サルマーン兄ィがまたもや大暴れするインドのスパイアクション・ムービー『タイガー 裏切りのスパイ』!

タイガー 裏切りのスパイ (監督:マニーシュ・シャルマ 2023年インド映画)

インドのスパイアクション映画「タイガー」シリーズ第3弾!

ボリウッド映画なんてェ呼び方もされるインドのヒンディー語映画界には俗にいう「3カーン」と呼ばれる大スターが君臨しておりましてな。一人が「キング」と呼ばれ愛されるシャー・ルク・カーン、もう一人が日本じゃ映画『きっと、うまくいく』が有名なアーミル・カーン、そしてもう一人が今作『タイガー 裏切りのスパイ』の主演男優サルマーン・カーンな訳なんですよ。サルマーン・カーン、大ヒットアクション作『ダバング 大胆不敵』を始めとして『バジュランギおじさんと、小さな迷子』や『プレーム兄貴、王になる』といったヒューマンドラマでも高い人気を誇る俳優です。オレも大好きなインド人俳優の一人で、拙ブログではよく「サルマーン兄ィ」と呼んで敬愛の情を示しているほどです。

さて映画『タイガー 裏切りのスパイ』はスパイアクション映画「タイガー」シリーズの第3作となります。「タイガー」シリーズはインドの国家諜報機関RAWの伝説的スパイ、タイガーを主人公としたシリーズで、これまで『タイガー 伝説のスパイ』(2012)『タイガー 蘇る伝説のスパイ』(2017)が公開されています。『伝説のスパイ』は少々ロマンチックコメディ風味なんですが、『蘇る伝説のスパイ』はランボー並みの壮絶バトルを見せてくれる作品でした。

二重スパイ嫌疑に揺れるインドとパキスタンの諜報局員!

さて「タイガー」シリーズ第3作となるこの『裏切りのスパイ』では、主人公タイガーの愛する妻でありパキスタン軍統合情報局(ISI)の局員でもあるゾヤに二重スパイの嫌疑が掛けられるという物語です。インドとパキスタンの諜報員が夫婦!?というのはちょっと驚きですが、「タイガー」シリーズはその1作目から、本来は敵対関係にあるインドとパキスタンの諜報員同士が恋をして結ばれ同時に強大な敵と戦うという、いわば両国家の融和と共闘をテーマとして描かれた作品なんですよ。

しかし今作はその融和に暗雲が垂れ込め、ゾヤがテロリストの手先として動いている!?という展開を見せます。このゾヤを日本公開作『チェイス!』(2013)や『バンバン!!』(2014)出演のインド名女優カトリーナ・カイフが演じています。アクション良しルックス良しの大変素敵な女優さんなので、皆さんも一度劇場でご対面されることをお勧めします!

インドスパイ映画ユニバース「YRFスパイ・ユニバース」の1作

しかもこの『裏切りのスパイ』、「YRFスパイ・ユニバース」と呼ばれる、他のインドスパイ映画と同じ世界を共有する映画として描かれているのがなにより心憎いんですよね。いわゆるアメコミスーパーヒーロー映画の集う「MCU」やゴジラを始めとするモンスターが集合する「モンスターバース」のインドスパイ映画版と言えばいいでしょうか。

この「YRFスパイ・ユニバース」ではリティク・ローシャン主演の『WAR ウォー!!』(2019)、シャー・ルク・カーン主演の『PATHAAN パターン』(2023)が「タイガー」シリーズの世界と融合するという訳です。映画『PATHAAN パターン』では既にタイガーがその姿をちょい見せしていましたが、この『裏切りのスパイ』では誰がどこでどんな具合に絡んでくるのか楽しみにして観て下さい!期待は絶対に裏切りません!

痛快なアクション作!

この『裏切りのスパイ』の見所はなんといってもとことん痛快なアクションにあるでしょう。ド派手な銃撃戦と肉弾戦、景気のいい大爆発、インド映画お得意のスローモーションを多用した溜めのあるアクション、アクションの度に高らかに鳴らされるテーマソングと、憎たらしいぐらいに盛り上げに盛り上げます。それはあたかも歌舞伎俳優が大見得を切るときみたいな華々しさ&格好良さで、実にインド映画らしい演出だと言えるでしょう。サルマーン・カーンのアクションの良さは定評ですが、カトリーナ・カイフがタオル一枚体に巻いた姿で、同じくタオル一枚だけの敵女将軍と格闘を演じるシーンは、個人的に今作における最大のハイライトシーンでした!

