Hatena::ブログ(Diary)

メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

20130628(Fri)

[]『テルマエ・ロマエ』が完結した。 『テルマエ・ロマエ』が完結した。を含むブックマーク 『テルマエ・ロマエ』が完結した。のブックマークコメント

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『テルマエ・ロマエ』、遂に完結しましたねえ。「風呂を通して描かれる現代日本と古代ローマの文化比較論」みないな言われ方をしていた本作、確かにそういった部分もあったにせよ、ホントはそういうメンド臭い話じゃなくて、「作者のダンナであるイタリア人を純日本な文化に置いて弄ってみたら面白かった」ってことじゃないかと思うんですが、作者であるヤマザキマリさんの自由な知性と想像力が結果的にとても含蓄ある切り口を見せた、ということなんではないでしょうか。さらに、かつての世界の覇者であったローマ人が日本の文化を、それも高度なテクノロジーそのものや胡散臭いジャポネスクみたいなものではなく、当たり前過ぎるぐらい日常的なお風呂という文化を称賛する様が、日本人としてくすぐられるものもあったということなんじゃないかな。

でも、最初は現代日本と古代ローマを行き来していちいちびっくりして見せる主人公ルシウスの様子が大変面白かったとはいえ、風呂というネタだけでどれだけ回数持たせられるものなんかなあ?これだけ楽しい物語が、ネタ切れでだんだん苦しくなってきて尻すぼみになってしまうのは嫌だなあ、とは思ってたんですよ。それが作者が物語をたたみに掛けてきて、風呂ネタとは関係なく日本人女性とのラブロマンスものへと持ってきたのは、賛否両論あったとはいえ自分としてはいい具合にケレンの効いたまとめに入ったな、と思ったんですけどね。しかもこの日本人女性・さつきさん、ラテン語が堪能なうえ古代ローマの含蓄にも深い才女、というあまりにも都合良すぎるキャラだったんですが、この女性が普通にコスモポリタンな才女である作者自身と考えると、実は全然おかしくなかったりするんですよね。

自分が敬愛する女性漫画家の一人で、2005年に惜しくも夭折された杉浦日向子さんは、江戸文化研究家でもあり、時代考証なども手掛けていらしたほど江戸文化に精通し、その文化を心の底から愛していた方なんですね。杉浦さんは、現代の東京にいながら、その東京のかつての姿である江戸の面影を常に幻視し、その江戸へタイムトラベルが出来たらいいのに、といつも願っていたそうなんです。杉浦さんの心はきっと、東京に居ながらにして、江戸の時代に生きていたんですね。

漫画『テルマエ・ロマエ』は、古代ローマの浴場技師ルシウスが現代日本にタイムトラベルして優れた風呂文化を目の当たりにする、という物語でしたが、実はこれは逆で、日本のお風呂を愛する作者が、同じように愛するローマ文化を、風呂という切り口で幻視した物語、ということができるのではないでしょうか。そしてそれは、温泉宿育ちで古代ローマ文化に精通する女性、さつきさんが登場することにより、一巡して構造が成立するんですよね。

そしてそのさつきさんとルシウスのロマンスは、イタリア人夫を持つ作者自身とも綺麗に重なってしまうんですよね。ですから、『テルマエ・ロマエ』後半のロマンス展開はある意味必然であっただろうし、さつきさんが古代ローマへと旅立つクライマックスは、それ自体が作者の古代ローマへの強い愛情と郷愁の結果でもあるんですよね。確かに冷静に見るなら、物語的には強引だしご都合主義的過ぎる部分があまりにも多いとはいえますが、むしろそれが強烈な愛情による幻視という名のタイムトラベルなら、どんなことが可能になったとしても、それは少しも不思議な事ではないではないですか。

そんな一途な愛情によって描きあげられたこの最終巻は、自分には最初のページからずっと胸がいっぱいでたまりませんでした。そしてこの巻では、さつきのお爺さんである鉄さん(トミー・リー・ジョーンズ似)の大活躍にもまた凄まじいものを感じました。まあこの「実はとてつもない人脈を持つ年寄」というプロットはそれほど斬新なものではないにせよ、「鉄さん古代ローマ編」のこれまでとは趣を異にした愉快さは、完結した『テルマエ・ロマエ』物語の新たな展開の可能性すら感じさせました。作者もこの鉄さんキャラの可能性に気づいたらしく、近々読むことのできる新連載では、どうやらこの鉄さんを含めた物語を読む事が出来るようですね。楽しみです。

テルマエ・ロマエVI (ビームコミックス)

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江戸アルキ帖 (新潮文庫)

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20130627(Thu)

[]『砂漠でサーモン・フィッシング』は『砂漠でサーモンピンク』ではなかった! 『砂漠でサーモン・フィッシング』は『砂漠でサーモンピンク』ではなかった!を含むブックマーク 『砂漠でサーモン・フィッシング』は『砂漠でサーモンピンク』ではなかった!のブックマークコメント

砂漠でサーモン・フィッシング (監督:ラッセ・ハルストレム 2011年イギリス映画)

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砂漠でサーモン・フィッシング』なんてタイトルなもんですから果てしなき不毛の砂漠に釣りさえも可能な巨大な水源を作るというNHKドキュメンタリー『プロジェクトX』みたいな話なのかと勝手に思ってたんですよ。

工期30年!総工費10兆円!関わった技術者5万人!工期中の事故による犠牲者が3000人!度重なるアクシデント!困難に続く困難!しかし男たちは立派にやり遂げた!やり遂げたのだ!風の中のす〜ばる〜砂の中のぎ〜んが〜♪…という、日本のサラリーマンが滂沱の涙を流しながら失禁して喜びそうなお話だと思ってたんですけどね。

そしたらアナタ、これが観てびっくり、なんとこの映画、実はラブロマンス物だったんじゃあ〜りませんか!それも三角関係といいますかてーへん掛ける高さ割る2!な状態なわけですよ。こうして本国版のポスター(←)なんか見てみてもやっぱりこりゃあラブロマンスですよねえ。

で、その合間に中東の金持ちが出てきて「俺は金持ってんだから不可能はないんだっつーのだから地元の砂漠で鮭釣らせろっつーの金なら出すなんぼでも出すっつーの」とかやるわけですよ。なにしろ相手が金持ちなだけにこのプロジェクトが成功しない訳がない、ということは映画観てて最初に分かっちゃうんですよね。

しかし砂漠でサーモン・フィッシングしたいとか言うのって変わり者っぽいですけど、サーモン・フィッシングでよかったですよ。これが「サーモンピンク釣りてええ!」とか言いだして砂漠のど真ん中にどんなきわどいエロエロな事もノープロブレムな一大風俗営業店を作られても困るわけですしね、ましてや金にあかせて「1万人規模のムカデ人間作りてぇえええ!」とか言い出すようなホラーマニアとかじゃなくて本当によかったですよね。

まあ例によって訳の分からないことを書きましたが主演のユアン・マクレガーエミリー・ブラントも好印象で砂漠の大富豪のアムール・ワケドもいい男で、ラブロマンス物としてもいい出来でしたね。ただユアンの恋敵となる軍人青年は軍人というよりはチャラ男にしか見えなくて、ここはやっぱり軍人ですから『ギアーズ・オブ・ウォー』のマーカスみたいなゴリラ男を登場させてユアンの頭を叩き割るなり目玉を抉り出すなりして半死半生の目に遭わせるとかいう展開が欲しかったですね。

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20130626(Wed)

[]今度も俺はバリバリのクソジジイだぜ!〜映画『人生の特等席』 今度も俺はバリバリのクソジジイだぜ!〜映画『人生の特等席』を含むブックマーク 今度も俺はバリバリのクソジジイだぜ!〜映画『人生の特等席』のブックマークコメント

■人生の特等席 (監督:ロバート・ローレンツ 2012年アメリカ映画)

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アメリカ映画だから当然の事なんだろうけど、観ていて終始「あーアメリカだあ」と思えてしまった映画ですね。

頑固オヤジの主人公とその娘の跳ねっ返り振り。ダイナーにパブ、バーベキュー、どこにでもありそうなドライブイン、片田舎の瑞々しい森林風景、その風景を横切る燃費の悪そうなデカい自家用車。野球と、「野球と人生」というテーマと、その野球場の青い芝と、空の青さと、そこで対戦するケツにどっしり肉のついた野球選手たち。それら全てを覆う伸び伸びとした空気感。

そしてあと、基本的にアメリカ白人が中心になって展開する、「家族」についての物語。今やだんだん見かけなくなってきた、オーソドックスなアメリカ映画でよく見知ったアメリカの情景。そういうアメリカが綺麗に描かれているんですよ。綺麗事に描かれてるという事じゃなくて、今現在実際にあるのかどうかはわからないけれども、アメリカ白人が理想とし作り上げてきたアメリカの情景と風景が、とても綺麗に描かれてるなあ、と思えてしまったんですね。

