彼我の差は

7月になった。連日真夏の暑さが続いていたが、今日からのまとまった雨が涼をもたらす恵みの雨になればいい。
▼中三の下の子の野球部関係の行事が目白押しで妻の機嫌が悪い。先週の土曜が中体連の開会式、日曜がBBQ、月曜が野球塾と、毎晩送迎&三時間以上拘束され、子供の習い事(部活は庶民層のある種のお稽古事だ)にそこまで熱の入らない妻は、面倒で仕方がないようだ。僕も免停でなけりゃ替わってやるんだけど。
▼一昨日は妻がそんなこんなでテンパっていて、ムッスーの葬儀に送ってもらうのに、たのんであった喪服を忘れてきた。そこで思い切って葬儀社の隣にあった紳士服の青山で、上から下まで喪服をワンセットそろえた。半袖のYシャツも黒のズボンもネクタイも全て絣の夏物で気持ちがいい。これで仕事関係の初盆回りも万全だ。
▼葬儀は大勢の人が来ていた。野菜をJAに出荷していた関係だろう。会社からは社長とオーナーの子供二人。社員は僕と古参の現業社員の二人。遺影のムッスーはアゴに手をあて、ダンディにポーズを決めている。「遊び人だったからなあ」と社長が僕に耳打ちした。「○○ちゃん(僕)、夏に冬物じゃおかしいからの」と僕に語りかけているようだ。
▼さて、ようやく仕事が動き始めたというのに、この暑さにやられて作業員の動きが悪い。見かねて手伝う。手伝うというよりほとんど僕がやることになる。作業の内容は通称「ガラ出し」。ハツリ屋がはつった(壊した)コンクリート片を集めて、一輪車等で運んでダンプに積み込む仕事だ。肉体的にはキツイが、難易度はゼロ。身体を動かせばそれで足りる。
▼ところがその簡単なことができない。二回も往復すれば、もうトイレに行ったり水飲んだりホウキで掃除したり、あっちに行ったりこっちに行ったりするだけ。「砂みたいのは後でいいから大きいのを片付けようよ。とにかくやらないと終わらないから」と声をかけると、今度はいちいち「水飲んでいいですか」ときいてくる。
熱中症対策は、いろんなとこでことあるごとにうるさいほど言われているが、いくら水分補給しようが、いくら休み休みやろうが、全くきつくないというわけにはいかない。「そんなに頻繁に飲みに行くなら水筒をここに持ってきとけばいいじゃん」「そんなんでよそで怒られない?全部監督がやってりゃ雇ってる意味ないだろ」思わず声を荒げるが、言ってできるような人間なら今この場にいないだろう。
▼やることなすこと遅い、まずい、余計なことをする。何もかもが要領が悪い。人間一番単純な、しかし絶対にしなければならないことから逃げ腰だとこういうことになる。だが悲しいかな、根っからのナマケモノはキツイことに身体が反応しない。挙句のはてに「人が足りない」などと言い出す。自分以外にもっと動く人がほしいと言ってるようなものだ。
▼今年56になる彼と僕は、実はかなり長いつきあいだ。7、8年前の大規模プロジェクトでいっしょになった時には、既に日雇いになって随分たつようだった。住まいは人夫にありがちな寮生活ではなく、もう仕事をしていない友人と同居しているらしい。「その人は年金もらってるの?」ときくと「生活保護です」という答えが返ってきた。
▼高校を出て入隊した自衛隊を4年で除隊し、車のセールスと板前をやっていたという彼の人生を考える。ご両親は?身寄りは?一度は結婚したのだろうか?きいてもないことを自分から話してくるわりに、家族の話はない。ただ生きているだけのこんな人間は掃いて捨てるほどいる。
▼こういう人を前にしてどうするか。諦めるしかないのである。一生今の境遇から抜け出せない人に向上心がないのは当たり前だ。彼らと僕の違いはなんだろう。温かい家庭の有無は雲泥の差だが、個人的には将来への淡い期待以外にほとんど変わるところはない。具体的なビジョンを努力によって現実のものとしていかなければ全く同じかもしれない。

火曜は冷やしぶっかけうどんに夏野菜サラダ。

水曜は肉炒めに夏野菜サラダ。

そして今日はチャプチェ風に夏野菜サラダ。帰りに岸政彦の「街の人生」を買って帰る。今夜はこれを読む。