また、インドのスパイ作品という事で、「007」や「ミッション・インポッシブル」シリーズといった欧米のスパイ作品とは一味違う世界観を見せてくれる部分も見所の一つです。ロケはインドをはじめトルコ、ロシア、オーストリアで行われ、スパイアクションらしいワールドワイドな光景が目を奪います。これまでの「タイガー」シリーズや『PATHAAN パターン』ではストレートで骨太なアクション展開を見せていましたが、今回の『裏切りのスパイ』では二転三転するストーリー展開により面白さを感じました。今後の「YRFスパイ・ユニバース」、そして多分次に公開されるであろう『WAR ウォー!!』第2作でのスパイたちの活躍が楽しみでなりません。そういった意味でも「YRFスパイ・ユニバース」企画は大正解だったんじゃないでしょうか。

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連休の反省:2024

4月27日土曜日

今年のゴールデン・ウィークも会社は暦通りのお休み。連休初日はまず髪を切りに行ってさっぱりした。どうやら今年初めて髪を切るのらしい。随分伸びない髪だな……というか、髪がもう残り少ないんだな……。

その後相方さんと桜木町で合流、夏物洋服選びに付き合う。3時間ぐらいぶらぶらしてから居酒屋にGO!刺し盛りが美味かったよ!

4月28日日曜日

一日掛けて相方さんの部屋の家具移動を手伝う。この日は暑かったがまだ爽やかな暑さだった。

4月29日月曜日(昭和の日)

家でダラダラとブログの下書き。連休ってもっと他にやる事あるはずなんじゃないのか。そうじゃないのか。

5月3日金曜日(憲法記念日

連休後半戦。映画を観に行き、ブログ記事を書く。記事はまた後日更新します。風邪引いたみたいでちょっとだけ調子が悪い。

5月4日土曜日(みどりの日

風邪っぽかったが最近の相方さんの趣味となっている旧東海道巡りに付き合う。これはまた別記事にまとめておきます。途中、お昼におろし天婦羅蕎麦を食べた。

散々歩いて疲れたし喉も乾いたので、この日の夜は焼肉屋でビール三昧。焼肉をたっぷり食べ、大ジョッキ3杯とマッコリを飲んで撃沈した!

5月5日日曜日(こどもの日)

前日相当飲み過ぎてしまいダウンしていた。とはいえ天気も良かったので布団干しを敢行、ちょっと気分が良くなる。午後からはゲームをして1本クリアする。夜は何か作るのも面倒で、ピザを注文して『水曜どうでしょう』のブルーレイを観ながら食べる。『水曜どうでしょう』があまりに面白過ぎて遅くまで観ていた。

5月6日月曜日(こどもの日の振り替え休日)

連休最終日。この日は朝から掛け布団の洗濯。オレは洗濯が好きなんだ!DVD1本観て、例によってブログの下書き。そんなにブログが好きなんですか!?どうなんですかそこどうなってるんですか!?スーパーに行ったら鱈が相当安く売ってたのでそれを買い、夜は鱈のムニエルを作って食す。結局飲んで食ってた連休だったが、1日だけ休肝日を設けたオレ偉い。

というわけで連休も終わり。体も頭もなまってるので仕事をしてリフレッシュしましょう!(そうなのか)

(おしまい)

P.I.L.のフロントマン、ジョン・ライドンの半生/『The Public Image Is Rotten ザ・パブリック・イメージ・イズ・ロットン』

The Public Image Is Rotten ザ・パブリック・イメージ・イズ・ロットン (監督:タバート・フィーラー 2017年アメリカ映画)

セックス・ピストルズ、現パブリック・イメージ・リミテッド(P.I.L.)のヴォーカルでありフロントマンとして活躍するジョン・ライドン。その彼の軌跡に迫るドキュメンタリー映画がこの『The Public Image Is Rotten ザ・パブリック・イメージ・イズ・ロットン』だ。映画はライドンの不幸な出生、ピストルズ時代を経ながら、ロックバンドP.I.L.結成後の活動、メンバー間のゴタゴタ、そして映画公開時2017年までの破天荒な生き様を抉り出してゆく。

