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2017-02-18

第617回 「百日告別」

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 「九月に降る風」や「星空」で高校生の友情や自立していく少女の感情をみずみずしく描いた台湾のトム・リン監督。その彼が、実体験をベースに愛と死を見つめる人間ドラマとして紡ぎ出したのが一昨年の東京国際映画祭で上映された「百日草」だ。タイトルを変え日本公開されるのを機に来日した監督に撮影の舞台裏を聞いた。

 交通事故に巻き込まれ、ユーウェイ(シー・チンハン)は妊娠中の妻シャオウェン(アリス・クー)とまだ見ぬわが子を失う。シンミンカリーナ・ラム)は結婚間近の婚約者レンヨウ(マー・ジーシアン)を亡くす。二人は悲しみから抜け出そうと、それぞれの旅に出る。

 −−映画にも出てきますが、愛する人を失った辛さに耐えられず、ユーウェイは妻が使っていたピアノを目の前から隠そうとしたり、逆に他に関心を向けようとします。監督はあえて大事な人の死(妻は2012年に病死)と向き合い、映画にしました。その映画を作ろうと決めた決定的な瞬間はどのようなときだったのでしょうか。

 トム・リン監督「この映画を撮ろうと思ったのは、ちょうど妻が亡くなって100日目でした。映画のラストシーンと同じように、自分も法要を終えてバスに乗り、山から下りてくるとき、周りの人を見てふと思ったんです。もしかしたらこの人たちも私と同じように、100日目の法要を終えて家に帰ろうとしているのかと。車の中に男1人、女1人が座っていて、夕日がバスの中に差し掛かかり、2人は会話するかどうかと考えたんです。たぶん話はしないけど、きっとお互いの気持ちを一番理解しているんじゃないかなと思って、私の目の前にこういう画面が現れてきたんです。これを映画にしようと思いました」

 −−そのとき2組の話にしたのは、その画面が浮かんだからですか? それとも別の事情があったからでしょうか。

 「先ほどのバスの中で感じたことの延長だったと思います。その時、こういうことを考えていました。この100日間、違う過ごし方をしたら、自分はどういう気持ちになっているのかと思いました。これを映画にするときは、男1人、女1人の2人がそれぞれ違う100日間をどういう風に過ごすか描いたほうがいいかなと思いました。例えば、ある大きな迷路の中にねずみ2匹がいて、1匹はすごく衝動的で何も決めないで出口を見つけようと走り回っている。もう1匹はすごく慎重で、壁に沿って一歩一歩前に進んで行く。どちらが早く出口を見つけるか。それは私も分からないけれど、見てみたい。それで、この映画を2人の主人公の話にしました」

 −−この映画は監督自身が経験されたこととフィクションの部分と、割合はどれぐらいだったんでしょうか。

 「割合で言うと、なかなか……(笑)。強いて言えばですね、自分自身の経験の部分はおそらく3割ぐらいでしょうか。この部分は実際に演じてもらっているわけですから、シンミンの役柄の部分に反映されています。もちろん妻を亡くしてハネムーンに行くわけではないんですが、映画の中の彼女と同じように私も一人で旅に出ました。北海道の富良野のある坂道のところで、坂道を上ろうとしているおばあちゃんに出会いました。その時挨拶したのですが、おばあちゃんが日本語でいっぱい語ってくれたのに何もわかりませんでした。けれども、妙に慰められた気がしたんです」

 −−台湾には「父の初七日」という映画がありました。ヒロインが父を亡くし、しばらくして海外出張するときに、空港のアナウンスを聞きながら父を思い出し泣き崩れるのがすごく印象的でした。監督の作品ではヒロインが婚約者の弟の家に行き、二人で悲しみを共有する場面があって、それもすごく印象に残りました。2つの作品が重なって感動したのですが、この作品からインスピレーションを受けることはあったのでしょうか。

 「ないと思います。その映画は僕も見たんですが、どこかユーモラス。そういうタイプの映画でした。実はシンミンと婚約者の弟が100日目までに会う場面をなぜ描いたかと言うと、私も29歳のときに兄を亡くしました。いつか兄を失った弟の役を映画で描きたかったんです。それで自分の悲しみをいやすことができる相手としてシンミンを登場させました」

