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をちこち犬の吠ゆるころ - 松葉佐優 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-05-27

[]Kindle本セール(文春、徳間など)

AmazonKindle 本のポイント還元セール(〜6月2日(木)23時59分)を行なっています。

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これを機に読んでみるのもいいかも知れませんね。

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2016-04-24

[]米タイム誌「影響力ある100人」に選ばれた5人の作家

アメリカ週刊誌「タイム」が選んだ2016年の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた作家は5人。以下、各人評をタイム誌から拙訳にて引用する。

  • Lin-Manuel Miranda/リン・マニュエル・ミランダ
    Hamilton については今まで多くのことが言われてきているし、このことはきっと周知のことではないかと推測するが、このミュージカルが歴史やリズムや人種、韻律やメロディや情熱を包み込んでしまっていることは実に目の覚めるような事件である。チケットが手に入らないのも無理はない。つまり、誇大広告が至る所にあふれているこの時代においてでさえ、Hamilton は今まで見た中で最高のもの――単に劇場作品の中でという意味ではなく――であると間違いなく言えるからだ。リン・マニュエル・ミランダはこの画期的な名作を着想し、書き上げ、そしてその中で主演を務め、同時代の奇跡的なほどクリエイティブな才能のなかでも最も素晴らしい人物の一人としての地位を強固にした。Alexander Hamilton と同様、ミランダは「偉大さは思いがけない所からやってくる」ことを強烈に思い起こさせる。プエルトリコ人の両親が所有するブロードウェイ・ミュージカルのレコード・コレクションは、ニューヨーク市で育つと好きになるヒップホップと同じぐらい強い影響を氏に与えている。天才にレシピはないが、ミランダが、何か深い感動を与え、全く独創的であるものを創り出すために、奇跡的に掴み、統合し、包み込み、讃えたのは共に共通点のない色々な要素である。このことは理解することができる。ミランダはミュージカルを定義し直し、民主政と呼ばれる驚くべき体験の起源を再認識させてくれる。この人を知り、その楽しげな熱意やきらめきを間近に体験することは、ショーそのものと同じくらい大きな喜びを与えてくれる。ミランダのウィットは、その自然で伝染しやすい魅力によるものでないとしても、人を恐れさせるものであると言えるかもしれない。どういうわけかミランダは、気前がよく協同的で愛すべき存在であるのと同じくらいに、革新的で才知に富む存在である。ミランダとその5年間連れ添っている妻 Vanessa Nada(科学者弁護士、そう彼女は科学者でもあり弁護士でもあるのだ)の間には1歳の息子がいる。つまり言い換えるなら、この若者は今だ人生の第1幕にいるに過ぎない。われわれは自分たちがミランダのことを鑑賞するすごくラッキーな観客であるとと思うだけでわくわくしてこないだろうか。次の作り話はなんだろうかと心待ちにしながら、頭では Hamilton の約束がこだましている。「それでも私にはまだ成し遂げていないことが数えきれないほど残っている。だが、まあ見ていてくれ、、、見ていてくれ。」(By J.J. Abrams/J・J・エイブラムス - 作家、プロデューサー、ディレクター、直近では『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』)
  • Ta-Nehisi Coates/タナハシ・コーツ
    アメリカにおいて、タナハシ・コーツが人を動かさずにはおかない、豊かな思想を持つ表現者であることはここ何年ものあいだ多くの人に知られていた。コーツがタイムリーに書いてきた、人種やこの国の恥ずべき不平等の歴史に関するものは、人の怒りを買いもするが、徹底した調査にもとづいたものであり、必読ものと言える。既に多くの人の目にするところとなっている The Case for Reparations がアトランティック誌に発表されたのが2014年のことだ。そこから新しい読者がコーツに注目し始めることになる。のちにベストセラーとなる二番目の著作が刊行されたのが昨年の夏。以後あらゆる人が「コーツはホンモノだ」と認識するようになったようだ。Between the World and Me。この作品は構成が見事であると同時に深い洞察を含み、議論を呼ばすにはおかない。同書でコーツは、アメリカの持つ人種の複雑さや重荷を、父から息子への愛情を介することで、上手くくぐり抜けている。しかし、同書を古典となさしめ、トニ・モリソンをして「コーツはアメリカの新たなジェームズ・ボールドウィンになるわ」と予告させ、マッカーサー基金をして「コーツは天才である」と言わしめるのは、そのソウルフルな書きぶりである。コーツは National Book Award for best nonfiction を獲得したが、自身は受賞作が最高点だとは考えていない。まだまだ言いたいことがコーツには沢山残されており、そして私たちは皆、それを読むことで以前よりもっと賢くなれるだろう。(By Bryan Stevenson/ブライアン・スティーブンソン - Equal Justice Initiative 設立者)
  • Elena Ferrante/エレナ・フェランテ
    イタリア人作家エレナ・フェランテに関する話で最もよく耳にするのは、その不在性――その仮名と、著者として意図的に世間から退こうとする選択――の話だ。けれど、写真や伝記が、その目ざましい著作よりもフェランテ自身について多くのことを語りかねないと想像することはおかしなことではある。大物 Ann Goldstein により流暢に英語に翻訳された作品は非凡な頭脳の地形図をともに形作る。初期の3つの小説(Troubling LoveDays of AbandonmentThe Lost Daughter)は、ナイフのように鋭く、流れが早く、人をして不安を催さしめる作風である。4作目の小説のナポリの話は、雄大な傑作であり、情熱と怒りが持続する芸術家小説(Künstlerroman)である。作中でエレナとリラは、マッチョな20世紀中葉のナポリで育ち、教育、クラス、リスペクトを求めて戦い、母親、妻、恋人になり、自身のひりひりする友情にそそのかされたり抗ったりする。フェランテはいわく言いがたい破壊活動家である。この家庭向きの人物は、その目覚ましい著作において、仕掛けが派手すぎて無視のできない時限爆弾である。(By Lauren Groff/ローレン・グロフ - Fates and Furies の著者)
  • Marilynne Robinson/マリリン・ロビンソン
    マリリン・ロビンソンの小説やエッセイは、しかつめらしさ一切なしのシリアス路線を貫くことに成功している。諸著はまた敏感に感じとる感性にあふれているばかりでなく厳格な思考をも湛えている。ロビンソンの関心事は、「われわれは如何に生きていくか」という問題や「世界とはわれわれに授けられた贈り物のようなものである」という考え方である――そう考えることでわれわれに求められるのは、自分自身に差し出されているものの存在に気づき、それを吟味し、その良さを知り、その手触りや輪郭を劇的に表現することである。ロビンソンの小説には、感じ取った生の感覚や、登場人物に対する深く変わることのない共感や、その精神生活に対する完全なる理解が数多く含まれている。エッセイにおいては、そこでは探求の精神が顔を覗かせているのだが、ロビンソンは信念や伝統それから、神と精神と言葉の三者間の関係に対して関心を示している。ロビンソンはまたきっぱりと出来る限り知性的であろうとしているが、それだけにとどまらず、暗示に富むイメージと印象とを提示しもし、その暗示では、現実的なものだけでなく神秘的なものを、確実なものだけでなく不確かなものまでをも汲み取るのである。(By Colm Tóibín/コルム・トビーン - アイルランド人の小説家エッセイストBrooklynThe Master の著者。ほか著書多数。)
  • Ryan Coogler/ライアン・クーグラー
    ライアン・クーグラーの『クリード チャンプを継ぐ男』には或る美しい場面がある。それが捕らえているのは、この若きディレクターが自身の芸術形式や国に対して目標として掲げているものである。ボクサーであり主人公でもあるドニー(Michael B. Jordan)は、グレーのスウェットを着て、病気のトレーナーであるロッキー・バルボアシルヴェスター・スタローン)に会いに行こうと疾走している。ダートバイクや四輪バギーに乗った近所のちびっ子の群れが、ギリシア合唱歌舞団のごとくそのドニーの後を追う。ドニーがスピードを上げると同時にバックグラウンドでミーク・ミルの『Lord Knows』が鳴り響く。全力疾走の極みに達したドニーが苦痛と喜びに叫び声を上げると同時に、ミークが、穏やかなピアノとビッグホーンと意気揚々としたボーカルへ移行する。時間がスローになり、不良少年合唱歌舞団がドニーを取り囲むと、われわれの眼は、一人の、中空に左手を伸ばしながらウィリーで飛び跳ねる少年へと惹きつけられる。アカデミーが目にすることのできない全ての美しさがこのワンシーンに含まれている。あの美しさは、否定されることが本当に多いのだが、クーグラー作品のものである。これは、見栄えの綺麗さ――それも一部であるけれど――の問題ではなくむしろ人間味があるように見えるかの問題である。それが「なぜ今ライアン・クーグラーがこれほど求められるのか」という疑問に対する答えである。もとより人間性や美しさなど持ち合わせていないと言われる人々に対して、クーグラーは、最も大きなスクリーンで、人間性と美しさとを与えるのだ。(By Ta-Nehisi Coates/タナハシ・コーツ - ジャーナリスト、作家。直近作は Between the World and Me