かつてパンク/ニューウェーヴの洗礼を受けたものならジョン・ライドンの名は避けて通れないものに違いない。オレも70年代後半、セックス・ピストルズのデビューを目の当たりにして《大いに困惑した》クチだ。そのけたたましい音にパンク?なにこれ?と思う間もなくピストルズはあっけなく空中分解、なんだなんだ?と思っていたら続いてニューウェーヴの時代が到来。ジョン・ライドンP.I.L.を結成、ピストルズ/パンク・ミュージック通過後の新しい音を自ら創造し始めた。そしてそのP.I.L.の音は、ニューウェーヴ・ジャンルの中でも別格だった。

P.I.L.の音は、ジョン・ライドンのアラビア音階を思わせるヴォーカルと、ジャー・ウォブルによるレゲエ譲りのヘヴィー・ベースと、キース・レヴィンによるサイケデリックなギターにより、実験的で先鋭的で、まさに唯一無二のものだった。少なくとも1stから3rdまではニューウェーヴ史に残る名作中の名作だった。

ただまあ、映画でも描かれているように、バンドの中はメンバー間で相当にゴタゴタしていた上に、お金がない!儲からない!と火の車、もともと偏屈でブチキレキャラだったライドンはバンドメンバーを次々に首にしたり(そしてまたよりを戻したり)と「ロックバンドあるある」な展開が続く。

なにしろライドンは元がパンクなので堪え性のない男な上に、ジャー・ウォブルは録音済みテープを勝手に持ち出して自分のアルバム作っちゃうだけでは飽き足らず、売上金かっぱらってクビになるし、キース・レヴィンはいつもヤクでヘロヘロになっていて、そしてやっぱり録音済みテープを勝手に持ち出して「これが俺のやりたかったP.I.L.だああ」とか言ってアルバム出してクビになるし、まあなにしろメチャクチャである。

しかしウォブルとレヴィンという強力な屋台骨を失ったP.I.L.は急速に陳腐化、実はP.I.L.の先鋭性というのはウォブルとレヴィンによって支えられていたという事が露呈してしまう。この二人無き後のライドンには何が残っていたか?それは彼独特の偏屈で皮肉で鼻っ柱だけは強い態度のみであり、音楽的な創造性については皆無だった。P.I.L.はライドンのバックバンドと化すが、それは「どこにでもあるハードロックバンド」レベルのありきたりなものに成り下がってしまった。

こういった形で、もはやP.I.L.には聴くべきところなど何もないのだが、それでも、どこかジョン・ライドンという男のことを、今でも見捨てられずに気にしている自分がいる。なぜなら彼は、オレの10代から20代にかけてどっぷりとハマっていた、ニューウェーヴ界の《神》だったからである。腐っても《神》なのだ。まあ昔みたいに信奉はしていないが。

だいたい、今やライドンも68歳、腹も出てきてゆるゆるの体をしているし、顔なんざ単なるその辺のおっさん、言動は相も変わらず頑固ジジイ、ルックスだけならミュージシャンというよりフーリガンだ。でもいいんだ。もういいんだ。オレは、オレの青春期にブイブイ言ってたアーチストが、もう前期高齢者と言っていい年になってもなんだか元気そうにクダ巻いてる姿を見られるだけでも嬉しいんだ。そもそもオレ自身もう60過ぎのジジイだしな。だからお互いジジイ同士、長生きしような、と思えてしまうんだ。

そしてオレは知っている。ライドンはああ見えて結構恩を忘れない奴だったり家族思いだったりする奴だってことだ。「ロックは死んだ」なんて言いながら、デビュー時世話になったピート・タウンゼントミック・ジャガーのことは決して悪く言わないし、義娘であるスリッツのアリ・アップが亡くなった時は、その3人の子供(義孫)の後見人になったりしている。この映画は2017年公開だから描かれてないが、この後ライドンはアルツハイマーになった嫁さんを介護し、その嫁さんも去年亡くなってしまった。人生いろいろあるんだ。ヤツも、その辺の誰もと変わらず、茫漠として無慈悲な人生と戦い、そして今もまだ生きている。だからなおさら、ジョン・ライドンのことが嫌いになれないんだ。

 

【積みゲー消化】今頃だが『バイオハザード ヴィレッジ』をクリアした

バイオハザード ヴィレッジ (PS4、PS5、Xbox OneXbox Series X/S、Nintendo Switch、PC)

最近チマチマと【積みゲー消化】しているオレである。今回クリアしたのは2021年5月に発売された『バイオハザード ヴィレッジ Z Version』。D/L購入した痕跡があるので、発売日ではなく発売から暫く経った後バーゲンで安くなったものを購入したと思われる。最後のセーブデータが2021年の12月だったのでその頃購入したのだろう。どちらにしろ最後に遊んでから2年以上ほったらかしにしていたのである。

