その名はポン

ある日のことだ。職場から他支店の同僚に電話したところ、取り次がれたその同僚がオレの声を聞いて「あ、なんだフモさんだったのか」などと言っている。当然オレは自分の名を名乗って取り次いでもらったのだが、どうも最初に電話を受けたのが会社の新人の女の子らしくて、オレの名前を聞き間違ってその同僚に取り次いだのらしい。
「え、じゃあ、なんていう名前で取り次がれたの?」「いやー、最初、”ポンさんからお電話です”って言われたんですよ」と同僚。なんだいオレは”ポンさん”だったのかよ!?実はオレは東南アジア中心の貿易関係の職場に勤めているので、”ポンさん”なんて名前が出てきても誰も不思議がらないのだ。しかしポンさんかよ…。
というわけでその場でオレは「タイ出身の怪しい輸出入商、ポンジット・スチャラカチャーン、通称ポンさん」というキャラをでっちあげ、同僚と一緒に「ゲームやアニメキャラのバッタもん中心に商売している」「最近の売れ線は”ビガジュウ”と”マッケイマウス”」「”ビガジュウ可愛いよ!お前買いなさい!”が口癖」などとポンさんのキャラ造型を捏造し、仕事そっちのけでぎゃははと笑っていたのである。
そして調子に乗ったオレは他の同僚と話す時も「オレ今日からポンさんだから!」などと訳の分からないことを吹聴して周り、例の取り次いだ新人女子がまた電話に出たら、今度は片言で「ワタシポンデス!」と言ってやろう、などと腹黒い計略に心震わせていたのだ。
そして暫くたってからだ。オレが”ポンさん改名”の冗談を伝えた同僚達から、次から次へと「ポンさん宛」と書かれたFAXが届くではないか。社内便にまで「ポンさん」と書いていやがる。全くアホかっちゅーねん。そこまでやれと誰が言ったっちゅーねん。
こうしてオレは自分のことはすっかり棚に上げ、会社の同僚達のアホ振りにほとほと呆れ果てていたというわけなのであった。

夢の中

ワインも効いていい気分になっていたら、スピーカーからオレの大好きなソウル・ミュージックが流れてきた。
オレは彼女の手をとって立ち上がると、鼻歌交じりに踊り始める。
「好きな子と好きな曲で、こんなふうに踊るのが夢だったんだよ」とオレは彼女に呟く。
「なんだかハルキ小説みたいね」クスッと笑う彼女。
あ、ハルキだったのか。
ダンス・ダンス・ダンス

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