小さな波紋

梅雨の晴れ間の暑い一日となった。と二回連続で同じような書き出しである。つまりもう十日も前から一日置きにドシャ降りと夏日の繰り返しなのだ。たぶんこの間似たような天気だった西日本から一週間遅れての梅雨入りの違いはなんだろう。
▼部屋の模様替え→衣替え→台湾旅行→ヨガ教室のコマ数増と超多忙な妻の右肩の痛みがなかなか引かない。それでも講師として教えるコマだけでなく、朝の自主練の回数も増やしてるんだから、よっぽど好きなんだろう。僕の心情はというと、ヨーグルトのCMではないが「妻がキレイだと心配ですか?」「のぞむところです」だ。このままいつまでも若くキレイでいてほしい。
▼いずれにしろ身体に負担がかかる部分に痛みが出ることは間違いない。僕も先日の清掃活動で無理をしたのか久しぶりに腰が痛くなったが、一番痛かったのは柔道をしていた頃だ。背負い投げの反復練習のやりすぎで、折りたたむ左ヒジと担ぐ腰が痛くてたまらなかった。痛くてまっすぐ伸ばせず中腰で歩くので、知らない人が見たらゴリラのマネをしていると思っただろう。
▼このあいだ、テレビの健康番組の「正しい睡眠」という特集を見ていたら、腰痛持ちの人は寝返りを打つ回数が極端に少ないというモニター実験結果が出ていた。同じ姿勢で居続けることは、ただそれだけで重力の負荷がかかってしまうのだ。普通の人は一晩に20回くらい寝返りを打つものらしい。そうやって無意識に一か所に負担が集中しないようにしているらしい。
▼それで思い出すのがうちの子どもたちの寝返りのすさまじさだ。二人とも小さい頃から寝相が悪かった。部屋の端から端まで転げまわって寝ていた。何度かけてもすぐに脱いでしまうので、掛布団はほとんど意味をなさない。外泊の多い上の子は、友人から「極端に寝相が悪い」と言われるそうだ。この番組を見るまで気づかなかったが、彼らも無意識のうちに重力のない母親の羊水に浮いていた頃の身体感覚を思い出して自由に動きまわっているのだろう。
▼さて、最近変哲のない日常に小さなさざ波がたつ出来事があった。僕が住んでいる社宅の、隣の部屋の持ち主である前の社長から、現在の住人が今月いっぱいで退去するので「買わないか」と打診があった。彼の提案は、「社宅を出て隣に引越せば家賃分の元はすぐとれる」というものだったが、僕は社宅に住んだまま隣を買えないかと考えた。それは以下の理由による。
▼僕たち夫婦はいずれ地元に帰る。だが幼少期と思春期をこの地で過ごした子どもたちにとって、ここが人生の拠点になることはまちがいない。ふと彼らに何か残せないかという気持ちが芽生えた。引越やリフォームの労力はたいへんなものだ。お金だけの問題じゃない。しかし自分たちが住むためのものでなければ負担は軽い。いなくなる我々は住み慣れた仮住まいのまま。残る彼ら、特に長男だけでも隣に移れば、独立前の練習にもなるし、現在の手狭感も解消して一石二鳥だ。
▼妄想ばかりが膨らんで勢い込んで帰ったが、家族会議であえなく却下されてしまった。妻はもちろん大反対。「今住んでいるこの部屋なら買ってもいいけど、また一からなんて絶対無理。やるのは私しかいないんだから」「だからといって二つなんてもってのほか」。日頃「狭い」「自分の部屋がない」と癇癪を起す下の子もいざとなると「今のままでいい」。上の子だけが多少乗り気だったが、彼はないよりあった方がいいという程度の考えだからアテにならない。部屋を買うのにお金がかかるということも頭にないだろう。
▼みんなで口論になり、それぞれ仲直りしないまま布団に入ったその晩は、うまく寝付けなかった。今でも僕の考えが一番いい線いってると思う。けどどんなに正論でも、どんなに得になることでも、ケンカしてまで押し通していいことなんてひとつもないとつくづく思った。彼らの考えによく耳を傾けて、仲良くやっていくのが一番だ。

月曜はキッシュ。上の子が「今日はうちでご飯食べるからおいしいやつ」と言ったリクエストに応えて。

火曜は酢豚。妻もケンカはいけないと思いながら心をこめて作ったそうです。

そして今日はミートローフ。下の子の大好物。