが俺達は消滅する」
「じゃあ・・・つまりだ、思念体は別世界への移住が出来ねえってのかァ?」
「そういう事になるな」
「完全体になればどうなのだ、あの姿は思念の理から外れた魔人の姿だろう」
「時間稼ぎにしかならん、違反の思念はそれぞれ別の存在として長く留まりすぎた。あの姿でいられるのは数分が限度だ」
「どうにもならねえってかァ?」
「どうにもならんな。俺どころか、思念体全員、この世界と心中らしい」

一陣の風が流れる。
三人の顔には、悲壮な感情も、悔しさを示す表情も浮かんでいない。ヴィクレイマに関しては表情が分からない。
死が確定しているのに、この二人は勿論、死を受け入れなければならないハズのイハンでさえ、至って冷静だ。
この無関心さ、そして非道にさえなれる冷静沈着さは、悪役の成せる所業だろうか。内心どう思っているのかは、知る由も無い。

「それで、貴様はどうするつもりだ」
「何がだ」
「ただ来るべき死を待つか?」
「イハンが此処で引き下がるワケがねェよなァ?」
「良く分かってるじゃあねえか、そうとも、ただ死んでおしまいなんてのは、俺の生には合わない」
「実にお前らしいが、どうするつもりだ」
「世界はこの惨状、血で血を洗い、醜い星の奪い合い、いつしか見たあの光景のように、今この世界には救い様などない。世界は既に手を下さずとも堕落している。ならば、それに対して俺は何をすればいい?どうせ崩れ行く世界、いまや誰もが悪となれる。『その悪もろとも、盛大に困らせる』には、果たしてどうすれば良い?」
「なんだイハン、それはなぞなぞか何かか?」
「簡単すぎて欠伸が出ちまうなァ・・・」
「ああ、そうだとも」







『世界を壊せばいいのさ』

動手帳敦喪失 〜Gianism ridiculous.

動手帳敦喪失 〜Gianism ridiculous.

あらすじとかキャラ設定とかエキストラストーリーとか


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■0.あらすじ
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 涼しい気候の続く日陰の地。
 木々はすっかり新緑の色に染め上がっており、
 この涼しさがやがて夏の蒸し暑さへと変わるのも、時間の問題だろうか。

 唯一の神社である神明神社はというと、相変わらず過ごし易い環境であるが
 相も変わらず参拝客は来ない。
 変わった所があるとすれば、それは時として見知った妖怪達が沸いて出る事と
 もうひとつは・・・・・。

 神巫「」

 神社の境内のど真ん中、竹箒を携えた少女が、口をパクパクさせながら、
 声にならない声を放ち、唖然として立ち尽くす。
 何やら尋常ならざる事態のご様子。

 神巫「ない・・・ない・・・ない、ない・・・」
 黒奈「おい!大変だ神巫!!私の―――」
 神巫「私のお賽銭箱がなあぁぁぁぁぁぁああぁあぁい!!!??」

 慌てた様子で境内へとやってきた詐欺師の少女、鳴神黒奈の声を無慈悲に踏み潰す
 かの如く、この世のものとは思えない叫び声を上げる神明神社の巫女、名を伊沙弥神巫と言う。



 神巫「勝手に動き出す訳も無いだろうし、盗まれたって考えるのが妥当かしら」
 黒奈「でも変な話だと思わないか?」
 神巫「何がよ」
 黒奈「あんな賽銭無銭な木箱を掻っ攫っても何の得も無いと思うが」
 神巫「有る」
 黒奈「えっ」
 神巫「有る」
 黒奈「・・・・・まあそれでいいか」
 神巫「それで?アンタは何なのよ」
 黒奈「私か?私は・・・」

