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銀幕閑話 Twitter

2016-05-22

第589回「わたしの自由について」

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 2015年の夏に、戦争の匂いを嗅いで国会前を抗議の波で埋め尽くした学生団体「SEALDs」。半年に及ぶ活動は安全保障関連法案の可決とともに終わったかに見える。しかし、彼らは今さまざまな方法で自身の体験してきたことを伝えようとしている。このドキュメンタリーもその一つだ。声をからしてコールし、ひたすら歩き、ビラを配った。運動は一時の勝ち負けではない。伝え続けることが大事だというメッセージが映像からも迫ってくる。

 監督は初長編作品「青の光線」が2011年の大阪アジアン映画祭に招待され14年に劇場公開された西原孝至監督。ネットで彼らがデモをしている動画を見て、そこにかつての自分や未来の子どもたちを思い浮かべたという。「自分の友人が声を挙げている」と。

 彼らと接しているうちに監督は1人1人の魅力に引きつけられカメラを向けたいと思った。監督自身も今ここで伝えることの大切さにこだわった1人と言えるだろう。

 映像はデモの当日、マイクや看板、ちらしに至るまで、いわゆるデモグッズを準備するところから、雨にぬれそびれながらもマイクを握りしめてコールする様子や、打ち合わせなど毎日の様子が描かれていく。その過程ではいろいろなことを学び、考える。たとえば中心メンバーの一人である奥田愛基さんは「自分だけでなく相手自由も認める、それが本当の自由じゃないかな」と自由についての考えを深めていく。

 大事なデモの日に挿入されるメンバーのスピーチには、彼らが自分で考え抜いた切ないほどにひたむきなものが多い。本間信和さんはこう訴える。

 「自分が過去からある大きな啓発を享受していることに気が付かされました。それは何か。『平和』ですよ。お金でもなく、武力でもなく、この国のいちばんの宝は平和です。もちろんそれは、沖縄の多大な犠牲の上に成り立ったものでもあります。けれど曲がりなりにもこの国は戦争に参戦してはこなかった。それを支えていたのは、間違いなくこの国の憲法の文言と理念です」

 そして、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」と憲法の前文を読み上げながら「これは、おれの言葉なんだよ(中略)戦後日本の平和と民主主義の歩みを支えた、この言葉と意思、そして理念は、脈々と子から子へと受け継がれていたんですよ。そしてそれは、間違いなく、自分自身の中にも息づいている」と強調する。

 もちろん運動は安保法案阻止に向けたものだが、半年に及ぶ活動の最中で、彼らがどんどん成長している様子も描く。

 たとえばメンバーの芝田万奈さんが大きな集会に代表を送るよう政党事務所に電話するシーン。手紙を送ったのに返事がないため確認の電話を入れると、資料が見当たらないという。画面では「えーっ」という表情を一瞬浮かべながらも、「それでは改めて資料を送らせていただきます」とにこやかに応対するのだ。言葉づかいも応対のさばき方も即戦力で使えるスキルだ。

 若者たちが考え行動する姿を見て感動するシーンは多いが、中でも終戦記念日前日の集会で長棟はなみさんが行った人生で初めてというスピーチは、映画のクライマックスを見ているかのように胸に迫った。

 広島に近い山口県出身で、8月6日の原爆投下の日にサイレンの音とともに母親と手を合わせた思い出から説き起こしながら、憲法と平和の関係を語る。

 「私が受けた教育は間違っていなかった。今ここで声を挙げる私を作りました」

 「70年間、戦争をしなかった。他の国の人に対し、直接銃口を向けなかった。一人も殺さなかったという事実が、この国を守っている。そのことを誇りに思うべきです」

 「他国から日本が直接攻撃されていないにもかかわらず、武力行使ができるというのは違うんじゃないでしょうか。なぜ他国の戦争に日本が参加するのでしょうか」

 「何より、70年前の戦争で、多くの命が失われたことを忘れてはなりません。抑止力は機能しないでしょう。憎しみが憎しみを呼び、報復が報復を呼び、取り返しのつかない大きな事態になることを、忘れてはならないのです」

 「どうか、誰かの言う、『綺麗ごと』『理想』をここで叫ばせてほしい。戦争はしたくない。人を殺したくない。殺されたくない。武力ではなく対話を。この言葉が綺麗ごとであってたまるか」