2016-04-20

[]佐藤優が選ぶ知的ビジネスパーソンのための中公新書・文庫113冊

月刊誌『中央公論』2016年5月号に、「特集 佐藤優が選ぶ知的ビジネスパーソンのための中公新書・文庫113冊」が掲載されていたので、メモ。

A 仕事に活かせる組織論を学ぶ17冊

新書
  • ★『外務省革新派』(2059)戸部良一
    第二次世界大戦について、陸軍責任論に本格的に異を唱えたものの一つ。本書は、軍部以上の強硬論を吐き、軍部と密着して外交刷新を実現しようとした「外務省革新派」のリーダー白鳥敏夫たちが、日本を戦争に導く道をつくった過程を丹念に追っている。戸部氏はその背景に、外務省内の人事があった、と指摘する。戸部組織論の最高傑作である。国際基準でいっても一級品のインテリジェンスレポートに仕上がっている。論文の書き方を学ぶうえでも参考になる。
  • ★『人はなぜ集団になると怠けるのか』(2238)釘原直樹
    本書は、集団で仕事をすると、単独で作業を行うよりも一人あたりの努力が低下する「社会的手抜き」について、あらゆる心理学の分野での実験や調査、社会現象などを紹介しながら、考察していく。
  • 小惑星探査機はやぶさ』(2089)川口淳一郎
    宇宙開発とは、安全保障上、極めて重要な意味がある。「はやぶさ」によって日本は高度な宇宙戦の基礎体力があることを世界に知らしめた。そうした国家の意思をも読み解けるようになろう。
  • 院政』(1867)美川圭
    権力というものは、バランスであると痛感する一冊。組織が二重構造にあるときは、自分がどのような立場にいるかを理解しておくことが、組織人として生き残るために不可欠である。
  • 戦国武将の手紙を読む』(2084)小和田哲男
    読み下しも丁寧に解説され、歴史学を学ぶ人の入門書として良い。戦国武将は合戦の前に各地の武将を味方につけようと謀略の手紙を出す。組織の派閥抗争に苦しむ現代のビジネスパーソンにとっても学ぶところは多い。
ラクレ
  • 駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する』(493)中原淳
    現代の日本社会では、実務担当者がマネジャーへと移行する過程が激変していると著者はいう。「突然化」「二重化」「多様化」「煩雑化」「若年化」。また本書は、年上の部下との接し方など、組織の中での生き残りのための具体策がふんだんに盛り込まれ、中間管理職の心得に満ちている。
文庫 ★は、特におススメ

B 競争社会を生き抜く技を磨く17冊

新書 ラクレ
  • 【マンガ】コサインなんて人生に関係ないと思った人のための数学のはなし』(499)タテノカズヒロ
    論理には二種類ある。一つは、言語による論理。もう一つは、記号論理学か数学や物理などの非言語的な論理。だから数学は大事なのだ。価値観がまるで違う北朝鮮だって、三角関数は日本やアメリカと同じなのだから。数学嫌いの人もマンガでたのしく数学の論理を読める。
  • ★『女子と就活』(431)白河桃子常見陽平
    まだまだこの社会は男社会であることを怒り、読者を目覚めさせ、処方箋を提示しようとする本。ポイントは産める就活。産める企業かどうかを見極めるポイントが書かれている優れた実用書。
  • 肩書き捨てたら地獄だった』(513)宇佐美典也
    玄田氏のいう、転職のリスクを「地で行く」一冊。財務省を辞めた著者による『いいエリート、わるいエリート』山口真由(新潮新書)とあわせて読むと、元官僚というものはなかなか世間が受け入れてくれないという厳しさを痛感できるはず。
  • 修羅場の極意』(500)佐藤優
    自著。おかしいと思っても、すぐに行動に移すな。うろたえず、「時」を待て。西原さんの、最悪のシミュレーションだけはしておけという助言は誰にとってもためになる。西原さんの「最悪」は、子どもが非行化すること。そう決めれば、それ以外の事態には動じなくなるから、冷静になれる。
  • 福井県の学力・体力がトップクラスの秘密』(508)志水宏吉+前馬優策
    上司が悪い、組織が悪い、とつい愚痴を言いたくなるビジネスパーソンにこの一冊を贈る。地方のトップに務める人にもお薦め。制約すらチャンスに変える力に学べ。
文庫
  • 仕事のなかの曖昧な不安玄田有史
    社会の厳しさについて、直截に指摘し、勤労者の恐怖を具体的に書き著した本。転職したいと思ったら、必ず、読み返したい一冊。勘違いで転職する人が増え、雇用が流動化するほど、全体の賃金が下がっていくこともあわせて指摘しておく。
  • 完訳 ロビンソン・クルーソーダニエル・デフォー/(訳)増田義郎
    「時」をきちんと待つことができたのがロビンソン・クルーソーである。ただ全知全能すぎてあまり参考にならない。押さえておくべきは、この物語が一貫して奴隷を使うことを肯定し、植民地を正当化している点だ。欧米人の根底にはこうした考え方があることを、日本のビジネスパーソンは知っておいても損はない。