 黒奈が用件を言おうとすると、また境内への来訪者の影。
 黒奈同様に随分慌てた様子である。 

 霊羽「神巫さんどうしよう!!」
 醴黄「私達の杯と箒が無くなっちまった!!」

 箒天人、針翠霊羽と、鴆妖怪、附醴黄(フー リーファン)の姿であった。
 片や妖怪、片や天人であるが、お互い『毒』仲間という事もあり、交流を持っているらしい。

 神巫「貴女達も何か無くなったの?」
 霊羽「あれ、なんだか神社に開放感が・・・」
 醴黄「あ、ホントだ。じゃ無くてだ、私達だけじゃない、今やあちこちで所持物が無くなったって大騒ぎだ」
 神巫「私も賽銭箱をやられたのよ、これは本格的に異変の臭いがするわね・・・黒奈?」
 黒奈「はいはい安心しろ、面白そうだからついて行くとも」
 神巫「よし、それじゃあ有無を言わさず出発よ」

 そう言いながらいつものようにアテも無く飛び出す二人、一方で取り残された天人と妖怪は・・・

 霊羽「・・・・・賽銭箱無くなったって・・・」
 醴黄「あっても無くても変わらなくないか?」



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■1.キャラ設定
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◇プレイヤーキャラサイド

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 ○神明の巫女
  
  伊沙弥 神巫(いざなみ いちこ)
  Izanami Itiko

  種族:人間
  能力:霊力を操る程度の能力

  神明神社の巫女さん。
  賽銭どころかついに賽銭箱さえ無くなってしまった巫女さん。

  真面目で常識のある人間だが、信仰と賽銭の話になると
  不安と焦りで色々気が気でなくなる。

  消失したアイテムは賽銭箱。

  
  各々の所有物が忽然と姿を消したという情報を手に入れ
  黒奈とほぼ目で会話しながら出発した。

  妖怪と天人も連れて行けば良かったかと考えるも
  結局邪魔になっては困るので置いて行く事にした。


 ○疾風迅雷の詐欺師

  鳴神 黒奈(なるかみ くろな
  Narukami Kurona

  種族:人間
  能力:電気を操る程度の能力

  人里とも神社とも離れた小屋でひっそり住まう詐欺師。
  何やらちょっと焦り気味だった詐欺師。

  彼女を突き動かすは感性と好奇心、あとはお金の臭い。
  シーチキンはジャスティス。

  消失したアイテムは・・・


  結局神巫に用件は言えず仕舞い、彼女も異変の被害者であり
  とあるものが無くなってしまっているが、彼女もそんな事は忘れてる様子。

  今日も今日とて、「面白そうだから」と神巫に同行する。

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◇敵キャラサイド

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 ○一面ボス 忘れ寂れた憑き人形
  
  京樹佐多 吉街(きょうきのさた よまち)
  Kyoukinosata yomati

  種族:付喪神
  能力:理解を遮る程度の能力

  新品時に可愛がって貰い、腕が解れたのを境に愛されなくなった熊の人形。
  その境遇もあるためか、友達と遊び相手を探している。
  彼女の存在を否定してしまうと、彼女の人形にされてしまうとかそうでもないとか。

  
  異変の影響によって、抱えている熊の人形が消えて無くなるという事は無い様子。
  特に異変に関わったという訳でもなく、ただ偶然通りかかっただけの人形に過ぎない。
  しかし、遊び相手を探す彼女にとって、その二人の人間の存在がどうでもいい筈も無く、
  そのまま弾幕勝負へと発展してしまう。

  勝利後、彼女から「昇天する沢山の物」の情報を手に入れる。
  目的地が上だと分かった彼女達は、ある人物の元を訪れる事にした。


 ○二面ボス 無駄に謎を呼ぶ化け狸
  
  斑若 蘭香(まだらわか らんか)
  madarawaka ranka

  種族:妖怪
  能力:事態を難航させる程度の能力

  見知った場所なのにふと気が付くと迷っていたり。
  目的地に到着してからその場所での用件を忘れるといった事態に遭遇した事があるだろうか。
  そんな時は大体この狸に化かされている。物事をとにかく難しくしてしまう迷惑極まりない存在だ。