 「明日は終戦から70年目の日です。終戦の前に亡くなったたくさんの命。終戦を迎えたにもかかわらず失われたたくさんの命。戦争を生きぬいて私たちに命を受け継いでくれた命。そして私たちの命があります」

 「先の戦争は間違っていました。私は日本人として、何より人間として、戦争を繰り返してはならないという意思と責任を、たくさんの命から受け継いだのです」

 「二度と繰り返してはならない。このために私は行動するのだ。嘘っぱちの言葉なんていりません。どうか国民ひとりひとりの命を心から考えてください。いや、一緒に考えてください」

 「私は私の言葉を語ります。言葉が足らずとも、若くとも。私は、現政権と安全保障関連法案に、断固反対します」

 オシャレで音楽のノリが良く、明るいSEALDsのメンバーだが、考え、訴える中身は火のように熱い自身の心の叫びだ。

 奥田さんたちはSEALDsが参院選後に解散と言っている。ということは参院選に照準を合わせ大きな行動をとるということだろう。

 運動は一時の勝ち負けではなく、どこまでも伝え続けることが大事だ。それでも選挙運動の行方は気になる。一度“共振”した思いは、またうねりとなって動き出すに違いない。

 「わたし自由について」は、アップリンクほか全国順次公開中。また7月上旬まで各地で自主上映会も開催中【紀平重成】

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写真(クリックすると拡大)

  1. 昨年の夏にかけて毎週金曜日に開催された抗議集会(C)2016 sky?key factory, Takashi NISHIHARA
  2. 雨の中、コールする奥田愛基さん(C)2016 sky?key factory, Takashi NISHIHARA
  3. 中心メンバーの一人の芝田万奈さん(C)2016 sky?key factory, Takashi NISHIHARA
  4. 奥田さんと話し合う牛田悦正さん(C)2016 sky?key factory, Takashi NISHIHARA
  5. 応援スピーチに駆け付けた坂本龍一さん(C)2016 sky?key factory, Takashi NISHIHARA

   

【関連リンク】
わたし自由について〜SEALDs 2015〜」の公式サイト
http://www.about-my-liberty.com/

2016-05-09

第588回「ファブリックの女王」

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 北欧のフィンランドで生まれた「マリメッコ」は新しいファッションを世に送り出しただけでなく、新しい女性の生き方を提案する一つの運動体でもあった。本作はその生みの親であるアルミ・ラティアの波乱に満ちた実人生を描いている。

 一人の人間の素顔を映画でとらえようと思えば、二つの方法がある。一つはドキュメンタリー、もう一つはフィクションだ。だがヨールン・ドンネル監督は、意表をつく手法でそれを実現した。アルミを演じる女優が一歩引いて映画の進行を俯瞰するかのように演じ分けていく劇中劇。引いては返す波のように、アルミの思いに寄り添い思い悩む姿を次々と映し出すことで、アルミの人生を立体的に浮き上がらせていく。

 こんな手の込む手法にこだわったのには、もちろん理由がある。実は監督は1951年に創業したマリメッコの初期の役員(67年〜74年)だ。ヨールン・ドンネル監督は、アルミが女性をコルセットから解放し、新しいライフスタイルを推進しただけでなく、男性中心のビジネス界に乗り込んだ女性企業家としての手腕、さらに仲間を大切にする考え方などに共鳴し、彼女の映画を作ることを自身の使命と考えていた。それだけに彼女の実像を余すところなく伝える脚本作りには50年という長い準備が必要だったのだろう。

 戦後間もなく、夫が買収した業務用オイルプリントの会社で働き始めたアルミ(ミンナ・ハープキュラ)は、個人向けに綿のファブリック(織物)にプリントすることを思いつき、51年に新たな会社「マリメッコ」を創業する。才能はすぐ開花し、払下げの生地を一けた多く入手するため担当の窓口と脅しに近い押し問答の末に手に入れたり、ファブリックを売るために、使い方を示すドレスのファッションショーを全財産をかけて成功させる。才能豊かなデザイナーも集め、自由にデザインさせた作品には作者と作品の名前をそれぞれ記すようにした。事業は順調に伸び、60年代にはジャクリーン・ケネディが愛用するなど話題も集めた。