グラン・トリノ』たった一本観ただけでオレの中では「世界で最も愛すべきクソジジイ俳優(&監督)」ということになっているクリント・イーストウッドですが、この最新主演作『人生の特等席』でもクソジジイ振りは健在で、ある意味『グラン・トリノ』の主人公だった孤独なクソジジイが、もうちょっと幸福な人生を歩めていたらこうだったかもしれない、みたいな、ある種のパラレルワールドを観ているような気にすらなりましたね。いやークソジジイ最高。そんなわけでクソジジイが堪能できればそれでよかったので、ジジイの娘のロマンス描写は物語を膨らます要素にはなっていますが特に必要に感じなかったかな。

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20130625(Tue)

[]俺の介護は最強だぜ!〜映画『最強のふたり俺の介護は最強だぜ!〜映画『最強のふたり』を含むブックマーク 俺の介護は最強だぜ!〜映画『最強のふたり』のブックマークコメント

最強のふたり (監督:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ 2011年フランス映画)

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まともに介護なんかやったことのないスラムの黒人青年が、全身麻痺の大富豪の介護を任される、というヒューマン・コメディです。介護とか社会格差とかいろいろな問題を孕んでいる物語ではありますが、堅苦しい話は抜きにして大いに笑うことのできる作品でした。ロウアークラスの生まれとはいえ、黒人青年はいつも飾らず気取らず委縮することもなく、等身大の姿で大富豪の看護にあたるんですが、大富豪もそんな黒人青年の気安さ、そして自分の人生を謳歌する態度に次第に気持ちを開いてゆくんですね。

そしてこの映画が面白かったのは、そういったヒューマニスティックな部分よりも、あからさまな身体障碍者ネタで笑いをとっていることなんですね。でもそれは障碍者を馬鹿にしているとか下に見ているとかではなく、俺とあんたはこんだけ違うけど、でもあんたの人間性は微塵も否定しないぜ、といった態度がきちんと描かれているんですね。この、自分と他人は違って当たり前、という部分が同調圧力ばかり強いどこかの国とは雰囲気違うんだと思います。(それにしても今「障害者」って入力しようとしたら「障碍者」って変換しやがるんですね。今こっちの言葉で使われてるんだ?)

ただ、とてもよくできていたし素晴らしい映画ではあるんですが、「やっぱ病気したりなんだりして体効かなくなったら、最後の頼みの綱は金だよねー」としみじみ思わされましたね。社会保障制度の違いもあるとは思いますが、同じく全身麻痺の主人公を描く映画『潜水服は蝶の夢を見る』を観たときも「こんだけきちんと介護受けられるのは金持ってるからなんだろうなあ」と思いましたもん。いやあ世知辛いこと書いてスイマセン。

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20130624(Mon)

[]科学とオカルトの狭間〜映画『レッド・ライト科学とオカルトの狭間〜映画『レッド・ライト』を含むブックマーク 科学とオカルトの狭間〜映画『レッド・ライト』のブックマークコメント

レッド・ライト (監督:ロドリゴ・コルテス 2012年アメリカ・スペイン映画)

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■オカルト(隠されたもの)

神秘学を意味する「オカルト」っていうのはラテン語で「隠されたもの」という意味でもありましてな、だから「隠秘学」っていう訳語もあるんですが、元来は占星術とか錬金術とか魔術を扱う学問で、それは同時に「世界と宇宙の背後に隠された見えない真理」を探求する学問でもあるんですな。すなわちこの世界は「見えているもの」だけではない別の何かの原理で動いている、または動かされている、その「理(ことわり)」を追求する学問な訳です。

しかしその「世界を動かす目に見えない原理」は近代以降において【科学】でもって研究され解明されるべきものとして取り扱われ、そして【科学的であること】こそが合理的な物事の考え方であるというのは誰もが認めることではありましょう。それによりオカルトと呼ばれるものは神秘学というよりは不合理で非科学的で前時代的なものとされ、まあ現代では一般的にンなもん本気で信じてるような輩はちとアブナイ方である、というような認識をされてしまうわけでもあります。

しかし人の生というものには、ある種の不合理さがつきまとっているのも確かで、そういった不合理さへの「不安」を一足飛びに解決するために、「科学」ではなく「オカルト」に救済を求めることが実際あったりします。そしてそれは単にあっちの世界に行ってしまった人たちだけの話ではなく、例えば星占いや地鎮祭のような御祓いや神棚や初詣の願掛けなどは、実は日常的に存在するオカルトだったりするんです。それは信じるか?信じないか?という話ではなく、この世界には、何か目に見えない因果律が存在し、人の来し方とはそれに翻弄されているだけのものなのではないかという「不安」であったり、そうして生きてゆくことへの「感謝」、その不確かな生への「願い」であったりします。

医療やセラピーはその中の「不安」を科学的に救済しようとしますが、そういった「科学的であること」「合理的であること」のみによって救済されない人が存在するのも確かで、このような人の不安を食い物にした霊感商法があるのと同時に、宗教的な、或いは俗習的な慰めがその人を救ったりすることも有り得る訳です。オカルトとはグレイゾーンであり、さらに先にはダークサイドが待っていたりますが、人間の心理というものも、実はグレイゾーンの中で行き来する、やはり不合理なものであったりするのです。

レッド・ライト(不協和音)

映画『レッド・ライト』は心霊現象やら超能力やらの超常現象の嘘を暴き出し合理的に説明する物理学者、マーガレット・マシスンとトム・バックリーが主人公です。この科学者をシガニー・ウィーバーキリアン・マーフィーが演じます。この二人が超常現象のイカサマを快刀乱麻にぶった切ってゆくさまが前半のハイライトになります。シガニー・ウィーバーの自信に満ちた貫禄とキリアン・マーフィーの奇妙に不安定な表情が対照的であるのと同時に魅力的に描かれています。

この二人を脅かすのが伝説の超能力者と呼ばれ各地で公演するサイモン・シルバーです。これをロバート・デ・ニーロが演じます。充分に邪悪さを醸し出すロバート・デ・ニーロですが、大御所なだけに「超能力者」というよりは普通にロバート・デ・ニーロにしか見えないところが難です。さて、科学的に超常現象を解明してゆく筈の二人の周りに、サイモンが現れることによって不可解な事件や凶兆めいた不気味な出来事が起こり始めます。果たしてサイモンはいかさま師なのか?それとも本当の超能力者なのか?というのがこの映画の主題となります。

こういった物語の場合、やっぱり本当の超能力者でした!では実も蓋もないオカルト・ホラーになってしまうし、本当はいかさま師でした!でもやっぱり当たり前すぎて詰まりません。じゃあどんなラストが待っているのか?と固唾を呑んで見守っていたら、いやあヤラレました、まさかこう来るとは!という吃驚するようなラストが仕掛けられていました。ある意味全盛期のシャマラン並みの強烈なオチが待っています。自分はとても面白く見ることができました。

しかしそういった物語構成の妙とは別に、オカルティックで非合理的な現象を合理的な科学精神でもって解決する筈の主人公科学者マーガレットが、やはり不安や恐怖といった心の闇を持ち、それによりサイモンが持つという超能力の真偽に正面から対峙できない、という弱さが、この物語がもつもう一つのテーマを象徴しているように感じました。それは合理だけでは解決できない人間の心理ということです。マーガレットはその不合理から眼を背けながら「科学的」であろうとしますが、しかし目を背けたからといってその「闇」を追い払うことは出来ません。ではどうすれば彼女は苦悩から救われたのか?映画『レッド・ライト』は合理と不合理の狭間で呻吟する魂の存在を描く映画でもあったのです。

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20130621(Fri)

[]イデッシュ語で描かれた古くそして豊潤なるユダヤ社会〜『不浄の血―アイザック・バシェヴィス・シンガー傑作選』 イデッシュ語で描かれた古くそして豊潤なるユダヤ社会〜『不浄の血―アイザック・バシェヴィス・シンガー傑作選』を含むブックマーク イデッシュ語で描かれた古くそして豊潤なるユダヤ社会〜『不浄の血―アイザック・バシェヴィス・シンガー傑作選』のブックマークコメント

不浄の血 ---アイザック・バシェヴィス・シンガー傑作選

愛と血と欲望と悪魔うごめく世界。ノーベル賞作家の傑作短篇からさらに精選。「永遠の法則」を追いつづけた人生の終盤で、思いがけない恩寵にめぐまれる初老の男(「スピノザ学者」)、実直で少し抜けていて、みんながからかうギンプルが出会う、信じがたい試練の数々(「ギンプルのてんねん」)、ポーランドの僻村に暮らす靴屋の一族の波乱万丈な流離譚(「ちびの靴屋」)、年老いた夫の目を盗み、牛を切り裂きながら愛人との肉欲に耽る女の物語(「不浄の血」)…。エロスとタナトス渦巻く濃密な世界を、滅びゆく言語(イディッシュ語)でドラマチックに描いた、天性の物語作家の傑作集。