  自称探偵の狸妖怪。自称なだけあって安心と信頼の解決率ゼロ。
  決して自分で自分を化かしてる訳ではなく、元からこういう頭の仕組みしてるだけなので仕方ない。

  消失したアイテムは虫メガネ。

  
  木々生い茂る森の中で人間達にばったりと遭遇する彼女。
  こんな大混乱の中で森の中をうろうろする存在とはあまりにも怪しいと睨み、
  中々その思考は冴えている、つまりお前もだよ。
  犯人確保&初手柄のために人間達に挑むがまあ無理だよね、犯人じゃないもんね。

  突如横槍を入れて来た狸とのひと悶着を済ませて一息つく巫女と詐欺師。
  しかし、そこは木々連なる森の中、右も左も分からぬ状況。
  彼女は既に、あの忌々しい狸に化かされていた。あ、上と下は分かります。


 ○三面ボス 腐らずこんがり芋妖怪
  
  幕揚 千草(まくあげ ちぐさ)
  Makuage Tigusa

  種族:妖怪
  能力:腐敗を操る程度の能力

  森の中に住居を構える、わりと人間的な生活観を持つお芋の妖怪。
  棲家にある芋畑と、森の中で拾ったり、採ったりしたもので生活をする。
  人間にも優しいますます妖怪らしさの無い妖怪だが
  心の腐った人間は毛嫌いする。
  あの狸とも面識があるが、森の中の地の利は完全に把握しているため、
  彼女が化かされたりはしないようだ。

  森の中で何やら振ると金属が擦れる音のする巾着を発見。
  それは黒奈の所持品である汚いお金。そう、黒奈が神社で言おうとしてた
  用件とは、この汚い金を紛失した事である。確かにお金落とすのは一大事だ。
  だがこのお金は一切異変とは関係無い。落としただけだからな。

  消失したアイテムは無し。拾ったアイテムは汚いお金。

  
  道無き道にに迷った挙句、同じ所を周回している人間達。
  それに声をかける彼女だったが、その手に持っているブツを黒奈は見逃さない。
  お金を奪われたと思った黒奈のせいで流れのままに弾幕勝負。

  もちろん勝負がつけば黒奈に返還。元より奪うつもりなどないのだから。
  どう見ても迷っている人間達を哀れんだ妖怪は、人間達に正しい道を指し示す。
  妖怪に助言されるのは巫女としてどうなのかと思ったが、状況が状況であるために
  素直に感謝する神巫であった。


 ○四面ボス 儚き花の半人半妖
  
  浅間 桜(あさま さくら)
  Asama Sakura

  種族:半人半妖
  能力:儚くする程度の能力

  人と妖怪の間に生まれたハーフの少女。
  しかし親は彼女を捨て、消息を絶ってしまった為に
  一人で花屋を営んでいる。

  真面目で落ち着いているのだが、物事を重く捉え、燃え上がってしまう少々困った性格。
  人間的な理性を持ち合わせる一方で、妖怪的な野生じみて好戦的な面もある。

  所有物が無くなったと嘆く人々、自分が大切にしていた花の消失。
  それが引き金となり、人々と花を守る名目で異変に首を突っ込む。

  消失したアイテムは花。


  植物の声を聞く事の出来る彼女は、植物から得た情報を頼りに今回の異変の元凶の元へと
  向かう最中だった。
  ところがそこでばったり出会ってしまうのは狸の幻術から抜け出した毎度おなじみ二人の人間!!
  同じ目的を持つもの同士、協力姿勢でも築けば良いのだが、どうにもそういう訳にはいかない模様。
  皆血の気が多すぎる。
  負けた方は情報を置いて異変から手を引く、と言うのを条件にいざ開戦。