 −−プレス資料にダイ・リーレン監督とニウ・チェンザー監督の双方にラフ編集の段階で相談したところ、それぞれが「ちょっと自分に編集させて」と言って、2つのバージョンができて、それを参考に監督がまた編集したと書かれています。

 「本当にそうでした」

 −−3つの編集に付き添った編集担当者は大変だったけれども、監督にとっては結果的に一番いい作品ができたと言っていいんでしょうか。

 「この物語は私自身と密接な関連があるので、最初は自分で編集しました。ところが101分の長さまで編集して困りました。というのは、新たに映画の中に入れる材料が見つからない。しかも101分というのが長いと思い、どうカットしたらいいか迷っていた時に2人がやってきて、いろんなアドバイスをしてくれました。彼らは口を出すだけじゃなく、実際に編集をやろうと。ここはカットした方がいい、ここはいらないよね、という風に。例えばダイ・リーレン監督は結構バサバサ(笑)やってですね。なかなかいいじゃないかと。完成したバージョンの一部分は二人の監督が手を入れたところもあります」

 −−この作品を台湾以外で深く理解してもらえるのは日本だとインタビューで答えられていますけれども、それはなぜですか。

 「私が思うに生命観、そして価値観。こういったことは台湾の人と日本の人はすごく近いと思います。また、儒教の伝統的な考え方、生と死に直面する時にどう対応するか。儀式にしてもそうですが、日本も四十九日の法要をしています。しかし、なんと言っても似ているのは生命観と価値観ではないでしょうか」

 −−他にも日本のマンガや映画を見て育った人が台湾には多いですね。逆に自分はこうあってほしいと思うことを、先に台湾がやってしまうことがありますよ。例えば原発を早々に止めることを宣言してしまうとか、もっと日本の方が真似していいのかなと思うんですけどね。

 「台湾は今現在3つの原子力発電所があって、4つ目は一時建てようかという話がありましたが、それはやめましょうと。将来は全部やめましょうと。ものすごく議論が盛んですね。代替エネルギーはどうしようかということで。でもまだ結論は出てなくて、もう少し時間はかかるかもしれませんね。台湾本土はこの3つの原子力発電所から電力供給を受けてやっているわけです。日本も原子力発電所がいっぱいあるんですが、撮影で訪れた石垣島は全く原発の電力は使っていないと聞きました。台湾にはそういう島すらもない。まだ日本の方が、こういうところがあるからいいのかなと思いますね」

 −−奥さまから「映画を作り続けて」と言われたということですが、いつのことだったのでしょうか。

 「妻も生前私と一緒に映画を作っていた人です。私は非常に悲観的な人間で、すぐに挫折したり暗くなったりするんです。そのとき妻がよく言います。映画は続けましょうと励ましてくれるんです。例えば企画を立てて、助成金申請をする。ところが結果は何ももらえなかった。がっかりしていると、妻が言うんですよ」

 −−この映画を台湾で公開したり、これから日本で公開するわけですけれども、奥さまにどう報告するのですか?

 「彼女は私がやっていることを知っていると思います。例えばよくベランダでタバコを吸いながら彼女とおしゃべりするわけですよね。だからどこかに行って彼女にわざわざ報告しなくてもいいと思います。たぶんいろいろな場面で彼女と話をしていて、知ってると思います。おそらく亡くなった妻も兄もそうですが、どこかで見ているんですよね」

 −−シー・チンハンさんが撮影中に役柄になりきって、声をかけられなかったというエピソードが紹介されていますけれども、これは期待以上の反応だったのでしょうか。

 「実は彼にこういう風に演じてほしいという期待は一切してなかったんです。というのは役を彼に全部任せたからです。きっと彼はうまく演じてくれると信じていました。彼は結局こういうかたちで役に完全に入り込んでやるということで、正直ものすごく感謝しています。同時に非常に辛いなと思います。本当にそういう状況ってすごく大変なんです」

 −−いま映画監督をやっていてよかったなと思うときはありますか。

 「いつも自分は映画に携わることができて、こういう機会があって、すごく感謝しています。もちろん自分自身の能力の限界を知っていますから、たまに落ち込んだりします。もうちょっと良くできないのかと考えることもある。でもそれは自分に対するある種の要求ですからね。もっと良くしようということで。でも今監督をやっているということをすごく実感していて、今でも監督をやれるということに感謝しています」