バイオハザード」シリーズはリメイク作を無視した本編シリーズだけでいうなら『バイオハザード 0』からこの『バイオハザード ヴィレッジ(ナンバリングされていないがこの作品は『バイオハザード 8』となる)』まで9作リリースされている。オレは多分のこのほとんどを遊んでいるはずだ。そもそも1996年にPS1で発売された1作目を発売時に購入して遊んだ。とはいえ、『2』は操作法に苛立って冒頭でやめてしまったし、『7』はあまりにも怖すぎてこれも冒頭で投げ出してしまった。

そんな具合に(一応、なんとなく)ほぼ全作遊んではいるオレだが、有名シリーズだからとりあえずやっているだけで、特に思い入れが深いということもない。そもそもシリーズで展開する人間関係を全く把握していない。そして相当ゲームプレイが下手である。だいたいクリア間際は銃弾もアイテムもジリ貧の状態となっており、HPギリギリでなんとかクリアしている記憶がある。だから「バイオハザード」シリーズはクリアしても達成感よりも疲労感の方が強い。厄介な仕事から解放された安堵を感じてクリアしている。……ってかオレ、実はホントは好きじゃないのかこのゲーム!?

ちなみに、特に思い入れがない割にはポール・W・S・アンダーソンが監督・脚本を務めた映画化作品は全部観ている。あれはとてもおバカな映画シリーズだと思う。

若干ネガティヴ発言をしてしまったが、今回クリアした『バイオハザード ヴィレッジ』、実は相当に面白かった。まずPS5という最新ゲーム機用に製作されたという部分で、グラフィックのクオリティが半端なく高かった。いや、PS5のゲームというのはどれも美しいグラフィックを誇っているが、この『ヴィレッジ』はその中でも図抜けて素晴らしかった。これはホラーゲームということで明度と色彩が暗いアンバーに統一されているという部分にあるだろう。併せて、汚らしい瓦礫や廃物がどれもきちんと表現され、リアリティのある映像となっていたのだ。

同時に、一つの村とその周辺という閉鎖された環境を中心に物語が展開してゆくというのがよかった。最初は侵入できない箇所が多いが、進行するにつれ徐々に入ることのできる場所が広がってゆく。基本は同じ場所を行ったり来たりすることになるが、この「ずっとそこにいる感覚」がいいのだ。これは、どこまでも延々と広がる昨今のオープンワールドゲームと真逆のアプローチだが、この「ずっとそこにいる感覚」を体験させるのは、別に世界全部を作らなくても可能なのだ。これは個人的な好みの問題なのだろうが、どうもオレはオープンワールドがあまり好きではないのは、「どこまでもずっと移動し続けなければならない」という煩わしさがあるからのような気がする。

ボスキャラはどれも個性的な「四貴族」の4体となるが、それぞれの存在するフィールドが、「四貴族」それぞれのキャラクターに合った世界となっている部分も変化を感じさせてよかった。その 「四貴族」も攻略方法がそれぞれに異なり、とても楽しめた。難易度によるのかもしれないが、アイテムやセーブ地点も豊富で、最後まで難儀することも詰まることもなかった。いやこれは最高のバランスじゃないか。ひょっとしたらオレの中の「バイオハザード」最高傑作かもしれない。

ただしストーリーには相変わらず興味が湧かなくて、そもそもこの『ヴィレッジ』が『7』の続きという事を最後に知った。いやー『7』クリアしてないんだよなー。やっぱり遊んでみようかなあ。でもPS4バイオハザードRE:2とPS5のバイトハザードRE:4がまだ積んであるんだが……。クリア14時間。

『V.I.P. 修羅の獣たち』『カード・カウンター』『ディナー・イン・アメリカ』など最近ダラ観したDVDやら配信やら

V.I.P. 修羅の獣たち

V.I.P. 修羅の獣たち (監督:パク・フンジョン 2018年韓国映画)

『新しき世界』や『The Witch/魔女』シリーズ、最近では『貴公子』の公開された気鋭の韓国映画監督パク・フンジョンによる2018年公開のノワール作品。韓国で残虐極まりない連続婦女暴行殺害事件が起こり、捜査の途上で北から亡命したエリート高官の息子キム・グァンイルが浮かび上がる。チェ・イド警視はキム逮捕に乗り出すが、キムを亡命させた韓国国家情報局とCIAは強行的にそれを阻もうとしていた。

