【海外アニメを観よう・その5】動く油絵『春の目覚め』

■春の目覚め (監督:アレクサンドル・ペトロフ 2006年ロシア映画)

春のめざめ [DVD]

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19世紀末、ロシアのとある町。16歳になるアントンは、ツルゲーネフの『初恋』を読み、女主人公ジナイーダに夢中になり、自分自身の恋を夢見て想像を膨らませていきます。そんなアントンに彼の家に住み込みで働く少女パーシャが思いを寄せていました。彼女は貧乏な孤児でしたが、可憐で愛らしく献身的にアントンに尽くします。アントンは「彼女となら身分の差を越えた本物の恋ができるかもしれない」と想像を逞しくする一方で、隣の家に住む25才の令嬢セラフィーマに出会い、恋をします。「彼女はまさに女神だ!」と。こうして彼は年齢も境遇も違う2人の女性に向かって、性急に行動を起こします。身の回りの大人たちの俗物さを尻目に見ながら、恋愛とは神聖なものだと信じるアントン。しかし、思春期の少年が初めてする恋は、無鉄砲で身勝手。本人の真剣さとは裏腹に浅はかで危なっかしい行動がやがて様々な事件や悲劇を引き起こしていきます。そして、二人の女性の現実の姿に触れたとき・・・。アントンは、初恋を通じて“聖”と“俗”が入り混じる現実の大人の愛を体験するのです。

油絵が動くアニメーション!最初は「いくらなんでも油絵でアニメってことはないでしょ?油絵風のエフェクトをつけたアニメってことじゃないの?」と思って観てみたんですが、いやこれが本当に油絵の動くアニメーションだったからびっくりしました。調べてみると、こんな具合に製作されているんですね。

ペトロフ監督が絵を描くのは、撮影台に置かれ、下から白いフィルターを通した光を当てて白いキャンバスのようになったガラス板です。そこへ監督は指を使って絵を描きます。筆や布も使うときもありますが、基本的に指先でガラスをなでるようにキャラクターや風景を描いていくのです。油絵の具は他の素材に比べて絵の具の乾きが遅く、一度描いた描写も絵の具を拭えば消し去ることも描き直すこともできます。この特性を生かし、ペトロフ監督は絵に変化を生じさせ、動きを生み出すのです。(『春のめざめ』公式サイトより)

油絵で一枚の絵を描くだけでも大変だろうにそれをアニメーションさせるとは…。そしてそれがまた詩情の溢れる非常に美しい出来上がりなので驚かされます。確かに、ミュージック・ビデオなどでこの手法のものを観たことはありますが、1本の中編アニメ作品として完成させるのは並大抵のことではないでしょう(実際は27分の長さの作品になっています。↓のビデオで全篇視聴できます)。
油絵独特の奥深い色彩で描かれた画像が躍る映像はそれだけでも目を見張りますが、この手法ならではのうねうねと蠢く描線、描かれている人物や物や背景の絵が混ぜ合わされ、融合し、また別の画像へと生まれ変わり動き始めるさまなどは、観ていてただただ感心してしまいます。
舞台となる帝制ロシア末期の、貴族社会のノスタルジックさと優雅さが同居する風俗もまた目を楽しませます。そして主人公の少年の淡い恋心と性への目覚めを描いた物語は、油絵の濃厚な色彩と陰影が蠢く映像描写により、なお一層官能的なものとして描かれてゆくのです。
http://video.google.com/videoplay?docid=-8806222576169789099:MOVIE