 −−そうするとぜひ次回作をお伺いしたいんですけれども。

 「まだ脚本を書いている段階です。リサーチをやっている段階で。もし映画化できれば、ふるさとの新竹で撮りたいと思っています」

 −−私も以前行ってきて、すごくいい町だなと思いました。昔懐かしい映画館もあったりして。台湾で一番最初に冷房が入った映画館だと聞いています。

 「おっしゃるとおり、今は新竹映像博物館になっているところは、日本統治時代の映画館で、いち早く冷房を導入したところです」

 −−早く脚本が出来上がることを祈っています。

 「(笑)ありがとうございます」


 「百日告別」は2月25日から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開【紀平重成】

【関連リンク】
「百日告別」の公式ページ
http://www.kokubetsu.com/

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写真(クリックすると拡大)

  1. 「百日告別」の一場面。シンミンカリーナ・ラム=左)は婚約者のレンヨウ(マー・ジーシアン)との結婚を楽しみにしている (C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved
  2. ユーウェイ(シー・チンハン)は法要の後、偶然シンミンと言葉を交わす (C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved
  3. シンミンは夫と行くはずだった新婚旅行先の沖縄を訪れる (C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved
  4. 沖縄の坂道でお年寄りから話しかけられるシンミン (C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved
  5. ユーウェイは、自分の知らない亡き妻の様子をピアノ教室の生徒から聞くことになる (C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved

2017-02-14

第616回 「毎年悩ましい大阪アジアン映画祭」

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 今年も大阪アジアン映画祭の鑑賞スケジュールをどう組むか悩む季節がやってきた。サラリーマン生活を続けている以上、2回ある土日の前半に行くか、それとも後半かという選択の問題に過ぎないと言われれば、まさにその通りなのだが、せっかくの機会だからやはりあれも見たい、これは外せないと悩みは尽きない。

 例年ならある程度で見切りをつけ、2週分押さえていたホテルの一方をキャンセルしていたのだが、今年は見たい作品が前後半でほぼ同数。ここで見逃すと日本公開されない限り2度と見ることができない作品もあるかと思うと、また作品選びの振り出しに戻ってしまうのだ。

 妙案はないか。スケジュールを見つめること1時間余。………あった。東京と大阪を2往復すれば、つまり週末の金曜夕刻に大阪入りし、日曜帰りを2週続ければ、取っておきの12本を見る事が可能になる。ホテル代や往復の新幹線代が倍に膨れ上がるのは痛いが、海外旅行を考えれば無理な話ではない。しばらくは外飲みを減らし、少々の疲れならタクシーは乗らないと決めれば……。

 12本の中には暉峻創三プログラミング・ディレクターが当コラム恒例の「私のアジア映画ベストワン」で挙げたフィリピン映画「パティンテロ」が含まれているのは言うまでもない。

 「フィリピンの子供にとってのドッジボールや鬼ごっこ的な遊び"パティンテロ"を通じて、負け組少女が威厳を持って立ち上がる姿を描いたもの。『シェルブールの雨傘』のジャック・ドゥミも真っ青な色彩設計、周星馳監督もビックリのケレン味など、見たことのない斬新なセンスに溢れたフィリピン映画」 。こう紹介されたら、あなたは平静でいられるだろうか?

 せっかくなので、私が注目している作品をもう少しご紹介すると、前半では「ミセスK」「わたしは藩金蓮じゃない」「1日だけの恋人」など中国の巨匠、フォン・シャオガン監督やマレーシア、タイの人気監督作品が並ぶ。後半ではウェイ・ダーション監督の「52Hz,I LOVE YOU」やハーマン・ヤウ監督の「77回、彼氏をゆるす」、あるいは「突然20歳 タイの怪しい彼女」あたりの作品をマークしている。

 今から待ち遠しい作品ばかりである。ちなみに暉峻さんは「前後半の土日はどっちに行けば正解?」という切なる問いに、「両方行くのが正解では」とニッコリ。その曇りのない笑みに愚問を発した自分を恥じた。

 「大阪アジアン映画祭」は3月3日〜12日、シネ・リーブル梅田4など6会場で開催【紀平重成】

【関連リンク】
「大阪アジアン映画祭」の公式ページ
http://www.oaff.jp/2017/ja/index.html

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写真(クリックすると拡大)