アイザック・バシェヴィス・シンガーは1904(1902?)年ポーランド生まれ〜1991年没のイデッシュ語作家だ。イデッシュ語というのはドイツ・東欧圏のユダヤ語、ということらしい。単に「ユダヤ語」というわけではないのは、古代パレスチナに住み古典ヘブライ語を話していたユダヤ人が、ディアスポラ後にその居住する地方によりアラビア語・ラディーノ語(スペイン系ユダヤ言語)・イディッシュ語などへ言語的枝分かれをした為であるらしい。しかしこのイデッシュ語・イデッシュ語文化は、かのホロコーストにより壊滅的な打撃を受け、ユネスコの消滅危険度評価で高い消滅危険度を持った言語であることが言及されている。即ちアイザック・バシェヴィス・シンガーは、消えゆく言語でもって忘れ去られようとしているドイツ・東欧圏ユダヤ人文化を文学に残そうとしたイデッシュ語作家なのだ。その功績からシンガーは1978年にノーベル文学賞を受賞している。ちなみにシンガーのイデッシュ語での作家名はイツホク・バシェヴィス、ないしイツホク・バシェヴィス・ジンゲル。

シンガーの作品群はその書かれた言語と同じようにホロコースト以前のドイツ・東欧ユダヤ人社会とその文化を主に描いている。そしてその文化の中心となるのは、なんといってもユダヤ教の戒律であり、その戒律を通じて描かれる人々の営みであり、そしてその戒律から生み出されるユダヤ人であることの歴史性とアイデンティティであり、さらにその戒律の禁忌から生み出される背教と戒めの物語なのだ。

それにしてもこの短編集を読んでいて正直、ここまでユダヤ教というものが、古代パレスチナから連綿とその民族的歴史性を固持し続けるものであるとは思わなかった。ユダヤ教の歴史はそれこそ旧約聖書時代まで遡り、その成立以前である紀元前1280年頃のモーゼ十戒まで含めると実に3千有余年、少なくとも2500年以前の暮らしや規律や生きる寄る辺とする物の在り方を頑なに近代まで守り続けていたのだ。それはある意味、現在に残された古代といった様相すらある。それを古色蒼然としたものととるか否かはまた別の話として、少なくとも信仰というものはこのように一つの物事をあくまでも徹底的に信じ、そして守る続ける行為である、ということはいえるかもしれない。だから短編集で描かれる個々の作品の殆どが第2次世界大戦前後のユダヤ人社会を描いたものであるとしても、その社会は数百年前も、数千年前も、やはり少しも変わらずに営まれていたのであろう、と考えると、ユダヤ人とユダヤ教の、ディアスポラに裏打ちされた強固さというものがどれほどのものなのか伺えるというものだ。そしてその頑固なまでの強固さが、現代イスラエルの在り方とその問題にも繋がっているといえるのかもしれない。

個々の作品を紹介することはしないが、物語の傾向は幾つか分かれている。「バビロンの男」「鏡(ある悪魔の独白)」「ティショフツェの物語」「炉辺の物語」「呼び戻された男」「黒い結婚」はユダヤ教の悪霊や悪魔、魔術や生き返りが登場する幻想的な物語。「スピノザ学者」「断食」「ありがたい助言」「屠殺人」はユダヤ教信教そのものによって引き起こされる物語。「ギンプルのてんねん」「ちびの靴屋」「ちびにでかいの」「不浄の血」はユダヤ教を信教することによって生まれるユダヤ人社会の悲喜劇や諍い、事件を描く。ここまではどこか民話的でもありながら、強烈なユダヤ教的世界観が物語の中心を貫いた物語が続く。また、ユダヤ教の固有名詞も頻出し、凄まじいエキゾチズムが生まれている。しかしラスト2作、「ハンカ」「おいらくの恋」は大戦を逃れアメリカ大陸へ渡ったユダヤ人を描き、ここではユダヤ教そのものの存在は鳴りを潜め、むしろ故郷喪失者の哀感を描いた物語と様変わりする。

この中でもっとも気に入ったのはポーランドに住むユダヤ人靴屋の歴史を描く「ちびの靴屋」か。頑固で腕のいい職人である靴屋の親父が主人公だが、彼の子供たちは一人また一人とアメリカへ移住してゆく。例によって頑固者の親父はそんなことなど我関せずといつものように靴職人を続けていたがある日ナチスのポーランド侵攻が始まり…というこの物語、映画化すれば絶対面白いものになる気がする。誰か渋いヨーロッパ監督がやってくれないかな。

20130620(Thu)

[]『俺たちサボテン・アミーゴ』はどうにも締まらないゆるゆるコメディだった! 『俺たちサボテン・アミーゴ』はどうにも締まらないゆるゆるコメディだった!を含むブックマーク 『俺たちサボテン・アミーゴ』はどうにも締まらないゆるゆるコメディだった!のブックマークコメント

■俺たちサボテン・アミーゴ (監督:マット・ピードモント 2012年アメリカ映画)

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ウィル・フェレル主演のメキシカン・ゆるゆる・コメディ映画です。単にゆるゆるなのであってゆるふわとかでは決してありません。まあウィル・フェレルのおバカ映画にゆるふわを期待する人間がこの宇宙にどれだけ存在するのか分からないですが。

ウィル・フェレル演じるのはメキシコの荘園のボンクラ次男坊なんですが、そこにビジネスマンとして成功した長男が美人の婚約者を連れて帰ってくるわけです。しかしその長男坊は実は麻薬売買に手を染めており、地元の麻薬王と抗争の火ぶたが切られ、ウィル・フェレルはボンクラなりにあたふたするのですがボンクラなばかりに頓珍漢な事ばかりしでかし、でまあラストは銃撃戦で「お兄ちゃ〜ん!」とかやるわけです。

ウィル・フェレル主演映画は「俺たち」シリーズでなんとか日本でも認知度が上がっていてオレなんかも結構好きな俳優なんですが、日本未公開DVDスルー映画なんかを観ると流石に相当ゆるゆるで、こりゃあ日本では受けねえだろうなあ、オレもファンだからなんとか我慢して観られるレベルだしなあ、と思えてしまうんですよねえ。

今回の『俺たちサボテン・アミーゴ』もスティーヴ・マーティン主演の快作コメディ『サボテン・ブラザーズ』とウィル・フェレルの『俺たちフィギュアスケーター』あたりを彷彿させるタイトルで若干期待したんですが、いやもうこれが箸にも棒にもかからないユルさ具合の少しも笑えない映画で、逆に「いかにユルいのか?」「どうのようにユルいのか?」といったユルさの極地、ユルさの極北をしみじみと堪能したければこれはこれでいいのかもしれません。だいたいあのどう見たってぬいぐるみの白い虎が出てきて、ウィル・フェレルに神秘の啓示を与えたりとか、ウィル・フェレルがサイケデリックな深層心理世界に行っちゃったりとか、これ笑うところなの?とか思っちゃいましたが、しかし文字で起こしてみると面白そうなんだけどなあ…やっぱりテンポなのかなあ…。

まあオレもウィル・フェレルのアホ顔をじっくり観る事が出来たのでそんなに落胆したわけでもないんですが。

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20130619(Wed)

[]俺の毛髪よゲットバック!〜ニコラス映画『ゲットバック俺の毛髪よゲットバック!〜ニコラス映画『ゲットバック』を含むブックマーク 俺の毛髪よゲットバック!〜ニコラス映画『ゲットバック』のブックマークコメント

ゲットバック (監督:サイモン・ウェスト 2012年アメリカ映画)

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ニコラス・ケイジ主演の特にどうということもないクライム・アクションです。そもそも日本版タイトルの投げやり感が凄まじいですよね。…と思ったら原題(『Stolen)』)も結構投げやりですが!

