まほろば

暑いようでそうでもない。陽が陰っているせいだろうか。はっきりしない天気だ。梅雨の走りだという。といってちょっと前の蒸し暑い感じでもない。わりと過ごしやすい。なんといってもまだ5月だ。
▼私用のケータイを6.7年前水没させて以来、家計のために会社支給のガラケーでガマンしてきたが、逆に言えばそれで足りるほど僕のプライベートの人間関係は細っていたのだ。先週何かの拍子にやはりスマホを持たない同輩が忙しそうに電話している監督を捕まえて「退職したら誰からもかかってこないぞ」とからかっていたのをきいて、老親とのコミュニケーション以前に自分自身の問題として急遽スマホを購入することにした。
▼土曜現場を早めに切り上げて妻と二人でケータイショップに直行する。相変わらず即断即決の僕らは、おそらく客という客の中で最も早くブツをゲットして引き上げたことだろう。なぜこれが仕事でできない?たぶん妻が横についていてくれないからだな。それは僕が妻がいないと何もできない濡れ落ち葉予備軍だということでもあるし、妻が優秀だということでもある。女性スタッフがテキパキと手続きを進める間、僕は妻と結婚できた幸せを噛みしめていた。
▼そのスタッフも確かにかなり優秀そうではあったが、他のスタッフとのやりとりや、自分が勧めるサービスにこちらがのってこない時のイライラを隠しきれていない。本人は笑顔で接しているつもりかもしれないが、目が笑っていない。衣装も含めCA並のルックスだが、こんな女つきあうのもゴメンだな。結婚なんかとんでもない話だ。まああちらもお呼びじゃないか。
▼いったん出直してスタバでお茶しながら妻のレクチャーを受ける。ガラケーのキー操作になれた身には、液晶画面のタップは文字盤を正確にタッチするだけでもたいへんだ。だが逆にハンドリングにストレスを感じなくなる頃にはかなり使いこなせている予感もある。まさに習うより慣れろだ。スマホ初日はまず仕事関係以外(数えるほど)を連絡帳に登録し、LINEをインストールして終了。

▼翌日曜日は妻と近場にドライブデート。今日のテーマはBluetooth機能を使って音楽アプリでBGMを聴くこと。うまくいけば月曜からの社用車のオーディオ環境が格段によくなる。こちらは操作自体が難しいというより、コンテンツの問題。聴き放題のつもりが、著作権の関係からか聴きたいものに限って品揃えが微妙に薄い。
▼高速を飛ばすこと約1時間。妻の提案した海岸沿いのタイ料理店に到着。サーファー御用達という雰囲気だが、想像していたよりずっと感じがいい。

僕はトムヤンヌードル、妻はがパオライス。デザートはベトナムコーヒーにプリン。


▼お店のスタッフがとても可愛かった。おそらくサーフィンをしているのだろう。肌は小麦色に日焼けしている。色の白いは七難隠すといって、僕は色さえ白ければたいてい十人並みでもいいが、逆に地黒はよほどの美人でも受けつけない。でも昨日の色白のケータイショップ店員よりずっとマシだ。妻と同じ自足している人の匂いがする。きっと好きなことをしているからだろう。想像だけど。
▼お店の写真を撮ることで期せずしてカメラ機能とメール送信の練習にもなった。今後はウチゴハンの撮影に妻の手を煩わすこともない。もっとも写真の出来栄えは保証の限りではないが。

▼夕方、懸案の実家に電話する。先週の日曜に父のスマホからの着信騒動があり、上の子の言うように電話に出ることもかけることもできない状態が想像されたが、果たしてその通りだった。まず固定電話にかけて目の前にスマホを置いてもらってから鳴らしても、スワイプして受話することもできない。LINEを使ったビデオ電話まではついに至らなかった。
▼きけば普段から電源を切ったまま触ってもいないという。時間はいくらでもあるのだから、教本なんか見なくてもとにかく弄ればいいのに。タップとスワイプ以外に画面を動かす方法なんかないんだから。聞く耳を持たないところ、母にたよりきりなところなど僕にそっくりだ。親子だね。
▼さて、今クールイチオシのドラマは日曜夜9時からの「99.9%」だ。ミスター視聴率男の香川照之を筆頭に脇も素晴らしいが、主演の松潤が特にいい。あの飄々としながら芯のある独特なキャラは彼にしか出せないものだと思う。ヒットするドラマは単に面白いだけではない。時代と社会の空気のようなものをうまく捉えているものだ。それは毎回冒頭に流れるナレーションに言い尽くされている。
▼いわく「日本の刑事裁判における有罪率は99.9%。つまりひとたび起訴されれば、ほぼ有罪になるのは確定したようなものだ…」ドラマでは松潤を中心とする弁護士チームがその99.9%の確率をひっくり返していくから痛快だ。
▼僕も昔から冤罪事件の再審請求手続きには違和感を感じていた。こちらは逆に再審が決定すると検察は控訴を断念。再審と言っても決定時点で冤罪が確定するようなものだ。刑事裁判は審理によって真実を明らかにする場ではなく量刑を決める場にすぎない。有罪か無罪は始まる前から決まっている。
▼これらは言うまでもなく検察の無謬神話からくるものだが、逆にいえば減少傾向にあるという日本の犯罪件数も、有罪にできる確証がない限り立件を見送られる結果かもしれない。何しろ真実より絶対に間違えないということの方が重要であれば、事実が歪められることは十分考えられる。この国に横行する改ざんも隠蔽も全てはこの無謬文化に由来する。
▼折しもアベチャンが国内政局のためにサミットを利用したと批難されている。当たり前だ。彼は絶対に間違えてはいけないのだから何でもするに決まっている。世界に誇れる風光明媚な伊勢志摩の自然と日本古来の伝統文化が泣いている。瑞穂の国の豊かさに人がついていってない。

金曜は豚丼にサラダ。土曜はスマホ購入&レクチャーで時間がなくスーパーの惣菜弁当で写真なし。日曜はカリフラワーのパスタに夏野菜サラダ。