ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

先週の金曜日、エッセイ教室に提出した原稿


庭木の剪定で腰が痛くなったとき           中村克博


 夜床に入って寝付けないほど足腰がいたい。とくに左の足が腰から下が痺れるように痛む。昨日今日と庭の木に登って伸びすぎた枝の剪定をしたのが原因だ。このままでは眠れないので、いつものように自分で編みだした施術を三十分ほど施すことになる。これがよく効く、途中でいつの間にか眠ってしまい朝まで意識がない。気が付いたら朝になっている。
枝の剪定は梯子をかけて枝切り鋸を使って用心して行うが運動量は知れている。それよりも切り落とした枝を集めて運ぶのが一苦労だ。腰をかがめて木々の間に落ちた大小の枝を抱えて落ち葉の斜面で足を滑らせながら運び出す。門の外にうず高く重ねてトラックに乗せて焼却場所に運ぶ。
枝の剪定は先月から始めている。天気がいい日に思いたつと作業着に作業帽、皮手袋、腰には鋸と剪定ハサミをぶら下げて出かける。数年前に作業を始めたころは要領をえずに切り過ぎて見上げれば電信柱のようにしていた。年々上達したようで今年は剪定が終わったモミの木やツバキの木は、すこぶる形が良くなった。夕日が落ちて薄暗くなった庭で形を整えた木々を見てまわる充実感が何ともいい。体を動かした後の疲れは気分がいい。会議の後の疲れとはまるで違う。健康に生きるためには毎日労働をすることが必要な条件なのかもしれたいと思うほどだ。
ところが、日頃しない運動をやり過ぎると、風呂の湯に浸かったときの有難さと夕食のおいしさの後はもう体が動かなくなる。瞼も重くなって椅子に座ってしばらくすると腰も背中も固まったように、しだいに痛みだす。八時をすぎたばかりだが「俺、もうねる。おやすみ」といって寝室のドアを開ける。重たい体を横たえて、ふんわり布団を重ねると幸せに包まれたようになる。
 しかし、眠れない。しだいに足腰が重たくなって痛みが増してくる。とくに左の足が腰から下が痺れるように痛む。そこで取って置きの技の出番だ。独自に工夫した得意のヨガ流施術をはじめる。まず、足の指でグウ、チョキ、パーだ。両足を一緒に、始めはグウ、次はチョキ、そしてパー。グウは五本の指を一緒に握り込むように強く内に曲げる。それを両足一緒におこなう。息を吸い、吐きながらゆっくり握り込むように折り曲げる。十秒以上かけてゆっくり息を吐く、吐き終わってもしばらく息を止めて指を強く曲げている。これをしばらく繰り返す。鍛錬と違うので疲れるまではやらない。日によって違うが、四回か五回だろう。三回のときもある。
 次は爪先を伸ばす。体操選手のように足の指が脛と真っ直ぐなるように力いっぱい遠くに伸ばす。息を吸って、吐きながらゆっくり十秒以上かけて片足を伸ばすが、もう片方の足は爪先を力いっぱい自分の方に引きつける。つまり片方の足の動きと同調させて足首を手前に折り曲げ、左右の足は反対の動きをすることになる。この二つの動作で足先の血流がすこぶる良くなる。血の流れは足先だけで起きるのではないから心臓からの血流が活発になっている。
 次は両方の膝を曲げて両手で胸に引きつける。何度も繰り返して、少しずつ強く引き付ける。息を吸い、吐きながら両足の股を大きく開き肘が床につくまで引きつける。両足が大きく開かないとうまくできない。この動作で太腿の付け根の股関節が緩み、可動範囲が前方に広がる。それにこの動きは背骨の二十五個の脊椎のうち腰椎の五個が伸びて緩んでいく様子を意識する。意識する…、具体的には五個の腰骨が動いて間隔が開く様子を想像する。そこの血液やリンパ液か、それらが流れ始める画像を思いうかべる。そこの部位に意識が集中するようになれば効果は倍増するようだ。このときも呼吸の仕方が大切だ。大きく息を吸って、ゆっくり長く、できるだけ長く無理しないで吐き切る。そして止める。息を止めるのを「クンバク」と言うらしい。
 これまでの動作で、いよいよ僕が開発した取って置きのヨガ流施術を始める準備が完了する。この秘伝、いや隠している訳ではないので奥伝くらいだが、とにかく、これをやると体が一気に活性化する。寝ようと思っていたのに、いよいよ目が冴えて来る。
