「俺、主夫になりたいっす!」〜映画『Ki & Ka』

■Ki & Ka (監督:R・バールキー 2016年インド映画)


「私、仕事に人生賭けてるの!将来の夢はCEO!」というキャリアウーマンと、「俺、主夫になりたいっす!家事のことなら俺に任せろ!」という男性とが知り合って、これで結婚しちゃえばWin-Winじゃね?ということで目出度くゴールインをしたものの…というインドのロマンティック・コメディ・ドラマです。主演はカリーナー・カプールとアルジュン・カプール、さらにゲストとしてアミターブ&ジャヤのバッチャン夫婦が出演しております。監督は『Paa』(2009)、『Shamitabh』(2015)のR・バールキー。また、バールキーは『マダム・イン・ニューヨーク』(2012)でプロデューサーも務めているんですね。

稼ぎ頭が女性になって、男性が主夫をやるというケース、世間じゃ無いこともないんでしょうが、あまり一般的なことではないでしょう。一般的にあるとするとそれは「ヒモ」ということになってしまいます。女性に食わせてもらっているという意味では「主夫」も「ヒモ」も変わらないんですが、「主夫」と「ヒモ」の違いというのは…ええとよく分かりません。いくら愛があっても家事をきちんとこなしていても、女性に養われている男は世間から「ヒモ」って呼ばれちゃいますよね。それは世間一般というのは「男は稼ぐもの、女は(家計が許すなら)家庭にいるもの」ということになっているから。この物語はこういった世間一般の通念をひっくり返してしまおう、という所に主眼が置かれているんです。

アルジュン君演じるカビールには「亡くした母のような"主婦"になりたい」という動機がありました。主婦/主夫を極めたい彼の向上心は並大抵のものではなく、掃除洗濯料理をこなすのは当たり前、インテリア・コーディネートしてみたり、カリーナー・カプール演じる妻キアとそのお母さんの健康管理まで始めちゃいます。近所の主婦の皆さんと交友を深めちゃう、なんてところまで専業主婦/主夫っぽい!きちんと家計の遣り繰りもしてるし、夜だってカリーナー・カプール演じる妻キアにご奉仕しまくりだし、あとは仕事で疲れて帰ってきた妻の肩揉んだりツボを押してあげたりしてあげれば完璧です。いやー出来た主夫じゃありませんか。カビールの仕事のよさといったら主夫どころか執事です。「一人ダウントン・アビー」と言ってもいいぐらいかもしれません。オレにはここまでできませんよ…。やれなきゃダメ?(相方さんのほうを恐る恐る眺めながら)

当然こんな主夫が成り立つためには、女性でも能力があるなら性別関係なく高い収入を得られる、そういう社会である、という大前提も必要です。例え女性であってもCEOを目指せるし、例え男性であっても最高の主夫を目指せる。目指すものがCEOや主夫じゃなくても、性別に関係なく自己実現を達成できる。そんな社会を夢見た物語であるとも言えるんですよね。とはいえ、キャリアウーマンと主夫が結婚してメデタシメデタシ、ではお話が終わってしまいます。お話を転がすのにいったいどんな波乱を持ち込むのかな?と思いながら観ていたら、ほう、そっちに話を持っていくのね、といった感じでしたかね。全体的にそんなに山場は多くなくて、展開はどちらかというとシンプル。映画の長さも2時間程度とインド映画的には割とタイトなほうかも。このシンプルさとタイトさはシネコン向けの構成なのかな?ただ、サラッと気軽に観られるセンスはあります。こういったカジュアルなスタイルのインド映画も悪くないかもしれません。

最後に、この作品、インドでついこの間の4月1日に公開されたのですが、なんと!日本でもほぼ同時に公開されたんですよ。以前『Bajirao Mastani』のレヴューの時も紹介したSPACE BOX JAPANというインドの方がやっている会社によるもので、ごく一部の劇場だけの、しかも英語字幕なんですが、これは観に行かねばならん!と参加してきました。日印同時公開!なんてなんだかハリウッド大作並みです。客席は7、8割埋っていて、インド人と日本人の割合は2:1ぐらいだったかな?ラブロマンスものなのに家族連れも多く、ちっちゃいお子ちゃまの姿もありましたね。まあこのお子ちゃまたちが泣いたり途中でゲームかなにかの音を立てたり劇場は賑やかでしたが!上映中ではオレのよく分からないポイントでインドの方が笑っていて、「そうかここはインドでは可笑しい部分なのか」などとちょっと勉強(?)になったりしました。それとインドのお客さんは上映中少々喋くるんですが、これはインドスタイルなんだろ、と思ったらあんまり気にならなかったな。え?インドじゃそんな客いない?えええ!?

http://www.youtube.com/watch?v=B2fxtycjf_I:movie:W620