人間関係・心理に強くなる19冊

新書
  • ★『行動経済学』(2041)依田高典
    心理学はビジネスの現場でも役立つ。心理学と深い関係にあるのが「行動経済学」。従来の主流派経済学が機能しなくなっていることの裏返しで、経済学の最先端と言われている。その「行動経済学」を知るのに便利な一冊。
  • ★『酒場詩人の流儀』(2290)吉田類
    俳人で詩人、イラストレーターでもある吉田類の文章はときに馬の目線で、ときに猫の目線で世間を眺める。ちなみに、説明的な要素を徹底的にそぎ落とした詩という形態は、人間の心を表すのに非常に強い力を持つ。力強い言葉を発する人は、政治家であっても発言はポエムの連続だ。小泉純一郎元首相などはその典型。
  • 睡眠のはなし』(2250)内山真
    睡眠障害を軽くみない方がいい。本書を読んで、少しでも自分の睡眠に問題があると感じた人は、専門医に睡眠薬の処方を相談することをお勧めする。『精神科の薬がわかる本』姫井昭男(医学書院)も参考になる。
  • 時間と自己』(674)木村敏
    精神科医の木村氏はこう述べる。「鬱病の発病状況がすべて『所有の喪失』としても理解できる」。最近のビジネスパーソンは鬱的な時間との親和性が高い人が多いと思う。自分の時間感覚が揺さぶられたときは危ない。気をつけてほしい。
  • 死刑囚の記録』(565)加賀乙彦
    多くの無期囚は“刑務所ぼけ”に陥る。「外部と隔絶した施設内では、いつも同じ人間、同じ場所、同じ規則の反復にかこまれているから、囚人たちの感情の起伏はせまく、何ごとに対しても無感動になる。ふつうの人間であったら耐えられぬような単調な生活に彼らが飽きないのは、実はこの感情麻痺があるからだといえる」オフィスのルーティンワークにも同じ危険因子が存在する。『監獄の誕生―監視と処罰ミシェル・フーコー、(訳)田村俶(新潮社)もあわせて読んでみてほしい。
ラクレ 文庫
  • ★『猫と庄造と二人のをんな谷崎潤一郎
    谷崎は私と同様、真に猫好きだと分かる。主人公があまりに猫好きであるために、妻と元妻が猫に嫉妬するという話。ちなみに、猫はスカンク同様、肛門腺があって液を出す。猫を飼うなら、動物病院に行って、この肛門腺を定期的に絞ってもらおう。
  • マンガ 日本の古典21 御伽草子やまだ紫
    やまだ紫もまた、猫をえがくのがとてもうまい漫画家だ。本書の「猫の草子」などに登場する猫も逸品だ。この時代、日本は天竺や唐と比べるべくもない小さな国だったのだ。日本はこうした小国であることを意識して虚勢を張るべきではないという教えを、いまこそ噛みしめたい。
  • ★『ファウスト 悲劇第一部』ゲーテ/(訳)手塚富雄
    まったく癒やされない動物が出てくる古典中の古典から一冊。ファウストは街の中で愛嬌のあるむく犬と出会い、書斎に連れ帰る。そのむく犬は実は悪魔だった。本作は、西洋の古代から現代までの思想の流れが集約されているという点でも意義深い。海外の取引先と揉めたときは、相手がどんな思想に基づき行動しているか見抜くことも必要になる。『ファウスト』を読んでおくと、様々な西洋思想が理解でき、欧米人の理解に役立つこともあるかもしれない。さて、悪魔は進化する。悪も進化する。ここが読みどころだ。
  • 八日目の蝉角田光代
    本作は、不倫相手の男の家庭に産まれた子どもを、主人公が誘拐して育てるというストーリーだ。圧巻は裁判の光景だ。主人公は不倫相手だった男は許しても、口をきわめて自分を罵った男の妻を許しはしない。不倫は、割に合わないほどリスクが高い。ビジネスパーソンは男女ともに知っておいたほうがいい。『幸せ最高ありがとうマジで!本谷有希子講談社)とあわせてご一読を。
  • マンガ 日本の古典8、9 今昔物語』上・下 水木しげる
    今昔物語』も、不倫の話が数多い。大昔から不倫が日常茶飯事だったということだ。『今昔物語』には、死者と生者の世界には通用門があるという発想がある。今と比べると、昔の人は死者にもっと近かったのだと思う。そういう時代を想像することができる。著者の水木しげる氏は人間の限界を知っている。そのあたりの感覚が作品にもよく出ていると思う。
  • マンガ 日本の古典28 雨月物語木原敏江
    本書も化け物の世界。人に恨まれることは恐ろしい。わけても怖いのは「吉備津の釜(107頁)」。気立てのよい妻を騙して遊び続けた夫を、妻の死霊が復讐するという話。
  • 神様川上弘美
    「くま」の日常などをえがいた短編集。川上氏の短編集には、いじめの問題、仕事のやりがいの問題など、人生の諸問題が詰まっている。寓話の力を知るのにもうってつけだ。この人は若くして古典作家の領域にいる。
  • 痴愚神礼讃エラスムス/(訳)沓掛良彦
    カトリックの司祭、神学者でありながら、カトリック体制を根本から揺さぶり、十六世紀という世紀を覆い尽くした知的巨人だ。ただしカトリックをコテンパンにしておきながらプロテスタントには行かなかった。だから神性冒瀆がない。ビジネスパーソンがここから学ぶべきは、ユーモアと侮辱の境界線だ。お笑い芸人の言動を真似る人が増えている。そのせいか、どうもユーモアと侮辱を踏み越える若手が少なくない。言っておくが、この世の中に無礼講はない。社内の飲み会の無礼講には注意が必要だ。
  • 新選組始末記子母澤寛
    本書は、小説家ノンフィクションか分からないノンフィクションノベルの走りである。新選組関連本の原点のような作品だ。子母澤氏は、読ませる作家だと思う。なぜ、これだけすごい大衆小説の書き手が忘れ去られてしまっているのだろう。
  • 「酒」と作家たち』浦西和彦
    昔の作家はよく酒を呑んだ。そんな中、一滴も呑まなかった川端康成のハナシが面白い。呑まない人には別の楽しみ方もあると指摘しておこう。

D 教養で人生を豊かにする18冊

新書
  • ★『教養主義の没落』(1704)竹内洋
    いつからか、日本では教養のある人たちがカッコ悪い存在になり、社会にとって邪魔な存在になりはじめた。多くの人はその理由を七〇年安保闘争に明け暮れた全共闘時代の反権威主義に求めるのだが、竹内氏はもう一つ違った角度からの考察をしている。教養主義が没落し、現在の日本社会は反知性主義に覆われている。竹内氏は、その反知性主義のルーツはお笑い芸人にあると指摘する。『死の哲学――田辺元哲学選IV』田辺元(編)藤田正勝(岩波文庫)にも、原子力を見たくないから、ラジオがお笑いばかりになっていることを指摘しているくだりがある。いま、アメリカでは不動産王のトランプが民衆の支持を得ている。アメリカ反知性主義は日本とは随分違った形で形成されたものだが、日米比較をするなら『反知性主義』森本あんり(新潮選書)がよい参考書になるだろう。
  • ★『批評理論入門』(1790)廣野由美子
    行間から別の声がきこえてくるような本を読んで、複雑な人間社会を読み解けるようになるために、この本をお薦めする。本書は小説『フランケンシュタイン』について、あらゆる読み方を提示し、小説とは何かを考えた。
  • ★『ゾウの時間 ネズミの時間』(1087)本川達雄
    心臓は二〇億回打って止まる。鼓動が速いと早く死んで、遅いと長生きする。ビジネスパーソンにとって役に立つのは、人間の時間感覚について。視覚主導型の我々人間は時間の感覚が弱い。『二百回忌笙野頼子新潮文庫)などにえがかれる奇妙な時間の歪みは、人間の時間感覚の弱さゆえに生まれる作品だ。仕事が成功するかどうかは、時間の管理が鍵になるのは間違いない。プレゼンで与えられた時間の倍しゃべる人間に能力のある人はいない。
  • チョコレートの世界史』(2088)武田尚子
    ジュリエット・ビノシュ主演の映画『ショコラ』はいい映画だ。本書を読みながら、この映画を思い出した。「実は、第二次世界大戦中、日本でも溶けないチョコレートの開発が進められていた」。こうした知識は、海外からの客にも披露できる。意識的に仕入れておきたい。
  • 世界史の叡智』(2223)本村凌二
    本書は、悪役、名脇役という、いわば歴史の「影」の部分に光を当てることで、歴史のパラドクスを浮かび上がらせる。面白かったのは「汪兆銘」。日本の傀儡と罵倒された汪兆銘の働きにより、全面的な日中戦争になったからこそ、毛沢東は燻っていた民衆の力を使って共産党革命に道を開いたのだから皮肉なものだ。「正史」とは異なるこうした視座を持つことで、真に厚みのある教養人になれる。
文庫
  • ★『国富論』機銑 アダム・スミス/(訳)大河内一男
    経済の実態を書いているものなので意外によみよい。人間の労働が価値を生み、労働が商品の価値を決めるという「労働価値説」が示されている。この古典派経済学の基本はいまだ健在だ。若いビジネスパーソンは自分が働くことで価値が生み出されているということに懐疑的になる必要はない。額に汗して働く大切さは、いつの時代も変わらない。
  • ★『星の王子さまサンテグジュペリ/(訳)小島俊明
    諦観の必要性について考えさせる一冊。この物語には、何事も変化するし、消えてしまうという諦観がある。人生にとって重要なのはここだ。うまくいっていても、いかなくなる日が必ず来る。逆もある。そう考えればしなやかに生きていけるのではないか。平易なので外国語の学習にも向いている。様々な言語で読んでみるのも楽しい。
  • 数学受験術指南』森毅
    受験勉強も時間を決めて集中して取り組んだ方が効率的だ。著名な数学者はそう指摘する。同感だ。一定の時間以上をかけない。お尻を切ることで没頭する。これが勉強のコツだと私も思う。
  • 味 天皇の料理番が語る昭和秋山徳蔵
    半世紀以上にわたって昭和天皇の台所を預かり、日常の食事と宮中饗宴の料理をつかさどった初代主厨長の記録的なエッセイ。いまではこんな本は書けないのではないか。知られざる皇室の「味」の記録だ。重要な証言であり、歴史的資料としても価値がある。
  • 猫のほんね』野矢雅彦/(写真)植木裕幸/福田豊文
    しつこいようだが、私は猫が好きだ。面白いのは猫と人間で見ている世界が違うこと。猫は動体視力に優れている。一見、人間のそばにいるようだけれど、猫は猫の論理で生きている。でありながら、人間ともうまく折り合いをつけて共存、併存できる。あなたの職場に変な人がいたら、猫になったつもりで併存を目指せ!ネコを知るためには、『ネコの動物学』大石孝雄(東京大学出版会)も お薦めの一冊だ。
  • 園芸家12カ月カレル・チャペック/(訳)小松太郎
    盆栽、家庭菜園など、土いじりにハマる日本人も多い。癒されるのだと思う。一方、ヨーロッパの人々にとっての植物への思いもまた、独特のものがある。「庭は完成することがないのだ。その意味で、庭は人間の社会や、人間の計画するいろんな事業とよく似ている」。
  • 真昼の星空米原万里
    チェコで子ども時代を過ごした米原氏のエッセイ集。文化というものの持つ拘束性の強さについて、深く噛みしめるのにうってつけの本だ。
  • ドナルド・キーン自伝ドナルド・キーン/(訳)角地幸男
    ヨソモノでなければできない仕事がある。外部の目の大切さを裏付けるのがこの本だ。三島の自殺の原因がノーベル賞にあった、などという指摘ができるのは、ヨソモノだからこそ。
  • 後水尾天皇熊倉功夫
    後水尾天皇は、学道と芸道を究め、修学院を造営した文化的な天皇として知られる。政治全体を文化で包み込もうとした人物である。文化によって包まれている政治は強い。今の安倍政権に最も欠けている部分だ。こんな時代にこそ読み返したい。
  • 虚人たち筒井康隆
    若かりし筒井氏による実験的な小説。111頁から123頁をぜひ開いてほしい。ほとんど白紙なのだから。筒井氏はこの手法を『驚愕の曠野筒井康隆河出文庫)でも用いている。私はこの実験から、人間の日常のコミュニケーションにおける沈黙の重要性を感じ取った。沈黙によって雄弁であること以上に語らせるという深みを感じさせる手法だ。
  • 人口論マルサス/(訳)永井義雄
    マルサスは、人口は幾何級数的に増加するが、食糧は算術級数的にしか増加しないと主張する。だから、人類が貧困から脱出する方法は、人口抑制しかないという。だが現在は農業が改革されたことなどでマルサスの主張で社会を説明しきることはできなくなっている。ただ、財の希少性を指摘したという意味では、現代にも十分に通用する。

