それはスダレだった!

今ワカモノなオトコの子たちの間では瞼を隠さんばかりに前髪を垂らした「スダレヘアー」が流行っているようである。スダレの間からチラチラと現実を垣間見るが如きニヒルな雰囲気がいいのであろうか。髪の毛が目に入ると邪魔臭くてイラつくオレには絶対無理な髪型である。実際の所オレも前髪は長いほうではあるが、整髪料でガシガシに固め常におでこが出ている状態にしているんである。
さて、オレの職場の I 君がこのスダレヘアーの持ち主なのである。持ち主という言い方も変だが、兎に角あの髪型なんである。ワカモノのファッションにジジイが口出すのは野暮であろうとは思うが、オレは I 君に時々、それって前見えるのか?なんて訊いたりして五月蝿がられていたんである。やっぱり野暮なジジイなんである。しかし、野暮なジジイはオレだけではなかったらしく、 I 君のその髪型は彼の上司から注意を受け、ある日を境に I 君はスダレヘアーに髪留め、いわゆるパッチンというやつを留め、目に掛からないようにして仕事をすることになったのである。
う〜む、スダレヘアーはまだしも、パッチンもアリなのか。ここでオレの闘志がフツフツと湧いてきたのである。スダレヘアーはちょっと出来ないオレではあるが、パッチンで留めたスダレヘアーなら対抗できる、と思ったんである。若いヤツになんか負けて堪るもんかべらぼうめ!と思ったんである。
というわけでこの間、仕事をしている I 君の机に後ろから忍び寄り、「おい I 君。そのパッチンをオレにも貸してみやがれ」と耳元で呟いたオレなんである。そして「え?え?え?」とか訳が分からず当惑していた I 君の前髪からオレはパッチンをおもむろに取り上げ、この時のためにだらんと垂らして瞼を覆わせていた前髪にそのパッチンを装着したのである。
そう、その時オレはスダレヘアーにパッチンを噛ませたナウなヤングに生まれ変わったのだ。オレは今、夢にまで見た(見てないけど)スダレヘアー(含むパッチン)の覇者としてこの下界に降りてきたのである。どうだ、皆このオレ様のファッショナブルなスダレにひれ伏すがいいさ!
そう思い得意げに事務所を見回すと、前の席にいた女子社員に冷たく一言、「気持ち悪い」とマジ声で言われたオレである。やはり、現実の壁はどこまでも厚く、そしてジジイの仄かな憧れは、砂のように崩れ落ちて行く運命にあったのであった。ああ、かくも世は無情に満ちているのである。
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それは入れ歯だった!?

会社でドンキホーテ格安インスタントコーヒーの香りを楽しみながら部下に「この書類をシュレッダーにかけてくれたまえ」などと優雅に仕事に勤しんでいた時の事である。電話が鳴り同僚がそれに出ると「入れ歯!?入れ歯!?」などと連呼しているではないか。冗談好きの同僚が電話先の相手の言葉をわざと聞き間違って応答してるのかと思っていたら、「何、バス停に忘れた!?え!?ロッカー!?」などと話しがどんどん膨らんでいる。なんじゃろかいな、と聞いていたら、どうも冗談でもなんでもなく、軽作業をする為会社に通っているとあるおじいちゃんが、本当に自分の入れ歯をロッカーに忘れ、取りに戻るから少し遅くなる、という電話だったらしい。「いやー、あのおじいちゃん、時々トイレにも入れ歯忘れてくことがあるんだよー」と同僚。しかしそれにしても、入れ歯を忘れたのがロッカーとは…。ちなみにそのおじいちゃん、あとから聞いた所によると、「歯医者に行ったら入れ歯してない事に気付いた」との事。
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