  結局勝利したのは巫女と詐欺師。翌々考えてみたら2対1なのだからフェアではない。
  『天人の仕業』だという情報を開示し、桜は潔く今回の異変から手を引いた。
  行き先が天界に絞られたが、どの道ある人物を尋ねる事に変化は無し。
  人間達は、その『とある人物』の工房へと急ぐ。


 ○五面中ボス 高き目指す花火娘
  
  敦出池 叶多(とんでいけ かなた)
  Tondeike Kanata

  種族:天人
  能力:天まで届く程度の能力

  引き続き出番があった花火天人。
  自らの工房を作り、あの一件以降、地上での活動も多くなった。
  だが地上特有の「穢れ」によって、物の管理が天界のようにいかず多少困っている。

  彼女の力は天まで届ける力、天界だろうが宇宙だろうが、簡単に目的のフライトを指定してくれる。
  『とある人物』というのは、紛れもない彼女の事。
  人間達は一応自力でも天界には行けるのだが、手っ取り早いので彼女の力に頼る事にしたのだ。
  
  彼女も無論、今回の異変の事た知っているようだが、あまり天に届けるのは気が進まない様子。
  人間達は(ほぼ不意打ちに近い形で)力で分からせる事にした。


 ○五面ボス 轟く神鳴り
  
  神宮 雨依(かみや うより)
  Kamiya Uyori

  種族:雷獣
  能力:仰天させる程度の能力

  雷雲の中に住む雷獣。一応妖怪である。
  地上に降りる際、自然現象の落雷としてそれは現れ、雷の落ちた所には彼女がいる場合がある。
  自らに害を及ぼす存在や、落雷の傍にいた者に対して『毒気』をあてて錯乱させ、
  その毒気にあてられたものは気がふれてしまったり。失意に襲われて廃人になる。
  いずれも玉蜀黍を食べる事で治せるらしい。

  
  叶多の能力で天界まで一直線、という所まで来た人間達だったが、雷雲の中を駆け抜けている時に
  彼女に絡まれてしまう。
  天界にいるという主のしている事自体はあまり良しとは思っていないが、
  主を人間達から守るために弾幕勝負を挑む。


  かつて、地上に死に絶えんとする一匹の獣がいた。
  その獣は妖怪でも何でもない、本当に何の変哲も無い一匹の獣。

  獣には後悔の念も何も無かった、所詮はただの獣である、死を悟れば、それで終わるのである。

  そうして死を待つ獣だったが、朦朧とする意識の中で、その獣は人の影を見た。
  それは、宝玉を抱える一人の天人の姿だった。

  天人は獣に声をかけるが、獣には声を上げる程の力さえ残されていなかった。
  それを哀れんだ天人は、少々渋りながらも抱えていた七つの宝玉を地に置き、何かを唱え始める。

  するとどうだ、朦朧とする意識の中で、獣の目に飛び込んできた光景は、想像を絶するものだった。
  先ほどまで青く澄んていた空は忽ち雷雲に飲み込まれ、雷が轟き、風が吹き荒れる。
  そしてそこから姿を現したのは、さらにその雷雲を埋め尽くす程に巨大な龍の姿。

  圧巻だった、生きている間のこれほどのものを拝む事が出来るとはと、獣は内心驚愕した。

  膨大な威圧感に押されながら、天人は何かをその龍に告げる。
  その何かを聞き入れた龍は、薄れ行く意識の中でもハッキリと聞き取れる程の雄叫びをあげた。

  そしてその瞬間、雷雲の中から一筋の雷光が飛来し、獣を貫いた。
  獣には何が起こったのかわからない、だが分かった事があるのは、たった先ほどまでに感じていた
  苦しさから開放されていた事だ、とうとう召されるのかと獣は思った。
  
  ところが、それはただの獣の勘違いでしか無い。
  獣は龍の力によって生きながらえる事が出来たばかりか、姿も大きく変わっていた。
  神の雷をその身にに受けた事で、雷獣の妖怪として、獣は生まれ変わったのだ。