E 国家とは何か、日本とは何かを考える20冊

新書
  • ★『文化人類学入門(増補改訂版)』(560)祖父江孝男
    本書は文化人類学の入門書として高く評価されてきた。著者によれば、人類学はアメリカイギリスとドイツ・オーストリアと日本でそれぞれ異なっている。いずれにせよ、人間は文化を持つことに特徴があり、その構造を勉強することで日本の特質をあぶり出すことができるのは間違いない。本書はこの学問分野の全体像が見渡せる優れた入門書である。
  • 地政学入門』(721)曽村保信
    戦後、日本ではタブー扱いされてきた学問「地政学」。日本を理解するうえでも地政学はとても重要なのだが、戦争と結びつく戦略論であったため、戦後は腫れ物に触るように避けられてきた。地政学の良質な入門書となると、この本くらいしかない。著者によれば、人間のこれまでの政治や社会の通念が揺らぎだすのを感じたときに世界の現実を大きく整理するための学問が地政学である。地理は動かない。国は引っ越せない。だから地政学は重要なのだ。世界に新たな秩序が形作られつつある今こそ読むのにふさわしい。
  • ★『ある明治人の記録』(252)石光真人
    複眼的に歴史を見ることの重要さを示す一冊。本書は、朝敵の汚名を着せられた会津藩士の子ども柴五郎の半生の記録だ。薩長側に抹殺された暗黒の歴史を、敗者側から見た維新の裏面史で、とても興味深い。感銘を受けたのは、第二次世界大戦末期のころの柴五郎翁の様子だ。日本が植民地化されないために必死で戦ったのに、その日本が植民地化を進めている。その政策を進めているのは薩長土肥である。こうした中で、会津人はともかく沈黙して、自分のするべきことを淡々とこなしていったのだ。国家というものの構造を、立体的に理解する助けとなる。重要な史料だ。
  • ★『財務省と政治』(2338)清水真人
    本書は、日本国を背負い、かつて「最強官庁」といわれた財務省の劣化を予見する。「『最強官庁』を土台から揺るがすのは人材を巡る二〇年越しの構造要因だ。その起点は、橋本龍太郎内閣下の一九九六年七月三一日に閣議決定した国家公務員の第九次定員削減計画にある」。本書は、二〇年以上、取材を続けてきた『日本経済新聞編集委員の清水氏が執筆した。アベノミクスの構造を知るうえでも参考になる。
  • 夫婦格差社会』(2200)橘木俊詔/迫田さやか
    著者は年収ごとに丹念に分析した結果、若い男性が結婚するか、しないか(あるいは、できないか)の差は三〇〇万円が境になっているという。共働きが当然となったいま、鍵を握るのは妻だと解き明かす。
  • 日本占領史1945-1952』(2296)福永文夫
    本書は、「戦後体制」がつくられた日本が、占領されていた七年間を描きだした福永氏の傑作だ。そのころ本土では反基地闘争が沸騰し、本土の米軍基地の返還は進んだが、逆に施政権がない沖縄は民有地が接収されるなどして基地が集約されていった。現在、沖縄にいる海兵隊は、元々本土にいた部隊がこのころに沖縄に移されたものだ。沖縄を理解するためには歴史のみならず、『カクテル・パーティー』大城立裕(岩波現代文庫)や『水滴目取真俊文春文庫)など、小説もあわせて読むといい。マイノリティーの心象風景がよく書かれているという意味では、沖縄人を父に持つ又吉直樹氏による『火花』(文藝春秋)もお薦めだ。
  • キメラ―満洲国の肖像(増補版)』(1138)山室信一
    満洲国の国家形成から変遷・変容を経て、壊滅にいたるまでをえがいた傑作。驚愕したのは、一三年も続いたこの傀儡国家には、満洲国という国籍を持った国民が一人もいなかったという事実だ。統治というものの不可解さについて根本的に考えさせられる。
  • 地獄の思想』(134)梅原猛
    本書は、仏教思想からくる日本人の精神の伝統について書いた梅原氏の著作だ。人間の苦悩への深い洞察と、生命への真摯な態度を教え、日本人の魂の深みを形成してきたのが地獄の思想である。ポイントは、地獄は人の心の中にあるということだ。ビジネスパーソンは、ぜひ心の中の地獄を上手に飼い慣らし、地獄と平和的に共存していくことをお勧めする。
ラクレ
  • ★『世界の日本人ジョーク集』(202)早坂隆
    著者は決して日本の劣化を書いたわけではないのに、結果的に日本の劣化が浮かび上がる本だ。本書は、二〇〇六年に刊行された。日本の豊かさ、技術立国ぶりを皮肉ったものが多く、日本がオチになっているジョークも多いのだが、いま現在の日本は、海外からここまでイジられるほどの力はない。ジョーク、アネクドートというものは、半分の真理を含んでいる。だから興味深いのだ。
文庫
  • ★『文明の生態史観梅棹忠夫
    民族学の大家による著作。表題作は、梅棹が戦後に提示した新しい「世界史モデル」。そのほか一〇の論考が収まる。第一地域と第二地域の分け方が正しいかどうか、相互交渉があったかどうか、それが実証的な研究になっているかどうかはともかく、本書は、歴史というものがいくつかの物語で読めることを教えてくれる。こうした複眼的な視点は国家を考えるうえで重要だ。
  • 沖縄の島守』田村洋三
    本書は、米軍の沖縄攻撃二ヵ月前に、県外から赴任した沖縄県知事と県警本部長が、最後まで県民と一緒に行動し、県民保護に命がけで取り組んだことについてのノンフィクション作品。興味深いのは二人組ではなく前任のI知事。国家の考察からズレるが、I知事の慌てふためく様はあまりに面白い。
  • ハル回顧録コーデル・ハル/(訳)宮地健次郎
    ハル・ノートを突き付け、日本を開戦に追い込んだとされるハルの自伝。興味深かったのは、ハルの日本の官僚批判だ。極めつきは野村吉三郎大使で、人柄には好意的だったのだが、英語力に失望していたらしい。すぐ「イェス、イェス」というけれど、半分もわかっていないらしい――と疑っていたようだ。国家を守るためには、外交官の英語教育が欠かせないという、ごく当然のことを噛みしめる戦慄の書。
  • ガンジー自伝マハトマ・ガンジー/(訳)蝋山芳郎
    非暴力抵抗が成功した理由は、ガンジーが人格者で人々を感化したということにつきる。本書には人々を感化するための具体策が書かれていてお得だ。ガンジーモデルは、会社の中でも使える。エルメスのバッグなど持たないで、仕事は一生懸命やって、悪口も言わない。ときどきさりげなく部下にランチをおごってやる。計算ずくでも一年間くらい努力すれば派閥が形成されるはずだ。この本は役立つ。
  • 評伝 北一輝』I〜 松本健一
    伝説の革命思想家の全体像を描き出そうとした渾身の評伝。北が日米戦争が太平洋戦争になるという認識を持っていた点を興味深く読んだ。惜しむらくは、若くして死んだ人間を持ちあげすぎているきらいがあること。ロマン主義的で、「物語」的な要素が多いのだ。私見だが、世間を渡るためには、やはりガンジーのように長生きだった人に学ぶべき点が多いと思う。
  • 世界のなかの日本司馬遼太郎ドナルド・キーン
    対談本。江戸・明治人の言葉と文学、モラルと思想、世界との関わりから日本人の特質が浮かび上がる。キーン氏は、ヨーロッパ文化全般について、三つの受け止め方があったと見立てる。「一つ目は、ヨーロッパ文化を拒否する」「二つ目は、採用はするけれども、抵抗を示す」。漱石はこの代表だ。「三つ目の可能性として、外国の影響を喜んで受ける」。キーン氏は鷗外をここに分類する。明示的ではないのだが、キーン氏が、苦しんだ漱石を評価しているふうがみてとれる。いずれにせよ、国家が急に方向転換したことで、一部の知識人が文化衝突の中で苦しんだことがよく分かるという意味で面白い。
  • 内村鑑三富岡幸一郎
    江戸時代末期に武士の子として生まれ、後に日本のキリスト教思想家となる内村鑑三について書かれた本。内村が最も興味を持ったのは、『新約聖書』の中の使徒パウロの手によるとされる書簡『ロマ書』だ。ちなみに、イエス・キリストを救世主と考える教えをキリスト教という宗教にしたのは、生前のイエスと会ったことがないパウロである。内村鑑三の言説は、ナショナリズムキリスト教を考えるうえでも重要だ。内村は二つのJ、すなわちJesus(イエス)とJapan(日本)を愛すると言った。富岡幸一郎氏は、善き日本人であり、善きキリスト教徒であるとはどういうことかという問題を、二十一世紀において真剣に考えている思想家だ。内村の思想は富岡氏に継承されている。

