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銀幕閑話 Twitter

2017-03-09

第619回 「大阪アジアン映画祭」

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 行ってきました。大阪アジアン映画祭。3月3日のオープニング作品「ミセスK」から始まり、5日の「一日だけの恋人」まで鑑賞した6本の中から、強く印象に残った作品4本をご紹介します。

★「ミセスK」(マレーシア・香港)

 オープニング作品にふさわしい、監督や俳優の意気込みが迫ってくる快作だ。今は裕福な産婦人科医の妻の元の素性はなんと強盗団の首領。仲間割れの騒ぎで誘拐された愛娘を救うため、忌まわしい過去と向き合うことに。

 とにかく見ていて「痛い」のだ。主演のカラ・ワイ(ベティ・ウェイ)はもちろん、ホー・ユーハン監督まで「もうアクションはおしまい」と舞台挨拶で本音を吐露するほどハードな仕上がりになっている。撮影時に50歳代半ばという彼女が走りに走り、全身を使っての激しいバトル。ロープでぐるぐる巻きに縛られ宙吊りの状態から2メートルほど下の床まで落とされるというシーンを何度も強いられるアクションは見ていて辛く頭が下がった。さすが女優魂です。

 若かりし頃のカンフースターとしての才能をほうふつとさせるオーラを発散させ、今でも現役で通じる冴えを見せていたが、興味深かったのはオープニングセレモニーやQ&Aでのスピーチだった。認知症の母を介護した体験や、映画祭直前に香港電影監督会で受賞した新作「Happiness(幸運是我)」にも言及し、「私は認知症患者の役を演じました。患者の皆さんは世界から無視されている状況ですが、そういう方を助けたい」と力強く語った。カンフーアクションのヒロインから、認知症という人間のあり方を根源まで考えさせるテーマへと鮮やかなる「転身」もまた毅然として彼女らしいと思った。彼女のラスト?となるアクションをどうぞお見逃しなく!

★「わたしは潘金蓮じゃない」(中国)

 巨匠フォン・シャオガン監督の作品と聞いて、期待を胸にして見始めた。しかし、スクリーン中央の丸い窓のような円内しか映像が映らないという見せ方に戸惑い、やがて諦めに。とにかく監督はこうしたかったんだと察した。とはいえ、この円内に映る人は顔が小さすぎて、主演のファン・ビンビンですら美しい顔がよく見えない。これでは彼女のファンからは「金を返せ」と苦情が寄せられても仕方がない。過去の話は円内で、現在の描写はもう少し大きな四角の中で、と分かりやすく見せたと言うのなら、正直のところ成功しているとは言い難い。

 視覚的には失敗作の範ちゅうに入れてしまいたいところだが、扱っている題材は興味深い。チャン・イーモウ監督の「秋菊の物語」と重なり、裁判所や役所の対応に不満を持った女性が村から町、町から市へと苦情の申し立て先を上級組織に上げていき、その度に相手の対応に怒り、かえって怒りを募らせていく。まさに官僚主義と無責任の横行する一党独裁の共産党政権の矛盾を突きつけるテーマだ。どんでん返しもあってさすがフォン・シャオガンの作品と納得させてくれるし、役人の保身に走る無責任体制を皮肉とユーモア揶揄する内容は、庶民の不満のガス抜きにもなっていることだろう。その手法は当たったようだ。

★「一日だけの恋人」(タイ)

 「映画を作る本人が興奮するような作品を作りたい」とかつて筆者に話し(「銀幕閑話 第516回 『愛しのゴースト』バンジョン・ピサンタナクーン監督に聞く」)、実際に「アンニョン!君の名は」や「愛しのゴースト」など大ヒット作を連発して「興行記録男」の異名もある同監督の作品。笑いどころタップリで、時にしんみりとさせ、極上のラブコメに仕上がっている。