  1. パティンテロ
  2. 突然20歳 タイの怪しい彼女
  3. 1日だけの恋人
  4. 52Hz,I LOVE YOU
  5. 77回、彼氏をゆるす

2017-01-30

第615回 「ブラインド・マッサージ」

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 ロウ・イエ監督には「スプリング・フィーバー」日本公開前の2010年11月に来日した際にインタビューしたことがある。その時、一番印象に残ったのは次のような言葉だった。

「僕は出過ぎた杭になる」

 これには若干の説明が必要だろう。監督は「ふたりの人魚」と「天安門、恋人たち」で2度にわたって映画製作禁止処分を受けているのに、そんなことなど無かったかのように終始笑みを浮かべ、質問に答えていたからだ。「取り巻く環境がいい方向に向かっているのでしょうか」と尋ねると、「ラッキーだと思います。そう思うのは私は映画を撮り続けることができている。それが大きいです。電影局がこれ以上僕をいじめないでほしいです」。

 その毅然とした態度に、思わず「日本には『出る杭は打たれる』ということわざがありますが、逆に『出過ぎた杭は打たれない』とも言います。相手を励ます意味もあるのでしょう」と声をかけた時に、先ほどの「僕は出過ぎた杭になる」という言葉が返って来たのである。

 常に自分の描きたいテーマを探し求め、そのために資金面でも、あるいは映画作りの面でも最良の方法を編み出そうと努力し続ける監督の強い思いが伝わって来るではないか。視覚障害者の世界を映像化するという今作は、まさにそのチャレンジ精神を如何なく発揮したロウ・イエ監督の最高傑作と言えるだろう。

 舞台は「時代に流されていない感じのこの町が大好き」と監督が言う南京の盲人マッサージ院。南京での撮影は「スプリング・フィーバー」以来だ。

 若手のシャオマー(ホアン・シュエン)は幼い頃に交通事故で視力を失い「いつか視力が回復する」と言われている。生まれつき目の見えない院長のシャー(チン・ハオ)は見合いを繰り返すが、視覚に障害があることを理由に縁談を断られてまう。同じく生まれた時から目が見えない新人のドゥ・ホン(メイ・ティン)は客から「美人すぎる」と評判でも、自分には何の意味もない「美」にウンザリしている。そこに院長を頼ってワン(グオ・シャオトン)と恋人のコン(チャン・レイ)が駆け落ち同然で転がり込み、事態は思わぬ方向に動きだす。

 映画は最初から、見えることとは、そして見えないこととはどういうことかを観客に考えさせる。たとえば美しいと言われても自分には何の意味もない他人の評価にウンザリしているドゥ・ホンにとっては、見える世界での「美」と見えない世界での「美」は同じとは言えない。彼女の評判を聞いて院長のシャーは、その「美」が一体どんなものか知りたくて、彼女に近付き確かめようとする。

 このような視覚障害者の視点を見せることで、人が絶対だと思っている感じ方は実は個人的なものだと気付かされる。目が見えるからこそ見逃している問題もあれば、目が見えないために「見えてくる」問題があることも教えてくれる。

 一方、監督は目が見えない人の感覚を観客に感じてもらうために、クローズアップ、ぼやけなど撮影上の工夫を凝らしている。また健常者の俳優には不透明のコンタクトを付けてもらったり、逆に全盲の人には撮影の前に時間をかけセットやロケ地での小道具の配置を完全にマスターしてもらった。

 ここで思い出すのは、「天安門、恋人たち」の審査の際に、当局が「音も映像も質が悪い」とした技術的な基準のあいまいさである。監督によると、薄暗いシーンが多く、またぼかしなどのテクニックを使って目が見えない現状をリアルに再現した今回の映像と音声は、明らかに「天安門、恋人たち」より音も映像も「質が悪い」のに、審査がスムーズだった。技術的な基準というのは単なる口実で、「イデオロギーの面での検閲だったことがこれではっきりとわかりました」という。