まあ一応物語を説明致しますと仲間と共に銀行強盗をしたら失敗して一人だけ刑務所に入れられたニコラス君が出所後、「おめえあの時盗んだ金まだ隠し持ってるんだろ?」とかつての仲間に脅され、娘まで誘拐される、というお話なんですけどね、なにしろVシネでも見せられているかのような安いお話に仕上がっていて、そこにニコラス君が主演することによりなおさら安さの相乗効果が加えられている、というしょうもない映画なんですね。しかし一応しょうもないなりにサクッと見られてサクッと忘れられるお手軽感があるのも確かで、それによく観てみると結構ロケーションや撮影に非凡なものを感じますし、そもそもニコラス君ってあれはあれで割と嫌いじゃない俳優さんなので、実際の所印象の悪くない映画でしたね。

しかもこれ一応監督が『エクスペンダブルズ2』の人なんですよね。『コン・エアー』でもニコラス君と組んでるんですよ。だからきっと低予算なりに頑張った映画なんでしょうが、ニコラス君が主演しているばかりに安い映画に見えてしまった、ということなのかもしれませんね。しかしどんなに堅実に作った映画もあっという間に安く見せてしまうニコラス君の破壊力ってある意味凄いですよね。そんなニコラス君がどうして嫌いじゃない俳優なのか自分でも分からないんですねど、なんというかオレの中ではネタ扱いの俳優なんでしょうねきっと。

あと娘役で出てきたサミ・ゲイルちゃんが結構可愛かったのもこの映画の救いとなりましたね。しかもこのサミ・ゲイルちゃん、美人ちゃんなんですがかなり濃い顔で、同じく濃い顔のニコラス君の娘役としてこれほどふさわしい女優さんは今後現れないんじゃないでしょうか。だから今後はサミ・ゲイルちゃん+ニコラス君の親子ドラマを多く撮ればいいのではないか、とハリウッドの皆さんには提言したいですね。

↓とても顔の濃いサミ・ゲイルちゃん。

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20130617(Mon)

[]ジビエったッ!喰ったったッ! ジビエったッ!喰ったったッ!を含むブックマーク ジビエったッ!喰ったったッ!のブックマークコメント

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この間のお休みは相方さんのお誕生日祝ということで、相方さんのたっての希望でジビエ料理を食べに行くことになりました。ジビエ料理というのは氷の張った地面に座ってお尻を冷やしながら食べるいわゆる「地冷え料理」のことで主に東北地方に伝わる食べ方で…というのは真っ赤な嘘で、「狩猟によって、食材として捕獲された野生の鳥獣である。主にフランス料理での用語」のことをいいます。牛や豚や鶏のような家畜ではなく、野生生物をとっ捕まえて料理して食す!というまさに野趣溢れる料理なんですな。

この日行ったお店は六本木「ラ シャッス」。なんとシェフ自ら狩りをして獲ってきた動物の肉を中心にしたフランス料理店なんですよ。

「LA CHASSE」とは、フランス語で「狩り」を意味します。当店は名前のとおり、狩猟シーズンになりますと、シェフ自ら狩りに出かけてし仕留めたジビエを最高に一皿に仕上げてご来店いただいたお客様にご提供しております。また、狩猟シーズン以外の季節には、シェフが厳選した四季折々の美味しい食材を仕入れてジビエに負けない一品に仕上げております。

ちょっと変わったものが好きな相方さんとオレは期待に胸を躍らせてお店へ向かいました。お店は六本木駅から歩いて10分程度、賑やかな駅前を離れ人通りも少ない坂になった静かな通りを登った所にある目立たないお店です。お店のドアを開けるといきなりストーブの煙突と毛皮が掛けてあってびっくりします。

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石造りの洞窟風な店内は間接照明のみの落ち着いた雰囲気で、まさに隠れ家風。テーブルにはキャンドルが備えられていて、ちろちろと燃えるキャンドルの火がテーブルを優しく照らしています。とうとうオレもこんな店に来るようになってしまったか…という妙な感慨が。

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食べログで読んだときは料理はアラカルトで注文、みたいなことが書かれていましたが、実際は冷製・温製・本日の肉料理・デザートの中から食べたいものを選ぶ、といった形のコース料理のみになっていました。という訳で相方さんと二人メニューを穴が開くほど眺めてこれだ!という料理を注文。

まずは相方さんが白ワイン、オレはシャンペンを注文して誕生日の乾杯。そして冷製料理。相方さんはミンククジラのタルタル、オレは子猪のハムを。ちなみにとても暗い店内だったので写真の画質が相当悪いのでご勘弁を。汚い写真なので美味しそうに見えないかもしれませんが、本物は全然そんなことない美味しさでした。子猪は肉の繊維が非常にしっかりしていてしみじみ野生な味でした。

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自家製パンはオリーブオイルとは蜂蜜とバターで。これがまた美味くてね。

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続いて温製料理、相方さんは確かキジバトのローストを、オレはフォアグラのソテーを。フォアグラはフルーツ系のソースが絶品で、一口食べて頭の中がお祭り状態になり、怪しすぎるアヘ顔して食べていたオレでありました。

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そしてこの日のメインである肉料理は北海道で獲れたヒグマのロース肉ロースト。熊だ!熊だ!熊なんだ!いやこれがまた絶妙の焼き加減で、「野生動物だから生臭かったり筋が多くて食べ難いんじゃない?」なんて心配は一切なく、素材の美味しさを最大限引き出した調理をしてあるんですね。熊だなんだという前に非常に美味しい肉料理なんですよ。そういえばこの料理を食べる前にお店の方に「ちょっと軽めの赤ワインを…」と注文しようとしたら「いえ!この料理にはしっかりしたボディの赤が合いますので是非そちらを!」とお勧めされ、おお、ならば!とそちらを注文したりとか。

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なんだかんだと興奮しつつ最後にデザート。相方さんはゴルゴンゾーラチーズのアイスクリームを、オレはチーズを2種類。クルミリキュールを使ったというチーズが絶品でありました。

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実は相方さんがしばらく食欲不振で、この日も大丈夫かな、と思ってたんですが、ジビエを目の前にした相方さん、嘘のように食欲が沸き、モリモリお食事していたので安心しました。相方さんちょっと現金…。という訳でジビエ料理を堪能しこの日はお開きに。お店に飾ってあった猪の頭の剥製(これもシェフが猟で獲ったのだろうか…)にお別れして帰りました。ジビエ美味しかった!お店の雰囲気もお店の方のサービスも実に心地よくて、またいつか機会があったらもう一度来てみたい店ですね。そもそも、相方さんとも付き合い長いですが、フレンチ二人で食べたのはこれが初めてだったりしました。とか言いつつ、ここだけのハナシ、お値段は結構凄かったんですが…。とはいえ、年に一度のお祝いぐらいはこんな店もいいのではないかと思います。

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食べログ / ラ シャッス

ゼニヤッタ・モンダッタ(紙ジャケット仕様)

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20130614(Fri)

[]世界の終りは君といっしょに〜映画『エンド・オブ・ザ・ワールド世界の終りは君といっしょに〜映画『エンド・オブ・ザ・ワールド』を含むブックマーク 世界の終りは君といっしょに〜映画『エンド・オブ・ザ・ワールド』のブックマークコメント

エンド・オブ・ザ・ワールド (監督:ローリーン・スカファリア 2013年アメリカ映画)

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◆◆残り21日◆◆

「ヘイ!俺たちゃスペースシャトルの乗組員さ!これから地球に迫る小惑星を破壊しに行くのさ!破壊しないと地球に衝突、人類全員お陀仏だからさ!命を懸けても遣り遂げて見せるぜ!…あ、ちょっと待て、なんだあれは…?…ああああああ避け切れない、ああああああああ!!!」

スペースシャトルは爆発し、小惑星破壊ミッションは成し遂げられなかった。小惑星は3週間後に地球に衝突する。3週間後、人類は滅亡する。

◆◆残り20日◆◆

ニュースキャスターは喋りながら涙を流していた
地球は滅亡の危機に瀕していると
涙ですっかり濡れたその顔を見て
彼の言うことが嘘ではないということが分かった

――デヴィッド・ボウイ / 5年間

◆◆残り19日◆◆

ドッジは地球滅亡を目前に妻に逃げられ途方に暮れていた。そんなドッジの前にアパートの隣人ペニーが現れ、「寝すぎたあまりに家族の住むイギリスへの最期の飛行機に乗り遅れた」と泣き崩れる。ドッジに慰められたペニーは「今まで渡し忘れてたけど、自分の部屋に間違いで届いていた手紙がある」と言って古い手紙を渡す。それはドッジのかつての恋人からのものだった。折しも絶望した暴徒たちがアパートに迫り、命からがら逃げだした二人は、ドッジのかつての恋人に会うために車を走らす。

◆◆残り18日◆◆

まあ、どうせいつかはみんな死ぬ。

◆◆残り17日◆◆

生きているうちが花なのよ死んだらそれまでよ。

◆◆残り16日◆◆

「もしも明日世界が滅ぶとしたら、あなたはどう過ごしますか?」というよく聞くお題があって、まあ人それぞれいろんなことを言うのだが、まあだいたいが似通った物事だ。性欲食欲睡眠欲の3大欲求のどれかを満たしたい、とか。散財したい、とか。みんななにがしか、ずっと我慢していた欲望を、もう最後なんだからと、ここぞとばかりに遣り遂げたいということらしい。あとは家族や恋人と過ごしたい、とか。ずっと泣いちゃう、とか。自殺しちゃう、とか。

◆◆残り15日◆◆

その中でオレが最も優れた回答だと思ったのは、「世界の終わりを待っているだけなのは愚かな人間のやることだ。自分は、世界の終りが来るより先にこの自分の手で世界を終らせてやる」とかいうものだった。まあそんな物凄い力を持ってる人間なんて普通はいやしないけどさ!