F 歴史と宗教を学び直す22冊

新書
  • イギリス帝国の歴史』(2167)秋田茂
    イギリス帝国の歴史の本。中南米、アフリカなどにはいまでもイギリスなど旧宗主国に対する激しい怨恨感情があるが、日本はイギリスに対する好感度が高い。それは、イギリスの政策によるところも大きかった。イギリスがアジア全体を見渡す際の「拠点」に日本は選ばれたのだ。地政学的にイギリスからアジア戦略の拠点にされた日本は、幸運にもそれが自国の発展につながったわけだ。
  • アーロン収容所』(3)会田雄次
    帝国主義的なイギリス人の人種差別観をあますところなく書いた本。歴史家だった著者が戦後、ビルマでイギリス軍の捕虜となった二年弱の記録だ。著者は「英軍さらには英国というものに対する燃えるような激しい反感と憎悪を抱いて帰ってきた」という。命じられて女兵舎の掃除をすることがあったのだが、お礼にタバコをくれるときは「手渡したりは絶対にしない。口も絶対にきかない。一本か二本を床の上に放って、あごで拾えとしゃくる」だけ。もしくは「足で指図」する。それまで歴史家として会田氏が知っていたイギリス人の態度とはまるで違っていたのだと思う。勝利者が都合よく書いた歴史とはまったく違う「史実」だ。
  • 科挙―中国の試験地獄』(15)宮崎市定
    中国の科挙制度について書かれた本。一三〇〇年あまり続いた科挙の実態を克明に描き、試験地獄を生み出す社会の本質をあぶり出そうとしている。面白かったのは、科挙の盛り上がりでマスコミが発達してくること。いずれにせよ、この試験制度が中国の力の源泉であったことは間違いない。中国の底力の一端をうかがい知ることができる。
  • ヒトラー演説』(2272)高田博行
  • 戦後世界経済史』(2000)猪木武徳
  • 後醍醐天皇』(1521)森茂暁
  • 昭和天皇』(2105)古川隆久
文庫

2016-04-18

[]現代プレミア ノンフィクションと教養 - 佐藤優・編

→ 加藤陽子 ノンフィクション100選
→ 佐藤優 ノンフィクション100選
→ 佐野眞一 ノンフィクション100選

総合ベスト10

  1. 日本共産党の研究』立花隆/講談社文庫/全3巻
    1922年の党成立から戦時下の弾圧による崩壊までを記録した戦前の日本共産党通史。コミンテルンの支配、リンチ事件――当時の関係者の証言も交え膨大な資料を渉猟、共産党の激動の歴史を活写する
  2. 戦艦大和ノ最期』吉田満/講談社文芸文庫
    1945年3月29日、世界最大の不沈戦艦といわれた「大和」は呉軍港を出港した。学徒出身の若き海軍少尉として「大和」に乗り組んだ著者が巨大戦艦撃沈のさまを敗戦直後に克明に綴った手記
  3. レイテ戦記大岡昇平中公文庫/全3巻
    太平洋戦争の“天王山”レイテ島に展開された日米両軍の死闘。膨大な資料を駆使して、精細かつ巨視的に、戦闘の姿を記録する。戦争と人間の問題を鎮魂の祈りを込めて描き切る戦記文学
  4. 昭和史発掘』松本清張/文春文庫/全9巻
    政界に絡む事件の捜査中に起きた「石田検事の怪死」、部落問題を真正面から取り上げた「北原二等卒の直訴」など昭和初期の埋もれた事実に光をあてる。未発表資料と綿密な取材で描く圧巻の作品群
  5. 誘拐』本田靖春/ちくま文庫
    東京オリンピックを翌年に控えた1963年、東京の下町で起きた幼児誘拐殺害、吉展ちゃん事件。犯人を凶行に走らせたものはなにか。貧困と高度成長が交錯する都会の片隅に生きる人間の姿を描く
  6. ベスト&ブライテスト』D・ハルバースタム/朝日文庫/全3巻
    ケネディ大統領が政権に招集した「最良にしてもっとも聡明な人々」。彼らエリートたちはなぜ米国をベトナム戦争の泥沼に引きずり込んだのか。賢者たちの愚行を綿密な取材で追跡する現代の叙事詩
  7. テロルの決算沢木耕太郎文春文庫
    1960年、社会党の浅沼稲次郎委員長は17歳の右翼の少年山口二矢に刺殺された。政治の季節に邂逅した2人が激しく交錯する一瞬までを、臨場感あふれるシーンを積み重ねて物語へと結晶させた
  8. 苦海浄土 わが水俣病石牟礼道子講談社文庫
    チッソの工場廃水の水銀が引き起こした文明の病・水俣病。この地に育った著者が聞き書きの形をとって患者とその家族たちの魂を物語る。極限状況を超えて光芒を放つ人間の美しさを鮮やかに描き出した
  9. サンダカン八番娼館』山崎朋子/文春文庫
    戦前の日本では、10歳に満たない少女たちが海外に身を売られ南方の娼館で働かされていた。天草のおサキさんから聞き取った話には「からゆきさん」の過酷な生活と無残な境涯映し出されていた
  10. 自動車絶望工場 ある季節工の日記』鎌田慧/講談社文庫
    高度経済成長期の自動車工場。花形産業の象徴であるはずの工場では労働者が日々絶望的に続くベルトコンベア作業に追われていた。現場に飛び込み自ら働いた体験を再現したルポルタージュ。今こそ必読