  地に置かれた七つの宝玉は石となり、やがてそれは一人でに各地へと飛び去っていった。

  「もしかすると、あの綺麗な石は二度と見つからないだろうね」

  天人は言った。だが、獣、もとい雷獣にはそれが誰に宛てた言葉なのか分からなかった。

  「あの石探すのすごく大変だったのに、貴女を助けるのに使って飛んでっちゃったじゃん!!」

  その時初めて、雷獣はそれが自分に対しての言葉だと知った。だが内容に関しては知った事ではない。

  負けじと雷獣は言い返すものの、天人も一切引き下がらない。
  
  結局、その口喧嘩は暫く留まる事を知らなかったと言う。
  今も時々、天界の一角でやかましい声が聞こえるのだとか。

  一方の雷獣は、どうにも感謝の意を伝えるタイミングを逃し、未だに言えないでいる。


 ○六面ボス 全て其処に在る欲望
  
  敦出池 床下(とんでいけ どこか)
  tondeike dokoa

  種族:天人
  能力:手に届く程度の能力

  今回の異変の黒幕。
  何処かで聞いた事があるだろうその苗字。
  花火天人敦出池叶多の妹その人である。

  自分の手の届く所にあるものは全て自分の物という、何処かのガキ大将でさえ真っ青な
  自己中心的なワガママ少女である。その上奪ったという自覚は無い。
  手に届く能力とは、そのままの意味、彼女が欲しいと思ったそれは、
  『彼女の手に届く範囲に有る』事になるという、少々常識破りの能力。
  これによって様々な人の物を奪ってきたために、あまり友好的な人物は少なく、親友と呼べる存在も雨依しかいない。
  勿論、雨依を親友だと思っている事は本人には言ってないし本人も知らない。

  姉の行方を追って天界を捜索するも、その天界には姉の姿は無く、姉が興味を示したとされる
  地上にまでやってきた。

  流石姉妹とでも言った所か、地上のあらゆる物は彼女の好奇心さえも刺激し、悪いクセで欲しいと思った
  品々を片っ端から天界に持って帰ってしまった。その結果、この異変へと発展したのである。


  幼い頃からその独裁っぷりは健在であり、姉を同じものを手に入れようが、姉の物さえしっかり奪う。
  姉に与えられたあらゆる物は全て奪いつくしてしまう程だった。
  しかし、それを悪びれる様子も無く、返す事もしなかった。
  返したとしてもそれは既に「彼女の手に届く所」にある品だっただろう。

  悉く姉に与えられた物を奪っていった末、姉の心の中で芽生えたもの。それは「退屈」。
  それに耐えかねた姉はとうとう家を出て行ってしまった。
  
  
  叶多が天界に送るのを渋ったのは、少しでも彼女の起こした事に関わりを持ちたくなかったからである。
  相当嫌われてる。


  人間達は、彼女の住居へと到達する。それは一人で住むにはあまりに広い屋敷。
  その殆どの部屋が、物置と化していた。
  この全てを返す気などない、それどころか、自分の物だと言い張る床下。

  これは一度灸を据えてやる必要がありそうだ。


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○エキストラストーリー
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 床下にキツめのお灸を据えてきた神巫と黒奈。
 奪われたアイテムも無事に持ち主の元に帰り、事態は事なきを得た。

 それから数日後、いつにも増して暖かな気候に包まれた日陰の地。
 すっかり異変による騒ぎも収まり、神明神社では、叶多と神巫、
 それに桜が茶を啜りながら駄弁っていた。

  桜「なるほど、そのような事が・・・」
 叶多「いやはや、こう、なんというかスカっとしたね!!」
 神巫「アンタねえ・・・ちょっと妹嫌いすぎじゃない?」
 叶多「一応仲直りは済ませたよ、まさかアイツから謝って来るとは思わなかったけど
    それとは別にアイツが縮こまるレベルで痛い目見たってのが爽快なんだよ」
 神巫「中々に悪い趣味ね」