 主人公は企業のIT部門に勤める30代のオタク男。存在感は薄いのに、美人で評判のヌイだけは彼の名前を呼んでくれ、一瞬のうちに恋に落ちる。しかし彼女は社長からも目をかけられる高嶺の花。社員旅行で冬の北海道に出かけた際に「一日だけ彼女の恋人になれたら」と願掛けをするが……。

 2013年にタイ人の日本入国ビザが緩和され、タイでは日本旅行ブームに。日本でもタイのドラマ・映画のロケ誘致合戦が始まり、官民ともにこの撮影をバックアップした北海道がチャンスをものにして、この作品に結実した。

 記憶喪失といった韓流ドラマのアイテムや涙腺刺激要素を巧みに織り込むだけでなく、ガチャポンのような日本ならではのポップカルチャーも生かす脚本のひねりが効いている。主演で共同脚本も手掛けたチャンタウィット・タナセーウィーは、監督とは「アンニョン!君の名は」以来のコンビ。また主演女優のニター・ジラヤンユンが美人の上に表情がチャーミングで、それを見るだけでも価値がある。

★「パティンテロ」(フィリピン)

 プログラミングディレクターの暉峻創三さんが本コラム恒例の「16年私のアジア映画ベストワン」に挙げた作品。フィリピンの子供たちは路上に描かれた白線の中で攻守二手に分かれて陣を組み、守備側は両手を広げて障害物となり、攻撃側はタッチされないように潜り抜けることで得点を競う「パティンテロ」と呼ばれるゲームに親しんできた。映画はこの遊びに夢中になっている10歳の少女、メンが「負け犬」呼ばれながらも、パティンテロの大会で優勝し汚名を返上しようと闘志を燃やす物語。

 ユニークなのは、勝負を決める決定的な場面に劇画風のアニメを挿入させ、その手作り感覚がかえって破壊力を増すという効果をあげていることだ。香港の「少林サッカー」や日本の「ピンポン」にインスパイアされたというミーク・ヴェルガラ監督は、その一方で、出演した子供たちへの演技指導も丁寧に行い、子供たちの友情と成長を表情豊かに描くことに成功したといえるだろう。

 ヴェルガラ監督には映画祭の合間にインタビューする機会があったので、近く本コラムでご紹介します。どうぞお楽しみに。また映画祭の後半では7本見て、2人の監督にインタビューする予定です。どんなお話が聞き出せるか、こちらも楽しみにしています。

 「大阪アジアン映画祭」は3月12日までABCホールほかで開催【紀平重成】

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  1. 「ミセスK」
  2. わたしは潘金蓮じゃない」
  3. 「一日だけの恋人」
  4. 「パティンテロ


【関連リンク】

「大阪アジアン映画祭」の公式ページ
http://www.oaff.jp/2017/ja/index.html

「銀幕閑話 第614回 16年私のアジア映画ベストワン(2)
http://d.hatena.ne.jp/ginmaku-kanwa/20170115/1484540840

「銀幕閑話 第516回 『愛しのゴースト』バンジョン・ピサンタナクーン監督に聞く」
http://d.hatena.ne.jp/ginmaku-kanwa/20141017/1413513613

2017-03-01

第618回 「クーリンチェ少年殺人事件」

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 これほど熱烈なファンから再公開を待たれ、しかも初めてではなくても随所に新発見があり、期待以上の感動を得られる作品があったろうか。3時間56分のノーカット版。長さを全く感じさせず、無駄なところが一つもない。光と闇の中に浮かび上がる1960年代初頭の台湾が愛おしくすら感じられる。

 エドワード・ヤン監督は、61年夏に同世代の14歳少年が女友達を殺害した事件に衝撃を受ける。本作はそれを題材に30年の時を経て手がけた青春群像劇だ。

 舞台は60年代初頭の台北。建国中学夜間部に通うシャオスー(チャン・チェン)は不良グループに属する仲間とつるむ毎日だった。 そんなある日、怪我をした少女シャオミン(リサ・ヤン)と保健室で知り合う。彼女は不良グループのボス、ハニーの女で、彼女をめぐってハニーは対立するグループのボスを殺し台南に姿を隠していた。シャオスーはシャオミンに淡い恋心を抱くが、ハニーが戻ってきたことでグループ同士の対立が激化し、シャオスーとシャオミンも巻き込まれていく。

