A Day In The Life

とあるプログラマの備忘録

アフォーダンスとシグニファイア

最近デザイン系の本を読んでいて「アフォーダンス」という言葉の使われ方が変わってきたなと感じています。
アフォーダンスはD・A・ノーマン氏の著書「誰のためのデザイン」がきっかけに広まった言葉で、もとはアメリカの知覚心理学者のJ・J・ギブソン氏が提唱した概念です。Wikiによると環境が動物に与える意味のことをアフォーダンスと呼ぶようです。私自身はユーザをとある操作に誘導するための重要な概念だなぐらいの認識でした。
最近ではデザイン系、なかでもユーザインターフェースについて書かれたの本やブログで当たり前のように出てきていうように感じます。
私がアフォーダンスという言葉の使われ方が変わったなと感じたのは先の「誰のためのデザイン」を書いたD・A・ノーマン氏の別の著書「複雑さと共に暮らす」を読んだ時です。その中でノーマン氏はアフォーダンスという言葉が一人歩きして本来の意味から離れて使われていることに言及しています。またアフォーダンスにかわる新たな概念としてシグニファイアを新たに提唱していました。以下その引用です。

デザインの用語では、シグニファイアはしばしばアフォーダンス、より正確には「知覚されたアフォーダンス」と呼ばれる。これは私が「誰のためのデザイン?」で紹介した用語なのだが、申し訳ないことに、実際のところ私の失敗だった。アフォーダンスはシグナルという言葉が持つよりもずっと深い意味を持っている。アフォーダンスは必ずしも知覚可能である必要はない。「シグニファイア」という用語を導入するのは、デザインの用語をより正確にするためである。

複雑さと共に暮らす ーー 2.社会的シグニファイア 100ページ

他にもアラン・クーパー氏の著書「About Face 3」では人工物から直感的に知覚する性質を単なるアフォーダンスと使い分けてマニュアルアフォーダンスと呼んでいました。About Face 3ではノーマン氏の「誰のためのデザイン?」を引き合いにアフォーダンスについて以下のように説明しています。

ドナルド・ノーマンは独創的な著書「The Design of Everyday Things」(「誰のためのデザイン?ー認知科学者のデザイン原論」野島久雄訳、1990年新曜社)の中で、アフォーダンスという用語を作り出した。彼は、この言葉を「ものの見かけ上の性質と本当の性質、特に、ものがどのように使えるかを決める根本的な性質を指す」と定義している。
ーー中略ーー
私たちの目的では、ノーマンの定義は大切なことを1つ省略している。それは、それらの性質が私たちに与えてくれるものをどのようにして知るかということだ。何かを見て、その使い方を理解したとき、つまり、アフォーダンスを理解した時には、もとの使い方の結びつきを作るために何らかの手段を使ったはずなのだ。
そこで、私たちはノーマンの定義から「と本当の性質」というところを省略することを提案したい。
ーー中略ーー
しかし、話を明確にするために、手でものを操作する方法についての、このような本能的な理解については、マニュアルアフォーダンスと呼ぶことにしよう。手や足に合うような人工物を見ると、私たちはそれを直接操作できるものだと理解し、説明を書いて示す必要はなくなる。

About Face 3 ーー 13.4 マニュアルアフォーダンス 287ページ

シグニファイア、マニュアルアフォーダンスともに言葉自体はあまり広まっているようには感じませんが、アフォーダンスを本来の意味できちんと使おうする動きは徐々に広まっているように思います。
例えばつい最近発売されたばかりのLukas Mathis氏の著書「インタフェースデザインの実践教室」でもアフォーダンスについて以下のように知覚可能なアフォーダンスと説明していました。

アフォーダンス(affodance)はもともと「環境が(人間を含む)動物に対して与える(affordする)意味」を指す言葉ですが、「人間にとって知覚可能なデザイン上の手がかり」の意味で使われる場合もあります。ドナルド・ノーマンは「複雑さと共に暮らすーデザインの挑戦」では、「知覚可能なデザイン上の手がかり」の意味では「シグニファイア(signifier)」という言葉を使い、曖昧な使われ方をしている「アフォーダンス」という言葉は避けた方がよいとしています。この本では「アフォーダンス」という言葉を用いますが、曖昧にならないよう「知覚可能なアフォーダンス」などと記述します。

インタフェースデザインの実践教室 ーー 9.5.7 指針その7ーアフォーダンス 78ページ

上記のシグニファイア、マニュアルアフォーダンス、知覚可能なアフォーダンス、これらの意味はかなり近いと思います。同じと考えても良さそうです。シグニファイアとアフォーダンスの関係を図にすると以下のようになると思います。

アフォーダンスとシグニファイアの関係

私自身は後藤武氏、佐々木正人氏、深澤直人氏の著書「デザインの生態学」を読んだ時にはじめて知ったくちで、何となくわかった気になって文章を読んだり使っていました。アフォーダンスとシグニファイア意識して使いたいなと思いました。

参考書籍

この記事で紹介した本を出版順に時系列に並べると以下のようになります。