加藤陽子 ノンフィクション100選

ベスト10
  • 野中広務 差別と権力』魚住昭/講談社文庫
    田中角栄により確立された日本型所得再分配のシステム、それを支えた野中広務伝の決定版。法律の裏面を読み抜き、相手陣営の切り崩しに果敢に挑む野中の行動と倫理に対し深い共感を覚えている自分に驚く
  • レイテ戦記大岡昇平中公文庫/全3巻
    35歳で召集されフィリピンミンドロ島に連れていかれた老兵が日米の史料を駆使して描いた戦。愚かな作戦であったとは書いても、愚かな日本軍であったとは書けない作者のまなざしもまた魅力的
  • アメリカの影』加藤典洋/講談社学術文庫
    アメリカの原爆製造計画が実のところ日本への投下を当初から織り込み済みであったのではないか、との問いは衝撃的であった。日本の知識人は高齢化すると何故右への情熱の虜となるのかとの問いも今なお新鮮
  • 淋しき越山会の女王』児玉隆也/岩波現代文庫
    表題作は、同時に発表された立花隆『田中角栄研究 その金脈と人脈』に比べ、湿度を感じさせる文体。佐藤昭の故郷・新潟県柏崎の風土を思わせる。著者の38歳での早逝が惜しまれる
  • 国家の罠』佐藤優/新潮文庫
    外務省欧亜局とは別の筋で対ロ情報活動に従事してきた著者逮捕劇の政治的な舞台裏を活写。情報に関わってきた著者の力の程は、この本一冊で世の中の見方を一変させた手腕からも折り紙付
  • 阿片王 満州の夜と霧佐野眞一新潮文庫
    上海をベースとする阿片取引で軍機密費を一人叩き出していた魔王・里見甫の生涯を追った評伝。里見が敗戦後直ちに中華航空機で日本に舞い戻れた一件自体、開拓団の悲惨さを考える時、感無量
  • 昭和天皇』(第一部、第二部)福田和也文春文庫文藝春秋
    「彼の人」という主語を編み出すことで、天皇にまつわる敬語表現の桎梏を脱し、史料の博捜から昭和天皇の「さびしさ」を描く。いまだ連載中だが、昭和天皇ものの決定版となるのではないか
  • 不当逮捕』本田靖春/講談社文庫
    検察・政界に手を突っ込み大胆に情報を得て昭電疑獄などの特ダネをものにした読売新聞社会部の伝説の記者・立松和博の栄光とその死を追う。読者は立松の姿が本田自身の姿と重なるのに気づかざるをえない
  • 昭和史発掘』松本清張/文春文庫/全9巻
    蹶起将校側、鎮圧側双方の新史料を博捜し、透徹した人間観察に裏打ちされた目で斬った二・二六事件像は他の追随を許さない。佐分利貞男公使の怪死、スパイMの謀略等についても秀逸(新装版)
  • 夜の食国(よるのおすくに)』吉田司/白水社
    日本という国が東アジアにあることの重さと宿命を、海の民・山の民の守護神・月讀命(つくよみのみこと)の系列の思想を、古典に遡りつつ、古層に沈んだ日本の周辺地域の語りから蘇らせた傑作
和書 翻訳書

佐藤優 ノンフィクション100選

ベスト10
  1. 露国及び露人研究』大庭柯公/中公文庫
    ロシア社会に深く入り込み、ロシア人の気質と内在的論理を解明した名著。ロシアの帝国主義が、独自の地政学から生じていることを的確に指摘。ロシア事情について本書の水準を超える著作は未だ現れていない
  2. ルイ・ボナパルトのブリュメール18日カール・マルクス平凡社ライブラリー
    代表を選出する人々と代表する人の間に客観的連関が存在しないことを見事に描き出している。本書を読めば、小泉純一郎氏に対して国民が熱狂し、弱肉強食の新自由主義路線が日本社会に定着した筋道がわかる
  3. 日の丸アワー』池田徳真/中公新書 545
    太平洋戦争中、敵軍捕虜を使った謀略放送に関する回想記。日本独自のインテリジェンスを学ぶのに最適。著者は、徳川最後の将軍慶喜の孫で、英オックスフォード旧約聖書神学を学んだ変わり種。副題『対米謀略放送物語』
  4. 甘粕正彦 乱心の曠野佐野眞一新潮文庫(新潮社)
    軍隊という巨大官僚組織に翻弄された甘粕正彦の姿が見事に描かれている。あの時代に生まれていれば、評者も甘粕のような人生を送ったのではないかと思い、背筋に寒気が走った
  5. 野中広務 差別と権力』魚住昭/講談社文庫
    被差別部落出身の保守政治家で、同化主義者であるにもかかわらず、人生の節目節目で差別に直面した野中氏を通じ、嫉妬、差別を克服することができない日本の政治の病理を見事に描いている
  6. 日本共産党の研究』(全3巻)立花隆/講談社文庫
    日本共産党の公式党史よりもずっと説得力がある。日本共産党が、天皇制と対峙する過程で、日本の国家と社会を特定の鋳型にあてはめ、日本はこの鋳型から抜け出せないと見なす思想の原形がわかる
  7. 窮乏の農村 踏査報告』猪俣津南雄/岩波文庫 白 150-1
    貧困問題に関する優れたルポルタージュコミンテルン(共産主義インターナショナル)の方針と一線を画し、実地調査と自らの頭で考えるという猪俣の手法に、労農派マルクス主義の良心を見る
  8. 相撲島 古典相撲たぎつ日』飯田辰彦/ハーベスト出版
    二番勝負で、最初の勝利者が二回目は「勝ちを譲る」古典相撲に隠岐の島(島後)の地域共同体を活性化するとともに紛争を避ける知恵を見る。竹島問題にもこの方法が応用できると思う
  9. モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」』エフライム・ハレヴィ/河野純治・訳/光文社
    ヨルダンとの和平交渉のように利害が敵対する陣営に信頼できる友人をもつことの重要さがわかる。また、情報や分析は、それを政治的に使う意志を国家が持つときのみ、真価を発揮する
  10. 地上げ屋 突破者それから』宮崎学/幻冬舎アウトロー文庫
    抜群に面白い。金銭欲の前で人間が変貌する姿に戦慄した。特に左翼活動家が金銭を崇拝するようになると、おそろしい性格に変貌することがよくわかる。それとともに悪徳弁護士の怖さがよくわかった
和書 翻訳書

佐野眞一 ノンフィクション100選

ベスト10
  • 西南役伝説石牟礼道子/朝日選書
    西南戦争を目撃した人びとの聞き書き。『苦海浄土』の原点がここにある。知られざる異教徒弾圧の歴史も書き込まれており、圧倒される。近代の奈落を彷徨いながら、魂の救済の在り処を求めた光の物語である
  • 人とこの世界』開高健/ちくま文庫
    うるさ型の作家、詩人、画家の内面に肉薄した人物論の最高傑作。開高には、『ずばり東京』、『ベトナム戦記』などの傑作があるが、代表作というなら、これ。インタビューと論評のコラボレーションもみごとである
  • スパイM 謀略の極限を生きた男』小林峻一、鈴木隆一/文春文庫
    日本共産党のタブーに挑んだ意欲作。立花隆『日本共産党の研究』がやや評論的な記述なのに対し、こちらはよりドラマチック。飯塚盈延という謎めいた男を追及するドラマは、どんなスパイ小説より刺激的である
  • 鞍馬天狗のおじさんは』竹中労/ちくま文庫
    靫馬天狗役で一世を風靡した怪優・嵐寛寿郎の掬(きく)すべき芸談。哀歓こもごもの色ざんげも秀逸である。ノンフィクションには、こんな手法もあったのかと驚くこと必至。サブタイトルは『聞書アラカン一代』
  • 紀州 木の国・根の国物語』中上健次/角川文庫
    自分の肉体を切り刻むようにして故郷の被差別部落を踏破したルポルタージュ。ときに饒舌に、ときに悲痛に自分の出自を語る世界は、読む者を圧倒せずにはおかない。中上文学の原点が、ここにある
  • 誘拐』本田靖春/ちくま文庫
    高度経済成長の恩恵にあずかれなかった男がたどった運命の結末。犯罪者をただ断罪するのではなく、罪を犯さざるを得なかった男に注がれた著者の温かなまなざしが日本社会への、痛烈な批評となっている
  • 昭和史発掘』松本清張/文春文庫/全9巻
    白眉は二・二六事件の発端から終焉までの人間ドラマ。とりわけ皇居に侵入した青年将校が、警視庁を鎮圧した仲間に手旗信号を送ろうとして失敗するくだりは、圧巻。歴史を肉体化させるとは、こういう作業をいう(新装版)
  • 忘れられた日本人』宮本常一/岩波文庫
    名もなき庶民のライフヒストリー。もし宮本が記録しなければ、この哀切で逞しい民衆の物語はこの世に存在しなかった。とりわけ、「土佐源氏」と「梶田富五郎翁」は、何度読んでも胸しめつけられ、心洗われる
  • 戦艦大和ノ最期』吉田満/講談社文芸文庫
    太平洋戦争末期、一戦艦と運命を共にした将兵の悲劇を神話的表現にまで高めた傑作。戦争の愚かさを描いて、これを超える作品は、おそらく今後も出てこないだろう。戦艦大和が、一人の人格として立ち上がってくる
  • 逝きし世の面影』渡辺京二/平凡社ライブラリー 552
    幕末・明治に日本を訪れた外国人の目に映ったこの国の原像。日本の庶民はこれほど清潔でモラリスティックな民族だったのか。ここには西欧文明の波に洗われる前の日本と日本人が活写されている
古典 社会
現代プレミア ノンフィクションと教養(講談社MOOK)