◆◆残り14日◆◆

「死ぬのはイヤ…死ぬのはイヤ…死ぬのはイヤ…死ぬのはイヤ…死ぬのはイヤ…」(惣流・アスカ・ラングレー

◆◆残り13日◆◆

世界の終わりを描いた物語は、それこそリグ・ヴェーダや聖書の昔から語り継がれており、ある意味人類普遍の物語の一つといえるかもしれない。当然昨今でも世界の終りや世界の終わった後を描いた物語は枚挙にいとまがない。たいていその多くは、破滅を目の前にして、パニックに至る者、自暴自棄になる者、絶望に身動きできなくなる者、どんな汚い手を使っても生き延びようとする者、そんな中でも人間性を失わないように努める者、などが現れる。極限の中での人間性、というのがそれらのドラマのテーマになるのだろう。

◆◆残り12日◆◆

なにしろ世界が終っちゃうんだから、これらアポカリプス映画は大抵暗いしシリアスだ。人間のむき出しで利己的な感情が描かれ、災厄に巻き込まれて人々はゴミのように大量に死んでゆく。しかしこの『エンド・オブ・ザ・ワールド 』は、終末を受け入れ、残りの人生を淡々と過ごそうとする人々が中心に描かれる。確かに物語冒頭では悲嘆に暮れる者や混乱した者、暴徒や自殺者が描かれたりするけれども、決してきつい描写にすることなくやんわり・さらりと描かれるだけで、物語中盤からは主人公二人のロード・ムービーの如き穏やかな描写が続く。

◆◆残り11日◆◆

それは「地球滅亡を目前にした人々の絶望」というよりは、まるで失恋男と失恋女の傷心旅行のようにすら見えてしまう。そう、この映画のテーマとなっているのは「迫りくる死への恐怖」ではなく、「遣り残したことへの後悔と贖罪」であり、「その喪失感のなかで心を寄せ合ってゆく男女」なのだ。煎じ詰めるならば、この『エンド・オブ・ザ・ワールド』は程よく甘くセンチメンタルな物語なのである。しかし、多くの暗く絶望的なアポカリプス映画に対し、決して深刻ぶらず、暖かく柔らかなトーンで物語が進行してゆく、こんな終末映画があっても悪くない。監督ローリーン・スカファリアが女性だからということもあるのかもしれない。

◆◆残り10日◆◆

主演は『40歳の童貞男』『ゲットスマート』のコメディ俳優スティーブ・カレル。この作品でも開幕早々女房に逃げられるという相変わらずの情けない中年男役だ。しかし今回はコメディ演技を押さえ、いつも途方に暮れた顔をさせながら、どことなく哀愁の籠った主人公を好演する。刹那的な欲望充足や馬鹿騒ぎに全く興味を示さない彼は、もともと自分の人生に多くを求めない男だったのに違いない。彼がかつての恋人を訪ねようとするこの旅は、熱烈に恋焦がれてというよりも、それぐらいしか思い残すことが無かったからなのだろう。

◆◆残り9日◆◆

なぜ私の胸はまだだどきどきしたままなの
なぜ私のこの目は泣いているの
知らないのね これが世界の終わりだってことを
あなたが別れを告げたとき
これで世界は終わったことを

――スキータ・デイヴィス / この世の果てまで

◆◆残り8日◆◆

主人公ドッジの本当の絶望は世界が終わることではなかった。彼の絶望の核心にあったのは、世界の終りを目前に、愛していたはずの妻に見捨てられたことだった。即ち彼にとって、世界が終わる前に、既に世界は終わってしまっていたのだ。だからこそあんなに彼は飄々と、まるで無関心なことのように、世界の終りに臨んでいたのだ。

◆◆残り7日◆◆

一方、ひょんな事から主人公と旅をすることになったペニーを演じるのが『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、『危険なメソッド』のキーラ・ナイトレイ。痩身にきりっとした顔つきの美人女優で、映画の役柄もそんなキャラクターが多いが、この作品では自由気ままな所もあるけれどもどこにでもいそうな女性を等身大に演じている。時々ブスい顔を見せたり、よく見ると多少歯並びが悪いのが分かったりして、逆になんだか親しみが湧いてしまった。それにしてもこの人まだ20代なんだ…。

◆◆残り6日◆◆

それと白髪でお腹の出たマーティン・シーンがとある役で出ており、この出演シーンでまたしみじみと盛り上がる。

◆◆残り5日◆◆

去年観た最も心に残った終末映画は徹底的に絶望と虚無に塗れた鬱々映画『メランコリア』だったが、今年はこの『エンド・オブ・ザ・ワールド』かもしれない。「世界の終りに君といっしょに過ごしたい」という物語は、ありがちで意外性がないかもしれないが、しかしだからこそじんわりと心に沁みてくる。

◆◆残り4日◆◆

まあしかし、逃げられたとはいえそれまで妻がいて、その妻がいなくなったので今度はかつての恋人を探しに行って、その旅の途中で同行の若い娘とねんごろになっちゃうって、スティーブ・カレルむっつりしているくせしてどんだけモテ野郎なの?

◆◆残り3日◆◆

そして世界の終わりは、いやおうなく近づいてくるのだ。

◆◆残り2日◆◆

そんな記憶もみな、時とともに消えてしまう
雨の中の涙のように
俺も死ぬときがきた

――ロイ・バッティー(ブレードランナー)

◆◆残り1日◆◆

もし、世界の終わりが明日だとしても、私は今日、林檎の種を蒔くだろう。

――ゲオルギ

◆◆世界の終わり◆◆

でもそうだな、陳腐かもしれないけど、やっぱりこのオレも、世界の終りには、君といっしょにいられたら、って思うよ。


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ベスト・セレクション

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20130613(Thu)

[]西部開拓時代の悪名高きアウトローたちとの戦い!〜ゲーム『Call of Juarez:Gunslinger』 西部開拓時代の悪名高きアウトローたちとの戦い!〜ゲーム『Call of Juarez:Gunslinger』を含むブックマーク 西部開拓時代の悪名高きアウトローたちとの戦い!〜ゲーム『Call of Juarez:Gunslinger』のブックマークコメント

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「俺は伝説のアウトローと戦ったことがあるぜ…」酒場にぶらりとやってきた男はそう言った。そして男が語るのは、ビリー・ザ・キッド、パット・ギャレット、ジェシー・ジェイムズ、ブッチ・キャシディら、西部開拓時代の悪名高きアウトローたちとの歴戦の物語だった…。ゲーム『Call of Juarez:Gunslinger』は、そんなアウトローたちと西部劇の世界で思いっ切り銃撃戦を楽しめるFPSゲームなんだぜ!♪ぴょりょりょりょりょ〜(エンリオ・モリコーネ風に)。

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この『CoJ:G』は短い章立てのストーリー進行になっており、それぞれの章で主人公とアウトローたちとの出会いや戦いが物語られてゆきます。なにしろ西部劇なんで出てくる銃はリボルバー!あとショットガン!後半には他の銃も出てくるのでしょうが、二丁拳銃でバンバン撃ちまくるのが最も西部劇気分を盛り上げてくれますな!二丁拳銃すぐ弾丸切れちゃうけど!

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ゲームの特色として時間の流れを遅くして敵を次々に狙い撃つ「早打ち」や敵の弾丸を避けることのできる「死の予感」などがあり、さらに敵との一対一の「対決」も用意されています。敵を倒すことによってポイントが加算されスキルを上げる事も出来たりします。またグラフィックも大変美しく、西部劇世界の魅力をたっぷり再現してくれておりますな。

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機種は現在PCのみのD/L販売ですが、今後XBLAやPS3でのD/L販売もあるようです。なにより嬉しいのは普通に日本語ローカライズされていて、Steamで購入しても吹き替え、日本語メニューがしっかりされているんですね。Steam版だと現在$14.99ととてもお安いので気軽に購入して楽しめると思いますよ。

Steamで購入:Call of Juarez® Gunslinger

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20130611(Tue)

[]スタローンの新作アクション『バレット』は殺し屋と刑事のバディムービーだ スタローンの新作アクション『バレット』は殺し屋と刑事のバディムービーだを含むブックマーク スタローンの新作アクション『バレット』は殺し屋と刑事のバディムービーだのブックマークコメント

■バレット (監督:ウォルター・ヒル 2013年アメリカ映画)

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新旧ハリウッド・アクション・スターたちを集めて製作された映画『エクスペンダブルズ』は快挙だった。知名度こそ高いとはいえ、寄る年波に肉体も容色も衰え、人気にも翳りが出始めたアクション・スターが奮起一点、「俺だってはまだまだやれるんだぜ?」という姿を見せたこの映画は、どこか自嘲交じりのセルフ・パロディ的要素を込めながらも、だからこその「アクション馬鹿一代」な痛快さを醸し出していた。そしてその立役者となり監督・脚本を務めたのがシルヴェスター・スタローンだったというわけだ。