 ロウ・イエ監督に限らないが、作品ごとに当局とやり取りすることで、どこまで頑張れば現時点で当局が認めるのかを絶えずテストしている監督はいるだろう。しかし、「目の不自由な人間の視覚的な物語を作ろう」と思いついたロウ・イエ監督は、「これで当局の出方をさぐれる」とゾクゾクするような期待感を抱いたと考えるのはうがち過ぎだろうか。
 
 「僕は出過ぎた杭になる」。そう言って目を輝かせた監督の顔を忘れることができない。

 「ブラインド・マッサージ」はアップリンク渋谷、新宿K's cinemaほか全国順次公開中【紀平重成】

【関連リンク】
「ブラインド・マッサージ」の公式ページ
http://www.uplink.co.jp/blind/


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写真(クリックすると拡大)

  1. シャオマー(ホアン・シュエン=右)とドゥ・ホン(メイ・ティン)は自分のもどかしさをぶつけ合う
  2. 休憩時間にはおしゃべりしたり、互いの脈を計ることも
  3. マッサージ院のシャー院長(チン・ハオ)は結婚したがっている
  4. 院長を頼って恋人同士のワン(グオ・シャオトン=左)とコン(チャン・レイ)がマッサージ院に転がり込む
  5. 思いつめたシャオマーだが……

2017-01-15

第614回「16年私のアジア映画ベストワン」(2)

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 注目のベスト5をご紹介する前に、ベストテンに入らなかった作品について、推奨者のこだわりの弁を続けます。

 「『映画ファンのための』韓国映画読本」(ソニーマガジンズ)の編集経験がある千葉一郎さんの一押しは「シン・ゴジラ」。

 「ありがちな感情ドラマをスッパリと切り捨てて、ゴジラという巨大生物が現実世界に登場したら、というシミュレーションでひたすら推し進めていくソリッドな語り口にとにかくシビレた。ゴジラは何も考えておらず、ただ移動していくだけ(決して破壊が目的というわけではない)の存在だが、完全に制御不能、かつ恐るべきエネルギーと暴走の危険性を抱え込んでいる。メタファーの出発点は明白だが、説教臭さは皆無。徹底的な取材で世界観を緻密に(誠実に)構築していく態度には、『この世界の片隅に』に通じるものを感じる」

 暴走の危険性をはらんでいる「シン・ゴジラ」の登場が、制御不能の政治や社会の幕開けとならないよう見守らなければいけないですね。

 続いて大阪アジアン映画祭プログラミングディレクターの暉峻創三さんは、毎年、この欄で発表するベストワンが映画祭出品作に入るかどうかが注目されます。今年はフィリピンの「パティンテロ」でした。

 「フィリピンの子供にとってのドッジボールや鬼ごっこ的な遊び"パティンテロ"を通じて、負け組少女が威厳を持って立ち上がる姿を描いたもの。『シェルブールの雨傘』のジャック・ドゥミも真っ青な色彩設計、周星馳監督もビックリのケレン味など、見たことのない斬新なセンスに溢れたフィリピン映画」

 大阪はもちろん、現地にも行って見たい作品ですね。

 その大阪アジアン映画祭でイラン映画の「アトミック・ハート」に心を射抜かれたのは、海外を含む映画祭を回り歩き、監督、スターの写真やサイン、作品ごとの感想文も閉じこんだファイル作りを愛好する杉山照夫さんです。

 「大阪アジアンで久しぶりに上映されたイラン映画であり、一番の衝撃作だった。中上流社会に位置する2人の女性(アリネとノバ)はパーティを抜け出し車で家路を急ぐのだが、小さな交通事故をおこしてしまう。そこへ突然現れた紳士風の男がなぜか賠償金を用立て、執拗につきまとう。2人はこの男から逃げようとするが、なかなか逃れられない。男は別次元からきたのか、それとも悪魔の化身魔王”なのか。ラストは、男がノバを連れて異次元の世界に連れて行こうとして、ビルの屋上の縁に立つ。アリネが必死に抵抗し、じゃんけんに勝てば、男はノバをあきらめること、負ければ自分もビルから飛び降りることを約束する。アリネと魔王は5回戦のじゃんけんを行う。そして衝撃の結果は……。
ラストのじゃんけんが凄かった、まるで『第七の封印』の騎士と悪魔のチェス・シーンを想起させるほど壮絶である。アリネを演じるタラネ・アリシュスティが素晴らしい。彼女は『私は15歳』(02年)でロカルノ国際映画祭主演女優賞を受賞し、その後のアスガー・ファルファーディ監督初期作品のミューズを務めている。彼女の演技は、親族、友人の危機を救うために立ち向かい、その困難な背景に陥ったときの奮闘ぶりが感動的。次回、また彼女の奮闘ぶりを描いた映画に出会えることを楽しみにしている」