 監督の非凡なところは、事件の背景として、共産党との内戦に敗れはしたものの、いつか大陸に帰りたいと願う少年の親世代の焦燥感を巧みに取り込みながら、その一方でエルビス・プレスリージェームス・ディーンといったアメリカンカルチャーにあこがれる若い世代の登場をヴィヴィッドに捉えるなど、沈滞と躍動が混在する当時の台湾の政治、社会、文化的状況を見事に浮き彫りにしていくところだろう。

 この作品の魅力は、時代の空気をリアルに描くだけでなく、登場する人物に寄り添い、彼らの言動に一つ一つ説得力を持たせていくあたり。しかもカメラアングルが自在で観客をグイグイと劇中に引き込んでいくのだ。

 光と闇の使い方も夢を見ているかのように美しい。内部抗争で一方のグループが相手の館へ討ち入りするシーンもそうだった。雨が降りしきる夜。大きく開け放たれた玄関に輪タクがゆっくり到着する。1台、2台、そして3台。幌を上げると日本刀を持った男たちがぞろぞろ降りて来る。台風の雨音で車や人の気配が屋内の人たちには伝わらないのだ。

 その直後の大立ち回り。大声はするが、見えるのは一瞬。光が点滅するたびに刀が光り、人が倒れる。まるで漫画のコマが動き出しアニメーションになっていくように。こう書いて、ハッとした。ヤン監督が愛好していた手塚治虫の漫画から監督の未完の遺作となったアニメ「追風」へとつながる長い長い創作の道の一過程が本作だったのではないかと。そう思えば、登場人物とは常に一定の距離を保つものの、見つめる目線はどこか温かく、スタイリッシュに見せて行くヤン監督の手法には「コマ割りアニメーション」とでもいう一面もあったのではないだろうか。映画冒頭、涼しげな並木道を2台の自転車がスクリーンを見つめる観客に向かってゆっくり近づいてくる印象的なシーンも、その範ちゅうに入りそうだ。

 国民党政府の要人にあてがわれた日本家屋など静ひつさが際立つ空間も印象的だが、さらにすばらしかったのが、ハニーの死に動揺するシャオミンにシャオスーが「怖がらなくていい。僕は一生離れない君の友達だ。守ってあげる」と叫ぶ場面だ。「誰もいらない、当てにならない」とシャオミン。ブラスバンドの演奏が鳴り響く中で、その轟音にかき消されまいと大声を張り上げるから、突然演奏が止まった時に余計耳に響き渡る。なんと美しい愛の告白シーンだろう、そして切ない返答だろう。

 この作品は青春映画としても出色の出来だが、家族ドラマとしても見応えがある。内戦に敗れ上海から逃げてきた公務員の父を持つ外省人の7人家族の信頼関係がゆっくりと崩れて行く。その推進役となったのは、小さな腕時計だ。その時計は母にとって祖母から伝わる大事な思い出の品。その思い出は懐かしい出身地の上海につながる。シャオスーの兄がビリヤードの賭けに負けた時に時計は質草になる。姉の機転でいったんは戻るが、今度はシャオスーが持ち出す。犯人と間違われた兄が父から激しくたたかれ、弟は自分を責める。精神的動揺が癒えないままラストに向かっていく。

 共産党とのつながりを疑われ、厳しい尋問で精神状態が不安定となる父に、もはや上海で享受した知的生活を取り戻すことは望めない。一個の腕時計の喪失と家族の崩壊が時を同じくして進んでいく。そういえば遺作となった「ヤンヤン 夏の想い出」も個人と家族のバランスが崩れていく作品だった。監督の主題が変わっていないことに気づかされる。