 初伝、中伝を飛ばして、いきなり奥伝のヨガ流活性化施術だから、これを試すなら自己責任でやってもらいたい。少々危険なのだ。まず、両手の甲を目の前にして、親指と親指、人差し指と人差し指、それぞれの指先を突き合わせ、菱形をつくる。その菱形をお尻の下に持っていく。両手の親指と人差し指は仙骨の下におさまる。
 次に膝を曲げて足を浮かせる。そのままで両方の膝小僧を合わせて左右にゆっくり小さく振る。次に両膝をゆっくり回す。布団の中なので少しやりにくいが、すぐに要領がわかって慣れてくると動きをだんだん大きくする。このときも呼吸法が大切だ。ゆっくり吸い、ゆっくり長く吐くがクンバクは必要ない。この動作で仙骨まわりがほぐれてくる。しばらくやるが疲れるまでしない。
 次は両足を床につけ両手を重ねて仙骨の下に置く。そして同じように合わせた膝をゆっくり回転させる。重ねた手が痛くなる前に上下の両手を入れ代える。この動作で仙骨全体がほぐされる。両手のほぐしにも効果がある。
恥ずかしながら、むかし、骨盤は一枚の板のような腰の骨かと以前は思っていた。ところがヨガを始めて骨格標本を見ると籠のようになっていることが六十歳にもなって初めてわかった。その中に胃から下の臓器が納められている。籠はヘソの方は開いているが背後は骨盤で保護されるようになっている。骨盤は先ほどの仙骨を真ん中にして左右の腸骨がつながっている。その連結する丁番を仙腸関節というそうだ。
 それで、その仙腸関節をほぐす動作にうつる。まず、両足を肩幅で伸ばして息を吸う。ゆっくり吐きながら右足の踵を遠くに伸ばす。次に左の足を同じようにする。背骨が曲がらないように真っ直ぐに、骨盤だけがねじられることになる。何度かやった後、さらに動きを大きくする。深い呼吸でゆっくりおこなう。このときには伸ばした足の片方は体の頭の方に引くようにする。こうすると骨盤のねじれはさらに大きくなる。この動作で仙骨と腸骨の隙間が縦方向にずらされる。それと、腰椎の一番下の椎体と仙骨との接合部分が広がってほぐされる。上半身の体の重みが一日中この接合部分の一点に集中していることを思えば、どんなに大切なご苦労な場所かが分かる。
大昔まだ人類が四つ足で歩いていた百万年ももっと昔は体の重みは四本の足で支えていた。二足歩行になった人類は両手を使うのと引き換えに腰の痛みを引き受けることになったのだろう。二足歩行と重力の関係はそれだけではない。お腹の中の臓器で下になるほど圧迫を受けることになった。一番下にあるのは直腸で肛門がある。前立腺がある。どこにどんな臓器があるか僕は知らないが、年を取って腹の筋肉が緩むとだんだんに下がって来て下にあるほど圧迫されて鬱血するのだろう。
先ほど、仙腸関節の隙間が縦方向にずらす動作をしたが、次はこの関節を前後に動かす運動をする。ちょうどドアの丁番が動く作用を想像するといい。ただ仙腸関節の動きはほんのチョットだ。これまでの一連の動作で腰回りがほぐれて血の循環は良くなっている。布団の中で息を吸って、ゆっくり吐きながら骨盤の右、片方の腸骨だけを天井の方向に持ち上げる。ギリギリまで持ち上げたら息を止めてそのままの状態を保持する。あまり頑張らなくていい。今度は反対の腸骨の番だ。この動作を繰り返し、繰り返し何度もやる。徐々に動き大きくするが、できるだけゆっくり、疲れるまではやらない。
 今度は両方の膝を立てて大きく足開く。息を吸って、ゆっくり吐きながら右足を内側に倒す。左足は倒さずに布団を支えているので右足を倒す空間がある。始めは足の重みで倒れる範囲でいい。交互に何度もやるうちに段々に深く倒れてくる。何度かやったら、今度は息を吐き終えたらクンバクして倒れて足をさらに下げるように押しつける。ここまでで三十分ほど経過しているが、ヨガ流の施術はまだまだ続く。両足を曲げて足の腹どうしを合わせて、それを両手で握って息を吸う、ゆっくり吐きながら胸に引き寄せる。思いっきり引き寄せる。股関節が大きく開いて痛くなるまで何度も何度も引き寄せる。もうこの辺りで足腰の痛みはとれている。しかしヨガは反対の動きをしてバランスを取ることが肝要だ。それで下半身の動きはまだまだ続くことになる。四つ足で歩く動物の後ろ足の付け根に骨盤があるのは人間と同じだが、前足の付け根には肩甲骨がある。肩甲骨と骨盤はもともと共通の役割があった。それでヨガ流施術のバランスのためには肩甲骨の運動が必要だが、紙面がもうない。
平成二十九年十二月十四日