現代プレミア ノンフィクションと教養(講談社MOOK)

目次

巻頭宣言・ノンフィクションの逆襲

ノンフィクションと教養【第1部】傑作・名作・記念碑・金字塔「100冊×10人」セレクション

加藤陽子×佐藤優×佐野眞一 広大で豊穣なる世界へ、ようこそ

総合ベスト10

加藤陽子の100冊/佐藤優の100冊/佐野眞一の100冊/岩瀬達哉の100冊/魚住昭の100冊/重松清の100冊/二宮清純の100冊/野村進の100冊/原武史の100冊/保阪正康の100冊

ノンフィクションと教養【第2部】

いとうせいこう×武田徹×重松清 ネット時代のノンフィクション その可能性と課題

佐藤優「現場報告記」 リアル書店ネット書店・取り次ぎで何が起こっているか

八重洲ブックセンタージュンク堂書店/トーハン/三省堂書店/アマゾン ジャパン/丸善

体験的ノンフィクション

アーサー・ビナード/麻木久仁子/雨宮処凛/飯尾潤/生島ヒロシいしかわじゅん/潮匡人/宇都宮健児/大城立裕/片山善博/児玉清/酒井順子/白石一文/鈴木邦男/竹内洋/武田徹/立川談四楼/為末大/長妻昭/中村うさぎ/夏原武/野口悠紀雄/福原義春/藤原帰一/堀尾正明/宗像紀夫/茂木健一郎/森毅/箭内昇/山折哲雄

ジャーナリズムは機能しているか

花田紀凱 新聞は「書かないこと」が多すぎる/田崎史郎 政治報道─活字がテレビに敗北した日/長谷川幸洋 新聞記者は「役所のポチ」になるなかれ/南丘喜八郎 商業主義に背を向けた「零細出版社」の挑戦/辰濃哲郎 かくして朝日新聞の牙は抜かれた

メイキング・オブ『死刑執行』 青木理

『死刑執行 絞首台の現実』特別編 控訴を取り下げた死刑囚からの手紙

副島隆彦×佐藤優「暴走国家」

2016-04-13

[]岩波講座世界歴史〈第1〉古代 1 (1969年)

   総  説

杉 勇

    I 一つの歴史的世界としての「オリエント

 東は現在のパキスタンから西はボスポロス海峡及びナイル川峡谷に限られ、北は黒海、カウカスス山脈とイラン高原の北麓を境とし南はアラビア半島を含む地方、ほぼ北緯一〇度から四〇度くらいの間、わが北海道から台湾をやや南下したあたりの地域は、今日政治的・地域的には「近東」もしくは「中近東」とよばれているが、歴史的には適当な名称がないため、「オリエント」と仮にとなえられている。歴史的名辞としての「オリエント」は、もちろん時代によりその領域は広狭の差があるけれども、長い歴史のうちでは、右の地域がほぼ常に核心となっている。イスラム帝国時代には、西はモロッコスペインを含んで大西洋に及び、東はインド東部、東パキスタンにまで及んだことがあったほどである。

 現代ヨーロッパ諸語に広く共通して用いられている「オリエント」という語は、元来ラテン語の「起る、立つ、(太陽の)昇る」などの意味をもつ動詞 orior の名詞形「オリエンス」oriens に由来するもので、はじめはイタリア半島を中心としてその東を意味したものである。したがってラテンの諺「光は東方より」Ex oriente lux も元来ローマギリシアに負うところが多いことを意味したものであった。「オリエンス」の語も、地理的・政治的に意味が拡大されていくに従ってその指す範囲も拡大されていったのであるが、元来はローマ帝国領の極大限時代のティグリス川を境とし、あるいはそれに隣接するイラン地方をも含む意味に用いられたものである。したがって歴史用語としての「オリエント」は、今日一般に使われている、拡大された全アジアを含む意味での「オリエント」=東洋とは意義と内容を異にしていることを注記しておきたい。


 「オリエント」は、世界史上において「ヨーロッパ世界」や「東アジア世界」とともに、一つの完結した歴史的世界をなしている。この世界の歴史は、「ヨーロッパ世界」や「東アジア世界」とは全く独立して生成・発展をとげてきたもので、他の二つの歴史世界とは全く異質な独特な歴史的世界をなしている。

 これまでオリエント世界は、「東アジア世界」や「ヨーロッパ世界」の歴史を説くに当って、ただそれぞれに関連のある場合にのみとり上げられたり言及されてきて、むしろ他の歴史的世界を説くに当ってそれぞれ他の歴史的世界の立場から寸断された形でのみ説かれてきたのであった。すなわち、「唐代のイスラム世界」とか「十字軍時代の西アジア」といったように扱われ、オリエント自体の立場では説かれなかった。そのことは、これまで長い間にわたり、世界史の立場から説かれた「オリエント史」に関する著書が一つもあらわされていないことを見ても、よくわかる。かつて国別ないしは地域別に説かれたヘルモルトの『世界史Weltgeschichte においても、「西アジア史」は一貫した歴史性が全く顧みられずに述べられているのでも明らかである。一九六〇年にいたってはじめてヒッティによって『歴史上の近東』(P.K. Hitti, The Near East in History, Princeton, 1960)があらわされたのが、最初の試みである。

 「オリエント世界」が一つの完結した歴史世界である以上、そこには古来からの時代区分がなされなければならない。ヒッティは、著書を六部にわかち、「先文字時代」「古代セム時代」「グレコ・ローマン時代」「イスラム時代」「近代――オットマンペルシア人」「アラブ諸国」としている。しかし「古代セム時代」とはきわめて不適切な表現であり、「グレコ・ローマン時代」は時代の盾の半面をみているにすぎない。筆者は、オリエント史は古代・中世近世に三大別されるものと考える。そして、古代は、前三三〇年のアレクサンドロス大王によるペルシア帝国の征服までの、いわゆる古代オリエント文化、本来的なオリエンタリズムの時期とみる。中世は、オリエント世界の西半はギリシアローマ的世界であり、東半はイスラニズム、すなわち前代のオリエンタリズムの伝統的世界であって、あたかも西洋中世におけるローマン的・ゲルマン的世界の成立・発展によく似ているといえる。イスラム世界の成立・発展は、新しい意味でのオリエンタリズムの時代であり、さきの二つの時代をうけついだ近世ということができよう。この三時期法は、オリエント世界の主要な時期区分の基準として提示したが、さらに適宜これらを細分して考えることができるであろう。

 なお、この時代区分についてはいろいろな用語が考えられ、筆者がここで用いている用語はかならずしも学界で共通のものになっていないが、オリエント史を独自な歴史的世界の歴史的発展としてとらえなければならないということが、ここで述べたことの主眼である。


