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ぼくは死にかけてるの、だんなさん?

2017-09-08

或いは九滴の雨水のこと

「こんな毛羽立つ空気のなかでどうしろと云うんだ」と云って目を覚ます。毛羽立つ空気…毛羽立つ…とぶつぶつ反芻しながら水を飲みに真っ暗な台所へ下りていくとなにか小さなものが足元を横切った。乳白色の空気のかたまり、そう、冬に吐く白い息のような。ぎょっとして電灯をつけるもそこにはなにもない。暫し呆然として、なんだかわからないけど水素(むかし同居していたねずみ)のようだった、と思い、それでいいか、と納得する。まあ雨上がりの真夜中だし、と。

毛羽立つ空気の夢をみたのは頭の電源が落ちる直前まで隣人たちと話していたためだろう。今日は珍しく三人揃っていた。此の世の人間は泳ぐひとと潜るひとに大別できるんじゃないか、という議題で半時間。知人や友人の名をあげて「彼女は完全に泳ぐ人だな」「彼は浅く潜る人だよね」「いやあの人は溺れる人だ」などと好き勝手云いあう。私は潜る人だな、と自己分析をしたら雨屋に「てめえはたまに溺れんだろ」と嘲笑された。「そんなだからおまえには友達がいないんだ」「てめえもたいしていねえだろうが」。殺気立つ我々を見兼ねた眠りの神が私を半ば強制的に夢の世界へと連れこみ、息子たちに「何かソフトなものをみせてやりなさい」とかなんとか云った結果、殺気が毛羽に落ち着いたのかもしれない。

ひと眠りして起きたらまた随分と涼しくなっている。体がどうにかなりそうだ。昼食は母のねぎ天うどん。ざく切りにした東京ねぎに衣をまぶして揚げたものをうどんにのっけただけの豪快かつお手軽なごはんなのだけど、これがとてもおいしい。一人前五十円くらいでつくれるのがまたよい、と母と厳かに頷き合いながら食す。腹ごなしに水回りの掃除をし、ついでに自室の掃除もする。書き殴りの紙がソファの上ではたはたと踊るのを若干ヒき気味に眺めたのち、まとめて屑籠にポイ(判読不可だった)。洗濯機に様々な布類を任せている間ぼんやりとねずみたちのことを思う。庭の松の下には金魚とねずみと墜落した鳥と、その他いろいろの生きものが眠っている。生きものでないものも眠っている。私のなかでお墓とは、だから、うちの松の木の下のその一か所を指す。これが桜ならまたちょっと違った意味合いになってくるのだろうけど、松の木だからいいのだ。あれにあやしさを孕む余地はない。

夕食の主な食材が豚ばら肉と知りあわわ、となる。好んで食べない、というか積極的に避けている食材だと献立が思いつかないので(肉の脂身や皮がどうしてもだめ)クックパッドのお世話になり、簡単で失敗のなさそうなものをひとつ選んだ。豚ばらで水菜を巻いて揚げる、というもの。昼も揚げものだったな…と思いつつじゅうじゅう揚げる。それに水菜のサラダと出汁巻き(これは私の好物)、しらすを出してすみやかに食べた。豚ばらのやつは母が平らげてくれたのでほっとした。何度挑んでも食べる苦痛を克服できない食材というのはある。

夜にすこし具合が悪くなり椅子にダラリのびていると旧友から着信が。私以上に具合悪そうで気の毒になる。なにもできないので私付きの睡魔に今夜は彼女のところへ行って跡部くんの夢をみせてやってくれないか、と頼む。睡魔は真顔で「夢をみせるのは俺の仕事じゃないから」と云った。「できることなら叶えてやりたいけどね」普段好き勝手しているようにみえる睡魔にも一応の制約はあるらしい。すごすごと寝台に移り、痛み始めた頭を枕におしつけすばやく寝る。
が、しばらくして目が覚める。頭痛がひどくなっている。ふと横を見ると九鵺がソファにのびていて、「この本、ひょっとしてあんまり面白くないのではないかな」と開いた文庫で自分の顔を扇いでいる。それは扇子じゃないぞ、と云うと、「装丁が派手だから扇子にするのにうってつけと思うのだけど」顔はみえないが余程不機嫌とみえる。仕方がないのでギンズバーグバロウズの麻薬書簡を出してやったら満足げに頷き静かになった。私の頭もやや静かになった。

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