 その後床下は、雨依に連れられる形で叶多の元を訪れ、今までしてきた事を謝ったらしい。
 それで叶多が許したかというとそんな事は無い。
 だが一応仲直りという名目で、彼女も床下を避ける事はやめたようだ。

 叶多「姉妹というのはね、身内間じゃないとわからないような感情が渦巻くものなの」
 神巫「そういうものなのかしら」
 叶多「貴女にはちょっと分からないかもねぇ」
 神巫「まあ私としてはこのお賽銭箱が戻ってきたからそれでいいんだけどね」
 叶多「貴女はそれで違いないのかもね」
  桜「私は喧嘩が出来る身内がいるというだけで羨ましいなあ」
 叶多「居ないと確かに物足りなさはあるけど、居たら居たでそれに勝る鬱陶しさを持った
    存在は居ないものだよ」
 神巫「それを聞いたらなんか納得だわ、似たようなのは確かにいるし」
  桜「あの黒い人ですかね」
 神巫「ええ、あの見た目も心も真っ黒な人よ」

 そう言いながら、三人は同時に手に持った茶を啜る。
 実に穏やかな時間が流れる。日陰の地の午後。

 叶多「さて、邪魔したね、私はそろそろ工房に戻るよ」
 神巫「あら、もう帰っちゃうの?」
 叶多「今作ってる花火もあるからね、地上は物の劣化を気にしないとだから大変だ。
    ご馳走様、今度天界の桃でも持ってくるよ」
  桜「でしたら私も、あまり長居しても迷惑ですから」

 そういいながら、神社を後にする叶多と桜。
 飛び立つ二人を見送った後、再度茶を啜る神巫。
 実に穏やかな時間が流れる。日陰の地の午後。
 ところがその穏やかな時間を破壊せんとする人影が、
 慌てた様子で境内へと入ってくる。鳴神黒奈だ。

 黒奈「おい!大変だ!神巫!!私の――」
 神巫「今度は何?またお金でも落としたのかしら?」
 黒奈「私の『縁結石』が無い!!!」
 神巫「おまっ、えっ、ちょ」

 縁結石とは、黒奈が所持する世界を結ぶ不思議な石の事である。
 この日陰の地から別の世界へのホールを生み出し、世界間を自由に行き来するためのアイテム。
 黒奈はこの石を使う事でシーチキンを調達しているのだ。海はあるけどじゃあ鮪捕るかというと
 無理な話だからだ。

 神巫「というか何で無いのよ、それも落としたとか言わないでしょうね?」
 黒奈「たぶん・・・異変の時に取られてた可能性がある・・・、金は落としただけだからな・・・」
 神巫「なんてこったッ!!」
 黒奈「また天界に行く事になるのか・・・?」
 神巫「最近だけで何度行ってるかしらね、天界」

 二人で同時にため息をつく、なんとも不穏な時間の流れる神社。

 ??「その必要は無い!!」

 突如神社に響き渡る声、しかし姿は見えず。

 黒奈「何処だ?」
 ??「此処だよ此処!!」

 突如境内を覆い尽くす雲が立ち込め、一閃の落雷が貫く。あまりの衝撃に思わず塞ぎ込む神巫と黒奈。
 目の前に落雷が落ちたらそりゃあびびる。
 その落雷の中から姿を現したのは、異変の元凶だった天人、敦出池床下と雷獣妖怪、神宮雨依だった。

 神巫「何の用よ、賽銭箱あげないからね」
 床下「出来れば欲しい所だけど、そうも言ってられなくなった」
 黒奈(この賽銭箱の何がいいんだろう)
 神巫「言ってられないってどういう事よ」
 雨依「この石に見覚えある?」