 本作品は91年の東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、翌92年に日本公開された。上映時間が3時間8分のバージョンと3時間56分の2つのバージョンがあり、2016年東京国際映画祭ワールドフォーカス部門にて、デジタルリマスターされた今回のバージョンがプレミア上映されている。

 いまやアジアを代表する名優の一人であるチャン・チェンの初々しい表情と肉声、そして素人とは思えない自然な演技は必見だ。

 「クーリンチェ少年殺人事件」は3月11日から角川シネマ有楽町、同18日から新宿武蔵
野館ほか全国順次公開【紀平重成】


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写真(クリックすると拡大)

  1. シャオスー(チャン・チェン=右)は次第にシャオミンにひかれていく (C)1991 Kailidoscope
  2. 仲間と一緒にいてもシャオスーの心はここにはないない (C)1991 Kailidoscope
  3. シャオミンは短銃を持って遊んでいたが…… (C)1991 Kailidoscope
  4. 座っていても目立つのがシャオスーだ (C)1991 Kailidoscope
  5. シャオスーのグループが出入りするクラブ「小公園」ではプレスリーの歌も歌われる (C)1991 Kailidoscope


【関連リンク】
クーリンチェ少年殺人事件」の公式ページ
http://www.bitters.co.jp/abrightersummerday/

2017-02-18

第617回 「百日告別」

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 「九月に降る風」や「星空」で高校生の友情や自立していく少女の感情をみずみずしく描いた台湾のトム・リン監督。その彼が、実体験をベースに愛と死を見つめる人間ドラマとして紡ぎ出したのが一昨年の東京国際映画祭で上映された「百日草」だ。タイトルを変え日本公開されるのを機に来日した監督に撮影の舞台裏を聞いた。

 交通事故に巻き込まれ、ユーウェイ(シー・チンハン)は妊娠中の妻シャオウェン(アリス・クー)とまだ見ぬわが子を失う。シンミンカリーナ・ラム)は結婚間近の婚約者レンヨウ(マー・ジーシアン)を亡くす。二人は悲しみから抜け出そうと、それぞれの旅に出る。

 −−映画にも出てきますが、愛する人を失った辛さに耐えられず、ユーウェイは妻が使っていたピアノを目の前から隠そうとしたり、逆に他に関心を向けようとします。監督はあえて大事な人の死(妻は2012年に病死)と向き合い、映画にしました。その映画を作ろうと決めた決定的な瞬間はどのようなときだったのでしょうか。

 トム・リン監督「この映画を撮ろうと思ったのは、ちょうど妻が亡くなって100日目でした。映画のラストシーンと同じように、自分も法要を終えてバスに乗り、山から下りてくるとき、周りの人を見てふと思ったんです。もしかしたらこの人たちも私と同じように、100日目の法要を終えて家に帰ろうとしているのかと。車の中に男1人、女1人が座っていて、夕日がバスの中に差し掛かかり、2人は会話するかどうかと考えたんです。たぶん話はしないけど、きっとお互いの気持ちを一番理解しているんじゃないかなと思って、私の目の前にこういう画面が現れてきたんです。これを映画にしようと思いました」

 −−そのとき2組の話にしたのは、その画面が浮かんだからですか? それとも別の事情があったからでしょうか。

 「先ほどのバスの中で感じたことの延長だったと思います。その時、こういうことを考えていました。この100日間、違う過ごし方をしたら、自分はどういう気持ちになっているのかと思いました。これを映画にするときは、男1人、女1人の2人がそれぞれ違う100日間をどういう風に過ごすか描いたほうがいいかなと思いました。例えば、ある大きな迷路の中にねずみ2匹がいて、1匹はすごく衝動的で何も決めないで出口を見つけようと走り回っている。もう1匹はすごく慎重で、壁に沿って一歩一歩前に進んで行く。どちらが早く出口を見つけるか。それは私も分からないけれど、見てみたい。それで、この映画を2人の主人公の話にしました」

