泣き虫メガネっ娘の恋〜映画『Sanam Teri Kasam』

■Sanam Teri Kasam (監督:ラディカー・ラーオ/ヴィナイ・サプルー 2016年インド映画)

■泣き虫メガネっ娘とチョイ悪男の恋

厳格な父がいる上に地味なメガネっ娘なばかりに結婚できず落ち込んでいた女性が、ワケアリ風のちょっとワイルドな男と知り合って自信を取り戻していくが…というインドで2016年に公開されたラブ・ロマンスです。出演はハルシュヴァルダン・ラーネーとマウラー・フセイン、監督がラディカー・ラーオのヴィナイ・サプルーのコンビ。よく知らない俳優と監督なんですが、主演女優のマウラー・フセインのたれ目具合とスレンダーな容姿になんだか惹かれてしまい、観てみることにしました。そしたらこの作品、最初の予想を大いに裏切り後半「大泣かせ大会」の作品だったのでびっくりしました。

《物語》図書館司書を務めるサルー(マウラー・フセイン)は地味でメガネっ娘、さらに泣き虫。父親は宗教大好きの頑固オヤジで、あまりの固さにサルーの結婚相手もなかなか決まらない。そのサルーたち家族の住むアパートにはインデル(ハルシュヴァルダン・ラーネー)という遊び人のような男が住んでいて、サルーの父は「風紀を乱すけしからん男だ!」と鬼のように嫌っている。ある深夜、サルーが怪我をしたインデルを看病していたところを父が見つけ、「お前ら夜中にナニやっとんじゃ!きっといかがわしいことに決まってる!こんなふとどき者は娘でもなんでもない!」とサルーを追い出してしまう。不憫に思ったインデルはサルーの住処を探し、彼女を美しい女性に変身させるが、彼女のかつての婚約者が「やっぱ俺ら結婚しない?」と言い寄ってくるから話がこじれ始める。

■「誰にも愛されない女」と「誰もが愛そうとしない男」

とまあこんなお話なんですが、まず前半は、「自分に自信の無い女子」が「チンピラ風のカッコイイ男子」と出会い、徐々に「イイ女」になってゆく、という流れなんですね。この「自分に自信の無い女子」を演じるマウラー・フセインがやっぱりいい!大きな鼻にちょっぴりタレ目、細面でスレンダー、色気の無いメガネとハスキーヴォイス、いつも自信なさげにオロオロしていて、そしてしょっちゅうメソメソ泣いている!「泣き虫メガネっ娘」ってなんかもー一昔前の少女漫画かって感じですが、いやー好みだわー後半メガネ取って綺麗な女子に生まれ変わるけど、前半の地味なメガネっ娘状態の時のほうがときめかされるわー。押しの強くない部分でインド女優っぽくないんですが、実はパキスタンの女優さんなんだそうです。(↓劇中はこんなメガネっ娘ですがホントはこんな女優さんです)

一方相手役のインデル、全身入れ墨だらけでいつも半裸で上半身の筋肉(と刺青)を見せびらかし、さらにいつも酒瓶持って酔っぱらっており、最初はエロいチャンネーをはべらせて公衆の面前でイチャイチャし放題、という見るからにチンピラ風情の男なんですが、そんな男なのに出会ったサルーにはなぜか優しいし、彼女が追い出された後も甲斐甲斐しく面倒見るんですね。こんなチンピラいねーだろ、とは思いますが、いやそこはインド独特の少女漫画展開と思えばなんとなく納得は行くというもの。そもそもこのインデルが乱れた生活をしているのも、弁護士をやってる父親となにやら悶着があったからで、いわゆる「ちょいグレ」ではあっても親への反抗心を捨てきれない幼くて繊細な部分が彼のハートにはあるということなんですよ。このインデルを演じるハルシュヴァルダン・ラーネー、テルグの男優なんだそうですが、なかなか艶っぽいイイ男じゃあーりませんか(↓こんな男優さんです)。

こんな二人が知り合って、そしてサルーはインデルの見せる新しい世界に自分を変えてゆくわけです。二人の最初の出会いのエレベ―ターシーンも楽しいし、野外マーケットで酔っぱらってインデルに大いに甘えて見せるサルーの姿にも心ときめかされます。もういろいろこじらせていた女子が発散しまくりです。しかし、この二人がくっつくかと思うとそうじゃないんですよ。自信の付いたサルーはかつての婚約者との結婚を決めてしまうんですね。この流れはなんじゃ?とは思いますが、サルーにとっていくら剣呑な父親でも、父親からの「固い男と結婚する」という呪縛からは逃れられていなかったんじゃないのかとも思えるんですね。というかそういうことにしておきましょう。インデルは「俺は当て馬かよ!」と思いつつ、それでもやっぱりサルーに尽くすんですよ。チンピラだけど甲斐甲斐しい、この辺、インド童貞男子が考えそうなキャラ設定ではありませんか。

■やりすぎなぐらい泣かせに入る怒涛の後半!

しかーし!後半から大波乱が訪れるんです。どんなことが起こるかは書きませんが、こっからはあれやこれや盛り込みまくりで物語が突っ走ってゆきます。そしてこれがもうこれでもかこれでもかと泣かせに入り、それをクドイ程に引っ張る引っ張る!このトチ狂った&とっちらかった怒涛の展開は「シナリオライターなにかあったのか?」と思わせるほどです。最初は面食らったんですが、流れに身を任せてみればあーら不思議、こんな定番クサイ泣かせのシナリオに、このオレ様ですら思わず滂沱の涙の流してしまったほど!鬼の目にも涙ってヤツでやんすか!オジサンこれは一本取られたね!こんなシナリオと併せ後半の美しい美術と美しい音楽がまた素晴らしいんですよ。ホテルのシーンもよかったですが、インデルのサルーへの"サプライズ"のシーンは、うっとりするぐらいファンタスティックな上に、卑怯な程に泣かせ攻撃が入ります!いやオレこの映画好きだわ!

しかしなにこの泣かせ展開、と思ってたらそれも当然、この作品、実は1970年に公開されたある有名なハリウッドのラブ・ロマンス映画をベースのストーリーにしているからなんですね(タイトル分かっただけでネタバレしちゃう方もいるかもしれないのでリンクにしました)。これがモトネタなら「大泣かせ大会」になるのも頷けるというもの。作品的には賛否両論あるようですし、幾分謎展開もなきにしもあらずなんですが、基本的にインドのラブロマンスは日本人には(まあオレだけのような気もするが)若干謎展開ですので、「こんなもんだ」と思えばなかなかにハマる良作でしたよ。

http://www.youtube.com/watch?v=1IpBoMWRjm8:movie:W620