 一方、アルミにとって従業員は“家族”そのものだった。大事な家族のために職住が一体となった自然豊かな理想郷マリメッコ村”の建設も計画された。しかし出費を惜しまないアルミの手法銀行団からは評判が悪く、事実、再三の倒産危機にも襲われた。さらに理想を求め事業にのめり込むアルミのやり方は家族からも理解されなかった。その孤独感を癒すには酒や男が必要だった。そんな葛藤を映画は舞台劇のように観客の目の前に見せていく。

 映画の中で彼女の言葉として繰り返し発せられるのが「男は金ばかり計算し、人間を忘れている」「仲間の女性を支えたい」だった。これをフェミニズム的発想ととらえるよりは、むしろ人間性を重視する博愛主義と考えたほうが理解しやすいだろう。そう考えれば映画のラスト、行き詰った会社を救うために従業員の解雇を自ら通告しなければいけない事態に追い込まれたアルミが取った結論と行動はより一層胸にしみるだろう。

 マリメッコは現在、先に被災した熊本店をはじめ日本国内の32店を含め世界には140店以上あり、グループ全体の従業員は約500人。そのうち女性は90%という。

 「ファブリックの女王」は5月14日よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。【紀平重成】

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  1. 「ファブリックの女王」の一場面 (C)Bufo Ltd 2015
  2. マリメッコ創業者のアルミは事業を拡大していく (C)Bufo Ltd 2015
  3. 斬新なデザインが評判を呼び、販路は世界に広がっていく (C)Bufo Ltd 2015
  4. デザインは購入者からは支持されたが、事業はたびたび危機に見舞われた (C)Bufo Ltd 2015
  5. シンプルでユニセックスなデザインは革新的 (C)Bufo Ltd 2015


【関連リンク】
「ファブリックの女王」の公式サイト
http://q-fabric.com/

2016-05-02

第587回「花、香る歌」

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 朝鮮の民俗芸能であるパンソリは、太鼓の伴奏に合わせ1人の歌い手が歌と語り、仕草の三つで物語を口演していく姿から「独りオペラ」とも言われる。日本の浄瑠璃ともどこか重なるような、その哀調を帯びた節回しが創作意欲をくすぐるのか、これまでも好んで映画の中に取り込まれてきた。「桃李花歌」(トリファガ)という美しい原題を持つ本作も、まさに映画の展開と歌詞が絶妙に溶け合うパンソリを描いた作品と言えるだろう。

 パンソリを主題にした映画と言えば、すぐに思い浮かぶのがイム・グォンテク監督の「風の丘を越えて/西便制(ソピョンジェ)」や「春香伝」(チュニャンジョン)だろう。前者はヒロインが歌うパンソリの哀切な声音が聴く者の心を激しく揺さぶる力強さを持ち、後者は若い男女の身分を越えた恋愛物語と並行して、観客が舞台上のパンソリ「春香歌」に聴き入るという二重構造の大胆な演出が効果を挙げている作品。

 それに対し本作は女性がパンソリを歌うことを禁じられていた朝鮮王朝末期の19世紀後半、初めて歌い手となった女性チン・チェソンの波乱に満ちた人生を描く実話だ。

 母を亡くした少女チン・チェソン(スジ)は、母が亡くなる前、預けられた遊郭で育つ。ある日、パンソリを耳にしたチェソンはその物語の主人公に自らの人生を重ねて大泣き
する。そんな彼女を偶然見かけた男が「涙のあとは笑顔になれる。それがパンソリだ」と優しく教えてくれる。この男こそ、後年、チェソンの人生を大きく変えることになるパン
ソリの大家シン・ジェヒョ(リュ・スンリョン)だった。

 彼の一言にチェソンはパンソリの歌い手になることを決意するが、当時は女性が歌うことを固く禁じられていた時代。チェソンは、ジェヒョに弟子入りして修業を始め、彼とは旧知の間柄の時の権力者、興宣大院君(キム・ナムギル)が1867年に主催した景福宮の再建を祝う落成宴に、危険を顧みず乗り込むのだが……。

