ツールボックス・マーダー

タイトルは直訳すると「工具入れ殺人鬼」ということにでもなるのだろうか、物を作る大工道具で人の体を破壊しまくるというという、間違ったことが大好きな殺人鬼の活躍するホラー映画である。監督はトビー・フーパー。ハリウッド郊外に建つ老朽アパートメントを舞台に、そこの住人達が密室の中で一人一人ブチ殺されてゆくというお話なのだが、最初はよくあるスラッシャームービーだと思っていたら、老朽アパートメントにまつわるオカルティックな秘密が関わってきて、物語は思わぬ方向へと展開してゆく。まあこの秘密自体は予想の範囲内で、驚くべきものというほどでもないのだが、単なるスラッシャーで終わらせない意気込みはそれなりに伝わってくる。だってトビー・フーパーなんだから!
ただそんな物語よりも目を惹いたのは、映画全体の陰気さだろう。登場人物たちは既にもう死せる運命が決まっているかのように暗く貧相な顔をしているし、舞台のアパートメントも老朽化に加えて改築工事中の殺伐とし雑然とした雰囲気が漂っていて気を滅入らせる。しかしよく考えると、この”貧相な人々”が”辛気臭い場所”で”不幸な目にあう”という、負のスパイラルとでも言いたくなるようなシチュエーションって、実はこの現実というものの惨めさそのものなのではないか。勿論現実には工具箱を持った殺人鬼はそうそう現れないが、それを事故や揉め事や疾病などの嫌らしいメタファーだと見るのなら、それは常に日常の中に偏在する姿なのだと言えなくはないか。
だいたい主人公の夫婦は新婚だっていうのにあんなボロアパート住んでるし、隣の住人でギターで騒音出してるパンク娘はDVに遭ってるし、ネットカメラで「美しくなった私を見て」とかやってるネーチャンとかいるし、そのネーチャンのカメラをハッキングして覗きをやってるエロ少年までいるし、この映画の登場人物はどうにもしみったれた日常をしこしこと生きている人たちばかりなのだ。
でもそんなこと言ってるこのオレのしょーもない日常も、実の所あれらのしみったれ具合と大差無いのである。まあ要するに、この現実世界も日常も、トビー・フーパーのグダグダなホラー映画と大して違わないじゃねえか、殺人鬼なんかはいないけれど、得体の知れない不安や欲求不満に苛まれながら生きてる所は一緒じゃねえか、なあんてことを思いながらこの映画を観ていたオレであった。

シー・ノー・イーヴル/肉鉤のいけにえ

軽犯罪で服役しているワカモノ達が、減刑の為に廃ビルになったホテルの清掃ボランティアに行くんだが、そこには肉鉤を巧みに操る技巧派の殺人鬼がいて、ワカモノたちはお約束のように一人また一人と血塗れの肉塊へと変えられていく、というホラー映画である。この殺人鬼と軽犯罪者の監視員とはある因縁があり、さらにこのホテルに来たこともある計略によるものだった…という、割と練られたシナリオであるが、どうもイマイチ盛り上がりに欠ける映画ではあった。
まず、軽犯罪者のワカモノというのが、ドスケベそうな女とバカそうな男という、別にキャンプで来たワカモノでも全然構わなかったじゃないかと思わせるキャラばかりで、設定がたいして生かされていない。殺人鬼が早い時期に顔も全身も見せちゃって、これがまた単なる図体のデカイだけのおっさんで、どうにも禍々しさに欠ける。それと殺人鬼が殺人を犯すきっかけとなったのが幼少時のトラウマが云々、キリスト教原理主義の親が云々、という実に陳腐な説明が付いている。これらがこの映画をつまらなくしている要因だと思われる。
例えばもっと凶悪な犯罪者が殺され役で、殺人鬼とタイマン張りながらもやっぱり惨たらしく殺されてゆくとか、殺人鬼も動機だの理由なんぞ無くていいから最後まで得体の知れない化物みたいなヤツだったほうが良かったんじゃないか。だいたいトラウマを物事の理由にするっていう俗流心理分析みたいなのがオレはどうも嫌いなんだよ。どんな過去持ってても立派になる奴は立派になるし、駄目になる奴は駄目になるんだ。理由、なんかじゃなくてそいつの持っている意思の問題だよ。そしてその意思さえ無効にされてしまう、というのが”運命”というやつで、ドラマというのはそのままならない”運命”を描くから人の心を打つんじゃないのか。なんか話が逸れたけど。
結局昨今のホラー映画もプロットで見せるか残虐度を上げるかどっちかしかなくなってきている状態で、その点この映画は、どちらも中途半端に仕上がってしまっているな。細かな部分で物語の帳尻を合わせる努力はしているが、逆にその破綻の無さが無難なだけの作りにしてしまったのかもしれない。

レストストップ・デッドアヘッド

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車で駆け落ちしたカップルが、何処とも知れぬ場所に彷徨いこみ、途中下車したレストハウスで男は拉致られ女は得体の知れない黄色いトラックの男に追い掛け回される。いわゆるアメリカド田舎スラッシャームービーの亜流かと思ったら、なんだか訳の分からないキチガイ一家だの幽霊?だのが現れて物語は変な方向へ。まあ要するにかなりナニな映画であったが、それにしても映画全編にわたって公衆便所の女子トイレが舞台というのも随分としょぼ過ぎないか!?女子トイレに篭ったヒロインの攻防戦ってどうなのよ!映画だから臭いがしない分よかったがな!便所ホラーということではトイレの花子さんと甲乙付け難い、というか、付けたくもない映画であった!人気TVシリーズ『X-FILE』を手掛けた事もある監督と聞いて観てみたが、『X-FILE』同様の”なんだか曖昧さの残る物語”はここでは功を奏さなかったようだ。