《執筆者紹介》

杉  勇 1904年生 東京帝国大学文学部卒 明治大学文学部教授 『楔形文字入門』(中央公論社)、『古代東南アジア史』(平凡社

川村喜一 1930午生 早稲田文学文学部卒 早稲田大学文学部助教授

屋形禎亮 1937年生 東京教育文学文学部卒 東京教育文学文学部助手

山本 茂 1929年生 京都大学文学部卒 京都府立大学文・家政学部助教授

前川和也 1942年生 京都大学文学部卒 京都大学人文科学研究所助手

黒田和彦 1935年生 東京教育大学文学部卒 東京大学東洋文化研究所助手

岸本通夫 1918年生 東京帝国大学文学部卒 大阪大学教養部教授 『古代オリエント』(河出書房)

中山伸一 1929年生 横浜市立大学経済学部卒 オリエント学会会員

佐藤 進 1930年生 東京教育大学文学部卒 東海大学文学部講師

並木浩一 1935年生 国際キリスト教大学教養学部卒 国際キリスト教大学教養学部講師

関根正雄 1912年生 東京帝国大学文学部卒 東京教育大学文学部義授『イスラエルの思想と言語』(岩波書店

太田秀通 1917年生 東京帝国大学文学部卒 東京都立大学人文学部助教授『ミケーネ社会崩壊期の研究』(岩波書店

藤繩謙三 1929年生 京都大学文学部卒 大阪府立大学教養部助教授ホメロスの世界』(至誠堂)

清永昭次 1927年生 東京都立大学文学郎卒 学習院大学文学部助教授

安藤 弘 1925年生 東京大学文学部卒 新潟大学教養部助教授

岩田拓郎 1930年生 東京文学文学部卒 北海道大学文学部助教授

目次

序言

古代オリエント世界

総説(杉勇

1一つの歴史的世界としての「オリエント」/2オリエント世界における歴史の黎明/3オリエント世界形成期の諸民族/4古代オリエントの文化と社会/5古代オリエント史の流れ

1 古代オリエントにおける灌漑文明の成立(川村喜一)

  一 灌漑文明の成立と政治的社会の形成

古代オリエントにおけるメソポタミアエジプト/2文明の起源について/3灌漑と政治的社会の形成

  二 メソポタミアにおける灌漑文明の成立

1村落共同体の形成と発展/2村落共同体の崩壊/3都市文明の成立と「シュメール人問題」

  三 エジプトにおける灌漑文明の成立

1村落共同体の成立と発展/2村落共同体の崩壊と統一王朝の成立

2 「神王国家」の出現と「庶民国家」(屋形禎亮)

  はじめに

  一 統一国家の形成

     ――神王の出現――

  二 神王国家の形成と発展

     ――初期王朝時代と古王国前期――

1初期王朝における王権観の発達/2初期王朝の国家/3古王国前期における王権観の発展/4古王国前期の国家と社会

  三 神王国家の解体

     ――古王国末期と第一中間期――

1古王国末期における発展/2第一中間期と社会革命

  四 庶民国家の時代

     ――中王国時代――

王権観の変化と庶民の擡頭/2中王国の国家

3 シュメールの国家と社会(山本茂/前川和也

  はじめに

  一 海外におけるシュメール社会研究の動向

  二 初期のシュメール都市国家

  三 都市国家時代末期のラガシュ

ラガシュ文書の特質と大麦支給/2エ-ミ組織の発展/3都市と「組織」

  四 ウル第三王朝時代の社会

4 ハンムラピ時代の国家と社会(黒田和彦)

  一 古バビロニア時代

  二 古バビロニア時代の政治的変化

1イシン・ラルサ時代/2バビロン第一王朝時代

  三 古バビロニア時代の社会

1社会階級/2ムシュケヌム/3アウィルム/4ワルドゥム(アムトゥム)

  四 バビロン第一王朝支配体制

王権/2王室領/3神殿/4都市と商人/5貢租と賦役

  五 ハンムラピ法典と司法制度

1ハンムラピ法典/2司法制度

   むすび

5 印欧語族の移動とヒッタイト王国の擡頭(岸本通夫

  一 発見・発掘・解読

1ボガズ - キョイの発掘/2カッパドキア文書のこと/3象形文字ヒッタイト語の解読

  二 印欧語民族の移動

1印欧語民族の役割/2印欧語民族の原住地とアナトリア語派の諸族の移動/3インドアーリア人などの移動

  三 ヒッタイト王国の略史

アッシリア商人の活動、小国分立時代/2ヒッタイトの古王国および新王国/3北シリアの小王国

  四 ヒッタイト史の諸問題

1鉄器の起源/2馬と戦車/3王国の社会構造と外交政策/4その他の問題

  五 アッヒヤワ問題

1問題の始まり/2問題の新展開/3ルウィ族のアルツァワ王国

6 イク=エン=アテンとその時代(屋形禎亮)

   はじめに

  一 帝国の形成

1ヒュクソスのエジプト支配/2独立の回復と対外進出/3帝国の建設/4植民地支配体制

  ニ イク=エン=アテンの「宗教改革

1第十八王朝前半における王と国家/2王とアメン神官団の対立/3改革のはじまり/4イク=エン=アテンとアテン信仰/5アマルナ芸術/6アマルナ時代の国際関係/7改革の終末と信仰復興

7 エジプト新王国の社会と経済(中山伸一)

   はじめに

  一 奴隷

エジプト奴隷制度の特徴/2古文書に現われた奴隷/3奴隷の種類/4公的奴隷所有/5私的奴隷所有/6奴隷の法的地位

  二 土地所有(公的土地所有)

神殿領/2王室頷/3小作人/4公的土地所有体

8 世界帝国の成立とその構造

   ――アッシリア帝国からペルシア帝国ヘ――

  一 アッシリア帝国杉勇

アッシリアの地理的・文化的状況/2世界帝国成立以前/3アッシリア帝国支配機構/4アッシリア帝国の社会と経済

  二 四国対立時代(杉勇

メディア王国/2リュディア王国/3新バビロニア王国/4エジプトにおけるサイス王朝繁栄と復古精神

  三 アカイメネス朝ペルシア(佐藤進)

1初期パールサ社会/2ペルシア帝国形成期の諸問題/ペルシア帝国支配構造/4ペルシア帝国の没落

9 東地中海沿岸諸国の隆替(並木浩一)

   ――前一二〇〇年まで――

   はじめに

  一 シリアと諸民族

  二 政治的世界におけるシリア

シリア内陸諸国家/2シリア海岸諸都市

   むすび

   補論「海の民」について

10 イスラエルにおける政治と宗教(関根正雄)

  一 序論――問題の所在

1研究の観点と方法/2古代オリエントイスラエル

  二 王国成立以前

1アンフィクチオニー(宗教連合)/2契約思想の形成/3王としてのヤハウェ

  三 王国時代

1王国否定の思想/2サウル王国成立の記述をめぐる問題/3王国時代の政治と社会/シナイ契約とダビデ契約/5王国滅亡後の問題点

地中海世界

  総説(太田秀通)

地中海世界の概念/2地中海世界の歴史的前提/3地中海世界の成立/4地中海世界の崩壊

1 エーゲ文明とホメロスの世界(太田秀通)

  一 エーゲ文明

1エーゲ考古学の成立/線文字A・Bの解読

  二 線文字B文書の社会

1ピュロス王国の社会構造/2ミュケナイ社会の特徴

  三 前二千年紀の東地中海世界

1東地中海世界の存在の発見/東地中海世界の崩壊

  四 ホメロスの社会

史料としてのホメロス叙事詩/2「ホメロス社会」の構造

  五 ポリス社会への展望

1東地中海世界崩壊後の発展/2ポリス社会形成の前提

2 ポリスの成立(藤繩謙三)

  一 ポリス形成の理論

1ポリスの概念/2シュノイキスモス/3部族制/4家の構造

  二 歴史的背景

1宮殿経済から農業国家へ/2社会的分業/3戦士共同体

3 貴族政の発展と僭主政の出現

  一 国制推転のダイナミズム(清永昭次)

1貴族政の構造と歴史的位置づけ/大植民運動と貴族政の動揺/3立法者・調停者・前期僭主

  二 重装歩兵制の発展と貴族政社会(安藤弘)

はじめに/1重装歩兵制の発展/2重装歩兵の階級的性格/3貴族政の発展

4 アテナイスパルタの国制(岩田拓郎)

  一 アテナイの場合

1貴族支配体制の確立/2貴族制下の平民の位置/3ソロンの改革、僭主制から民主制へ

  二 スパルタの場合

1初期の国制/2民会の優位

   むすび