 映画を面白くするのは、次々と押し寄せる困難を潜り抜けて主人公が夢を果たすという展開の中で、どれだけハードルを高く厚く積み上げることができるかだろう。若手のイ・ジョンピル監督は、最後の最後に夢をかなえるというのに、ヒロインのチェソンと師匠のジェヒョに、さらにこれ以上はないという新たな難題を突き付けるのだ。これは厳しい。観客は思わず2人に感情移入してしまうに違いない。

 もともとチェソンは不遇な環境で育ち、ジェヒョも家柄が悪いため立身出世はかなわぬという虐げられた者同士の組み合わせ。そこから生まれる反骨のエネルギーが互いを高め絆を強めてきたといえるだろう。逆境の2人が惹かれ合い共感するという関係は、そこに悲劇の予兆があればあるほど美しさを増すのも当然である。

 その2人が修行中のある夜、こんな会話をする。先輩たちから、「人を愛したことがなければパンソリで愛する心など歌えない」と言われていたチェソンが師匠に向かって「愛
を抱くとは花を抱くようなもの。桃李花のような美しい花を。お師匠様の桃李花になりたい」と秘めた思いを告白する。だが、師匠は「歌とはいわば香りだ。香らぬ花など欲しいとは思わぬ」と突き放す。

 まだ修行が足らず人を共感させる芸域には達してないという師匠としての厳しい回答だが、弟子を愛する本心を隠したとも言えるかもしれない。この2人の愛が、ラストの展開に微妙な綾を与えることになる。

 主演のスジはK−POP のmiss Aのメインボーカルで、「建築学概論」で注目された若手女優。同じパンソリを描いた「風の丘を越えて/西便制」で主演のオ・ジョンヘが小学校時代からパンソリを学びプロとしての発声をものにしていたのと比べるのは可哀そうだが、ジャンルの違いを越え歌手としての意地は見せていたと思う。

 「花、香る歌」は4月23日よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開。

【紀平重成】

【関連リンク】
「花、香る歌」の公式サイト
http://hanauta-movie.jp/

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  1. チェソン(スジ)は女性として初めてパンソリの歌い手になることを決意する (C)2015 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
  2. 堂々とした演技で観客の心をとらえるチェソン (C)2015 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
  3. 先輩からは厳しい注文が寄せられる (C)2015 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
  4. 師弟の前に立ちはだかる時の権力者、興宣大院君(キム・ナムギル) (C)2015 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
  5. 落成宴で見事なパンソリを歌い上げるチェソンと師匠のジェヒョ(リュ・スンリョン=右) (C)2015 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

2016-04-22

第586回「フリーランス」のナワポン・タムロンラタナリット監督に聞く

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 「すれ違いのダイアリーズ」が近く日本公開されるなど、タイ映画への関心が徐々に高まっているが、3月の大阪アジアン映画祭でABC賞に輝いた本作もタイ映画の勢いと広がりを見せる作品だ。インディーズの監督ながら、タイ最大手のGTHから才能を見込まれ人気俳優をキャスティングして昨年のタイで第2位の興業収入をたたき出したナワポン・タムロンラタナリット監督に聞いた。

 −−タイでの原題は「病むな、休むな、医者を好きになるな」という意味だそうですが、3番目の意味はどういうことですか?

 「タイでフリーランスの人は、これもダメ、あれもダメ」と自分に規律を課す人が多い。よく言われるのは『病むな、休むな、死ぬな、仕事しろ』という言い回しですが、この映画の中ではお医者さんとの恋愛も少し入っているので、そこだけを変えたのです」

 −−ということは誰でも知っている格言とはちょっと違う?

 「仕事が不安定なので、フリーランスはいつでも仕事ができる態勢でいなければいけない。だから休むなとか、逃げるなというのはあります。もしそうやって断った場合はもう2度と電話はかかってこなくなる恐れもある」

 −−でも、お医者さんの話だからちょっと変えたということですね。

 「ええ、やはり、お医者さんに気があると仕事に影響が出てきますよ。お医者さんのことを考えて仕事が手に付かないとか、仕事のペースがゆっくりになるとか」

 −−十分考えられますね。この格言が気に入ってしまったんですけれども。

 「ありがとうございます」

 作品は、フリーランスのグラフィックデザイナーが過労で病院に行き、そこで同じように仕事熱心で美人の女医の診察を受けるが、それからというもの、どうにも仕事に身が入らなくなり、果たして彼の心の病に効く薬は見つかるだろうか、というお話。

 −−この作品、観客はタイの若者中心だと思いますが、どういう反応があったんでしょう。

 「ほとんどの人が気に入ってくれて、特に大学生から新卒で仕事を始めた人、もしくはある程度仕事の経験がある若い人たちでした。ただ高校生は見ても分からないので、好きじゃないと言われたこともあります」

 −−受け入れられたのはなぜだと思いますか?

