吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

クレイジー・ハート

 試写会にて。またしても招待状を当ててくれたパープルローズさんと一緒に。毎度ありがとうございますm(_ _)m


 試写会の前に夕食。お腹が一杯になった時点で悪い予感がしていたけれど、やっぱり! 映画は巻頭、カントリーミュージックが流れる。ここで爆睡。ほとんど最初から寝てしまったが、ジェフ・ブリッジズがマギー・ギレンホールのインタビューを受けているところで目が覚めたから、まあ、大筋には影響なし(たぶん)。



 マギー・ギレンホールはサンタフェの地元紙記者ジーンであり、ドサ回りにやってきたカントリー・シンガーのジェフ・ブリッジズ=バッド・ブレイクにインタビューするうちに二人は親しくなる、というお話。バッド・ブレイクはかつてはスター歌手だったが、今は新曲もなく落ちぶれた57歳の一人者。かつての弟子が今やかれより遙かに出世してカントリー界のスーパースターだ。この弟子をコリン・ファレルが演じてて、彼もなかなか歌がうまい。弟子の前座を頼まれてプライドが傷つくバッドだが、高額のギャラに惹かれて断ることはできない。この弟子がまた実に義理堅い。師であるバッドへの敬意を忘れず、「俺のために曲を作ってほしい」と破格のギャラを申し出る。


 バッドはどうしようもなく身勝手な男で、離婚歴複数回。ヘビースモーカー、アルコール依存症、生活習慣病まっしぐらの毎日。そんな彼なのに、弟子は敬意を忘れないし、長年の友人は気遣ってくれるし、ジーンのような魅力的な女性が彼を愛してくれる。この映画には善人ばかりが登場するし、バッドは皆に愛されている。とはいえ、そのバッドの身勝手さをまた身近な人々は赦さない。



 60歳近い男の再生は可能なのか? その希望の道しるべだと思えた若いシングルマザーとの恋は、はかなく消えていくのか? カントリー・シンガーとしての再起はありえるのか?



 映画のテーマは極めてシンプル。シンプルだから、一見どうしようもないアル中男に見えるバッドに観客は感情移入してしまう。この恋がうまくいきますように。女好きのだらしない男のようだけれど、4歳の少年にパンを焼いてやったり、子ども好きのいいおじさんではないか。どうか、この恋がうまくいきますように。弟子の厚意で作曲も依頼されたし、頑張らねば。どうかうまくいきますように。



 いやしかし、そうそううまくはいきません。というのがこのお話なのだが、恋に波乱があって、バッドはなんとか酒を断とうと努力し、弟子のために作曲に励み……。人生はそうそう棄てたもんではないし、そうそう思い通りには行かない、という誰もが日々感じている感覚を暖かく切り取ったような物語には心がほっこりするやら切ないやら。

 身勝手な父親を簡単に息子は赦してくれない。そういうものなのだろう。



 本作でジェフ・ブリッジズはアカデミー賞主演男優賞を受賞しているが、熱演というよりはひょうひょうと演じているように見えた。それよりも、収穫はマギー・ギレンホール。これまでのどの作品よりも魅力的で、細かい心理の襞をよく演じきっていた。決してお金はかかっていない小品だけれど、しみじみする佳作。もう少しじっくりと描いてくればなおよかったが、上映時間がやや足りない感じ。あと15分伸ばしてバッドの苦しみやジーンとの心の交流を描けば、ラストがもっと感動的だった。

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CRAZY HEART
111分、アメリカ、2009
製作・監督・脚本: スコット・クーパー、製作総指揮: ジェフ・ブリッジスほか、原作: トーマス・コッブ、音楽: T=ボーン・バーネット、スティーヴン・ブルト
出演: ジェフ・ブリッジスマギー・ギレンホールロバート・デュヴァル、ライアン・ビンガム、コリン・ファレル