 3月の大阪でもサインを求める彼の姿が見られることでしょう。

 昨年の話題作「オマールの壁」を推すのは柴沼さんです。「多くの映画で迫害の対象となるユダヤ人が、パレスチナ問題では迫害する方に回る。歴史的な経緯は複雑で、門外漢が口を挟むことではないのだけど、結局、いつ、どんなのときでも人間の悪意というのがむきだしになっていることを明らかにしています。一人の平凡な青年の恋愛を通じて、権力に翻弄される庶民の哀しさというものを描いた傑作でした」

 抗争を単純化して描きがちなのも映画なら、複眼で見つめようとするのも映画です。同作品は間違いなく後者でしょう。

 さあ、いよいよベスト5の発表です。mikikoclaraさんは「侠女」を恋人へのラブレターのように語ります。

 「昨年より『楽日』や『黒衣の刺客』から遡り、胡金銓監督の作品を見始めたのですが、イギリスから『侠女』と『龍門客桟』のDVDを取り寄せて、すっかりのめり込みました。東京フィルメックスのスクリーンで見ることが出来たのは幸運でした。驚いたのは3時間という長丁場のドラマツルギーの維持の仕方です。宮廷の陰謀や伝奇物語を使ったストーリーの紡ぎ方と、カメラの位置や撮り方に無駄がなく、説明的な台詞なしにドラマツルギーを維持している。しかも、それが観客にとって素っ気ない作品になるのではなく、次は何が起こるんだろうとワクワクする気持ちを持たせてくれる。音楽や効果音も最小限で好感をもちました。その代わり、役者の目をアップにするなどフィジカルな言語を多用し、アクションもそういった身体表現の流れのひとつとして自然に馴染んでいます。ワイヤーもCGもある今のアクションに比べても、敵を倒すと息が上がる、など等身大の表現があることで、逆にアクションがリアルに感じられるのです。夜の場面や最後の光と音を通じての自然の描写と、POVの映像を組み合わせためまいがしそうな映像はスクリーンで見ることが出来て良かったです。胡金銓監督は、映画とは映像である、という一見自明なことを強く信じていたのだと思います。人間の生身の身体を使い、その生身感を損なわず、いかにフィルムランゲージを紡ぎだすか。そのことに全力を注ぎ、集大成がこの『侠女』ではないかと思います」

 そして4位は昨年もベストワンに挙げる人がいた「pk」。インド映画がベスト5に入りましたね。

 「実は前評判の高さに『ちょっと盛ってるんじゃない?』と危惧も抱いておりました」という勝又さん。「前作の『きっと、うまくいく』が素晴らしかったので、そうそう傑作が次から次へと 生まれるかしらと。しかしそれは杞憂でした。ラブストーリーあり、SFあり、人情あり、笑いあり。テンポがよく、音楽も素敵で見心地が良い。楽しく見ていく中で『神様は人間を守ってくれるもので、人間が守るものじゃない』という言葉にハッとさせられます。神の名のもとに様々な戒律を作り、それに従わない者を排除しようとするのは、他ならぬ人間がやっていることなのだ、と。この視点があるので、見終わった後も時々心のポケットから取り出して、宗教って何?と考えるときのヒントをもらった気がします。このチケット代に値するかな?と思う映画も多いけれど、これは間違いなくお値段以上の作品です」

 さあ、3位です。香港映画「小さな園の大きな奇跡」です。本コラムの第606回でエイドリアン・クワン監督にインタビューしました。香港で記録的なヒットになった理由を尋ねると「観客がわざわざ私のところにやってきて、劇場を出たときに心は愛でいっぱいになったと言ってくれました。その言葉が私を幸福にしてくれました」と涙を浮かべながら監督が答えてくれたことに驚かされました。信仰心に篤く、また涙もろい人柄は有名なようです。優しい心を持つだけでなく、5人の子役と丁寧に接し、涙を流すあの名演技を引き出した監督の粘りにも感心します。「この映画の成功のおかげで非常に勇気を得ました。こういう映画は決して香港映画界の中ではメインストリームではないことは承知していますが、人と違うことをするのは大事です。1週間後に撮影に入る予定の新作もこのような流れのものになります」と言っていた監督の次回作も楽しみです。