そして『エクスペンダブルズ』以外でスタローンが主演を張った映画を、自分が最後に劇場で観たのはいつだったろう?と思ったのである。記憶を遡ると2008年公開の『ランボー/最後の戦場』が一番最近劇場で観たスタローン映画ということになる。しかしあれは人気シリーズものだから、それ以外でとなると今度は1996年の『デイライト』あたりまで遡る。もはや15年以上前の映画である。実はスタローンという俳優がそれほど好きではなかった時代があり、それで観ていなかったというのもあるが、それでもフィルモグラフィーを調べてみると、ロッキーやランボーのシリーズ作以外では、それほどパッとした映画に出演していない。やはりスタローンにとっての『エクスペンダブルズ』は、本人にとっても起死回生の1作だったのだろう。

そんな『エクスペンダブルズ』に出演していた人気アクション・スターの一人にアーノルド・シュワルツェネッガーがいる。シュワルツェネッガーの場合はカリフォルニア州知事就任というブランクもあったにせよ、やはりスタローン同様「もはやアナクロな肉体派のアクション・スター」というイメージがあった。しかしほんのちょっとではあるが『エクスペンダブルズ』への出演を果たし、さらに『2』ではスタローンとタッグを組んだ大活躍、その返り咲き振りにしみじみ「アナクロかもしれないけど一周回ってこれはこれで悪くないなあ」と思わしめたのだ。そんなシュワルツェネッガーのついこの間公開された復帰第1作『ラストスタンド』は、まさにそんなアナクロぶりが逆に抜群の安定感を感じさせる快作として仕上がっていた。

というわけで『バレット』である。この映画、スタローン久々のシリーズ物ではないアクション映画であり、『エクスペンダブルズ』で自らのキャリアにもう一度手応えを感じて作られたアクション映画だという気がする。正直に言ってしまうと、予告編を観てそれほどそそられるものは感じなかったのだが、シュワルツェネッガーの『ラストスタンド』を映画復帰のご祝儀代わりに観たように、『エクスペンダブルズ』で充分楽しませてくれたスタローンへの、ご祝儀代わりにこの映画を観ようかと思ったのだ。

物語は雇い主に裏切られた殺し屋スタローンと、それに関わる事件を追う刑事サン・カンとのバディ・ムービーとなっており、まずその組み合わせの面白さに惹かれた。原作はもともとフランスのグラフィック・ノベルなのらしく、そのせいか程よいノワール・テイストを醸し出す。監督はウォルター・ヒル、際立った派手さはないものの、堅実で外れのないバイオレンスとアクションを見せる。そういった緊張感とは裏腹に、主人公二人の奇妙にユルいボケ突っ込みのようなやり取りが楽しい。この辺、映画『ラストスタンド』で感じたのと同じような、「80年代90年代を思わせるどことなくアナクロでもっさり、しかして質実剛健で安心して観られるアクション・ムービー」として仕上がっているのだ。特筆すべき映画でもないが、履いて捨てるような映画でもない。サクッと観られて御代分楽しめて映画館を出られる映画。年を取ったせいなのか、なんだかこの位の映画が丁度よく感じてしまう今日この頃である。

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20130610(Mon)

[]映画『G.I.ジョー バック2リベンジ』は「モータル・コンバットvsXメン:メガフォース風味」だった 映画『G.I.ジョー バック2リベンジ』は「モータル・コンバットvsXメン:メガフォース風味」だったを含むブックマーク 映画『G.I.ジョー バック2リベンジ』は「モータル・コンバットvsXメン:メガフォース風味」だったのブックマークコメント

G.I.ジョー バック2リベンジ (監督:ジョン・チュウ 2013年アメリカ映画)

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女の子にはバービー人形、男の子にはG.I.ジョー。メリケンの子供用玩具G.I.ジョーを映画化した(正確にはアニメ作品の映画化らしい)『G.I.ジョー』だったが、その来歴のせいか映画のほうも玩具のような出来ではあった。造形はまずくないが人形なだけに中身は空っぽ。同じハズブロ製品を映画化した『トランスフォーマー』が「生きているように動くロボット」を再現したにもかかわらず、映画の『G.I.ジョー』は「ロボットみたいに中身のない人間」が右往左往する作品だった。もとが子供向けのものを大人でも鑑賞に堪える作品に仕上げるのが得意なハリウッドなのに、特殊兵器!砂漠の秘密基地!悪の秘密結社!と、なんだか「ショッカーとゴレンジャーの戦い」をセットだけ金掛けて見せられているようなお子チャマ感が拭えない中途半端な作品だったのだ。まあパリでのドンパチシーンは楽しかったけどね!

それでも結構なヒットはしたらしいのだが、やっぱりお話がお子チャマ過ぎだろうという反省があったのか、続編である今作『G.I.ジョー バック2リベンジ』は主演メンバーを一新、ドウェイン・ジョンソンブルース・ウィリスという脂ハゲ&枯れハゲを主演に据え、もうちっと観客年齢層を上げつつハゲ好きの女子やハゲ専の男子を観客に取り込んでのヒットを狙って製作されたと思しい作品になっている。製作者側にもリブートしたいという意向があったらしい。

しかし「主演メンバー一新」ということで前作からの続投メンバーが数人しか登場していないのではあるが、なにしろ前作の登場人物が全員キャラ的にどうでもいいような連中だったのと、観ているオレが寄る年波で記憶が殆ど無くて誰が続投なのか宇宙忍者みたいなヤツぐらいしか覚えていない。そもそも予告編で観た白忍者(ストームシャドーね)を最初「こいつイイモンだったっけ?」と思って観ていたぐらいである。

とういわけであんまり観る気もなかったこの映画だったのだが、3Dで観た予告編(雪山でぴょんぴょんするやつ)が実によく飛び出していて、「これは結構イケるか?」と思いついつい2000円の3D料金払って観てしまったと言うわけである。

でまあ感想はと言いますと、「ショッカーvsゴレンジャー」だったのが「モータル・コンバットvsXメン:メガフォース風味」になったって感じですかね。特にヒマラヤや日本が舞台になってる勘違いした神秘なオリエンタリズムに裏打ちされたニンジャ・シーンのモータル・コンバット感は強烈でしたね。あの変な感じといいますか観ていてむず痒くなってくる感じは、今にも「究極神拳!」とか言いそうでヤヴァかったでした。あとメット野郎が多いのと変身が得意な敵キャラが出てきたり、サミットに集まった各国首脳がうんたらかんたらやってるのに微塵もスケール感を感じさせないところなんかがXメン(それも第1作)臭かった要因でしょうか。

そして今作のテコ入れで導入されたドウェイン・ジョンソンがよくわかんない近未来兵器で戦ってるところなんかはレイモンド・チョウ製作総指揮・『キャノンボール』のハル・ニーダム監督による天下のトホホ特殊戦隊映画『メガフォース』のチャチさとダブって見え、あまりの悲しみにその後の展開は涙で画面が曇ってよく判らないぐらいでした。そもそもこの『メガフォース』自体が『G.I.ジョー』的な映画と言いますか『G.I.ジョー』の原点みたいな映画だったということを考えると、『G.I.ジョー』はやらなくてもいい原点回帰をしちゃった、といえるのかもしれません!まあ要するに実にB級感満載、それも娯楽の王道みたいなB級というよりは単に安いB級になってしまった悲しさに満ち溢れた哀愁のアクション映画ではありましたね!

参考:『G.I.ジョー』は特撮戦隊モノだった!? / メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

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モータル・コンバット [Blu-ray]

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20130607(Fri)

[]ヴァンパイア・ハンター ヴァン・ヘルシング博士の息子が活躍する「Diablo」タイプのアクション・ゲーム『The Incredible Adventures of Van Helsingヴァンパイア・ハンター ヴァン・ヘルシング博士の息子が活躍する「Diablo」タイプのアクション・ゲーム『The Incredible Adventures of Van Helsing』を含むブックマーク ヴァンパイア・ハンター ヴァン・ヘルシング博士の息子が活躍する「Diablo」タイプのアクション・ゲーム『The Incredible Adventures of Van Helsing』のブックマークコメント

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19世紀のヨーロッパを舞台に,有名な吸血鬼ハンターであるヴァン・ヘルシング教授の息子が、様々なモンスターと戦ってゆくというアクションRPGゲーム、それがこの『The Incredible Adventures of Van Helsing』だ。

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ゲーム・システムは直球ド真ん中に『Diablo』クローンのスラッシュ&ハック・ゲーム。亜流と言えばそれまでだが、『Diablo』と同じく、猿のように楽しめる!猿のように止まらない!『Diablo』好きにはこたえられない良作だろう。そしてゲームタイプ・システムとも『Diablo』と似つつ、雰囲気は独特のゴシック風味が漂っている。ゲーム・デベロッパであるNeocore Gamesはハンガリーを拠点としたゲーム制作会社だが、そのハンガリーの空気感がゲームの世界観に影響を与えているのだろう。グラフィックは美麗で、魔法エフェクト等も派手、そして音楽も美しい。