 −−この映画は監督自身が経験されたこととフィクションの部分と、割合はどれぐらいだったんでしょうか。

 「割合で言うと、なかなか……(笑)。強いて言えばですね、自分自身の経験の部分はおそらく3割ぐらいでしょうか。この部分は実際に演じてもらっているわけですから、シンミンの役柄の部分に反映されています。もちろん妻を亡くしてハネムーンに行くわけではないんですが、映画の中の彼女と同じように私も一人で旅に出ました。北海道の富良野のある坂道のところで、坂道を上ろうとしているおばあちゃんに出会いました。その時挨拶したのですが、おばあちゃんが日本語でいっぱい語ってくれたのに何もわかりませんでした。けれども、妙に慰められた気がしたんです」

 −−台湾には「父の初七日」という映画がありました。ヒロインが父を亡くし、しばらくして海外出張するときに、空港のアナウンスを聞きながら父を思い出し泣き崩れるのがすごく印象的でした。監督の作品ではヒロインが婚約者の弟の家に行き、二人で悲しみを共有する場面があって、それもすごく印象に残りました。2つの作品が重なって感動したのですが、この作品からインスピレーションを受けることはあったのでしょうか。

 「ないと思います。その映画は僕も見たんですが、どこかユーモラス。そういうタイプの映画でした。実はシンミンと婚約者の弟が100日目までに会う場面をなぜ描いたかと言うと、私も29歳のときに兄を亡くしました。いつか兄を失った弟の役を映画で描きたかったんです。それで自分の悲しみをいやすことができる相手としてシンミンを登場させました」

 −−プレス資料にダイ・リーレン監督とニウ・チェンザー監督の双方にラフ編集の段階で相談したところ、それぞれが「ちょっと自分に編集させて」と言って、2つのバージョンができて、それを参考に監督がまた編集したと書かれています。

 「本当にそうでした」

 −−3つの編集に付き添った編集担当者は大変だったけれども、監督にとっては結果的に一番いい作品ができたと言っていいんでしょうか。

 「この物語は私自身と密接な関連があるので、最初は自分で編集しました。ところが101分の長さまで編集して困りました。というのは、新たに映画の中に入れる材料が見つからない。しかも101分というのが長いと思い、どうカットしたらいいか迷っていた時に2人がやってきて、いろんなアドバイスをしてくれました。彼らは口を出すだけじゃなく、実際に編集をやろうと。ここはカットした方がいい、ここはいらないよね、という風に。例えばダイ・リーレン監督は結構バサバサ(笑)やってですね。なかなかいいじゃないかと。完成したバージョンの一部分は二人の監督が手を入れたところもあります」

 −−この作品を台湾以外で深く理解してもらえるのは日本だとインタビューで答えられていますけれども、それはなぜですか。

 「私が思うに生命観、そして価値観。こういったことは台湾の人と日本の人はすごく近いと思います。また、儒教の伝統的な考え方、生と死に直面する時にどう対応するか。儀式にしてもそうですが、日本も四十九日の法要をしています。しかし、なんと言っても似ているのは生命観と価値観ではないでしょうか」

 −−他にも日本のマンガや映画を見て育った人が台湾には多いですね。逆に自分はこうあってほしいと思うことを、先に台湾がやってしまうことがありますよ。例えば原発を早々に止めることを宣言してしまうとか、もっと日本の方が真似していいのかなと思うんですけどね。

 「台湾は今現在3つの原子力発電所があって、4つ目は一時建てようかという話がありましたが、それはやめましょうと。将来は全部やめましょうと。ものすごく議論が盛んですね。代替エネルギーはどうしようかということで。でもまだ結論は出てなくて、もう少し時間はかかるかもしれませんね。台湾本土はこの3つの原子力発電所から電力供給を受けてやっているわけです。日本も原子力発電所がいっぱいあるんですが、撮影で訪れた石垣島は全く原発の電力は使っていないと聞きました。台湾にはそういう島すらもない。まだ日本の方が、こういうところがあるからいいのかなと思いますね」

