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メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

20120309(Fri)

[]壮大なる謎の都市群〜コミック『闇の国々』 壮大なる謎の都市群〜コミック『闇の国々』を含むブックマーク 壮大なる謎の都市群〜コミック『闇の国々』のブックマークコメント

■闇の国々 / ブノワ・ペータース, フランソワ・スクイテン

闇の国々 (ShoPro Books)

〈闇の国々〉――それは、我々の現実世界と紙一重の次元にある謎の都市群。 ある日突然増殖しはじめた謎の立方体に翻弄される人々を描く『狂騒のユルビカンド』、 巨大な塔の秘密をめぐる冒険から、数奇な運命へと導かれる男を描く『塔』、 未知の天文現象により、体が斜めに傾いてしまった少女の半生を描く『傾いた少女』、 傑作と名高い選りすぐりの3作品を収録した歴史的名作シリーズの初邦訳。 メビウス、エンキ・ビラルと並び、BD界の三大巨匠と称されるスクイテンが、ついに日本上陸。 繊細な描線、計算されつくされた構図、あらゆる芸術のエッセンスを詰め込んだBD芸術の真骨頂!

ブノワ・ペータース&フランソワ・スクイテンのコミック『闇の国々』は、いつともどことも知れぬ架空の世界を覆う壮大なる巨大都市群そのものが主人公となった幻想物語である。スクイテンの描く都市の姿は細微であり硬質であり、中世の銅版画のように暗く冷たく陰鬱な様相を呈しており、ペータースの紡ぐ物語はカフカ的な不条理とボルヘス的な迷宮世界を表出させる。ここで描かれる都市はアール・ヌーヴォーやアール・デコが発狂したかのような偏執的な重層構造を持ち、ジュール・ベルヌとレオナルド・ダ・ヴィンチとブリューゲルが悪夢の中で描いたかのようなレトロ・フューチャーと寓話的古典主義が坩堝となって混在する。ここに登場する人々は都市にかしずき都市に奉仕し、そして都市に翻弄され都市に飲み込まれる形でしか存在しない。

バンドデシネ『闇の国々』はブノワ・ペータースとフランソワ・スクイテンにより1982年より描かれている連作コミックで、現在12編の物語が描かれ、その他にも番外編となる関連著作やDVDが発表されている。今回日本で発売された『闇の国々』にはその中から傑作と名高い『狂騒のユルビカンド』、『塔』、『傾いた少女』の3作が訳出され単行本に納められている。これらは独立した物語であり、舞台も時代も登場人物も異なるが、さらに言えばそれぞれの存在する次元さえ違うということが出来る。『闇の都市』の物語は異次元の都市の夢なのだ。

ではそれぞれの作品を紹介。『狂騒のユルビカンド』は巨大都市ユルビカントに突如現れた謎の格子状立方体が巻き起こす混乱と狂騒を描く。工事現場で発見され、最初机に乗る程度の大きさだった格子状立方体は、次第にその大きさを増し、格子の数とその寸法を増大させながら、終いには都市ユルビカントそのものを飲み込んでしまう。しかし当初の混乱の後ユルビカント市民たちはこの格子状立方体を互いが行き来する橋代わりに使用し始める…といった物語。川を挟んで二つに分断されていた都市ユルビカントが格子状立方体の登場により交流が始まる、という内容は、ベルリンの壁崩壊やインターネット登場による情報のグローバル化を暗喩しているのかもしれない。しかし成長を止めない格子状立方体が迎えるその終末は、気の遠くなるような壮大さに満ちている。

『塔』はいつの時代から存在するのか定かではない建造物"塔"の保守担当の男が、"塔"の真実の姿を確かめるために旅に出る、という物語。最初"塔"から下降し、そしてまた"塔"の最上層部を目指す、という旅路の中から徐々に明らかになっていく都市の全貌。これなどは勘のいい読者なら「バベルの塔」の物語だとすぐ気付くだろうが、旅路の果てに主人公が見た光景と驚愕のラストに度肝を抜かれる。また、この物語は在命中のオーソン・ウェルズが主人公のモデルとなる為に作品協力しており、この作品自体がオーソン・ウェルズ最後の作品であるということもできる。

『傾いた少女』はある日突然地球の重力を無視して"傾いて立つ"ことしか出来なくなってしまった少女の数奇な運命を描く。おりしも地球には謎の妖星が接近しており、妖星探検のために建造されたジュール・ベルヌ式砲弾型宇宙船に密かに乗り込んだ少女は、降り立った未知の星で彼女が"傾いて立つ"こととなった理由を知る…というミステリアスかつロマン溢れる物語。物語には写真のパートも用意され、グラフィックと写真映像のせめぎあいは、現実と虚構の境界を曖昧にし、そしてそれ自体が物語のテーマともなっている。また、ジュール・ベルヌが実名で登場しているところも面白い。

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