 「一つは主人公のユンの考えていることがナレーションで入るシーンが度々ありますが、ほかの人では実際そう思っていてもなかなか口に出す勇気がないようなことを代わりに大胆に言ってくれるところがスカっとしたんだと思います。あと大学生とか新卒の会社員は遊びすぎや仕事のしすぎで寝不足になって体力が落ちるということがあるので、自分の境遇に似てるな、と思ってくれたのでしょう」

 −−そのへんは世界共通だと思いました。

 「日本人もああいうふうになります?」

 −−過労の問題は似てます。でも映画のように全身にポツポツが出るようなことはないと思います。ただ免疫力は落ちますね。何かウィルスが入ってきたときにはねつけるパワーが落ちてくる。そうするともともとあった病気が悪さを始めるわけです。風邪をひいたり。で、なぜポツポツにしたんですか?

 「見えやすい症状として選びました。例えば肺がんだと症状が見えないですが、ポツポツだと、どれぐらいひどいか、あるいは治ったのかがわかるし、自分もあそこまでではないですけれども発疹が起きたこともあるので」

 −−女医さんの診察している姿がすごくエロチックに感じたんですけれども。そのへんは狙ったのでしょうか。後ろから首筋とかをのぞき込むように見ているんですけれども、その目の表情などが。

 「それは意図していないんですけれども(笑)自分としてはロマンティックのつもり、コメディのつもりだったんですけれども、そういうふうに見えてしまったのですね」

 −−私がいけないんですね。ここでサニーさんにお聞きしたいのですけれども、この作品に出てよかったなと思うような部分がありましたら教えてください。

 (サニー・スワンメーターノン)「僕はこの脚本を読んだときにこのキャラクターが好きになりました。自分の身近にいないキャラクターだし、こんな脚本が書ける人がいるのだと思って、すごくワクワクして喜んで引き受けたのです」

 −−たぶん好きになった脚本だから表情がすごく自然だったんですね。

 (サニー)「そのキャラクターを自分なりに解釈して、この人だったらどう動くかなとか、どういうモットーを持っているかとか考えながら演じました」

 −−その女医さんとの言葉のやりとりが、何かいいなという感じなんですね。無言の表情というのがいい。彼女も無言で、無言同士で交わす笑みがいいんですね。

 (サニー)「ありがとうございます。それは意図どおりです」

 −−また監督にお聞きしたいのですが、この2人を選んだ理由は?

 (監督)「この2人のキャラクターを演じられる役者はタイで探すのが難しかったんです。なぜかと言うとユンというキャラクターは一人の人間の中にドラマチックな部分、シリアスな部分、コミカルな部分があって、さらにロマンチックな表情も見せなければいけないので、それができる俳優はなかなかいない。それでサニーさんに演技を見せてもらった時に、彼ならこの3つを演じきれるだろうと思って選びました。あと女医役のタビカ・ホーンさんは時々しか出ない役でした。時々しか出ないけれども短い時間で特別な存在感を出せる女優じゃないといけないと思いました。彼女はタイではスーパースターです。でもこの役を演じられるかどうか分からないので演技を見せてもらったところ、できたんです。普段はすごくモデルらしいオーラがあるのですが、あえて普通のお医者さんを演じさせるのが面白いなと思いました」

 −−普通の女医さんを演じさせる工夫はあったんでしょうか。

 (監督)「彼女がこれまで演じてきた役柄って時代劇しかなかったんです。でも、もともと彼女が持っている素の部分があります。それを引き出して演じてもらいました。今までそういう役を依頼する人がいなかったというだけです」

 −−彼女が出た前の作品は「愛しのゴースト」。そのときの演技よりも遥かによかったですね。

 (監督)「やっぱり脚本のタイプが全然違います。『愛しのゴースト』は登場シーンが多いし、こちらは少しでしたから」

 −−それに幽霊ですからね。普通の人を演じるわけにはいかないですものね。さて、サニーさん。まだ今度の作品がヒットしたばかりですけれども、今後どんな作品に出たいですか?