 −−奥さまから「映画を作り続けて」と言われたということですが、いつのことだったのでしょうか。

 「妻も生前私と一緒に映画を作っていた人です。私は非常に悲観的な人間で、すぐに挫折したり暗くなったりするんです。そのとき妻がよく言います。映画は続けましょうと励ましてくれるんです。例えば企画を立てて、助成金申請をする。ところが結果は何ももらえなかった。がっかりしていると、妻が言うんですよ」

 −−この映画を台湾で公開したり、これから日本で公開するわけですけれども、奥さまにどう報告するのですか?

 「彼女は私がやっていることを知っていると思います。例えばよくベランダでタバコを吸いながら彼女とおしゃべりするわけですよね。だからどこかに行って彼女にわざわざ報告しなくてもいいと思います。たぶんいろいろな場面で彼女と話をしていて、知ってると思います。おそらく亡くなった妻も兄もそうですが、どこかで見ているんですよね」

 −−シー・チンハンさんが撮影中に役柄になりきって、声をかけられなかったというエピソードが紹介されていますけれども、これは期待以上の反応だったのでしょうか。

 「実は彼にこういう風に演じてほしいという期待は一切してなかったんです。というのは役を彼に全部任せたからです。きっと彼はうまく演じてくれると信じていました。彼は結局こういうかたちで役に完全に入り込んでやるということで、正直ものすごく感謝しています。同時に非常に辛いなと思います。本当にそういう状況ってすごく大変なんです」

 −−いま映画監督をやっていてよかったなと思うときはありますか。

 「いつも自分は映画に携わることができて、こういう機会があって、すごく感謝しています。もちろん自分自身の能力の限界を知っていますから、たまに落ち込んだりします。もうちょっと良くできないのかと考えることもある。でもそれは自分に対するある種の要求ですからね。もっと良くしようということで。でも今監督をやっているということをすごく実感していて、今でも監督をやれるということに感謝しています」

 −−そうするとぜひ次回作をお伺いしたいんですけれども。

 「まだ脚本を書いている段階です。リサーチをやっている段階で。もし映画化できれば、ふるさとの新竹で撮りたいと思っています」

 −−私も以前行ってきて、すごくいい町だなと思いました。昔懐かしい映画館もあったりして。台湾で一番最初に冷房が入った映画館だと聞いています。

 「おっしゃるとおり、今は新竹映像博物館になっているところは、日本統治時代の映画館で、いち早く冷房を導入したところです」

 −−早く脚本が出来上がることを祈っています。

 「(笑)ありがとうございます」


 「百日告別」は2月25日から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開【紀平重成】

【関連リンク】
「百日告別」の公式ページ
http://www.kokubetsu.com/

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  1. 「百日告別」の一場面。シンミンカリーナ・ラム=左)は婚約者のレンヨウ(マー・ジーシアン)との結婚を楽しみにしている (C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved
  2. ユーウェイ(シー・チンハン)は法要の後、偶然シンミンと言葉を交わす (C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved
  3. シンミンは夫と行くはずだった新婚旅行先の沖縄を訪れる (C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved
  4. 沖縄の坂道でお年寄りから話しかけられるシンミン (C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved
  5. ユーウェイは、自分の知らない亡き妻の様子をピアノ教室の生徒から聞くことになる (C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved

2017-02-14

第616回 「毎年悩ましい大阪アジアン映画祭」

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 今年も大阪アジアン映画祭の鑑賞スケジュールをどう組むか悩む季節がやってきた。サラリーマン生活を続けている以上、2回ある土日の前半に行くか、それとも後半かという選択の問題に過ぎないと言われれば、まさにその通りなのだが、せっかくの機会だからやはりあれも見たい、これは外せないと悩みは尽きない。