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プレイヤーの選択できるキャラはヴァン・ヘルシング教授の息子だけだが、これはこれでキャラ立ちしているから問題ないだろう。ゲームプレイは剣と銃の両方を使い分けて戦闘することになるが、様々なスキル・ポイントを配することにより武器には魔法効果が付加される。そして面白いのは主人公のコンパニオンとして共にモンスターと戦う幽霊、カトリーナ嬢の存在だ。『Diablo』にも助っ人システムはあったが、このカトリーナ嬢は固定。装備変更したりレベルアップ・スキルアップの概念がある。そして良家の令嬢風のカトリーナ嬢だが、戦闘時には悪鬼のような姿に変身してモンスターを叩き潰す!プレイ中はたまに主人公との会話が差し挟まれていたりしてなかなか和む。しかしこのカトリーナ嬢、実はよく見ると首が切断されていて、頭と体が離れているのだ…。

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なにしろ出来のいいゲームで、サクッとプレイする分には巨大化し複雑化した『Diablo』なんかよりも意外と楽しめるかもしれない。対応機種はPC、ゲームは現在Steamで配信中。今のところ$13.49とこのクオリティにしては大変お安い価格なので手も出やすい。将来的にはXBLAでの配信や日本語ローカライズも予定されているらしい。

Steam:The Incredible Adventures of Van Helsing

〇公式サイト:http://www.facebook.com/VanHelsingTheGame https://twitter.com/#!/VanHelsingGame

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20130606(Thu)

[]俺が殺らなきゃ誰がやる!?〜『暗殺者の正義』マーク・グリーニー著 俺が殺らなきゃ誰がやる!?〜『暗殺者の正義』マーク・グリーニー著を含むブックマーク 俺が殺らなきゃ誰がやる!?〜『暗殺者の正義』マーク・グリーニー著のブックマークコメント

暗殺者の正義 (ハヤカワ文庫 NV)

“グレイマン(人目につかない男)”と呼ばれる暗殺者ジェントリーは、ロシア・マフィアから、悪名高いスーダンの大統領の暗殺を依頼された。だがCIA時代の上官が現われ、意外な提案をする。大統領を暗殺するふりをして拉致せよ。成功すれば、今後命を狙うことはないというのだ。彼はロシア・マフィアの依頼を受けたように見せかけてスーダンに赴くが、次々と思わぬ事態が!『暗殺者グレイマン』に続く傑作冒険アクション。

伝説の暗殺者、コートランド・ジェントリー・シリーズの第2作です。前作は読んでないんですが、解説によるとかつて彼はCIA工作員で、しかしある事件が発端で解雇され抹殺指令まで下されてしまうんですね。そんな訳で身を隠しながら暗殺屋稼業を営む彼なんですが、その信条は"道義的、ないし正義の為の殺し"しか行わない、というものなんですよ。翻訳版タイトルが『暗殺者の正義』なんてなってますが、要するに殺し屋のくせして正義がどうとか能書きを気にする主人公なんですね。殺し屋ってクールでニヒルで非人間的なイメージがありますが、この彼の場合は殺し屋というよりは闇の世界の正義のヒーローって感じなんですね。まあそんなヤツですから当然のことながらタフでマッチョで気が優しくて力持ちなわけなんですよ。おまけに結構人情家だったりするんですよ。変な暗殺者ですね。

そんなもんですからこのコートランドさん、伝説の暗殺者のくせになぜか冒頭からチンピラ相手に苦戦してたりします。いいのかオイ。ホントに伝説の暗殺者なのかオイ。で、ロシアン・マフィアにスーダン大統領暗殺を依頼されるんですが、「いや、依頼者はマフィアだけどスーダン大統領って酷い奴だから殺すのは結果的にいいことだから」とか自分に言い聞かせて仕事引き受けるんですね。そしたらかつてのCIAの上司から「殺さないで拉致って俺らの所に連れてくればあんたの抹殺指令取り下げるから」とか持ち掛けられてこっちもOKするんですね。意外と節操無い奴なんですねこの伝説の暗殺者。というわけでスーダンに向かうんですが、途中着陸した現地の空港で厄介事に巻き込まれていた跳ねっ返りの女を助けたばかりに計画が脇道にそれてしまい、いらない戦闘といらない死体をあたりにばら撒く伝説の暗殺者なんですね。ホントお節介焼きな暗殺者もあったもんですね。

まあしかしこの中盤までは多分時間持たせというか枚数稼ぎだったと思うんですね。いよいよスーダン大統領拉致作戦開始!となったところから、予期せぬ事態が次々と起こり、危機また危機の連続、アクションに次ぐアクション、銃撃に次ぐ銃撃の、畳み掛けるような展開が待っているのですよ!ぶっ殺してもぶっ殺してもわらわらと湧いてくる敵兵との息つく間もない戦闘はもはや『ブラックホーク・ダウン』状態!でも主人公もランボージョン・マクレーン入ってるダイハード野郎ですから容易くやられや致しません!物語は最後までどんでん返しが続き、一気呵成にラストまで読み終わっちゃいました!ちょっと乱暴というか突っ込み所ありというか粗い部分もあるっちゃああるんですが、エンターティメントした爽快冒険アクション小説としちゃあ格好の出来だと思いますよ!

OsamoonOOsamoonO 2013/06/06 12:30 この時代に80年代バリの冒険小説が読めたことに興奮します!前作も味わいが違いますので、オススメです。

globalheadglobalhead 2013/06/06 22:27 おお!OsamoonOさんは冒険小説がお好きだったんですね!自分もいろんなのをぼちぼち読んでみようかと思うとります。

20130605(Wed)

[]最近聴いたエレクトロニック・ミュージック / Mount Kimbie,Minilogue,Sandwell District,Francois K,The Black Dog,DJ Sprinkles ,Muro 最近聴いたエレクトロニック・ミュージック / Mount Kimbie,Minilogue,Sandwell District,Francois K,The Black Dog,DJ Sprinkles ,Muroを含むブックマーク 最近聴いたエレクトロニック・ミュージック / Mount Kimbie,Minilogue,Sandwell District,Francois K,The Black Dog,DJ Sprinkles ,Muroのブックマークコメント

■Cold Spring Fault Less Youth / Mount Kimbie

1stが各所で絶賛を浴び、ポスト・ダブステップ・アーティストとして注目を集めるMount Kimbieの2ndはJames Blakeを意識してか唄モノを多めにフィーチャー。ただそのヴォーカル自体が弱くてちょっと腰砕けに聴こえちゃうんだよなあ。 《試聴》

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■Biomma / Minilogue

Blomma

Blomma

Cocoon RecordingsよりリリースされたMinilogueのNew。もともとトランス出身ということもあってか、アンビエントも交えたスペイシーなテクノ・サウンド。 《試聴》

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■Fabric 69 / Sandwell District

Fabric 69: Sandwell District

Fabric 69: Sandwell District

Fabricの69番は奇っ怪な音世界を創り出すアンダーグラウンド・テクノの人気者Sandwell District。音的にはインダストリアル系で、これはこれで楽しめるのだけれどもあまり意外性のないミックスかも。 《試聴》

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■Renaissance:The Masters Series Part 19 / Francois K

The Master Series - Mixed By Francois K

The Master Series - Mixed By Francois K

ゴッドファーザー・オブ・DJ、Francois KがRenaissance:The Masters Seriesに降臨。無駄無くそつ無く徐々にエクスタシーの高みへと登らされてゆく流麗なるそのミックスは派手さはなくともまさに神がかりともえいる完璧さ、一家に1枚Francois Kであります。 《試聴》

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■Tranklements / The Black Dog

Tranklements

Tranklements

UKエレクトロニカの重鎮The Black Dog3年ぶりのNew。フロア、リスニングとバラエティに富んだ音作りで余裕ある所を見せてますが、今回のはあんまり好みの音じゃなかったかなあ。 《試聴》

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■Where Dancefloors Stand Still / DJ Sprinkles

Where Dancefloors Stand

Where Dancefloors Stand

ハウス・プロジェクトDJ Sprinklesによる初のDJミックス。美しく浮遊感に満ちた音でディープに優しく攻めてくれております。これは良作。 《試聴》

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■SUPER FUNK BREAKS LESSON 7-8 / Muro

f:id:globalhead:20130516184156j:image asin:B00CPQ1P2E

DJ Muroさんによる復刻リマスターシリーズの完結編。熱く黒いクラシック・ファンクがブンブン唸りを上げております! 《試聴》

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20130604(Tue)

[]”知りすぎた男”の恐怖を描く緊迫のエスピオナージュ小説『ケンブリッジ・シックス』 ”知りすぎた男”の恐怖を描く緊迫のエスピオナージュ小説『ケンブリッジ・シックス』を含むブックマーク ”知りすぎた男”の恐怖を描く緊迫のエスピオナージュ小説『ケンブリッジ・シックス』のブックマークコメント

■ケンブリッジ・シックス / チャールズ・カミング

ケンブリッジ・シックス (ハヤカワ文庫NV)

