今年面白かったコミック・バンドデシネ総集編!

今週は今年面白かった様々なものを紹介しています。今日は【コミック篇】。

●KABA2、GENGA - OTOMO KATSUHIRO ORIGINAL PICTURES / 大友克洋

OTOMO KATSUHIRO ARTWORK KABA2

OTOMO KATSUHIRO ARTWORK KABA2

GENGA - OTOMO KATSUHIRO ORIGINAL PICTURES -

GENGA - OTOMO KATSUHIRO ORIGINAL PICTURES -

大友克洋のアートワーク集『KABA2』、そして今年公開された大友克洋GENGA展の公式図録『GENGA - OTOMO KATSUHIRO ORIGINAL PICTURES』、この2冊はコミックではないのですが、日本のみならず世界を代表するコミック・アーチストとなった大友克洋の、その集大成ともいえるアートワーク集が2作連続で見ることができた、といった意味で今年は画期的な年だったですね。
レヴュー:大友克洋のイラスト集『KABA2』を買ってきた 【大友克洋GENGA展】の公式図録〜『GENGA - OTOMO KATSUHIRO ORIGINAL PICTURES』

●エデナの世界 / メビウス

エデナの世界

エデナの世界

今年はなにしろバンドデシネをよく読んだ年でした。そしてそのバンドデシネ界の神と呼ばれ、ハリウッド映画や日本のコミック界にも多大なる影響を与えたメビウスが亡くなられた年でもありました。いまこうして日本でバンドデシネ作品が多数訳出され、読むことができるのもメビウス人気が牽引したものであることは間違いありません。メビウスの新しい作品が描かれることはもうなかったとしても、まだ日本で未発表のメビウス作品が訳出されるの可能性はあるでしょうし、そしてバンドデシネというメビウスの残した遺産がこれからも多くの人の目に触れる機会はさらに増えていくでしょう。亡くなられたのは非常に残念なことではありますが、メビウスのそのスピリットは、永遠に残り続け、語り継がれていくことでしょう。
レヴュー:エデナの世界 / メビウス

●MONSTER モンスター(完全版) / エンキ・ビラル

メビウスと並びバンドデシネ界の鬼才と謳われたエンキ・ビラルですが、これまでその作品の内容は翻訳が遅れたこともあってなかなか掴む事ができないものでした。そして満を持して訳出されたエンキ・ビラルの代表作『MONSTER モンスター』の登場により、ユーゴ紛争を背景とするその異様で幻想的なSF世界の全貌を目の当たりにすることができるようになったのです。決して読み易い作品ではないのですが、その独特の冷え冷えとした世界観、苛烈な死生観には必ず魅了されれるはずです。
レヴュー:MONSTER モンスター(完全版) / エンキ・ビラル

闇の国々 I,II / ブノワ・ペータース、フランソワ・スクイテン

闇の国々 (ShoPro Books)

闇の国々 (ShoPro Books)

闇の国々II (ShoPro Books)

闇の国々II (ShoPro Books)

今年読んだバンドデシネの中でも質・量・そして価格とも重量級中の重量級の作品、それがこの『闇の国々』です。パラノイアックなまでに精緻に描かれた幻想の都市群の姿は、それ自体が物語の主人公であり、そしてそこで生きる人々はただただ都市に翻弄されてゆくだけなのです。都市の持つマニエリスムとペダンチズムが都市を非現実の世界へと変転させる瞬間を描く『闇の世界』の作品群は、バンドデシネ作品というものが有する壮烈なポテンシャルを感じさせずにはいられません。
レヴュー:壮大なる謎の都市群〜コミック『闇の国々』 幻想都市のペダンチズム――『闇の国々II』

●ムチャチョ―ある少年の革命 / エマニュエル・ルパージュ

ムチャチョ (EURO MANGA COLLECTION)

ムチャチョ (EURO MANGA COLLECTION)