 例年ならある程度で見切りをつけ、2週分押さえていたホテルの一方をキャンセルしていたのだが、今年は見たい作品が前後半でほぼ同数。ここで見逃すと日本公開されない限り2度と見ることができない作品もあるかと思うと、また作品選びの振り出しに戻ってしまうのだ。

 妙案はないか。スケジュールを見つめること1時間余。………あった。東京と大阪を2往復すれば、つまり週末の金曜夕刻に大阪入りし、日曜帰りを2週続ければ、取っておきの12本を見る事が可能になる。ホテル代や往復の新幹線代が倍に膨れ上がるのは痛いが、海外旅行を考えれば無理な話ではない。しばらくは外飲みを減らし、少々の疲れならタクシーは乗らないと決めれば……。

 12本の中には暉峻創三プログラミング・ディレクターが当コラム恒例の「私のアジア映画ベストワン」で挙げたフィリピン映画「パティンテロ」が含まれているのは言うまでもない。

 「フィリピンの子供にとってのドッジボールや鬼ごっこ的な遊び"パティンテロ"を通じて、負け組少女が威厳を持って立ち上がる姿を描いたもの。『シェルブールの雨傘』のジャック・ドゥミも真っ青な色彩設計、周星馳監督もビックリのケレン味など、見たことのない斬新なセンスに溢れたフィリピン映画」 。こう紹介されたら、あなたは平静でいられるだろうか?

 せっかくなので、私が注目している作品をもう少しご紹介すると、前半では「ミセスK」「わたしは藩金蓮じゃない」「1日だけの恋人」など中国の巨匠、フォン・シャオガン監督やマレーシア、タイの人気監督作品が並ぶ。後半ではウェイ・ダーション監督の「52Hz,I LOVE YOU」やハーマン・ヤウ監督の「77回、彼氏をゆるす」、あるいは「突然20歳 タイの怪しい彼女」あたりの作品をマークしている。

 今から待ち遠しい作品ばかりである。ちなみに暉峻さんは「前後半の土日はどっちに行けば正解?」という切なる問いに、「両方行くのが正解では」とニッコリ。その曇りのない笑みに愚問を発した自分を恥じた。

 「大阪アジアン映画祭」は3月3日〜12日、シネ・リーブル梅田4など6会場で開催【紀平重成】

【関連リンク】
「大阪アジアン映画祭」の公式ページ
http://www.oaff.jp/2017/ja/index.html

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写真(クリックすると拡大)

  1. パティンテロ
  2. 突然20歳 タイの怪しい彼女
  3. 1日だけの恋人
  4. 52Hz,I LOVE YOU
  5. 77回、彼氏をゆるす

2017-01-30

第615回 「ブラインド・マッサージ」

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 ロウ・イエ監督には「スプリング・フィーバー」日本公開前の2010年11月に来日した際にインタビューしたことがある。その時、一番印象に残ったのは次のような言葉だった。

「僕は出過ぎた杭になる」

 これには若干の説明が必要だろう。監督は「ふたりの人魚」と「天安門、恋人たち」で2度にわたって映画製作禁止処分を受けているのに、そんなことなど無かったかのように終始笑みを浮かべ、質問に答えていたからだ。「取り巻く環境がいい方向に向かっているのでしょうか」と尋ねると、「ラッキーだと思います。そう思うのは私は映画を撮り続けることができている。それが大きいです。電影局がこれ以上僕をいじめないでほしいです」。

 その毅然とした態度に、思わず「日本には『出る杭は打たれる』ということわざがありますが、逆に『出過ぎた杭は打たれない』とも言います。相手を励ます意味もあるのでしょう」と声をかけた時に、先ほどの「僕は出過ぎた杭になる」という言葉が返って来たのである。