キム・フィルビーら5人のケンブリッジ大学卒業生がソ連のスパイだったことが発覚し、英国は大打撃を受けた。だが彼らのほかに、もうひとり同時期に暗躍していたスパイがいたという。歴史学者のギャディスは親友の女性ジャーナリストからこの人物に関する本の共同執筆を提案されるが、その女性が急死し、彼は後を継いで調査を開始する。が、やがて国際情勢を左右する事実が明らかに! 巧妙に構築されたスパイ小説の力作。「二人の巨匠ジョン・ル・カレグレアム・グリーンに比肩する作家だ」(ワシントン・ポスト)

ジョン・ル・カレグレアム・グリーンとも比肩すると評判の本格スパイ小説の旗手、チャールズ・カミングの本邦初訳作品です。タイトルの『ケンブリッジ・シックス』というのは1950年代に発覚した「ケンブリッジ5人組」事件という史実を元にしています。この事件は戦間期から1950年代にかけてイギリスで活動したソビエト連邦のスパイの正体が発覚したというイギリス諜報史上稀にみるスキャンダルで、この5人がケンブリッジ大学出身のエリートであったためにこういった名前が付けられているんですね。現実の5人はそれぞれ亡命したり死亡したりしていますが、この「ケンブリッジ5人組」にまだ発覚していない6人目が存在していたのではないか?というのがこの『ケンブリッジ・シックス』の端緒となっています。しかしこの物語はそういったスパイ事件の歴史など全く知らなくても十分に楽しめます(自分がそうでしたから)。

物語の主人公は歴史学者であり作家であるサム・ギャデス、彼は離婚とそれに伴う養育費の支払いで金欠となり、"売れるルポルタージュ"を書こうと親友の女性ジャーナリストと共同で「ケンブリッジ6人目のスパイ」について執筆しようと軽い気持ちでこの事件に近づきます。しかし、この女性ジャーナリストは突然の急死を遂げ、さらに情報提供者の一人も不可解な死を迎えます。折しも「事件に関わった当事者の一人」とうそぶく謎の老人がギャデスに接近し、「ケンブリッジ・シックス」の情報を小出しにしはじめるのです。そして背後ではイギリス、ロシアの諜報部が暗躍し、ギャデスへの包囲網を狭めていきます。たかだか市井の人でしかないギャデスは、強大なる諜報機関の魔の手に怯え命の危険を感じますが、友人の死を無駄にしたくないという一念から、あえて身を挺し徒手空拳のまま事件の真相を追い続けます。そして遂に辿り着いたその真相とは、ロシア国家それ自体を揺るがすような恐るべきものだったのです。しかし、彼と関わった者は次々と諜報部から暗殺され、ギャデスは見知らぬヨーロッパの町を逃走し続ける羽目になる…というのがこの物語です。

虚々実々、権謀術策の陰謀に次ぐ陰謀が渦を巻き、網の目のように罠が張り巡らされ、何が真実で何が嘘なのか、誰が味方で誰が敵なのか茫として解らぬままギャデスは運命に翻弄されていきます。それはあたかも鏡の国の戦争に巻き込まれたかのような、現実の裏側で進行する影の戦争、誰一人知らない闇の組織との戦いです。二重思考と二重生活、裏と表の社会に生きる諜報員たちが次々と登場し、まるでこの世界は一枚皮を剥くと誰も見たこともない不気味な異世界が広がっているかのようにさえ感じさせます。この物語は、ル・カレに代表するような敵対諜報部同士の息詰まるような諜報合戦を描くエスピオナージュ小説ではなく、「国家さえも揺るがすような、知るべきではない事実を知ってしまったごく平凡な男が巻き込まれる身の毛もよだつスリラー」として突出した面白さを醸し出しています。

中盤までは平凡な男であるギャディスが英・露の諜報機関にただただ欺かれ翻弄される様がじわじわと描かれますが、中盤のある事件をきっかけに物語は急展開、ギャディスも英・露諜報機関も含め全ての計画と陰謀が瓦解し、ここからは予想もつかず予断も許さない緊迫した状況がジェットコースターのように驀進してゆくのです。エスピオナージュ小説は暫く読んでいませんでしたが、この『ケンブリッジ・シックス』には舌を巻きました。ル・カレなどのエスピオナージュ小説好きの方、スパイ映画がお好みの方には是非手にとって読んでもらいたい傑作ですね。

20130602(Sun)

[]忘却の惑星〜映画『オブリビオン忘却の惑星〜映画『オブリビオン』を含むブックマーク 忘却の惑星〜映画『オブリビオン』のブックマークコメント

オブリビオン (監督:ジョセフ・コジンスキー 2013年アメリカ映画)

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トム・クルーズ主演のSF映画『オブリビオン』は、荒野と化した地球で孤独な保全作業を続ける男が、異星人侵略の本当の真実を知るまでを描いた映画だ。以下なるべくネタバレしないように紹介。

物語は突然の異星人の侵略に人類がかろうじて勝利を収めてから60年後の世界が描かれる。汚染された地球は既に居住不可能となり、生き残った人々は土星の衛星タイタンへの移住を余儀なくされていた。主人公ジャック・ハーパー(トム・クルーズ)とパートナーのヴィクトリア(アンドレア・ライズブロー)は、異星人残党の掃討と、移住計画の保全作業のため、荒廃した地球に居残り、タイタンへ旅立つ日を間近に控えながら地球の最期を見守っていた。そんなある日、空から謎の宇宙船が墜落、そのただ一人の生き残りである女(オルガ・キュリレンコ)を回収したジャックは、見知らぬ筈のその女に自らの名前を呼ばれる。その女は誰なのか?自分はなぜ記憶を抹消されているのか?保全作業と言われていた自らの職務の本来の目的は何だったのか?そして異星人たちの侵略は本当に終わっていたのか?忘却の彼方から、真実が少しづつ明るみになり始める。

荒廃した地球。廃墟と化した都市。人っ子一人いない荒野がどこまでも続き、辛うじて残る文明の残滓がかつての繁栄を物語るのみだ。これまで「文明崩壊後の地球」を描いた映画作品は数あるだろうが、『オブリビオン』ではもはや見渡すばかりの荒野、荒野、文明崩壊後60年というよりも石器時代まで遡りしたかのような寂寞感がみなぎる。この荒野の情景が素晴らしく美しい。アイスランドで撮影されたということだが、もはや地球というよりも見知らぬ異星を映し出したかのよう。この荒野の情景がまずこの映画の見所だ。

そしてその荒野の只中に存在する、主人公とパートナーとが駐留する保全基地「スカイタワー」の未来的な美観。地上1000メートルにそびえるそれは蜘蛛の巣のように華奢でか細く、しかし未来科学による確固とした剛体を兼ね備えていることを感じさせる。そのスカイタワーから飛び立つバブルシップの機械仕掛けの昆虫の如き美しさ。さらに防衛・戦闘用無人飛行マシーン「ドローン」の禍々しく無機的なフォルム。そして主人公とパートナーの機能的なコスチューム。これらは全て白とグレイと青とで統一され、非常に秀逸なSFデザインとして観る者の目を奪う。

この廃墟と化した地球の情景にぽつねんと現れる冷たく未来的なビジュアルとの対比、といった部分でこの作品はまず半分は成功しているといえる。SF映画作品としての魅力を非常に感じさせるのだ。しかしこの映画はデザインやVFXだけが魅力の映画だという訳では決してない。この『オブリビオン』を真に秀逸なSF映画たらしめているのはその物語だ。ネタバレを避けるため多くは書かないが、地球壊滅後の世界を描きながらも、この映画は多くの謎を冒頭から投げかけながら進行する。まず主人公ジャックが夢の中で観る破滅前の地球での記憶。破滅後60年を経過しているのに、ジャックに破滅前の地球の風景の記憶がある筈が無い。そして機密保持の為に5年以前の記憶が抹消されているという理由も不可思議だ。そしてジャックを襲う異星人の残党と思われていた者たちが、実は地球人だった、という事実。彼らは何者で、ここで何をしていて、何が目的なのか?最大の謎は不時着した宇宙船が60年前のものであり、その中から生き延びた女がジャックを知っている、という事実だ。これは何を意味するのか?

これらの謎が交差しながら、物語は次第に宇宙人地球侵略の真の全貌が明らかになってゆくのだ。そしてそこで描かれるのは、実はラブストーリーであり、そしてそれは、失われた記憶と、悲痛な事実とがない交ぜになった、あまりにも切ない物語だったのである。タイトル『OBLIVION』の意味は「忘却」。ジャックは何を忘却していたのか、またはさせられていたのか。自分とは誰か?自分とは何か?自分はどこから来てどこへ行くのか?かつて多くのSF作品は、それらを主題としながら幾多の傑作を残してきた。そしてこの『オブリビオン』も、そのあまりにもSF的な命題をテーマに描かれた傑作の一つとして数え上げられることは間違いない。

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