 そう言って雨依が手元に差し出した物は、青い輝きを放つ澄んだ石。そう、『縁結石』である。

 黒奈「あー!やっぱお前が持ってたのか!!!」
 床下「私もさっき気がついたのよ、それで・・・」
 雨依「それでこれが何かさえ分かってないクセして一回くらい使ったって怒られないよねとか抜かして
    まあ見事に何処かに繋がってそうなゲートが開いたかと思ったら実際問題何か出てきてしまった
    訳で床下は腰抜かして私も何が起こったかわからず唖然でしたしその何かはそのまま何処かに
    飛び去ってしまったし。と言う事」
 床下「ひでえ言い草だ」
 黒奈「つまり何か得体の知れない何かが飛び出して来たという事だな?」
 床下「そういう事よ、そんな訳で、この石返すついでに調査して欲しいって言うのが
    此処に来たもう一つの理由」
 神巫「自分で呼び出しておいてどうして自分で確認しないのかしら」
 床下「だって怖いじゃん」
 黒奈「別にこいつを殴ってしまっても構わんのだろう?」
 雨依「許可する」
 黒奈「許しが出た」

 指をパキパキ鳴らしながら殴る姿勢に移行する黒奈。
 床下はこの世の終わりでも見ているかのようなレベルで生気が無くなった顔をしている。

 神巫「さて、貴女は来るのかしら?」
 雨依「悪いけど遠慮しておくわ、さっきの登場で結構体力使っちゃってね、ついて行くくらいなら
    出来るけど、臨戦態勢ってなった場合に足手まといになっちゃうかもだし」
 神巫「そもそもなんであの登場方法なのよ」
 雨依「あの天人にカッコイイからだ!とか言ってやらされた」
 神巫「黒奈、もう2発追加しなさい」
 黒奈「OK!(ズドン)」


 結局、その"異界の来訪者"の調査はいつものように二人の人間がする事になった。
 得体の知れない未曾有の存在に、二人はどう立ち向かう!!?

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◇敵キャラサイド

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 ○エキストラ中ボス 腐らずこんがり芋妖怪
  
  幕揚 千草(まくあげ ちぐさ)
  Makuage Tigusa

  種族:妖怪
  能力:腐敗を操る程度の能力

  何やら森の中で腐った気配。
  心の腐った人物は苦手な彼女の直感的レーダーがそう告げる。

  このレーダーは誰を指し示しているのか・・・?
  巫女かな?天人かな?
  これは・・・・・

  詐欺師だぁああああああwwwwww

  テレレ テレレ テレレ テレレ


 ○エキストラボス 異界よりの舞姫
  
  陣内 麗羅(じんない うらら)
  Jinnai Urara

  種族:人間
  能力:暖気を操る程度の能力

  縁結石のゲートを潜り抜けて日陰の地にやってきた
  巫女のような風貌の少女。
  石に繋げられた世界とはまた別の世界の出身であるため、
  別世界に迷う込もうともその適応力は常人のそれではない。
  常識に囚われてはいけないのだ。

  千草が感じ取った気配とは黒奈だけでは無く、彼女も含まれている。
  心が黒奈とは別のベクトルで御腐りになられておられる
  少々残念気質な子。神巫と黒奈を見て一人でに暴走を始めるなど
  そのレベルも中々の様子。腐ってやがる・・・遅すぎたんだ・・・。


  異界からの来訪者だが、その手に持つのはスペルカード。
  スペルカードルールを知っているなら話は早い!!と意気込む人間達。

  張り合いのある相手と戦えると、いつに無くノリノリであった。











  ――かくして、異界よりの来訪者とガチの弾幕を楽しんだ人間達。
  麗羅はというと、なんやかんやで人間達とは意気投合したようである。
  しかしやはりその暴走っぷりは受け入れがたいものがあったようだ。
  そして、折角やってきたのだからと日陰の地を充分に満喫した後に元の世界へと帰って行った。
  

  異界の弾幕、そのようなものに若干胸を躍らせながら、この騒動は本当の意味で幕を下ろすのであった。