 そして2位は「山河ノスタルジア」です。昨年、日本映画ペンクラブ賞奨励賞を受賞した劉文兵さんは「ジャ・ジャンクー映画の品格を保ちながら、多くの観客の琴線に触れるメロドラマの傑作」と高い評価を与えます。東京フィルメックスの岡崎匡さんも「中国映画を観たことがないけど、いまの中国のことを知りたいという方に最初におすすめしたい1本です」とコメントします。

 とうとう1位を残すだけとなりました。2016年私のアジア映画ベストワンの中から選ばれたのは……「ゴッドスピード」でした。サイト「東亜電影速報」を主宰する坂口英明さんの力強い推奨の言葉を聞いてください。「もう一度観てみたい作品ということで、東京国際映画祭で観たこの作品を選びました。犯罪映画らしい描写とユーモラスなシーンの塩梅が絶妙でした。久しぶりのマイケル・ホイ、ラストに流れる『昴』もよかったです。劇場公開されたるといいなと思います」

 筆者も、登場人物を突き放したようにクールな筋書の中に放り込みながら、途方に暮れる彼らを愛情深く見つめる濃密な空間にしびれました。

 さあ、皆さん。今年もどこかでお会いし映画を熱く語り合いましょう【紀平重成】
 
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写真(クリックすると拡大)

  1. 「侠女」 =5位
  2. pk」 =4位
  3. 「小さな園の大きな奇跡」 =3位
  4. 「山河ノスタルジア」 =2位
  5. ゴッドスピード」 =1位

2017-01-14

第613回「16年私のアジア映画ベストワン」(1)

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 「銀幕閑話」恒例の新春企画「私のアジア映画ベストワン」を2回に分けて発表します。前回は初めて1位作品からご紹介しましたが、今回は元に戻って10位からの発表です。その栄誉を担う第10位は……東京国際映画祭でチケットの入手が困難を極めた「シェッド・スキン・パパ」です。

 「もとが舞台劇とは思えない奇想天外な設定のインパクトに驚きました」と話すのはブログ「こ〜んなまいにち」のgraceさんだ。「撃ちも撃たれも&殺しも殺されもしない呉鎮宇と古天樂という貴重な組み合わせ。最初は、親子役?と戸惑いますが2人の演技に笑わされたり泣かされたり。とても心に響く演技をされていて、思い出すたびに、ふと涙することがあります。突拍子も無いSF設定を借りながらも、父親と息子の軋轢や葛藤、そして親子愛…というところで、大好きな『月夜の願い』を思い出しました。世界的に今、老いをテーマに描く映画が増えている気がしますが『桃さんのしあわせ』につづく感動作として一般公開されればいいなと期待します。『小さな園の大きな奇跡』もそうでしたが、香港映画は、アクションやノワール、ラブコメもいいけれど、家族愛をテーマにした優しい映画だってまだまだ作られている、と安心した一作でした。その意味では飛行機で拝見した『幸運我是』もとても良かったでので日本で見られることを期待します。大阪アジアン映画祭さん、各地の映画祭さん、是非お願いします!」

 9位は韓国映画「弁護人」。映画評論家の中川洋吉さんが強く推しています。モデルは亡くなったノ・ムヒョン韓国大統領と言われますが、このような作品を今の日本は作れるのでしょうか。

 続いて8位は吉井さんらが挙げる台湾映画「太陽の子」が入りました。彼の弁を伺いましょう。「いわゆる少数者が自己を表象していくのは、簡単に見えてなかなか難しいことだと思うのですが、この映画ではそれがバランス良く作られていて、みずみずしい映像や印象的な出演者が作品を上手く支え、観ていて嫌みのない素敵な映画だなと思いました。私は中国の原住民先住民)について何か語れるほど知識もないし、そうした立場でもないわけですが、ここ数年中国四川省の彝(イ)族の取材をしていて、少数民族としての自分たちをどう位置づけ表現していくのかというような問題にも触れてきたので、『太陽の子』はそのあたり上手いなという印象も受けましたし、考えさせられもしました」

