最近読んだSF小説〜『宇宙探偵マグナス・リドルフ』『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』

■宇宙探偵マグナス・リドルフ / ジャック・ヴァンス

ある時は沈毅なる老哲学者、ある時は知謀に長けた数学者、しかしてその実体は宙を駆けるトラブルシューター、その名もマグナス・リドルフ! 魑魅魍魎の異星人たちを相手に、白髪白鬚の老紳士マグナスの超思考が炸裂する痛快無比な宇宙ミステリシリーズがついに登場。奇習に彩られた惑星ココドでの合戦賭博を中止させるよう依頼を受けたマグナスが講じたアクロバティックな手段とは?代表作「ココドの戦士」の他、歓楽惑星のカジノ経営者の犯罪アリバイトリックを暴くために己の数学センスを駆使する「数学を少々」、閉鎖された空間〈ハブ〉で起きた殺人事件をめぐるフーダニットもの「とどめの一撃」など、ミステリからファンタジー、秘境探検に海洋冒険、さらにはハードSFまで、ヴァンスのヴァラエティに富んだ世界が堪能できる連作全10篇収録。

ジャック・ヴァンス、個人的にはそれほど馴染のあるSF作家ではなかったが、以前国書から出ていた『奇跡なす者たち』を読んでその独特の筆致に感嘆し、また読んでみようかと思っていた作家である。ヴァンスの独特の筆致とは異世界描写におけるエキゾチズムと色彩感覚にある。そしてそれらがSF小説における異郷感を大いに醸し出しているのだ。ヴァンスは世界一周旅行をしたこともある旅行好きだったということだが、そういった経験と生来ある異邦への憧れがこれらのエキゾチズムと色彩感覚を生み出していたのではないか。
そんなヴァンスの連作短編集がまたもや国書から出されるというのでとりあえず読んでみることにした。タイトルは『宇宙探偵マグナス・リドルフ』、白髪白髭の矍鑠たる老紳士マグナス・リドルフが、暗黒宇宙に起こる奇想天外な事件の謎を優れた理力で快刀乱麻に解決してゆくといったストーリーだ。特徴的なのは一癖も二癖もある食えない連中が依頼主、あるいは敵役として登場し、隙あらばマグナスの身ぐるみを剥ごうと虎視眈々と狙っており、これらをマグナスがどう出し抜くのかといった「腹の読み合い・騙し合い」の様相が物語を楽しくしている。主人公マグナスの鷹揚として振る舞う知的なキャラクターもまた魅力的である。
この短編集には10編の物語が収められているが、それぞれに異なる惑星の事なる情景が、ヴァンスの面目躍如たる格別なエキゾチズムを湛えており、事件究明の物語と併せSF小説ならではの異郷感を堪能することが出来るのも醍醐味の一つだろう。ヴァンス連作短編集はこの他に『天界の眼』『スペース・オペラ』の2冊が刊行されているが、また気が向いたら手に取ってみようかと思っている。

伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ / ルイス・バジェット他

伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ (ハヤカワ文庫SF)

伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ (ハヤカワ文庫SF)

未来人がタイム・マシンのテスト用に過去へと送った、いらなくなったおもちゃ箱。それを偶然手にした兄妹の身に起こったこととは…ルイス・パジェットの幻の名作である表題作をはじめ、SF界の大御所ポールの初期の代表作「虚影の街」、異星からの恐るべき侵略を描くブラナーの「思考の谺」など、SF界きっての目利き伊藤典夫が惚れこみ翻訳した傑作の中から、SF評論の第一人者高橋良平が厳選した7中短篇を収録。

SF翻訳家伊藤典夫といえばヴォネガットやクラークやオールディスなどの超名作を手掛けた翻訳家だ。ただし個人的に言うなら自分は翻訳家それ自体に深い思い入れのあるような人間ではない。だから「伊藤典夫翻訳SF傑作選」と聞いてすぐさま飛びついたわけではないが、氏の訳したSF短編だというならSF黎明期の埋もれた作品が多数収められていのではないかと思い手に取った。するとなるほど、収録された7編は1943年から1959年に発表されたもので、さらに「名前こそ知ってはいるが意識して読み込んだ事がない」ようなシブイSF作家の名前が目白押しだった。そして最初の想像通りどこか懐かしくもまた甘酸っぱい味わいのSF作品が並んでいる。一人のロートルSFファンとしてはこの辺の作品を読んでいると紅顔でも美少年でもなかった饐えた臭いの10代の頃をついつい思い起こしてしまう。面白いのは、この年代の作品は深読みしようとすると第2次世界大戦前後、さらに冷戦時代の英米の世相と住民心理が微妙にうかがえるということだ。そういった部分でSF史と並行してある現代史を念頭に置いて読むと面白いかもしれない。