 常に自分の描きたいテーマを探し求め、そのために資金面でも、あるいは映画作りの面でも最良の方法を編み出そうと努力し続ける監督の強い思いが伝わって来るではないか。視覚障害者の世界を映像化するという今作は、まさにそのチャレンジ精神を如何なく発揮したロウ・イエ監督の最高傑作と言えるだろう。

 舞台は「時代に流されていない感じのこの町が大好き」と監督が言う南京の盲人マッサージ院。南京での撮影は「スプリング・フィーバー」以来だ。

 若手のシャオマー(ホアン・シュエン)は幼い頃に交通事故で視力を失い「いつか視力が回復する」と言われている。生まれつき目の見えない院長のシャー(チン・ハオ)は見合いを繰り返すが、視覚に障害があることを理由に縁談を断られてまう。同じく生まれた時から目が見えない新人のドゥ・ホン(メイ・ティン)は客から「美人すぎる」と評判でも、自分には何の意味もない「美」にウンザリしている。そこに院長を頼ってワン(グオ・シャオトン)と恋人のコン(チャン・レイ)が駆け落ち同然で転がり込み、事態は思わぬ方向に動きだす。

 映画は最初から、見えることとは、そして見えないこととはどういうことかを観客に考えさせる。たとえば美しいと言われても自分には何の意味もない他人の評価にウンザリしているドゥ・ホンにとっては、見える世界での「美」と見えない世界での「美」は同じとは言えない。彼女の評判を聞いて院長のシャーは、その「美」が一体どんなものか知りたくて、彼女に近付き確かめようとする。

 このような視覚障害者の視点を見せることで、人が絶対だと思っている感じ方は実は個人的なものだと気付かされる。目が見えるからこそ見逃している問題もあれば、目が見えないために「見えてくる」問題があることも教えてくれる。

 一方、監督は目が見えない人の感覚を観客に感じてもらうために、クローズアップ、ぼやけなど撮影上の工夫を凝らしている。また健常者の俳優には不透明のコンタクトを付けてもらったり、逆に全盲の人には撮影の前に時間をかけセットやロケ地での小道具の配置を完全にマスターしてもらった。

 ここで思い出すのは、「天安門、恋人たち」の審査の際に、当局が「音も映像も質が悪い」とした技術的な基準のあいまいさである。監督によると、薄暗いシーンが多く、またぼかしなどのテクニックを使って目が見えない現状をリアルに再現した今回の映像と音声は、明らかに「天安門、恋人たち」より音も映像も「質が悪い」のに、審査がスムーズだった。技術的な基準というのは単なる口実で、「イデオロギーの面での検閲だったことがこれではっきりとわかりました」という。

 ロウ・イエ監督に限らないが、作品ごとに当局とやり取りすることで、どこまで頑張れば現時点で当局が認めるのかを絶えずテストしている監督はいるだろう。しかし、「目の不自由な人間の視覚的な物語を作ろう」と思いついたロウ・イエ監督は、「これで当局の出方をさぐれる」とゾクゾクするような期待感を抱いたと考えるのはうがち過ぎだろうか。
 
 「僕は出過ぎた杭になる」。そう言って目を輝かせた監督の顔を忘れることができない。

 「ブラインド・マッサージ」はアップリンク渋谷、新宿K's cinemaほか全国順次公開中【紀平重成】

【関連リンク】
「ブラインド・マッサージ」の公式ページ
http://www.uplink.co.jp/blind/


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  1. シャオマー(ホアン・シュエン=右)とドゥ・ホン(メイ・ティン)は自分のもどかしさをぶつけ合う
  2. 休憩時間にはおしゃべりしたり、互いの脈を計ることも
  3. マッサージ院のシャー院長(チン・ハオ)は結婚したがっている
  4. 院長を頼って恋人同士のワン(グオ・シャオトン=左)とコン(チャン・レイ)がマッサージ院に転がり込む
  5. 思いつめたシャオマーだが……