 そして7位は是枝裕和監督の「海よりもまだ深く」です。文筆家の宋莉淑(ソン・リスク)さんは「台風の夜に、偶然ひとつ屋根の下に集まった元家族が複雑な思いを抱えながら一夜を過ごすヒューマンドラマ。これまでに上映された是枝作品の中でも、脚本、演出、展開、映像、音楽、役者の演技とバランス良く、高質な作品に仕上がっていた。様々な視点から映画の魅力を浮かび上がらせ、監督のセンスを感じさせた作品」と熱く語ります。

 さらに6位は、まつもとようこさんらが挙げる「あなた、その川を渡らないで」がランクイン。「歳をとっても美しい韓服でおしゃれをして一緒に出かけたり、ふざけあって笑いころげる子どものような仲良しのおじいさんとおばあさんの表情が心に残っています。だから、おじいさんが亡くなったときの、残されたおばあさんの悲しみにくれる姿に胸を打たれました。ドキュメンタリーだと聞いて、あのおばあさんは立ち直れたのかしらと心配しています」と松本さんは気遣います。

 ここでランキング紹介を一旦離れ、ベストテンには入らなかった作品を推奨者のこだわりの弁と共にご紹介します。

 昨年は「激戦 ハート・オブ・ファイト」を選んだLucaさんが今回挙げたのは、東京国際映画祭で上映された香港・中国合作の「メコン大作戦」です。「最初から最後まで圧倒と怒濤のアクションてんこ盛り、時間を忘れさせ夢中になって観た最高の映画でした! 加えて、中国政府の規制や内容へのお約束があっても、ここまで面白く作れるんだと教えてくれた作品でもあります」

 続いて、えどがわわたるさんは、バンコクのシネコンで見たというインド映画「バージラオ・マスターニ」を選びました。「ゲリラ戦の実践者と語られている1700年代のインド・マラータ王国の宰相バージラーオ・バッラールを題材にした作品。何といっても、マサラ・ムービーの醍醐味といえるダンス・シーンの素晴らしさ、そして、衣装の豪華さは、まさに大きな銀幕で見るべき作品。第二夫人となるマスターニ役のディーピカー・パードゥコーンの美しさ、正妻役のプリヤンカ・チョープラー存在感も見所な作品でした」と2年連続でインド映画を選択。

 せんきちさんが挙げたのもIFFJ2016で上映されたインド映画「ボンベイ・ベルベット」。「本国インドでは評価が芳しくなく、興行成績も不振で、 いわゆる“ずっこけ超大作”になってしまった感のある本作ですが、どうしてどうして、登場人物の感情が 幾重にも複雑に絡み合う、男同士の愛憎映画でした。 なにより、カラン・ジョーハルにあの役を与えたのが すごすぎます。 いつか本国でも再評価される日が来ることを願いつつ、この作品を私のベストワンとしたいと思います」とインド映画愛を語ります。

 一方、インド暮らしが長くなったxiaogangさんはタミル映画「Visaranai」(尋問)を推す。「実話に基づく警察の横暴や腐敗が描かれていて、社会派的な視点から語られがちな映画ですが、政治と癒着した警官たちの駆け引きが東映実録映画のようにおもしろく、室内や夜のシーンの映像もすばらしく印象的。派手な人気スターは出ていませんが、南インドの渋いオジサマの魅力も堪能できます。日本でも映画祭などで上映されて然るべき作品ですが、Netflixで日本語字幕つきで観ることができます」

 いち早く現地に行くか、映画祭まで待つべきか、それともスマホやタブレットで動画配信サービスを楽しむか。映画を取り巻く環境の変化には驚かされます。

 ここで第1部が終了。“インターミッション”をはさみ、インド映画が上位に入るかどうかなど、注目のベスト5は「16年私のアジア映画ベストワン」の第2部(銀幕閑話 第614回)をご覧ください【紀平重成】

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  1. 「シェッド・スキン・パパ」=10位
  2. 「弁護人」=9位
  3. 「太陽の子」に出演した女性にインタビュー=8位
  4. 「海よりもまだ深く」=7位
  5. 「あなた、その川を渡らないで」=6位