 (サニー)「どんなキャラクターを演じたいかというのは考えたことないですけれども、良い脚本に出会えればそれを読んだときにキャラクターは作れると思います」

 −−ということはまたこの2人での組み合わせはあるんでしょうか

 (監督)「可能性はあると思いますが、やはりキャラクターがサニーさんに合えば。合わなかったら提案しません。

 −−いま2人で話している様子が楽しそうでした。日本のファンに向けて。普段のサニーさんはどんな人なんでしょうか。

 (サニー)「LINEの履歴見せればどんな人か大体わかりますよ」

 −−やっぱりLINEはお好きなんですね?

 (サニー)「観光で日本に来るのもすごく好きです。自分の場合はこれが仕事、これが休み、これが遊びっていうふうに分けてはいなくて。どれも好きなのでどれも混ざっている感じです」

 −−お気に入りの漫画はあるんですか、LINEの?

 (サニー)「ONE PIECE(ワンピース)のルフィ」(尾田栄一郎の漫画『ONE PIECE』に登場する主人公モンキー・D・ルフィ)

 −−きっとファンは喜ぶでしょうね。やっぱり広がってるんですね。それと関連するんですが、タイ映画を見ているとあまり外国という印象を受けないんですね。日本人俳優が出たり、日本の製品や漫画が出てきたり。もともと障壁がないのか、だんだん障壁が下がってきたのか。そのへんを監督にお聞きしたいです。

 (監督)「日本人とタイ人に共通する興味のある内容というのはあると思います。例えばタイ人は日本の漫画をたくさん読んでいる。あと映画ですけれども、北野武監督の間のとり方にちょっと似ていますよ」

 −−どの作品が?

 (監督)「例を出すと、例えばムエタイを練習して、ヤクザを倒すんだって言って、次のシーンではすでに倒されているシーンがあったりとかね。

 −−全部描かないという……

 (監督)「やっぱり編集の仕方っていうのは漫画の言語だと思うんです。そしてアジア人に共通する感情、フィーリングだと思うんです。なぜなら、こういう場面がいきなり変わるという編集の仕方はヨーロッパの映画には見られない」

 −−そういう意味でも障壁がどんどん下がっているという感じですね」

 (監督)「さっき言い忘れたんですが、タイ人が日本映画を見ても自分とそんなにかけ離れていると話だとは思いません。やっぱり文化が近いんだと思います」

 −−互いに刺激しあって、また面白い作品を。監督は多彩で評論家もされているし、脚本家でもある。今後もこうやってマルチでやっていかれるんでしょうか?

 (監督)「そうですね。今も全部やっていますけれども、これからもそのつもりです」
 −−楽しみにしています。

【紀平重成】

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写真(クリックすると拡大)

  1. フリーランス」のナワポン・タムロンラタナリット監督(左)と主演のサニー・スワンメーターノンさん(2016年3月6日、大阪市のシネリーブル梅田で筆者写す)
  2. 仕事漬けで疲労困ぱい状態のユン(サニー・スワンメーターノン)
  3. 全身に回った発疹を見る女医(タビカ・ホーン=左)
  4. 仕事上のことで悩みが深まるばかりのユン


【関連リンク】
大阪アジアン映画祭の公式サイト
http://www.oaff.jp/2016/ja/

2016-04-16

第585回「山河ノスタルジア」

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 そんなに多い訳ではないが、作品のスケールが大きすぎて、一度見ただけでは内容を十分理解できないことがある。実はこの作品も昨年の東京フィルメックスで見た時は、中国の素晴らしさを礼賛する“中華思想的作品”ではないかと誤解してしまった。世界のジャ・ジャンクー監督を前に失礼な話だが、今回改めて見直し、「時間」をテーマに変わるものと変わらないものを対比させて、人間の普遍的な感情を感動的に描いた作品と思い至ったのである。