この『ムチャチョ―ある少年の革命』は、独裁政権下にあった中米ニカラグアの辺鄙な村に赴任した一人の修道士の少年が、革命と関わることで世界の諸相を知ってゆくという成長物語です。なにしろ水彩画で描かれたグラフィックのクオリティの高さが凄まじいのです。その一コマ一コマが完成した一枚絵となっており、そこで描かれる人々の息遣いが感じられるほどの圧倒的なリアリティを持ち、そして画面に踊る様々な自然の描写はその息吹が伝わってくるような瑞々しい美しさを誇っています。グラフィックにしみじみと魅せられた作品でした。
美しいグラフィックで描かれる革命の物語〜『ムチャチョ―ある少年の革命』

●サルヴァトール / ニコラ・ド・クレシー

サルヴァトール (ShoPro Books)

サルヴァトール (ShoPro Books)

日本にバンドデシネを紹介するために様々な名作が邦訳されてきましたが、それが徐々に定着するにつれ、小品でも味わい深い作品もだんだんと翻訳されてきていることが嬉しいですね。ニコラ・ド・クレシーは最初に日本で紹介された『天空のビバンドム』があまりにも衝撃的な作品でしたが、こまっしゃれた犬クンが主人公のこの『サルヴァトール』はそれに比べとてもユーモラスな上にチャーミングで、ド・クレシーの別の面を発見できるという意味でとても味わい深い作品でした。素敵!
レヴュー:可愛ら憎たらしい犬くんが主人公のロード・コミック〜『サルヴァトール』

●Habibi / クレイグ・トンプソン

Habibi I [日本語版]

Habibi I [日本語版]

Habibi II [日本語版]

Habibi II [日本語版]

バンドデシネ作品というものが有する壮烈なポテンシャル」においてはこの『Habibi』もその奥深さと凄みにおいて他のバンドデシネ作品にまったく引けをとらない名作であり問題作です。過酷な自然環境と人の生命や人権が一切顧みられないアラブ世界のどこかで繰り広げられる、一組の男女の愛と生を巡るあまりにも鮮烈なこの物語は、その物語性と併せ作中に挟まれる膨大な量のイスラムの教えや数秘術と神秘学の図説が、作品に異様なまでの崇高さと幻想味を持たせているのです。我々が慣れ親しむ西洋社会的な倫理や常識とかけ離れた部分で展開するこの物語は逆に、主義主張、国家や宗教を超越したスタンスから人の生の本質を問おうとしているのです。
レヴュー:過酷なアラブ世界の中で愛と真理を求めて彷徨う一組の男女の物語〜『Habibi』

●メタ・バロンの一族 / アレハンドロ・ホドロフスキー、フアン・ヒメネス

メタ・バロンの一族 上 (ShoPro Books)

メタ・バロンの一族 上 (ShoPro Books)

メタ・バロンの一族 下 (ShoPro Books)

メタ・バロンの一族 下 (ShoPro Books)

『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』など強烈なカルト映画作品でマニアの多い監督、アレハンドロ・ホドロフスキーが原作を務めた華麗で残虐なスペース・オペラ大作です。宇宙最強の傭兵一族の血塗られた戦いの歴史を描くこの物語は、「親殺し」「肉体破損」という恐ろしいイニシエーションをはじめ、ジェノサイド、惑星征服など様々な"非道"が描かれ、その倫理無きアナーキーさと、日本の"侍"をモデルとした規律と教条とのアンビバレンツが、独特の異様さを物語に醸し出しているのです。広大な銀河を股に掛け、ならず者の敵性異星人、異様な異星生物、不気味な超能力を持つ宇宙教団らとの数々の宇宙戦争が描かれ、都市は破壊され、惑星は火の海と化し、漆黒の宇宙にはスペースシップの群れが爆裂し消滅する光輪が眩いばかりに輝き渡る。『メタ・バロンの一族』は無情の宇宙を描いた一大叙事詩として、SFコミックの極北で輝き続けるでしょう。
レヴュー:『エル・トポ』のホドロフスキー原作、宇宙最強の傭兵一族の歴史を描くスペース・オペラ『メタ・バロンの一族』