ジョージ・A・ロメロ初期の非ホラー作品『ナイトライダーズ』はロメロ・ファン必見のリリカルな逸品だ。

ナイトライダーズ (監督:ジョージ・A・ロメロ 1981年アメリカ映画)

I.

彼らは王の庇護のもと、騎士道精神を謳い、甲冑を身に付け、槍試合を行い、観衆の声援を集めていた――ただし、時代は現代、馬ではなくバイクにまたがった槍試合で。

マスター・オブ・ホラー、ジョージ・A・ロメロが1981年に製作公開した『ナイトライダーズ』は、現代に生きる騎士たちを描く、風変わりな物語だ。しかもこの作品、ロメロには珍しく、なんとホラー作品ではないのだ。さらに配給会社の撤退という理由から日本では劇場公開されておらず、公開後しばらく経ってからひっそりと地上波放送された以外、日本ではこれまでソフト販売も無かったまさに「幻の作品」だったのである。それが今回やっとDVD発売がなされ、いちロメロ・ファンとして矢も盾もたまらず購入、さっそく観てみたというわけだ。

主演はデビュー間もないエド・ハリス。そして準主役となるのが特殊メイクアーチストのトム・サビーニ。映画の端役出演も数をこなしている彼だが、この作品ではほとんど出ずっぱり、まさに準主役としての役割を与えられているのだ(そしてこの映画のトム・サビーニ、意外とカッコいい)。製作年代的には『ゾンビ』(1978年)と『クリープショウ』(1982年)の間の1981年に作られた映画となっており、この「『ゾンビ』の後に製作された」ということがこの作品の重要なポイントとなっている。

II.

エド・ハリス演じるチーム・リーダー、一座から「王」と呼ばれ尊敬を集めている彼は、このバイク槍試合の巡業を「商売でやってるんじゃない」と言ってゆずらない。彼にとってこの巡業は、騎士道精神のもとに一つのコミュニティを存続させ、その精神のあり方を衆目のものとするという、奇妙に浮世離れした理想主義の場だったのだ。その頑固な理想主義は賄賂を要求する警官を罵詈雑言で追い返すという青臭いほどの潔癖さでもって徹底されていた。それに対し、トム・サビーニ演じるサブ・リーダーの男はこの興行を大手メディアに紹介させ、自らもスターとしてもてはやされたい、という欲望を持っていた。この二人の対立と離反が物語の核となるが、それと合わせ、危険なスタントで挑んだであろう白熱したバイク槍試合の様子が映画のハイライトとなっている。

しかしロメロ・ファンにとって最大最高の見所は、この映画が多数のロメロ映画常連者によって配役されているということだろう。トム・サビーニはもとより、映画『ゾンビ』の黒人SWAT隊員を演じ、実質的な主役だったケン・フォーリー、同じくSWAT隊員役で途中でゾンビになっちゃうスコット・H・ライニガー、『死霊のえじき』からは敵役ローズ大尉を演じたジョセフ・ピラトー、サラの恋人ミゲル役アントン・ディレオ、サラの同僚テッド役ジョン・アンプラス、兵士トレズ役タソ・N・スタブラキスなどなど、他にも書ききれないほどロメロ映画の端役・ゾンビ役のクラスの役者が顔を出してており、さらにはロメロの当時の奥さんさえ出演している。いわば「ロメロ・ファミリー総出演」といった趣になっているのだ。それと、冒頭でちょっとだけあのスティーブン・キングが奥さんと一緒に出ているが、『クリープ・ショウ』同様、しょーもない役である(シクシク)。

III.

騎士道精神を謳い、「中央」や「権力」を拒否してそこから外れたマージナルな場所で小さいが結束したコミニュティを築き、そこでボヘミアンな人生を確立しようとする人々。映画『ナイトライダーズ』の主人公と登場人物たちは、そのままロメロとそのファミリーに当てはまる。ハリウッド・メジャーという「中央」「権力」を拒否し、地元ピッツバーグを拠点に盟友ともいえる人たちとの固い結束の中、数々の映画を製作してきたロメロ。即ち『ナイトライダーズ』とは映画製作に対する自らの理想を頑なに守り、それによって歴史的ホラー名作『ゾンビ』を作り上げ、それを成功させたロメロの、「ロメロ・ファミリー」への愛情と感謝と、そしてほんのちょっと自らの頑固さをシニカルにひねって見せた映画なのに違いない。

ひょっとしたら、映画のようにメジャーを目指すスタッフとの衝突もあったのだろう。だがそれでも自分の信念の正しさを信じ、成功や失敗がありながらも、ロメロは自らのキャリアを築き上げてきたのだ。そういった意味でこの作品はロメロの真摯な心情吐露であり、映画を作ることへの愛であり、そういった私小説的な作品であると言えるかもしれない。そしてだからこそ、この映画は、爽やかで、リリカルで、瑞々しい。ロメロ・ファンなら彼の魂の真髄に触れられるこの映画を是非観ていただきたい。

※なおこのDVDは一般店頭・Amazonの販売はありません。購入は販売元のスティングレイ社で通販かディスクユニオン新宿本館映画フロア、または中野ブロードウェイ3F レコミンツSIDE-B 映画店などで。