 “誤解”したのには、やむを得ない理由もあったと思う。物語は過去(1999年)、現在(2014年)、未来(2025年)の三つの時を描き、最初のパートは山西省の炭鉱の町、汾陽(フェンヤン)を舞台に、一人の女性をめぐり二人の幼友達が恋のさや当ての末に若き実業家が求婚に成功し、負けた炭鉱労働者が町を去るという三角関係のメロドラマだ。

 次のパートでは離婚した女は汾陽に残り、豊かだが孤独な暮らしをしている。父親が急死し元の夫と上海で暮らす7歳の息子を葬儀に呼び寄せる。異なった環境で育ち自分に馴染もうとはしない息子に食べさせようと、母親は愛情を込めて一つひとつ餃子を包んでいく。息子は間も無く父親オーストラリアに移住するという。

 最後の未来編は、オーストラリアでの生活の方が長くなり中国語をすっかり忘れてしまった大学生の息子と父親は意思の疎通ができない。息子は母の面影を求めるかのように、孤独な陰のある女性教師ミアと親しくなる。

 筆者の“誤解”の元になったのは、ラストで踊る母親タオの姿だ。老いを感じさせない確かな舞には、海外で根なし草のようになって漂白する中国人に、母国こそ安住の地であり、まごうことなき美しい住みかだと語りかけるメッセージが込められていると感じたのだ。しかし、こうも解釈できる。どこにいても、時がどんなに過ぎても、母子の互いを求める気持ちは変わらない、と。そんなことを具体的に示す次のようなシーンがある。

 2014年の現代のパートで、間もなく上海に帰る息子に母親のタオがカギを渡す。「合鍵を作ったの。いつ戻ってきてもいいのよ」。そのカギが2025年の未来のパートにまた出て来る。息子のダオラーと親密になった教師のミアがダオラーの首に下げられているカギを手に取る。「母さんがくれた僕の家のカギだ」と説明しながら泣きだすダオラー。

 このカギには、実は監督自身の体験したエピソードが関わっている。汾陽で一人住む母がある日、監督に「あなたの家のカギよ」と渡してくれた。忙しい生活で実家に帰ることもままならない監督に、お金より大事なものがあることを気がつかせてくれたのだという。

 監督はこのカギを時間と対比させながら他の場面でも有効的に使っている。最初のパートで恋に敗れ汾陽を去った炭鉱労働者のリャンズーが体を壊し妻子と共に故郷に帰ってくる。手術の費用にも事欠く彼に、再会したタオはお金を渡す。そして、かつて彼が町を出る際に捨てたカギを差し出すのだ。「あなたのカギよ」。一度は去っていった親友を彼女は忘れてはいなかった。どんなに時間が過ぎても友は友だという風に。

 時間の描き方でもう一つ印象的だったのは、タオが息子を見送る日に母親が鈍行列車を選んだことに疑問を持ったダオラーがこう尋ねる。「特急に乗ればいいのに」。母は答える。「この方が長く一緒にいられるの」。時間と人の感情がいかに密接につながってるかをよく示している。

 経済発展に翻弄される人々に向ける監督の温かい眼差しは一貫して変わらないが、感情を慎み深く表現するうまさはますます磨きがかかっている。

 一方、音楽へのこだわりも相変わらずだ。冒頭とラストで2度に渡って使われるペット・ショップ・ボーイズの「Go West」やサリー・イップの「珍重」は場面にピタリとはまり、心の奥の琴線に触れる。監督は映画を作って、ますますこの「珍重」が好きになったというが、それも分かる気がする。

 「山河ノスタルジア」は4月23日よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開。【紀平重成】

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  1. 凍てつく黄河のほとりにたたずむ男女3人の思いはぎこちない (C)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano
  2. 実業家のジンシェン(チャン・イー=左)はタオ(チャオ・タオ)にリャンズーと別れてほしいと迫り求婚する (C)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano
  3. タオの思いは揺れる (C)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano
  4. 祖父の葬式で上海から里帰りした息子と歩くタオは一緒に暮らすことを断念する (C)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano
  5. 母の面影を教師のミア(シルヴィア・チャン=左)に求めるダオラー(ドン・ズージェン) (C)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano


【関連リンク】
「山河ノスタルジア」の公式サイト
http://bitters.co.jp/sanga/