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2010-12-18

ポスドクにとっての「職種」と「業種」。あるいは、ポスドク転職活動におけるフレームワーク。

11:08

キャリアの問題を考えるときに避けては通れないのが「失業」という問題である。僕自身、ポスドクの任期が切れる今年度中に、もしどこにも決まらなかったらどうしよう、と何度も悩んだものである。

失業が辛いのは、それが単に生活の糧を失うといった生存にとって根本的な問題であるだけでなく、「自分は社会から認められていないのか」といった人間の尊厳に関わる事情を含んでいるからだと、僕は思う。

こうした生きていく上で欠かせない気持ちというのは、当事者であるほど強いのは当たり前の話ではある。それは逆にいえば、失業の問題に直面していない人達がいくらキャリアビルディングについて語ったところで、所詮は高みの見物になってしまいかねないということでもある。

僕は運良く12月から企業で働くというキャリアを選ぶことができた。ポスドクとして不安な気持ちを抱えながら転職活動をしていたころの気持ちは、新しい生活が始まるにつれて少しずつではあるが薄れてしまっているような気もしている。そういう意味では、ポスドク時代に色々と考えたことというのは、今このタイミングでしか書けないことなのかもな、とも思う。

と、なんだか前置きが長くなってしまったが、今日は以下の本について。

この本を読んで非常に印象に残ったのが、「職種」と「業種」という考え方である。

職種というのは、経理だったり営業だったりマーケティングだったり、個人に関するタイトル。一方、業種というのは金融業だったりサービス業などという、組織に関するタイトル、といった感じ。

終身雇用が前提の旧来の日本の雇用システムでは、一つの会社に勤めながらにして様々な部署を異動し、自分にあった職種(経理だったり人事だったり営業だったり)を見つけていく。一方、転職市場が成熟している社会では、職種ありきの採用が前提のため、業種を超えた移動が盛んである。経理のスキルがあれば、サービス業だろうが製造業だろうが転職できるというわけ。前者は同業種(というか同企業なのだが)における異職種のキャリア形成で、後者は同職種における異業種間異動ということになる。

とまあ、この辺の話は本書を読んでいただくとして、この「職種」と「業種」という考え方、ポスドク転職事情に当てはめるとどうなるのだろうか。

ポスドクの職種というのは、これはまあ研究職である。ここでは「リサーチ」という言葉を使おうと思う。で、業種はなんだろうかという話しだが、一応これは大学とか研究所とか色々とあるとは思うが、「アカデミア」という括り方をすれば問題はないと思う。

今、世の中で言われている「ポスドク問題」というのは、狭義には「アカデミア」における「リサーチ」の需要が供給を大きく下回っている、という問題だ。で、まあ解決策は色々と考えられてはいるが、最終的にははフィールドを変えて勝負するしかなかろう、というのが当事者のホンネだ。

アカデミアを離れるポスドクにとって、一番の有力な転職先は企業の研究所である。で、日本だと「企業」という言い方になるが、アメリカに留学していた人は必ず「インダストリー」という言い方をするので、ここでもインダストリーとしよう。

次に考えられるパスとしては、非研究職として企業に移る場合だ。ポスドク界隈ではノンリサーチキャリアとか言ったりする。実は、国として一番後押ししているのがこのパスだったりす。

あと、かなり稀な例にはなるが、アカデミアに残りつつノンリサーチに移る場合。科学技術政策に関わる公官庁に務める場合などだ。僕の知り合いにこういうパスをとった人が現にいる。

ちょっとややこしくなったのでまとめよう。

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ポスドクのキャリアビルディングについて考えるとき、上の図を思い描きながら議論すると考えが整理できるような気がする。

とはいえ、上図の1ー3のいずれのパスについても、現在の日本では極めて厳しい戦いをせざるをえないことが、今回転職活動をしてみてよく分かった。

まず、1の業界チェンジ型だが、これは職種のマッチングが全てだ。研究内容が企業のそれとぴったりと一致していれば問題ない。化学系や電子・機械系のポスドク需要が意外とあるのは、大学などの研究室で扱う内容がそのまま企業の研究に応用できるからだ。一方で、生物系ポスドクの研究内容は基礎的なものが多いうえ、スキル的には対した特異性を発揮できないため、供給過剰気味になっている。その結果、このタンパク質の機能解析に関するスクリーニング系を取り扱っている人、などといった超ニッチ求人しか生まれていないのである。

はっきりいっておいた方いいと思うが、生物系ポスドクが製薬企業などの研究職につける可能性はほぼないと考えておいて間違いないと思う。これは、現在のバイオテクノロジー研究における構造的な問題だと思うので、すぐにどうこうできるといった類いのものではないだろう。

2の職種移動型だが、これは議論するには求人が少なすぎる。アメリカなどではNIHなどといった巨大な受け皿があるが、日本ではどうなんだろう。多分に政策的な内容を含んでいるのでここでは多くはふれない。ただ、例えば特許庁科学技術振興機構などといった公官庁で求人がでているのは事実である。

で、3の全取り替え型転職である。先にも述べたが、日本の科学技術政策はこのパスを整備したい節がある。各大学が主催しているポスドクキャリアパス支援事業などでも、各種業界に移ったポスドクの声が紹介されている。まあ、はっきりいってしまえば、上記1、2のパスが極めて狭き門になっている以上、巨大な3の市場に活路を求めるのは自然な流れではある。僕自身もこのキャリアに乗っている。研究を通して身につけたポータブルスキルを経営に生かすというのは、双方にとってハッピーになる可能性が十分あるとは思う。

ただ、そうすると今度はこのジョブマーケットを支配しているゲームのルールに従う必要が出てくる。最大の壁は年齢だ。そもそも、この形の転職方法というのは普通に就職した人にとっても敷居の高いものである。それまでの経験をチャラにして新しい職種に挑むのだ。企業にとってメリットがなければそんなことをさせる理由がない。最大の魅力は、柔軟性や体力といった、若さゆえにもっているパワーだ。これは、まあせいぜい30歳くらいまでだろう。そうすると、普通のポスドクは30歳以上になっているはずだから、このパスに乗れる可能性というのは極めて低いと言わざるをえない。

これが、例えば各部署のマネージャーが採用担当で、なおかつ部署の成績が直接給料に反映されるような雇用形態になっているのなら、リスクを背負って新しい人材を採用するインセンティブも生まれるだろう。しかしながら、日本の人事というのは所詮はサラリーマンなわけで、わざわざどこの馬の骨ともしれないポスドクを雇うメリットというのはゼロだ。この辺は、ポスドク転職物語にも書いたことである。

というわけで、各パスウェイを考察すれば、何故ポスドク問題というのが生じているのかが良く分かると思う。問題は複雑で多層的だ。僕自身、もう一度転職活動をやり直せと言われたらはっきりいってかなり難しいと思う。正直にいえば、運が良かったとしか言いようがない。

では、どうすればいいのか。という話題を次の記事に書こうと思う。