《マスターズ・オブ・ホラー!⑧》ジョー・ダンテ篇 

『マスターズ・オブ・ホラーDVD-BOX Vol.2』のレビュー4回目、最後は『グレムリン』『インナースペース』などの娯楽作品でも人気のあるジョー・ダンテです。

■ゾンビの帰郷 監督:ジョー・ダンテ (ハウリンググレムリン

目も鮮やかな星条旗が掛けられたいくつもの棺桶。それがごそごそと動き出し、現れたのは兵士の制服を着たゾンビたち…。例によってゾンビ物なのだが、この『ゾンビの帰郷』、一捻りも二捻りもしてあるゾンビ物に仕上がっている。今回のゾンビは湾岸戦争で命を落とした兵隊だけがゾンビ化するのだが、彼等は人を襲ったり喰らい付いたりしない。それだけではなく言葉を話し感情があるようにさえ見える。実は彼等が墓から甦ったのにはある目的があって…という所が今回の作品のミソ。その目的と言うのが湾岸戦争とそれを指揮したアメリカ政府への痛烈な批判行為となっている所が面白い。怪奇小説の古典『猿の手』を『911』のマイケル・ムーアが映画化したらこんな作品になるかもしれない。そういった意味ではホラーというよりもブラックユーモア作品と言う事も出来る。雨に濡れ凍えるゾンビを店の中に招き入れて、亡くした息子は君ぐらいの歳だった…と語りはじめる食堂の親父のシーンは感動的であるが笑える場面でもある。そして大胆なクライマックスと痛烈なラストのショットがまたいい!この皮肉の効いた物語と抜けのいい演出で今作はマスターズ・オブ・ホラー・アンソロジーの中でも抜きん出た完成度と言っていいだろう。主人公の大統領選宣伝担当の男とその同僚のビッチな女も味のある演技で好印象だ。広く見渡してみるとジョー・ダンテ映画の作風は良くも悪くもオモチャっぽい所にあるだろう。そしてそれがチープでコミカルな味を生み出し、映画を賑わせる。この作品『ゾンビの帰郷』ではオモチャ的なガジェットはないにしろ、奇妙なユーモアは健在だ。