画面全てが血で染まる陰惨な殺人事件、しかも婦女暴行を題材にしているのでなにしろ胸糞悪い話ではある。その犯人というのが政府組織に守られている上に終始ヘラヘラと笑い減らず口を叩き続けるので胸糞の悪さはさらに倍加する。いやこいつマジ許せなかったぞ。とはいえ、こんな殺人犯を演じたイ・ジョンソク、モデル出身で色白の美形俳優なのだが、こんな不気味なサイコパス役をよくぞこなしたものだと感心した。

暴走しまくる暴力刑事チェ・イド、組織の歯車として忍従する情報局員パク・ジェヒョク、復讐に燃える北朝鮮工作員リ・デボムと、役者も十分揃っている。こんな男たちの燃えたぎる憤怒と冷徹な思惑が交錯し、熱いドラマを生み出しているのだ。反面、キムの身柄を巡りコロコロと拘束と奪還が繰り返されるのは煩雑に感じたし、急展開を持ち込もうとしたばかりにシナリオには無理を感じたのは確か。ただし殺人鬼キムのキモさと正義の為に手段を選ばぬチェ・イドの暴れっぷりがそれを補っていた。

この物語には、決して揺るがない支配的な権威や権力への、強力な怒りと遣り切れなさが込められているように思えた。それは凶悪犯罪者なのにVIP待遇されるキムのごとき存在への怒りだ。それでも立ち向かってゆこうとする人としてのギリギリのプライドもここにはある。生き難くままならないこんな社会にどうにか一矢報いたい、そんな思いがこの物語の背後に存在するのではないかと思えてならなかった。

カード・カウンター (監督:ポール・シュレイダー 2021年アメリカ・イギリス・中国・スウェーデン映画)

ポール・シュレイダー監督・脚本、マーティン・スコセッシ製作総指揮の映画『カードカウンター』を観た。主人公はギャンブラーのウィリアム・テルオスカー・アイザック)。彼はかつて兵士だった頃、上司の命令により捕虜収容所で拷問を行い、その罪で服役していた。ある日ウィリアムは一人の青年からこの上司への復讐を持ちかけられる。この青年の父もウィリアムと同じように罪を着せられていたのだ。

ギャンブラーの物語ではあるが本質はそこではない。シュレイダー&スコセッシといえば当然『タクシードライバー』で、そしてこの映画も『タクシードライバー』の変奏曲としか言いようのない、退役軍人のトラウマとルサンチマンと孤独と虚無と独白とイタチの最後っ屁みたいな暴発を描いたどこまでもダウナーな物語なんだよ。シュレイダー、未だにこんな脚本書いてるのかと思うと、もはや「シュレイダー映画」という一ジャンルとしか言いようがない。

そして『タクシードライバー』に青春期の魂を根こそぎ持っていかれたオレは、この『カードカウンター』にもやはり魂持ってかれるような暗い感銘を受けた。三つ子の魂百までってヤツだな。主演のオスカー・アイザックの虚ろな目つきも最高だった。『タクシードライバー』信者は是非観よう。そしてどんよりしよう。

ディナー・イン・アメリカ (監督:アダム・レーマイヤー 2020年アメリア映画)

”アナ―キック・ラブストーリー”映画『ディナー・イン・アメリカ』を観た。物語はパンクロック好きの女子が、ひょんなことから警察から逃走中のパンクバンドのリーダーを匿ってしまうというもの。しかもそのバンドリーダーは女子の憧れの人だったのだ。とはいえふわふわしたロマンチックさは皆無だ。女子はボッチで超絶的にイケテナイし、バンドリーダーは行動が滅茶苦茶なチンピラ野郎でしかない。この二人のダルくて壊れた現実がひりひりと描かれてゆくのだ。

カスみたいな連中に囲まれクソみたいな目に遭わせられる日々、「幻滅」の二文字が心を削り続ける世界。そして二人はもうこんなのやってられんわ!と意気投合し、うらぶれた街をグダグダと右往左往しながら遁走してゆく。アナーキーと言えばカッコいいが、社会から弾き飛ばされた者同士が、音楽というたった一つだけ信じられるものを武器にして足掻き回る、そんな物語なのだ。アメリカってとても生き難そうな国で、そんな国でなんとか居場所を見つけようと七転八倒する主人公二人の姿がとても愛おしかった。