“エガちゃん”

Y女史の上司でオレの後輩であるⅠという男は下駄のような顔の輪郭で、下駄の鼻緒のような眉毛をして、下駄の木目のような荒れた肌をした、なんだかもう下駄の付喪神のような男だ。あだ名は「エガちゃん」。江頭2:50にも似ているからだ。しかも江頭2:50みたいに時たま事務所の隅でクルクル回っている。この時の彼には幾らオレでも怖くて近寄れない。
オレは朝、机についてる彼の背後に忍び寄って、取り合えず脇バラに一発ニーキックを入れる。それがオレのⅠへの朝の挨拶ということになっていて、Ⅰは痛みに机にうずくまりながらも「おはようございます…」と挨拶を返す。そしてオレのほうも「ああ、おはよう」とかいいながらもう一発ニーキックを入れてあげる。オレは礼儀正しいほうなのだ。
お昼休みは暇をもてあますと、菓子パンなんぞもしゃもしゃ食っている彼のところに行って、彼の食生活がいかに誤っているかをとうとうと説明してあげる。そもそも彼は夕飯がゆで卵だけ、とか素うどんだけ、とか言う男で、そのせいか強制収容所からに脱走してきたばかりのような痩せさらばえた貧相な体躯をしているのだ。そしてオレが説明してあげている間中、この「エガちゃん」は「ぐへへ」と笑っているのである。
そんなエガちゃんであるが、彼はオレと同じくテクノミュージック好きだ。特にジェフ・ミルズが大のお気に入りだと言う。彼はたまにオレとクラブに行っては踊り狂う。
実は一応仲良しなのである。